展覧会見てある記「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2023.10.31 投稿

豊田市美術館(以下「豊田市美」)で開催中の「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」(以下「本展」)に行ってきました。以下は、本展の概要と私の補足・感想等です。

◆1階 展示室8

本展の会場は1階の展示室8。右方向に進もうとしたら「順路は左です。順路を示す番号に従ってお進みください」と指示を受けました。入口で受け取った作品ガイドを見ると、本展は「Section 1 モダン誕生 シカゴ-東京、浮世絵的世界観」から「Section 7 多様な文化との邂逅」までの7章構成ですが、順路が複雑に折れ曲がっていて分かりにくいので、順路を示す番号に沿って、特に目を引いた展示の概要等を書くことにします。

1 モダン都市シカゴ

眼を上に向けると「1 モダン都市シカゴ」という表記があります。興味を引かれたのは「シカゴ万国博覧会と鳳凰殿」というコーナーのうち「鳥瞰図」と「シカゴ万国博覧会日本館 鳳凰殿」の写真でした。

鳳凰殿は宇治の平等院を思わせる建物で、フランク・ロイド・ライト(以下「ライト」)の帝国ホテル二代目本館(以下「ライト館」)にも似ています。鳥瞰図を見ると、鳳凰殿は会場中央に設置された池の島に単独で建設。シカゴ万国博覧会に入場した人々は、鳳凰殿を別世界の存在と見たのではないか、思いました。

2 モダン都市東京

20世紀初頭の東京です。絵葉書「東京名所 警視庁(1911年)」を見ると、庁舎の印象がまるで違いました。家に帰って調べると写真の建物は関東大震災で炎上しています。1931年に桜田門近くに旧庁舎が建てられ、「相棒」等でお馴染みの現庁舎は1980年竣工。なお、絵葉書「東京名所 帝国ホテル」を見たお年寄りが「これが帝国ホテルなの? 何か違う」と首を捻っていましたが、ライト館ではなく「初代本館」です。

5 日本の発見

このコーナーは、浮世絵展でもおかしくないほどの内容です。歌川広重や磯田湖龍斎などの作品のほか、「シカゴ美術館における1908年の浮世絵展」の写真も展示されています。ライトは、自分のコレクションを美術館に展示できるほど多数の浮世絵を収集していたのだ、と分かりました。

12 地形と建築

主に山邑太郎左衛門邸(現:ヨドコウ迎賓館)とエドガー・カウフマン邸(落水荘)の写真、図面等の展示です。ヨドコウ迎賓館の外観写真は白い船のように見えます。ヨドコウ迎賓館は、2021年9月18日放送の「新美の巨人たち」が取り上げていました。番組ホームページのURLは下記のとおりです。

https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/?trgt=20210918

落水荘は、よく見る写真でした。『Casa BRUTUS』2023年11月号(豊田市美ミュージアムショップで販売)の表紙も飾っています。

18 木も花も本来ひとつ:自由学園とローゼンヴァルド学校計画

東京・池袋の自由学園は、2020年に放送されたTVドラマ「相棒18」で、オープニングに使われていたので身近な感じのする建物です。本展では、写真・図面だけでなく、自由学園明日館所蔵の模型まで展示されているので見ごたえ十分。「関東大震災救護活動絵巻」4点も見逃せません。

なお、自由学園明日館は2013年11月23日放送の「美の巨人たち」でも取り上げていました。番組ホームページのURLは下記のとおりです。

https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin_old/backnumber/131123/index.html

この外、テレビの感想を綴ったブログも発見しました。URLは下記のとおりです。

http://blog.livedoor.jp/konnnatv/archives/35098456.html

19 建築教育の場としてのタリアセン・フェローシップ

「タリアセン・フェローシップ」とは、建築塾のようなものです。ここでは、ライトの3番目の妻・オルギヴァナ・ライト(1898-1985)の写真が展示され、「教育に尽力」と書かれていました。

なお、ライトの妻と子どもたちについて書いたWeb記事を発見。URLは下記のとおりです。

フランク・ロイド・ライトの妻や子供、家族について。不倫、スキャンダル、惨劇も!|芸術家の恋人たち

22 帝国ホテル二代目本館クロニクル

ライト館に関する写真、図面を展示しています。中でも注目したのが「帝国ホテル二代目本館集合写真」(A)、絵葉書「1965年頃の帝国ホテル二代目本館」(B)と「田根剛氏による帝国ホテル 東京 新本館イメージパース」(C)です。Aには、ライトのほかに当時の支配人・林愛作、ライトの愛弟子・遠藤新が写っています。何れも「写真撮影不可」ですが、Bはチラシ・特大ポスターに使われています。特大ポスターを撮影するなら、1階講堂の近くに貼ってあるポスターが撮影しやすいですよ。また、本展図録(豊田市美のミュージアムショップで販売)の外に『Casa BRUTUS』2023年11月号にも掲載されています。

