展覧会見てある記「マリー・ローランサンとモード」

カテゴリ:協力会ギャラリートーク 投稿者:editor

2023.06.30 投稿

名古屋市美術館で開幕したばかりの「マリー・ローランサンとモード」(以下「本展」)。2023.06.25(日)17:00~18:30に開催された協力会向け解説会(以下「解説会」)に参加しましたので、その概要とともに、本展の感想などを<補足>として書き足しました。

解説会の講師は、勝田琴絵学芸員(以下「勝田さん」)。今回の解説会は、4年ぶりにギャラリートーク(講堂ではなく、展示室で行う解説)となりました。久しぶりの「目の前に作品がある」解説会なので、参加者はもちろんのこと、勝田さんも気分が高まったようで、予定の1時間を越え、1時間半近くの解説会となりました。

◆本展の成り立ち等について(エントランスホールにて)

勝田さんによれば、本展は企画会社が持ち込んだもの。マリー・ローランサンの作品については、名古屋市美術館の深谷参与が担当。シャネルのドレスなど「モード」に関しては他の企画者が担当という分業制で、展覧会全体の構成については名古屋市美術館が中心になって担当、とのことでした。

◆Ⅰ レザネ・フォルのパリ (Paris of Les Années folles)

勝田さんによれば、第1章では「狂騒の時代=レザネ・フォル : Les Années folles」と呼ばれた1920年代のマリー・ローランサン(以下「ローランサン」)とガブリエル・シャネル(以下「シャネル」)の活躍を示す作品、写真などを展示。当時、社交界の女性たちや前衛画家を庇護する女性たちのステイタスは、①ローランサンに肖像画を描いてもらうこと、②シャネルの服を着て、マン・レイに写真を撮ってもらうこと、の二つだったそうです。

〇《わたしの肖像》(1924)(注:特に説明の無い作品は、ローランサンが描いたもの。以下、同じ)

ローランサンが自信をもって描いた自画像。彼女は短髪で、モダンガールのような装い、との解説でした。

〇《マドモアゼル・シャネルの肖像》(1923)

シャネルがローランサンに依頼した肖像画。しかし、シャネルは気に入らず、ローランサンに描き直しを要求。シャネルは女性の社会進出を推し進めていたので、このように装飾的な肖像画は不満だったと思われます。一方、ローランサンは描き直しを拒否。シャネルを「田舎者」と見下していたのでしょう。シャネルも対抗して作品の買い取りを拒否。物別れとなり、現在、オランジェリー美術館が作品を所蔵している、との解説でした。

<補足>

 この作品は、特製の枠に囲まれています。ローランサンが描いたシャネル、本展の主役二人に関係する作品ですから、特別扱いも納得。「本展を象徴する作品」という感じがします。

シャネルについて知るため、YouTubeの「シャネル ファッション・デザイナーへの道」という動画(以下「YouTube」 URLは、下記(*)に記載) を見ると、シャネルがネクタイを締め、男物のシャツと乗馬ズボンをはいた姿を撮影した写真が出てきました。* URL : https://www.youtube.com/watch?v=Z49X-pjFR64

『もっと知りたい シャネルと20世紀モード』 朝倉三枝 著 発行所 株式会社東京美術 2022.10.25発行(以下『シャネルと20世紀モード』)p.7にも、同じ写真が載っています。シャネルを象徴する写真ですね。

YouTubeでは、シャネルを主人公にした映画の「シャネルが男用の乗馬姿に着替える」という場面も紹介。シャネルは、当時の女性の装飾過剰なファッションを嫌い、機能的な男性の服装が気に入っていたようですね。YouTubeは更に、上流社会の社交場であった競馬場にシャネルが男物のコートを着て行った時の写真も紹介しています。肖像画も男性的な服装なら、シャネルからOKが出たかもしれませんが、当時の常識を外れた肖像画では、ローランサンの方が描くことを拒否したでしょう。(写真撮影の年代は不明ですが、肖像画の制作と年代が離れているのは確か。なので、的外れの想像になるかも)

