国際芸術祭「あいち2022」を見て (その3)

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国際芸術祭「あいち2022」[STILL ALIVE-今、を生き抜くアートの力](以下、「あいち2022」)の常滑、有松会場を見てきたのでレポートします。

 常滑会場は、やきもの散歩道に沿って展示場所が散在しています。常滑駅のインフォメーションで近道を教えてもらい、1番目の旧丸利陶管に向かいます。

会場風景 デルシー・モレロス

 デルシー・モレロスの作品は、まるで和菓子屋さんの作業場のようです。大小さまざまなお饅頭が、床一面に並んでいます。うっすらとクッキーのようなにおいがすると思ったら、シナモンが振りかけられています。おいしそうな匂いですが、作品の材料は土なので、食べることはできません。

旧丸利陶管には、その他に服部文祥+石川竜一、グレンダ・レオン、シアスター・ゲイツなどの作品もあります。

旧丸利陶管を出て、地図で次の会場を探します。順路だと2番目は廻船問屋 瀧田家ですが、旧青木製陶所のほうが近いようなのでそちらへ向かいます。

展示風景 フロレンシア・サディール

 フロレンシア・サディールの作品を見て、玉すだれを連想したのですが、はずれです。こちらは雨の表現です。かなり大粒の雨で、夕立のような激しさを感じます。玉に使われている土の色が様々で、そこにも何かしらの意味が込められているように思います。

常滑から有松へ移動します。

展示風景 ミット・ジャイイン

 旧東海道沿いの趣のある町並み保存地区が会場です。道幅が狭く、車両もかなり通るので、散策する際は後ろにも注意してください。

通りのあちこちで目にするのは、ミット・ジャイインの作品です。風が吹くと揺れる様子が涼しげです。近くで見ると、かなり厚手の布地が使われています。ところどころ、乾いた絵の具が尖っているので、あたると痛いと思います。

ミット・ジャイインの作品は、名古屋市西区の「円頓寺商店街」、「円頓寺本町商店街」でも展示されるそうです。

展示風景 ユキ・キハラ

 ユキ・キハラの作品は、着物のかたちをした絵画です。紙芝居ならぬ着物芝居のようです。キラキラすると思ったら、ビーズやスパンコールなども使われています。

ユーモラスな絵柄ですが、解説映像を見ると、この作品は環境破壊や経済格差などの社会問題を内包していることがわかります。解説映像を見る前と後で、印象がかなり変化しました。

有松では、その他にイワニ・スケース、AKI INOMATAなどの作品も見ることができます。

どちらの会場も、駅からは十分に徒歩圏内です。ただ、移動中に日陰になる部分が少ないので、日傘か帽子、それからスポーツドリンクがあるといいと思います。

杉山博之

国際芸術祭「あいち2022」を見て (その2)

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

国際芸術祭「あいち2022」[STILL ALIVE-今、を生き抜くアートの力](以下、「あいち2022」)の一宮会場を見てきたのでレポートします。

 一宮会場は、JR尾張一宮駅の東側の真清田神社周辺と、「墨会館」と「のこぎり2」のある尾西地区に分かれています。真清田神社周辺は徒歩圏内ですが、尾西地区はバスをお勧めします。

会場風景 遠藤薫

 JR尾張一宮駅から南東に10分くらい歩くと豊島記念資料館につきます。ここには、遠藤薫の作品が展示されています。「美術」の中には「羊」がいるそうで、展示作品のテーマは「羊」です。

2階に上がると大きな8角形の布の作品があり、その周辺にも羊の毛皮のようなものがぶら下がっていますが、こちらはフェイクファーのようです。

展示風景 奈良美智

 オリナス一宮には、おなじみの奈良美智の作品が展示されています。

この作品には、ビューポイントが2か所(入口側と奥側)あります。入口のすぐ左手の小窓から眺めるとモデルたちの情感がよく伝わるように思いますが、いかがでしょうか。

展示風景 バリー・マッギー

 オリナス一宮の東側(駐車場の方向)の屋外にバリー・マッギーの作品があります。とある建物をまるまるラッピングしたものですが、建物のサインを見てびっくりしました。

バリー・マッギーの作品は、真清田神社の北側の大宮公園の中にもあります。こちらの作品は、あまりにも周りの風景に溶け込んでいるので、見つけにくいかもしれません。

展示風景 ジャッキー・カルティ

 ジャッキー・カルティの作品は、現代美術展ならではの作品だと思います。つまり、どのように見ればいいのか、見当がつきません。

展示室の奥に、回転するプロペラを映した映像作品があります。夕方になると、ある理由でモニターの映像が変わるそうです。また、夕方のお天気によっても、映像が変わるそうです。

次回は、遅めの時間に行って、プロペラではない映像を見てみたいと思います。

杉山博之

国際芸術祭「あいち2022」を見て

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

国際芸術祭「あいち2022」[STILL ALIVE-今、を生き抜くアートの力](以下、「あいち2022」)を見てきたのでレポートします。

現代美術展は県内4か所、愛知芸術文化センター(名古屋市)、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)で展開されます。上映時間の長い映像作品があること、会場間の移動に時間をとられることから、会場ごとに別の日に行くことをお勧めします。それから、まちなか会場に出かける場合は暑さ対策をお忘れなく。

それでは、愛知芸術文化センターの展示から。

4つの会場の中で最大規模の展示です。いろいろと時間に関係した作品、文字表記を含む作品などが目立ちます。

会場風景 ローマン・オンダック

 木の年輪で歴史年表を表現した作品です。床に並んだ輪切りのパーツを、毎日、一枚ずつ壁にかけていき、10月10日の「あいち2020」最終日に完成形を見ることができます。

