若林奮 飛葉と振動 ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

講堂に集まった会員たち

講堂に集まった会員たち


「飛葉(ひよう)と振動(しんどう)」英文表記で”Flying Leaves and Oscillation”と名付けられた、若林奮(わかばやし・いさむ/1936-2003)回顧展のギャラリートークに参加しました。参加者は42名、抽象彫刻としては予想外に多い人数です。
展示室に移る前に、今回の担当学芸員である角田美奈子さんから簡単なレクチャーがありました。角田さんは「『飛葉と振動』とは最晩年の彫刻につけられた名前。移り変わっていくこと、変化を表現したもので、今回の展覧会のテーマでもある。難解といわれる若林の作品だが、今回は、わかりやすさを心がけた。」と話され、「作家が存命中なら、わかりやすくすることは許されなかっただろう。」と付け加えていました。
展示室に移動し、42名の参加者であふれかえっている会場を見て、角田さんは「若林の作品を鑑賞する環境としては、静けさの中、一人で向き合うというのが望ましいのですが、今日は真逆ですね。」と笑っていました。
ま、作品と向き合う心の準備をするため、ギャラリートークに参加したのですから、ぜいたくは言えないでしょう。観光ツアーの団体さんが大挙して押しかけ騒然としている状況だと「早く一人にしてくれ。」と腹も立ちますが、仲間内の鑑賞会なので気になりません。「一人で向き合う」のはしんどいですが、仲間がいるので楽な気持ちで向き合えます。
ごく初期の作品には「猫」など、具象的なものもありますが、ほとんどは抽象的な作品です。チラシに図版が載っていた「日の出、日没Ⅰ(グラマンTBFを見た)」も飛行機は具象的ですが、ほかの要素は何を表現しているのかよくわかりません。角田さんによれば「空気の流れなど、目に見えないものも表現している。」とのことでした。

抽象的な作品は目に見えるものをストレートに造形しているわけではないので、鑑賞する者に観察眼と想像力を要求します。それだけに「わかってくる」とハマってしまうのでしょう。ギャラリートーク当日にも5時間見続けたお客がいたとのことです。数は少なくとも、熱心な信奉者がいるのですね。作家に魅了された美術評論家や学芸員も多いようです。
彫刻だけでなく、ドローイングの外、庭の写真パネルや模型なども展示されています。角田さんは「作家にとって、庭も彫刻であった。」と言っていました。
展覧会の本質からは外れますが、角田さんによれば「若林の作品は、見かけでは想像できないくらい重いものが多いので要注意。」だそうです。チラシの表面にある「所有、雰囲気、振動-SLITⅢ」などは大の男でも持ちあがらないとのことです。恐るべし、若林奮。会期は5月24日(日)まで。
                            Ron.
ほんとうに、重いのですから

ほんとうに、重いのですから

2015オリジナルカレンダーのお知らせ 眞島直子氏

カテゴリ:オリジナルカレンダー 投稿者:editor

2015年用の名古屋市美術館協力会オリジナルカレンダーが出来上がりました!(A3サイズ)

2015年 協力会オリジナルカレンダー

2015年 協力会オリジナルカレンダー

会員のみなさまにつきましては、もうカレンダーがお手元に届いていると思います。昨年度、名古屋市美術館が開館25周年を迎えるにあたって、協力会から眞島直子さんの作品を寄贈いたしましたが、そのご縁で眞島さんにお願いし、新しく、協力会のために作品を描いていただきました。
一見幻想的でかわいらしいという印象を受けますが、よく見るとおどろおどろしさに気づいてしまうという不思議な作品です(原画は下に示すとおり)

名古屋市美術館協力会では、毎年オリジナルカレンダーを配布しております。そのほかにも特典がいっぱいです。まだ会員でない方も、是非、この機会にご入会ください。お問い合わせは、名古屋市美術館協力会、中村(052-212-0001)まで。

こちらが眞島さんの原画

こちらが眞島さんの原画

「ゴー・ビトゥイーンズ:こどもを通して見る世界」展 ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

「ゴー・ビトゥイーンズ:こどもを通して見る世界」展(以下、「本展」と記します)の ギャラリートークに参加しました。参加者は現代美術展にしては多く、33名も来ました。