〇《テティエンヌ・ド・ボーモン伯爵夫人の空想的肖像画》(1928)

本人の子どもの頃を想像して描いた大型の肖像画。隣には、この作品の前に座った夫人の写真も展示。ローランサンは、夫のボーモン伯爵が開催した夜会「ソワレ・ド・パリ」のポスターも描いた、との解説でした。

〇映像 マン・レイ《シャネルの服を着た社交界の女性たち》

マン・レイに写真を撮ってもらうことは、社交界の女性のステイタス。「今回は時間がないので、次の機会にじっくりご覧ください」との解説でした。

<補足>

 上映されているポートレイトは、1924年~1930年に撮影されたもの。100年近く前の写真なので、写っているのは知らない人ばかりですが、princess(王女)、duchess(公爵夫人)という肩書や本人の容姿、装身具から推察すると、身分の高い人やお金持ち、女優などと思われます。パールのロングネックレスを着けたシャネルもモデルになっています。次回は勝田さんのアドバイスに従って、じっくりと見たい映像です。

◆Ⅱ 越境するアート (Cross-border Art)

〇《牝鹿と二人の女性》(1923)/ 限定書籍『セルゲイ・ディアギレフ劇場「牝鹿」』1,2巻(1924)

勝田さんによれば、ローランサンは作曲家・プーランクの推薦で、セルゲイ・ディアギレフが率いるロシア・バレエのバレエ団=バレエ・リュスの「牝鹿」の衣装と舞台装置のデザインを手掛けたとのこと。バレエの振り付けは、舞踊家ニジンスキーの妹ニジンスカヤ。衣装については、ローランサンのデザイン画が分かりにくかったため作り直しが多く、制作現場は大混乱だった、との解説でした。

〇映像 NBAバレエ団「牝鹿」の日本公演(2009)

勝田さんによれば、ピンクの羽飾りの帽子を被り、ピンクの衣装を着た乙女たちが踊っているところに、美青年が来て乙女たちを誘うが、乙女たちは見向きもしない、というストーリーとのことです。

<補足>

 女性はひざ下丈のゆったりしたワンピース、男性はランニングシャツにショートパンツという姿。モダンダンスのように見えます。とはいえ、バレエは軽快で、思わず見入ってしまいました。

〇《アポリネールの娘》(1924)

 勝田さんによれば、アポリネールの死後に描かれた作品。「ローランサンとアポリネールとの間に娘がいたら」と空想して描いたそうです。

〇《優雅な舞踏会あるいは田舎での舞踊》(1913)

勝田さんによれば、キュビスムの頃と円熟期の境の時期に描かれた、ローランサンの代表作の一つ。平面的な描写ですが、キュビスム的な手法の作品、とのことでした。

〇映像 「青列車」 ピカソとダンス「青列車」「三角帽子」(DVD)より(1993年12月収録)

勝田さんによれば、シャネルはバレエ・リュス「春の祭典」を資金援助。「青列車」もバレエ・リュスの作品で、幕はピカソ、衣装はシャネルが担当。更衣室から出てくる女性のテニス・チャンピオンはシャネルのワンピースと、イミテーションパールのイヤリングを身に着けている、とのことです。

<補足>

「青列車」の登場人物が身に着けているのは、当時のリゾート・ウエア。男女とも、水着はワンピース(ノースリーブで、下はシュートパンツ)。当時の藤田嗣治の水着写真も、ワンピースでしたね。

イミテーションパールですが、前出『シャネルと20世紀モード』のp.36は、シャネルは「高価な宝石がそれを身に着ける女性を豊かにするわけではない。……ジュエリーはあくまで装飾品であり、楽しみのひとつであるべきだ」という考えのもと、あえて本物と偽物のジュエリーをまとい、1924年頃、イミテーションを扱うコスチューム・ジュエリー部門を開設した、と書いています。積極的にイミテーションを販売したのですね。

