「永青文庫展」ギャラリー・トーク

カテゴリ:協力会ギャラリートーク 投稿者:editor

名古屋市美術館で開催中の「永青文庫 日本画の名品」(以下「本展」)のギャラリー・トークに参加しました。前日からの大雪で欠席者が続出したものの48名が参加。展覧会への期待の高さが伺えました。JR東海道線の運行停止で、保崎学芸員(以下「保崎さん」)が開始時刻に間に合わず、代わりに角田学芸員(以下「角田さん」)のレクチャーでスタート、中盤から保崎さんへバトンタッチとなり、「二人から話が聞けて、お得なギャラリー・トーク」となりました。

◆本展について
 角田さんによれば、「永青文庫は、熊本藩の藩主・細川家の家宝を所蔵する財団。明治維新、敗戦という二つの危機で多くの藩主がお宝を散逸させた中、細川家は財産を持ちこたえた稀有な存在。特に、永青文庫の現理事長である細川護熙氏(元総理大臣)の祖父、細川護立氏は「美術の殿様」と呼ばれるほどの審美眼があり、永青文庫のコレクションを充実。本展は、護立氏による収集作品のなかから、近代日本画の名品と江戸時代の禅画を展示。近代日本画は、作家が画壇で認められるきっかけとなった見どころの多い作品ばかりなので、じっくりと鑑賞して欲しい。白隠、仙厓の禅画は、今でこそ人気だが、つい先ごろまでは「知る人ぞ知る」見向きもされないものだった。それを、護立氏は白隠・約千点、仙厓・約百点所蔵。見る目の確かさが窺えます。本展では、日本画の技法を解説したパネルも用意したので、是非、見てください。照明にも凝っており、全て、外注。」とのこと。会場に入ってみると、その言葉どおりでした。
■第一部 近代の日本画
◆日本美術院の大家たち
展示の冒頭は、岡倉天心が日本美術院を茨城県五浦海岸へ移したときに同行した画家の作品。
角田さんによれば、「下村観山は「うまい」作家で、《女》は「技巧の極致」。帯にナデシコの花と「やまと」の文字。これで「大和撫子」を暗示。木村武山《祇王妓女》は平家物語のエピソードを絵にしたもので、やまと絵と狩野派の統合を図っている。横山大観《山路》は修復を終えており、復活した鮮やかな色彩を見てほしい。熊本県美所蔵の三幅対《焚火》は、禅画の画題として好まれた「寒山・拾得」を描いたもの。巻物を手にしているのが寒山、箒を持つのが拾得で、煩悩の塊である落ち葉を燃やしている図。《老子》は、先生である岡倉天心へのオマージュ。下村観山・横山大観合作の《寒山拾得》は観山が寒山を、大観が拾得を描いている。個性豊かな二人なのに調子を合わせて描いているのが面白い。なお、観山は「寒山」のもじり。菱田春草の《平重盛》は、清盛が上皇を討とうとするのを、息子の重盛が諫めようと駆け付けた場面を描いたもの。有職故実をしっかりと押さえて描いている。また、とても早描き。重要文化財の《落葉》は、日本画の技法「ぼかし」「たらしこみ」をうまく使って描いている。横に広がる「無限感」がこの絵の魅力。落ちる木の葉で時間を表現している。」とのことでした。
◆再興日本美術院展の画家たち
午後6時少し前に、ようやく保崎さんが到着。大観たちの次の世代、再興日本美術院展の作家から保崎さんの解説になりました。保崎さんによれば、「今村紅紫の三幅対《三蔵・悟空・八戒》は、南画風の自由奔放な作品。小林古径の二曲一双《鶴と七面鳥》は、琳派の《風神雷神》を意識している。川端龍子は、当初洋画を描いていたが日本画に転向し、再興日本美術院展で入賞。その後、「会場芸術」としての日本画を主張して青龍社を旗揚げした作家。本展では三面の《霊泉由来》を展示している。」とのことでした。
◆京都画壇の作家
解説は続きます。「円山応挙の系譜に連なる竹内栖鳳は、写実と筆の技術に西洋風の色使いや写真の構図も取り入れた作家。三幅対《松竹梅》のなかの《梅》は、モネの睡蓮に近い描写が見られる。西村五雲の六曲一双《林泉群鶴図》は、非常にうまい。堂本印象《調鞠図》は彼の出世作。」とのことです。鍋鶴と丹頂鶴を描いた《林泉群鶴図》は、まさに「酉年のお正月」の絵です。
本展では向かい側に作品が無く、ただの壁になっているという展示が多いと感じました。おかげで、大きな作品を見るために後ろへ下がっても支障がなく、ガラス面の写り込みも目立ちません。とても快適です。保崎さんも「展示方法には、こだわった。」と言っていました。
◆2階には
2階にも近代日本画の展示が続きます。保崎さんは鏑木清方の双幅《花吹雪・落葉時雨》について、「この作品は、文展に対抗して開催された国画玉成会主催の展覧会で三等賞第三席を受賞。因みに一等賞、二等賞は該当作がなく、三等賞は、外に前田青邨、今村紫紅が受賞。また、上村松園が文展で三等賞を受賞。なお、描かれた女性の衣装は文化文政頃のもので、花吹雪は京都、落葉時雨は江戸の風俗。」と解説。平福百穂《「豫譲(よじょう)》については「『史記列伝』の『刺客列伝』に登場する人物を題材にしたもの。文展で特選となり、千五百円の値が付きました。ただ、現在に換算した値段は見当がつきません。」という話になり、角田さんが「家が一軒建つ値段です。」と補足してくれました。
■第二部 白隠と仙厓の禅画
◆白隠
 保崎さんの解説では「護立氏は若い頃、大病を患ったときに知人の阿部無仏氏から白隠の「夜船閑話」を読むよう勧められ、その教えを実践して回復。それがきっかけとなり、十代の頃から白隠の禅画収集を開始。当時は、禅画を収集する人は少なく、比較的容易に収集できたようだ。白隠は沼津の禅僧で絵はアマチュア、禅の教えを広めるための手段として禅画を描き、人々に与えた。絵と画賛(絵に添えられた文章、詩句)を、ともに味わうのが禅画の楽しみ方。」とのことでした。
◆仙厓
保崎さんの解説では「仙厓は岐阜県関市の生まれで、博多の聖福寺(しょうふくじ)の住職の住職を務めている。《寒山拾得》のような伝統的な禅画も描いているが、最近は「ゆるキャラ」というか子どもが描いたようなユーモラスな絵が人気。《朧月夜》は画賛に「切れ縄に口ハなけれど朧月」とあり『暗いところでは縄を蛇と勘違いすることがある、先入感を捨て真実をとらえる必要がある』という教えを説いている。《絶筆》は、あまりに絵の注文が多いので「今後、絵は描きません。」と知らせるもの。ただ、この《絶筆》、実は何枚も描いている。」とのことでした。
◆最後に
見て回った点数は多くないのに、終わってみればタップリ2時間あまり。角田さん、保崎さんの展覧会にかける意気込みが伝わりました。ありがとうございます。参加者一同、大満足でした。
近代日本画はお殿様の収集品らしく、大広間で見たくなる豪華なものが多くて、お正月らしい展覧会です。一方、禅画は、絵はへたウマでも画賛は禅の教えに裏打ちされており、味わい深いものばかりです。どちらも、もう一度、じっくり鑑賞する必要がありますね。
後期のみの展示が菱田春草《黒き猫》や上村松園《月影》な十点もあるので、後期(2月7日(火)~26日(日))も見逃せませんね。
Ron.

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