展覧会見てある記「レアリスムの視線」岡崎市美術博物館

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2024.02.09 投稿

岡崎市美術博物館(以下「美術館」)で開催中の「レアリスム視線―戦後具象美術と抽象美術」(以下「本展」)を見てきました。以下は、本展の概要と感想などです。

◆本展紹介Videoの概要

美術館1階の受付で観覧券を購入している時、ドビュッシーの音楽が聞こえてきました。振り返ると、音楽の出所は、ロビーのモニター。モニターに映っていたのは、本展の紹介Videoでした。食い入るように画面を見ている人がいたので、その後ろに座り、モニターを眺めることにしました。

Videoによれば、本展の場合の「レアリスム」は、日本語訳の「写実主義」よりも広く「具象表現だけではなく、現実を追求して内側の芸術性を追求していく抽象表現も含む」というのです。

〇第1章 戦後具象美術画壇と時代の証人者たち

具象表現では、主にベルナール・ビュッフェと彼が参加した「オム・テモワン(時代の証人者)」に焦点を当て、同時代に開催された「時代の証人画家」展に参加したピカソや藤田嗣治なども紹介する、との解説でした。ベルナール・ビュッフェの作品は2022年に寄贈を受けたもので、「本展がお披露目」とのことです。また、アルベルト・ジャコメッティ《鼻》(図版:本展チラシに記載)についての解説もあり、異常なまでに長く伸びた鼻が目を引きますが、作者にとっては「見えるまま」の表現、とのことでした。

〇第2章 アンフォルメル美術

抽象美術では「アンフォルメル」と、この運動と関係した「具体美術協会」を取り上げています。抽象美術には、モンドリアンに代表される「冷たい抽象」と「熱い抽象」の2つの潮流があり、「アンフォルメル」「具体美術協会」は「熱い抽象」。堂本尚郎《絵画》(図版:美術館ホーページに記載)については「手術後、麻酔から覚めるときに体験した“ホワイトアウト”の感覚を表現」との解説がありました。

〇第3章 シュルレアリスム運動

「シュルレアリスム」については、「無意識を表面化」したもの。2024年は、アンドレ・ブルトンが『シュルレアリスム宣言』を発表してから100周年のメモリアル・イヤーと紹介。クルト・セリグマン《メムノンと蝶》(図版:美術館ホーページに記載)について「メムノンはギリシア神話に出てくる英雄の名前。すべてが捻じれているが、現実に向きあい、現実を表現したもの」との解説がありました。「蝶はどこ?」と思ったのですが、種明かしはありません。ひょっとしたら、蝶は成虫ではなく蛹なのかな?

〇第4章 日本の様相

名古屋の前衛芸術を志向する「匹亞会(ひつあかい)」を紹介。「匹亞」とは、「次代を担うもの」という造語とのことでした。また、堀尾実《フォトモンタージュ》(図版:本展チラシに記載)ついての解説がありましたが、名古屋市美術館所蔵なのに、これまで見たことがなかったので、とても興味深く聴くことができました。解説で取り上げたのは6点組のうち仏像の写真。写真をいくつかのパーツに切り離し、隙間を空けて台紙に貼り付けた作品です。作品の鑑賞者は解体されたパーツの隙間を埋めて、頭の中で元のイメージを作り上げようとします。そして、そこから生まれる違和感こそが「作者の狙い」のようです。

〇バック・グラウンド・ミュージック

Videoは約15分間。本展の概要を分かりやすくまとめているので、鑑賞の助けになりました。Videoの最後に音楽の曲名が紹介され、ドビュッシー作曲の「アラベスク第1番」と「夢」だと分かりました。

