映画『モリのいる場所』

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 熊谷守一といえば愛知県美術館の木村定三コレクションや岐阜県美術館のコレクションが有名で、名古屋市美術館も収蔵している郷土の画家。現在、彼を主人公にした映画「モリのいる場所」が上映されています。
 映画の冒頭は何かを真剣に見ている老人の顔のアップ。次のカットは、のし餅三枚と菜切り包丁を描いた絵に「伸餅 熊谷守一」という説明板。先ほど絵を真剣に見ていた男性がお付きの人に「これは、何歳の子どもが描いたのですか」とご下問し、お付きの人が慌てふためくという場面から「モリのいる場所」というタイトルに切り替わります。
 夜が明けたばかりのアトリエ、下絵や絵の具、筆、分解された懐中時計、大きな鳥籠とミミズクが映し出された後、食事、散歩、来客、昼寝という熊谷守一の生活が展開されます。ナレーションは一切ありませんが、カレンダーやドリフターズのメンバー交替という話題で「1974年7月のある日」と分かる仕掛け。
 映画では、熊谷邸の庭の草木や虫、鳥、カエル、魚も重要な配役です。「へたも絵のうち」や「アリは左の二番目の脚から歩き出す」等、熊谷守一にまつわる様々なエピソードを無理やり一日に押し込んだので、実際の年代とは違う点もありますが、それは映画ですからご愛敬。ただ、金ダライが落ちて来るギャグなどの小ネタはやりすぎかもしれません。
 熊谷守一夫婦を演じた山崎努と樹木希林を始め温泉旅館の主人の光石研、カメラマンの加瀬亮、マンションオーナーの吹越満など芸達者が揃っているので安心して見ることができました。
 印象に残るのは映画の終盤。慌ただしい一日が終わって「もうそろそろ学校へ行く時間やないですか?」と言われ、アトリエに入っていくシーンです。そこで画面は真っ暗になり、続いて翌朝のアトリエが映し出されますが、前の日と違っているのは懐中時計。修理済みでした。
 映画に出て来る熊谷守一の作品は木村定三コレクションの《伸餅》ほか数点ですが、「うちの子たちは、あんなに早く、死んじゃった…」というセリフから岐阜県美術館の《ヤキバノカエリ》(1956)を連想するなど、熊谷守一の生涯と作品をもっと知りたいという思いが強くなる映画でした。
Ron.

フリーダ・カーロ出演の映画『リメンバー・ミー』

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◆「コレクション解析学」で配布された映画のチラシ
 3月25日に名古屋市美術館美術講座「コレクション解析学」(以下、「講座」)が開催されました。講師は中村暁子学芸員(以下、「中村さん」)。取り上げた作品はマリア・イスキエルド《生きている静物》1947年です。私が会場に行くと、受付で講座の資料と一緒に映画『リメンバー・ミー』のチラシが手渡されました。
講座が始まると中村さんは作品解説の前に、名古屋市国際交流課の伊藤さんを紹介。伊藤さんの話では「2018年は名古屋市とメキシコ市の姉妹都市提携40周年に当たる。映画『リメンバー・ミー』はメキシコが舞台の長編アニメーション。劇中にフリーダ・カーロ(Frida Kahlo 以下、「フリーダ」)が登場するので、皆さんにお配りした。」とのこと。3月30日には白川公園に設置するモニュメント《メキシコの翼》の除幕式が開催されるという話もありました。

◆映画『リメンバー・ミー』のこと
「フリーダが出演する」というので、早速映画館へ。春休みなので、子ども連れで一杯でした。映画の原題は ”Coco” 、主人公の少年ミゲル(Miguel Rivera)の「ひいおばあちゃん」の名前です。ミゲルは音楽好きですが、ミゲルの家族・リヴェラ家では「音楽禁止」。(理由は劇中で明らかになります。)家族や友人が集い、ご先祖様に思いを馳せて語り合う11月1日から2日までの「死者の日」の出来事が描かれます。
「死者の日」と言っても、そこはメキシコですから陽気でカラフル。ご先祖様に供えられる鮮やかなオレンジ色の花=メキシカン・マリー・ゴールドが画面いっぱいに広がります。
お話のテンポが良く、主題歌・劇中歌に体が震えます。今年3月に米国アカデミー賞の長編アニメーション賞と主題歌賞の2部門で賞を獲得した理由が良くわかりました。

◆フリーダの出番とフリーダゆかりの歌、犬、名字
フリーダは、どこでも顔パスで通してもらえる有名人として、本人役で重要な場面に登場。特に、サンライズ・コンサートには、フリーダのそっくりさんが何十人(リヴェラ家の御一行様が紛れ込んでいます)も出演。「死者の国」ですからフリーダもガイコツ。でも、原色の衣装に身を包み、トレードマークの眉毛は健在。とてもチャーミングでした。
映画にはフリーダゆかりの歌、犬、名字も登場。歌の名は「ラ・ジョローナ」(La Llorona=泣き女)。フリーダのお気に入りで映画「Frida」の挿入歌として使われました。『リメンバー・ミー』の初めの方でマリアッチの楽士が歌うほか、重要な場面で主人公の高祖母(おばあちゃんのおばあちゃん)ママ・イメルダ(Mamá Imelda)が歌います。犬はメキシカン・ヘアレス・ドッグ(通称はショロ=Xolo、以下「ショロ」)のダンテ(Dante)。フリーダの飼い犬もショロ。ショロを描いたフリーダの絵やショロと一緒に写っているフリーダの写真がネットで検索できます。フリーダは映画に登場する場面で、ダンテに向かって「迷える魂を導くガイド犬」と、声をかけていましたね。最後に、名字ですが、ミゲルの名字はリヴェラ(Rivera)。もうお分かりですね、フリーダの夫ディエゴ・リヴェラ(Diego Rivera)と同じ名字です。