それぞれのパーツには、歴史的な出来事(例えば、DNAの発見とか)がひとつずつ言葉で書かれています。

展示風景 ロバート・ブリア

 白い大きな円柱形の作品は、非常にゆっくりとしたスピードで動いています。

ただ動いているだけですが、とてもユーモラスな感じがします。よく見ないとわからないくらいゆっくりと動くので、見落とさないでほしいです。

展示風景 アンドレ・コマツ

 半透明のシートで囲われた空間に新聞をさかさまに張り付けた巨大な柱が出現しています。柱の周りにも、ハンマー、拡声器、方位磁石などが配置されています。いろいろな読み取りのできる作品だと思いますが、まだ感想がまとまりません。

展示風景 ミルク倉庫+ココナッツ

 この作品は、プランターに植えられた植物を配置した巨大な足場で、希望者は足場の中を歩くことができます。説明によれば、人の肺をモデルにした空気の循環に関する装置なのだとか。

他にも、気になる作品は多かったのですが、後は皆さんがご自身で見つけてください。

他会場の作品も近日中にレポートします。

杉山博之

読書ノート 『芸術新潮』2022年8月号

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7月25日に発売された『芸術新潮』2022年8月号。ガブリエル・シャネルの特集以外にも、第2特集の「こけし」、「ゲルハルト・リヒター展」展覧会評など、内容が豊かでした。以下、概要をご紹介します。

◆特集「シャネルという革命」

現在開催中の「ガブリエル・シャネル展」は、7月17日付日本経済新聞や7月24日AM9:45放送のEテレ「日曜美術館」の「アートシーン」でも取り上げていましたが、『芸術新潮』の特集は何と63ページで、グラビアも豊富です。そのままで単行本になる本格的なものでした。とても全部は紹介できませんので「リトル・ブラック・ドレス」関連に絞ります。(p.〇は『芸術新潮』のページ数を示す)

〇CULMN 1 モダン・パリのクチュリエたち

ポール・ポワレがデザインしたコルセットの要らないドレスについて「ポワレが真に女性の解放者だったかといえば、そうではない。(略)1910年に発表した先のすぼまったホッブル・スカートは、まったくもって動きづらいものだった」として、シャネルが「その芝居がかったデザインを痛烈に批判している。ポワレにとってモードは舞台同様、芸術だったが、シャネルにとってのモードは決して芸術などではなかった」と書いています。(p.37)ポワレは、機能性よりも「見た目」を重視したということですね。

〇Ⅲ 1926- リトル・ブラック・ドレスの衝撃

 記事の最初で、ポール・ポワレが黒い服を着たシャネルに「誰を悼んでいるのかね?」と皮肉ったところ、シャネルは「貴方ですよ、ムッシュー」と答えたという逸話を紹介。「真偽のほどはあやしいが、シャネルによるラディカルなモードの変革を苦苦しく眺めていたポワレと、そのポワレのデザインを強い意志をもって葬り去ろうとしていたシャネルの姿勢を物語るものとして、大変よくできている」と締めくくっています。

また、展覧会監修者のひとり、ガリエラ宮パリ市立モード美術館館長・ミレン・アルシャリュスは「ひとくちにリトル・ブラック・ドレスといっても素材やデザインはさまざまで、刺繍やレースが用いられたものもあります。ただし、シンプルなシルエットと着心地のよさ、このふたつについては、シャネルは絶対に妥協しませんでした。自由で活動的な女性のためのシャネルの服は、キャリアの最初期からアメリカで人気がありました」と、解説しています。(p.54)

ほかに面白いと思ったのは、1953年にシャネルが14年ぶりに復帰した理由は「クリスチャン・ディオールが許せない」という鹿島茂と原田マハの対談。(p.64)ディオールのコルセットで絞ったウェストとひらひらしたスカートにショックを受け、シャネルは「この状況をどうにかしなければという焦燥感に駆られた」という、ミレン・アルシャリュス館長の解説もありました。(p.67)

◆第2特集 ひそやかに熱く。 東北が生んだ宝もの、こけし再発見

 東京ステーションギャラリーで開催中の展覧会「東北へのまなざし 1930-1945」の関連記事です。「ミロ展」に出品された、ミロ所蔵の「こけし」が気になっていたので、グッド・タイミングの特集でした。

 記事によれば「こけしは、江戸時代後期に東北地方の木地師(ロクロを使って木工品を製造する職人)が、湯治場の土産物玩具として作り始めたとされる。(略)しかし、大正期にはブリキやセルロイドの玩具に押され、一気に衰退する」ものの、こけし蒐集家の活動によって「大人の蒐集品として注目を集め」1930~45年頃「第一次こけしブーム」が巻き起こった、というのです。(p.77~79)なお、ミロにこけしを贈った旅行家のゴメスが「渡辺喜平作の土湯系こけし」を90銭で購入したのは1941年9月です(展覧会図録による)。

特集②「みちのく こけし分布MAP」によれば「土湯系(福島県)こけし」の特徴は「胴は細く頭は小さめ」(p.80)ですが、ミロ所蔵のこけしは「胴は細い」ものの「頭は大きめ」。特集③では木地屋「湊屋」の三代目・浅之助作とされる「頭の大きな」土湯系こけしを「珍品」として紹介しています。(p.82)

◆ぐるぐるきょろきょろ展覧会記 第26回  文 小田原のどか(p.116) 

 「ゲルハルト・リヒター展」について書いていますが《ビルケナウ》の取り扱いについて苦労しているように見受けられました。展覧会が「決められた順路はなく、始まりも終わりも、クライマックスもない」展示となったのはなぜか。「手がかりは作家の代表作《ビルケナウ》にある」という言葉が印象的です。

Ron.