展覧会見てある記 豊田市美術館「吹けば風」ほか

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2023.08.29 投稿

豊田市美術館(以下「豊田市美」)で開催中の「吹けば風」「コレクション企画 枠と波」及び「コレクション展」を見てきました。豊田市美に着くと、美術担当と思われる先生に引率された、制服姿の中学生がロビーに溢れていました。人数が多く、学校行事と思われます。中学生以下は無料なので、学校は企画しやすかったのでしょう。学芸員やボランティアと思われる方々も一緒です。美術館の側も張り切っているように見えました。美術の授業で現代アートを鑑賞する機会は、多くないと思われます。「豊田市美は、この子たちの夏休みの思い出になったかな?」と考えながら、しばらくの間、その姿を眺めていました。

◆「吹けば風 Incoming Breeze」展示室1

 展示室1~5では4人の作家による企画「吹けば風」を開催中。階段を上って展示室1に入ると、床の4分の3程を占める巨大な斜面。係の人から鑑賞上の注意点を伝えられました。「斜面には、立ち入らないでください。動画の撮影はご遠慮ください。壁の作品には手を触れないでください」の三点です。「壁に作品があるの?」と疑いながら奥に進むと、壁の左上から右下にかけて「どくんどくん と」という文字が並び、右上からは「育って 育って」という文字。途中から「腐って 腐って」に変わります。人の気配がしたので振り返ると、男性が「立ち入り禁止」の斜面に入り、登り始めましたではありませんか。係の人に「斜面を登っている人がいるんですが……」と告げたところ、「あの方は作家さんです。今からパフォーマンスがあるので、ゆっくりご覧ください」という返事。見ている人間は二人だけ。「中学生も見たのかな?」と考えながら、パフォーマンスを眺めました。作品リストに目を遣ると、作家名は関川航平。タイトルは “A Summer Long”。素材・技法の欄には「23.4度の傾き、ドローイング、パフォーマンス」と書かれています。パフォーマンスは、「吹けば風」の作品だったのです。

◆「吹けば風」展示室2~3

川角岳大《Summer》(2021)

展示室1内の階段を上がり、展示室2に入ると絵画が3点。作品リストによれば、向かって右の壁の作品は川角岳大《Summer》(2021)、夏山を背景にして白い鳥が飛ぶ、爽やかな絵でした。川角岳大の出品作品は全部で23点。展示室2・展示室3の出入口や展示室4につながる廊下の突き当りまで、展示できそうなあらゆる場所に展示されていました。

 展示室2の出入り口北側の壁には、天井近くまで使って2枚の作品を上下に展示。上の絵は《イシダイ》(2023)、下の絵は《手銛》(2023)。2点を組み合わせると、手銛でイシダイを突き刺した絵が完成するという仕掛けです。

 展示室2と展示室3をつなぐ廊下東側の壁には《下りの蛇》(2021)・《上りの蛇》(2021)、《Street Light》(2022)などを、展示室3には《黒い犬》(2023)、《カラス》(2023)などを展示。分かりやすい作品なので、現代アートといっても中学生たちが面食らうようなことはなかったでしょうね。

《黒い犬》(2023)
《カラス》(2023)

◆「吹けば風」展示室4

 展示室4は、3つの区画に澤田華の映像作品を展示。最初の区画の作品は、ゾンビ映画に日常風景を撮影した動画を重ねて投影したもの。映画鑑賞中に雑念が湧き上がってくるような感覚を覚える作品でした。

 次の区画では、床に様々な物が散らかっている中を、足元に気をつけながら歩く体験ができました。最後の区画の作品は大型のモニターを使ったもので、大型のスマホを見ているような気持になりました。

◆「吹けば風」展示室5

 2階の展示室5は、船川翔司のインスタレーション。「お天気」をテーマにしているようで、室内で風が吹いていました。《双子の歌》は、展示室内に二つの大型モニターを向かい合わせに置き、同じ動画を流すものです。

◆「コレクション展」展示室6・7

展示室6・7は、通常、小堀四郎、宮脇晴・綾子の作品ばかりですが、今回は、草間彌生、グスタフ・クリムト、エゴン・シーレ、ルネ・マグリットなど、豊田市美でおなじみコレクションが勢ぞろいしていました。

三木富雄の「耳の彫刻」《EAR》(1905)

◆「コレクション企画 枠と波」展示室8

入ってすぐのところにあるのが、三木富雄の「耳の彫刻」《EAR》(1905)。名古屋市美術館「コレクションの20世紀」でも見ましたが、今回は高さ170cmと、インパクトのある作品でした。

 ヨーゼフ・ボイスの作品は、2021年開催の「ボイス+パレルモ」で展示されていた、丸めたフェルトを7本並べた《ブライトエレメント》(1985)の外、お馴染みの《ジョッキー帽》(1983、85)などを展示していました。

 狗巻賢二の作品では、直交する平行線を様々に組み合わせたものを数多く出品していました。

 また、展示の最後には安藤正子さんの先生の作品、櫃田伸也《通り過ぎた風景(山々)》(1999)がありました。

◆最後に

 「吹けば風」には“くせの強い”作品が並んでいましたが、豊田市美全体では様々な作品を鑑賞することができました。中学生の皆さんも満足されたのでは、と思います。

Ron.

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