バレエは、「牝鹿」と同様の軽快な動き。先に登場した女性のテニス・チャンピオンと後から登場する男性ゴルファーの掛け合いがユーモラスで、見飽きません。男性ゴルファーの服装は、ニッカーボッカーズでした。

〇《アンドレ・グルー夫人(ニコル・ポワレ)》(1913)・《アンドレ・グルー夫人(ニコル・ポワレ)》(1937)

 画面が楕円形の作品です。勝田さんによれば、楕円形の画面は寝室を飾るため、とのこと。装飾家アンドレ・グレーの夫人は、「モードの帝王」と呼ばれたポール・ポワレの妹・ニコル。ローランサンとニコルは生涯にわたって深い親交を結んだ、との解説でした。

〇アール・デコ展(現代産業装飾芸術国際博覧会)1925年のパネル

勝田さんによれば、名古屋展のために製作したパネル、とのこと。パネルには、ポール・ポワレが、衣服だけでなく室内装飾までも展示した三艘の遊覧船をセーヌ川を浮かべ、毎夜のように客を招いて豪華な夕食会を開催したが、結果は大赤字。1929年には、自分のメゾン(店)を畳むことになった、と書かれています。

<補足>

大きなパネルで、博覧会の会場地図だけでなく、セーヌ川に浮かぶ遊覧船や、遊覧船内の展示風景の写真も貼ってあります。製作は大変だったと思いますが「優れもの」のパネルです。

◆Ⅲ モダンガールの登場 (Rise of The Modern Girl)

第3章からの会場は2階に写ります。広い空間の中央に4体のドレス(ただし、うち1体は撮影禁止です)が置かれ、周囲の壁に作品や写真などが展示されていました。

〇シャネル《帽子》1910年代

勝田さんによれば、シャネルは帽子の制作・販売からファッションの仕事を始めた、とのことです。

<補足>

《帽子》の隣には、1900年代~1910年代の帽子のイラストが、次々と投影されていました。すぐにイラストが変わるので、文字がうまく読み取れませんが、辛うじて Paul Poilet(ポール・ポワレ)、Jeanne Lanvin(ジャンヌ・ランバン)、Gabrielle Cannel(ガブリエル・シャネル)という名前は読み取れました。名前の読み取りは難しいですが、このイラストも見逃せませんよ。展示室では、イラストの投影だけでなく、帽子を描いたローランサンの作品も展示しています。

〇ジャン・コクトー《ポワレが去り、シャネルが来る》(オリジナル:1928)アートプリント

 勝田さんによれば、ポール・ポワレが第一線を退き、シャネルが流行を牽引するようになったことを象徴するイラストなので展示した、とのことでした。

〇ポール・ポワレ《カフタン・コート「イスファハン」》(1908)

写真撮影スポットを示す印の正面に展示されているコート。勝田さんによれば、コートの向かい側の壁に展示の『ポール・ポワレのドレス』のイラストに、展示されているコートと同じものがある。材質は絹、模様は金糸で刺繍したもの、とのことでした。1920年代は「シャネル旋風」が巻き起こりますが、1930年代の流行はスカート丈が長くウエストを絞った、女性的なスタイルに回帰。バイアスカットの技法で縫製し、体の線に沿ったマドレーヌ・ヴィオネやジャンヌ・ランバンがデザインしたドレスが流行、との解説でした。

 <補足>

中央が《カフタン・コート「イスファハン」》。写真では分かりにくいですが、かなり薄手の生地。スカートのピンク色も鮮やか。100年以上前のものとは思えません。向かって右はシャネル《イブニング・ドレス》(1920-21)、左がジャンヌ・ランバン《ドレス》(1936)で、バイアスカットの技法で縫製しています。壁に展示されているのは、帽子をかぶった女性の肖像画です。(作品を撮っている女性もドレスの陰に写っています)