◆最後に
 子どもだけでなく、大人も十分楽しめる映画でした。
Ron. 投稿:2018.03.29

映画『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』

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 協力会からチラシが送られた「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」(原題:Gauguin Voyage de Tahiti)を、先週、見ました。ゴーギャンのタヒチ滞在時(第1期:1891~1893)の出来事を描いた映画です。
粗筋は、タヒチに来たゴーギャンが現地の少女テフラを妻にして彼女をモデルに絵を描くが、テフラは他の男と通じ、ゴーギャンは病気治療のため本国に送還されるというもの。映画の最後に「その後、ゴーギャンは再びタヒチに滞在して傑作を描き、マルケサス諸島に渡って死去。二度とテフラに会うことはなかった。」という字幕が出ます。
これだけだと悲惨なお話ですが、前面に出てくるのはタヒチの自然やゴーギャンが絵を描くシーンなので、余裕をもって映画を楽しむことが出来ます。
映画なので実話かフィクションかは不明ですが、近所の赤ん坊を肩に乗せたテフラを見ながら《イア・オラナ・マリア=マリア礼賛》を描く姿は、とても満足した様子です。この場面の後、テフラのことを「彼女はマリアだ。」と言う医師に対し、ゴーギャンは「彼女はイブだ。」と、答えていましたね。一方、別れを告げに来たテフラを前にして《テハマナの祖先たち》を描くシーンは、実に切ないものでした。また、ゴーギャンがアトリエ兼住居として使っている竹の小屋には、葛飾北斎《神奈川沖浪裏》が貼ってありました。
映画の中でゴーギャンが描く絵は、外に幾つもあります。エンドロールで紹介されるので、エンドロールが終わるまで席を立たないようにしましょう。
残念ながら、ミッドランドスクエアシネマ2での上映は2月16日まで。しかも、1日1回の上映。上映時間は、2月13日から15日までは8:45~10:30。2月16日は8:55~10:40です。
Ron.

映画 「FOUJITA」

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先日、名古屋パルコ8階のセンチュリーシネマで小栗康平監督の「FOUJITA 」を観ました。平日のためか観客は7割くらいの入りで、多くは中高年の女性。
◆映画の構成=西と東、エコール・ド・パリと戦争画の対比
映画は1920年代のパリを舞台にした前半と1940年代の疎開先を主な舞台にした後半に分かれ、エンディングロールの途中にフランス、ランス市のノートルダム=ド・ラペ礼拝堂と内部のフレスコ画が映し出されます。
◆伝記映画のようで、実は「フィクション=監督の思い」に満ちている作品
 前半で、高村光太郎「雨にうたるるカテドラル」の朗読を藤田が聞き流す場面とアポリネール「ミラボー橋」に「デラシネだ。」と共感する場面が対比的に描かれています。フィクションでしょうが、監督の思いが表れています。
 藤田が《貴婦人と一角獣》を見る場面やフジタ・ナイトで藤田とユキが花魁道中を先導する場面も、監督の好みを入れたフィクションでしょうね。後半になると、サイパン島民がバンザイ・クリフから身投げする動画を陸軍が藤田に見せたり、幻想的な風景のなかでキツネが藤田を化かしたり、戦死者たちの横を流れる小川の中に《サイパン島同胞臣節を全うす》が浮び上がってくる等、フィクションが増えてきます。疎開先も架空の村です。
 フィクションが悪いというのではなく逆で、それにより監督の思いが強く伝わります。監督は絵空事を通して、事の本質を描こうとしたのでしょう。
◆細部が気になる
 映画の冒頭でキャンバスに向かう藤田が出てきますが、足元を見ると足袋に雪駄履き。後半の、東京の家で君江夫人から「前の奥様のマドレーヌさんは布地だと、どんな人。ビロードかしら?」などと質問責めに会い、藤田が困惑する場面で背景に映っている暖簾は、名古屋市美「画家たちと戦争」展に出品されていた藤田の《自画像》(秋田県立美術館所蔵)に描かれていたもの。
同じく後半に、ミシンで人形の服を縫っている藤田が手を止め、絵を取り出して眺めてから裏返す場面がありますが、この絵は豊田市美術館所蔵の《自画像》(映画ではレプリカを使用)。一瞬のことなので、キャンバスの裏の文字を映画の画面から読み取ることは難しいのですが、豊田市美術館に展示中の《自画像》の解説には「宮城拝賀 二重橋より拝謁 参内後 昭和18年正月1日試写 嗣治五十八才 2603(略)政財・文化界の限られた有力者しか出席できなかった特別な機会の後に描かれました。(略)このいささか沈鬱な表情の固く結ばれた口元にその決意を読み解くべきでしょう。藤田は同じ年の夏、ひろく耳目を集めたアッツ島の玉砕を主題に戦争画を描くことになります。」と、ありました。
◆最後に
娯楽作品ではありませんが、美術ファンにはお勧めの映画です。    Ron.