◆第1章 戦後具象美術画壇と時代の証人者たち

最初に展示されているのは、ベルナール・ビュフェのドライポイントの数々。作品リストに記載されているのは版画集の名前のようで、「声」というタイトルでは、旧型の受話器・犬とマッチ箱・リボルバー拳銃・声を聞く人の4枚が展示されていました。直線的な固い描線、デフォルメされた顔、寂しさを漂わせる画面で、ビュッフェらしい作品ばかりです。「日本への旅」「サントロペ」は、カラーリトグラフ。「日本への旅」は1981年制作で、6枚が展示されていました。表紙、芸者、富士山、東大寺、力士の外、東京タワーと首都高速道路を描いた現代の風景もあります。《東京の高速道路》という1980年制作の油絵も展示されていました。この外、《花と道化師》は、本展のチラシに記載されています。

「時代の証人画家」展に参加した作家の作品としては、ラウル・デュフィ《電気の精(10枚組のうち2点)》、藤田嗣治《少女》《ラ・フォンテーヌ頌》、パブロ・ピカソ《老いたる王》《フットボール》、フランシス・ベーコン《スフィンクス》、アルベルト・ジャコメッティ《鼻》(図版:本展チラシに記載)《ディエゴの肖像》、ジョルジュ・ルオーの版画などが展示されており、見ごたえがありました。

◆第2章 アンフォルメル美術

「アンフォルメル」の画家としては、サムフランシス《MAN BORN》《春》、ピエール・スーラージュ《絵画1969年5月26日》、堂本尚郎《絵画》を展示。具体美術協会の画家としては、フット・ペインティングの白髪一雄《無題》、元定定正《作品2》、田中敦子《作品》(図版:本展チラシに記載)《作品》《作品》、今井俊満《東方の光》始め4点を展示。なかでも白髪一雄《無題》は、身体を使って描いたという感じが、画面から伝わってきました。

◆第3章 シュルレアリスム運動

「シュルレアリスム」はその名の通り、写実主義を超えていると思われますが、「目前に広がる『現実』そのものにある『真の現実』を追求した」ということから本展では「レアリスム」に入れています。この視点は碧南市藤井達吉現代美術館で開催中の「顕神の夢-幻視の表現者」と共通したものを感じました。

クルト・セリグマン《メムノンと蝶》(図版:美術館ホーページに記載)の外、サルバドール・ダリ《ダリの太陽》、マックス・エルンスト《貝の花》《森》、ヴィクトル・ブローネル《誕生の球体》などが展示されており、岡崎市美術博物館のシュルレアリスムのコレクションを堪能することができました。

◆第4章 日本の様相

堀尾実「フォトコラージュ」の6点(うち、1点の図版は本展チラシに記載)の外、美術館所蔵の堀尾作品を4点展示。名古屋市美術館所蔵の作品では竹田大助《自在天》《弔鐘》の2点も展示しています。何れも初めてみる作品でした。この外、北川民次《平和な闘争》は1964年の東京オリンピックをテーマにした作品でした。

◆最後に

美術館のリニューアル・オープン後、初めて来た展覧会ですが、大いに楽しむことができました。特に、名古屋市美術館所蔵の作品は初めて見るものばかり。協力会の会員さんには「お勧めの展覧会」だと思います。

なお、名鉄バスを利用する場合、東岡崎と岡崎市美術博物館を結ぶ系統は、1時間に1本のバスしかありません。あらかじめ時刻表をご確認くださいますよう、お願い申し上げます。

Ron.

◆追加情報

〇本展は、「展示室内では写真撮影禁止」だったため、図版は掲載できません。ただ、美術館のホープページと本展チラシには図版が掲載されていますので、下記のURLで検索してください。

・岡崎市美術博物館「レアリスムの視線」ホームページのURL

URL:開催中の展覧会 「レアリスムの視線-戦後具象美術と抽象美術」 | 岡崎市美術博物館ホームページ (okazaki.lg.jp)

・本展チラシのURL

URL: réalisme_A4_fix (okazaki.lg.jp)

〇本展は、WEB割引(一般:1,200円→1,100円)があります。下記のURLで検索してください。

岡崎市美術博物館「レアリスムの視線」WEB割引ページのURL

URL:WEB割引 企画展「レアリスムの視線­―戦後具象美術と抽象美術」 | 岡崎市美術博物館ホームページ (okazaki.lg.jp)

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