23 メガ・プロジェクトのはじまり

「模型 3D計測データを用いた3Dプリントレプリカ」が見ものです。京都大学所蔵の原作模型をもとに京都工芸繊維大学が制作したものです。なお、この模型に関するWeb記事を発見。URLは、下記のとおりです。

https://www.d-lab.kit.ac.jp/uncategorized/2023/frank_lloyd_wright_model/

25 総合芸術としての帝国ホテル

豊田市美所蔵の机と椅子を展示しています。いずれも、ライトが帝国ホテルのために設計したもの。私が見ていると、年配の男性の団体がやって来て、おしゃべりをしながら椅子の背もたれを触ろうとするので、係員から何度も注意を受けていました。ご本人は「気になる部分を指さしただけで、触ろうと知ったわけではない」と弁解していましたが、私が見た指先の動きは、危なっかしいものでした。「団体で見るときは自制心が鈍くなるので要注意」と自分に言い聞かせた次第です。

ただ、撮った写真を見返すと、背もたれを支える支柱は、中央の支柱の上部に木ネジの頭が見えますが、左右の支柱には木ネジの頭が見えません。どうやって背もたれと支柱を結合したのか不思議に思い、仲間に意見を求めるために指で差したのだろうと、分かりました。とはいえ、展示品のすぐ近くで指を動かすのは止めましょう。

26 素材の探求:大谷石とすだれレンガ

ライト館で使用した「金箔入りガラス」「テラコッタの装飾ブロック」「千鳥模様のすだれレンガ」「換気用に用いるテラコッタの装飾ブロック(複製)」を展示していました。とはいえ、一個ずつの展示なので、どのように使われていたかは、想像するしかありません。以前、常滑市のINAX ライブミュージアムの「建築陶器のはじまり館」に行った時、大谷石とすだれレンガ、コンクリートが一体になった柱が展示されていました。「建築陶器のはじまり館」のURLは下記のとおりです。

https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/terracotta/terracotta_about/

なお、豊田市美に置いてあるチラシで、INAX ライブミュージアムが12月25日まで企画展「帝国ホテル煉瓦製作所」を開催している、と知りました。企画展のURLは下記のとおりです。

https://livingculture.lixil.com/ilm/see/exhibit/imperialhotel_brickfactory/

30 関東大震災に耐えた構造

ここでは、3分間の映画「関東大震災記録」を上映していました。小さな画面ですが、震災の生々しい被害状況をつかむことが出来ます。なお、関東大震災の時の帝国ホテル従業員の奮闘ぶりについては〈読書ノート「帝国ホテル・ライト館の謎」〉を書きましたので、そちらをご覧ください。

35 高層建築――樹状構造

ジョンソン・ワックス・ビルとプライス・タワーに興味を引かれました。

先ず、ジョンソン・ワックス・ビルですが、事務室の中にキノコのような柱が林立しているSF映画のような写真にびっくりしました。写真だけでなく「樹状柱の耐荷重試験」という2分40秒の映画も上映。映画では、樹状柱の広い天井部に土嚢や土などの荷重を少しずつ増やし、荷重が60tになった段階で支えを外すと、転倒してしまうというものです。試験は見事な失敗ですが、何度も繰り返して見てしまいます。

プライス・タワーはオクラホマ州の田舎町バートレスビルにある19階建てのビル。建設を依頼したのは石油パイプライン建設で財を成したハロルド・プライスです。ビルの模型とオフィスの写真も展示しています。なお、写真の撮影者は、若き日の故ジョー・プライス。皆さま方ご存じ、伊藤若冲など日本美術のコレクター、ご本人です。そして、ハロルド・プライスは、ジョーの父親。このことについては〈読書ノート「若冲になったアメリカ人」ほか〉を書きましたので、そちらをご覧ください。

37 ライトへ注がれた同時代の目

アイノ・アアルトが撮影した写真2点《アルヴァ・アアルト、長女ヨハナと長男「落水荘」のゲストハウスにて》(1939年)《アルヴァ・アアルトの長女ヨハナと長男「落水荘」のゲストハウスにて》(1939年)とアルヴァ・アアルトからフランク・ロイド・ライトに宛てた手紙(1945年12月13日)に注目しました。

1939年は、ニューヨーク万国博覧会が開催され、フィンランド館の企画を担当したアルヴァ・アアルト夫妻は渡米。アアルト一家はアメリカ旅行をしているので、ライトの斡旋で「落水荘」に宿泊したのでしょうね。1945年の手紙は、ヘルシンキ大学で建築を勉強している息子を1946年にタリアセンに送りたいとい願いするものです。(アルヴァ・アアルトは1945年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に長期滞在しています)

◆1階 展示室6・7 ライトと並走するヨーロッパのデザイン

展示室6・7では、本展関連の常設展として「ライトと並走するヨーロッパのデザイン」を企画。展示室7には三大巨匠ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの《アームチェア(MR 534)》(1927年)とル・コルビュジェの《アームチェア(バスキュラン)》(1928年頃)に加えて、「モンドリアン展」でも展示されていたヘリット・トーマス・リートフェルトの《ベルリンチェア》(1923年)《ジグザグ・チェア》(1932-33年)も展示されています。見逃せませんよ。 Ron

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