なお、「バイアスカット」について書くと長くなるので、別のブログ原稿に書くことにします。

また、「シャネル旋風」についての解説があったと思うのですが、帽子のイラストやローランサンの作品等に夢中で、聞き漏らしてしまいました。残念。

〇《シャネル N°5 の広告》(1936)

 勝田さんによれば、皆さんご存じのとおり、シャネル・ブランドで1921年に発売した香水。シンプルなデザインのボトルは斬新で、大いに売れた、とのことでした。

<補足>

「シャネルの5番」について、『シャネルの真実』 山口昌子 著 新潮文庫(以下『シャネルの真実』)は、 p.221 に<シャネルの名を不朽のものにすると同時に、莫大な財政的成功をもたらし、経済的にも自立した20世紀の解放された女性の代表の地位を与える結果となった>と書いています。大成功だったのですね。

◆エピローグ:蘇るモード (Fashion Reborn )

〇カール・ラガーフェルド《ピンクのツィードのスリーピース・スーツ》(2011)

 勝田さんによれば、シャネルのデザイナー=カール・ラガーフェルドは、2011年にローランサンのピンク色に発想を得た、ツィードのシャネル・スールを発表。このことにより、ローランサンとシャネルは和解に至った、とのことでした。

<補足>

女性参加者の多くは、ピンク色のシャネル・スーツを見て、大統領夫人のジャクリーヌ・ケネディを想起したようです。このことについて、前出の『シャネルと20世紀モード』p.69は、<夫人のスーツは、シャネルの1961年秋冬コレクションで発表されたモデルで、パリの本店から送られて来た素材を使い仕立てられていた。ジャクリーヌのスーツは2003年に、当時のままアメリカ国立公文書館に寄贈されたが、家族の意向で100年間、公にせず保管されることとなっている>と書いています。

〇映像 カール・ラガーフェルド《2011年春夏 オートクチュール コレクションより》(2011)

 勝田さんから「この映像で本展の解説会は終了です。展示室を閉めるまで、もう少し時間がありますので、自由に、ご鑑賞ください」という挨拶があり、解説会は終了。自由解散となりました。

<補足>

最後の映像も、見ごたえ十分です。解説会の締めくくりとなる展示なので、大勢の会員が立ち見をしていました。女性会員は、カール・ラガーフェルドをよくご存じでしたが、恥ずかしながら私は “Karl Who ?” という状態。日本語のYouTubeを探して、「シャネルを復活させたドイツ人デザイナー」「サングラスとポニーテールが目印」という人物像を知ることが出来ました。視聴したYouTubeは、下記のとおりです。

【カール・ラガーフェルド】モード界を牽引してきた帝王 ★40枚の写真で振り返るレジェンドの軌跡

URL: https://www.youtube.com/watch?v=JVLkXy-80zI&t=782s

実は、前出『シャネルの真実』p.279 -281 でも、カール・ラガーフェルドについて書いていました。

また、本展公式ホームページによれば、『シャネルの真実』の著者・山口昌子さんによる本展の特別解説会「ココ・シャネルの真実」が7月29日(土)14:00から名古屋市美術館2階講堂で開催されるようです。当日は先着順、30分前に開場し定員(180名)になり次第締め切りとのことですから、どうしても講演を聴きたいという方は早めに並ぶことをお勧めします。

<参考> 2022年6月 豊田市美術館 交歓するモダン

 2022年6月に、豊田市美術館「交歓するモダン」に行きました。その時、ポール・ポワレ、ジャンヌ・ランバン、マドレーヌ・ヴィオネ、ガブリエル・シャネルの展示作品を撮影。ブログに掲載しましたので、興味のある方は下記のURL で検索してください。

URL: 6月 « 2022 « 名古屋市美術館協力会ブログ (members-artmuse-city-758.info)

Ron

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