本展覧会担当、清家三智学芸員

本展覧会担当、清家三智学芸員


◆「ゴー・ビトゥイーンズ」とは
 本展の担当学芸員の清家三智さんによれば、「ゴー・ビトゥイーンズ(媒介者たち)」とは19世紀末から20世紀初頭のアメリカで移民を撮影した写真家のジェイコブ・A・リースが、英語の話せない親のために通訳をする子どもたちを呼んだ言葉だということです。
また、本展は、異なる価値観や文化をつなぐ存在としての子どもを通して見る世界、大人には無い自由な発想でものごとをとらえ前向きに生きる子どもを通して見る世界をテーマに、映像、写真、絵画などの作品を紹介する展覧会で、主に東京の森美術館が立ち上げたとのことでした。
◆見るものに「考えさせる」作品が多い
 チラシを読むと「これからの世界を私たちはどう生きるか、新たな視点でともに考え、語り合う場としての展覧会を、どうぞご体験ください。」と書いてあります。
この言葉どおり、清家さんの解説に従って展示室の中を進むにつれ、「他の展覧会とは何かが違う。」という気持ちが強くなってきました。通常の美術展ですと、作品の美しさや、技術の高さに感嘆するのですが、本展では「美しさに見入る」よりも「考えてしまう」作品が多いのです。
◆一見すると、普通の記念撮影なのですが……
 展示室に入って最初に目にするのが、ジャン・オーの「パパとわたし」のなかの6点です。どれも、晴れた日の戸外、花を背景にした父親と娘の写真です。画面は正方形で、昼間なのにフラッシュを焚いて撮っています。ありきたりの記念撮影なのですが、何か違和感があります。清家さんは「どれも米国人の養父と中国出身の養女の写真」と解説してくれました。中国の一人っ子政策により、女の子は養女に出されることが多いという社会背景があるようですが、見れば見るほど「なぜ、この写真に居心地の悪さを感じるのだろう。」と考えてしまいます。
 ◆100年以上前の児童労働の写真も
 紹介されている作品の中には1908年にルイス・W・ハインが撮った、紡績工場で働く幼い女の子の写真もあります。このような児童労働は、今は違法ですが、当時は普通にあったのですね。その後の百年間の出来事を想起させるインパクトがあります。
◆もともとは対話の記録だったものも
 「ストーリー・コー(StoryCorps)」の「Q&A」と「ケーキの飾り」はアニメーション作品ですが、清家さんによれば、もともとは対話の記録とのことでした。このうち「Q&A」は、学校の成績は良いのですが、アスペルガー症候群で人づきあいが苦手な男の子と母親の対話の記録です。
母親が男の子に向かって「あなたはわたしの期待以上のこどもよ。あなたは、わたしを親として成長させてくれたわ。」と答えるところが心に響きました。
◆女子中学生の悪ふざけ
 梅佳代の「女子中学生」は思春期の女の子を撮ったものです。エネルギーにあふれているというか、何というか。問題視した人もあったでしょうが、これを展示していることは偉いと思います。
◆静かにショックを受けるビデオ
 菊池智子の「迷境」は中国で撮影したビデオ作品で、丸坊主に近い髪型をしたスマップの中居正広似の少女の生活を描いたものです。小さなテレビ画面を見ていると、やがて彼女が性同一障害者だとわかってきます。今回の作品のなかで、一番ショックを感じました。
 以上はほんの一部です。見かけと違って結構重いテーマの展覧会です。        Ron.
最後まで全力で解説してくれました。ありがとうございます

最後まで全力で解説してくれました。ありがとうございます

「ポジション2014」アーティストトークと作家を囲む会

カテゴリ:作家を囲む会 投稿者:editor

作家伊藤正人さんを囲んで

作家伊藤正人さんを囲んで

◆「ポジション2014」 伊藤正人「水性であること」
 現在、名古屋市美術館では、名古屋市とその近隣地方を拠点に活躍する作家を取り上げる≪ポジション展≫として、伊藤正人さん(1983~)の「水性であること」を、地下1階の常設展示室3にて12月3日(祝)まで開催しています。
 先日、作品を見ようと展示室入口に立ったところ、何も展示してないのでびっくりしました。受付の人に聞くと「作品は展示されています。」というので、半信半疑で奥の方に進んでいくと、壁に小さな水色の文字が波打つように横書きで書かれています。書かれているのは、散文詩のようです。
 文字を読むには壁に近づかなくてはなりません。上の方に書かれた文字を読んでいると首が痛くなるので、少し下がると、文字列が山の稜線のように見えます。すると、入口近くまで下がっても、さすがに文字は判読できないものの、壁に描かれた線がはっきりと見えます。「入った時には見えなかったものが、今では見える。」という、不思議な体験ができますよ。
◆アーティストトーク
 作家に興味を持ったので、11月15日(土)に開催されたアーティストトークに参加しました。自分の心の中を見つめながら注意深く話す、伊藤正人さんの姿が印象的でした。
 市美術館学芸員の角田美奈子さんが「なぜ、万年筆を使い、ロイヤルブルーのインクで壁に文字を書くという表現を始めたのですか。」と問いかけたところ、「早朝の、東京・青山の公園のベンチに座って目の前の景色を文章で綴ってみた。すると、目の前のことを文章で書くことに「もどかしさ」の感覚を覚えた。それが、今のような表現を始めたきっかけ。」と答えが返ってきました。
 また、「今までは、ずっと四畳半くらいの狭い空間の中で表現してきた。今回、今までの個展すべてを足したよりも広い空間を与えられた。文字を読んでもらえるか不安だったが、作品に「うごき」が出て、「跳び越えた」という感覚を覚えた。」とも、話されていました。
なお、書いているものは「詩ではなく、目に見える景色(風景ではない)を詩情を挟まず、客観的に描写したもの。」とのことで、伊藤さんは、文学者であり、視覚の芸術家でもあるという、ジャンルを超えたartistです。
お料理を囲んで、会長のあいさつ

お料理を囲んで、会長のあいさつ

◆作家を囲む会
 アーティストトークの当日、午後5時から、伊藤正人さん、伊藤さんのパートナーである吉田知古(よしだ・ともこ)さんと学芸員の角田美奈子さんをお招きして、市美術館1階の「おはな」で名古屋市美術館協力会主催の「作家を囲む会」を開催しました。軽食、ソフトドリンク、アルコール類等を楽しみながら、様々な話題が飛び交いました。
ある協力会員が、「壁に文字を書くという以外に、どんな創作活動をしていますか。」と質問したところ、「最近は、古い家具に文字を書いてほしいとか、民家を解体した古い材木に文字を書いてほしいなどの注文がある。」とのお答え。吉田さんは、「展示の準備として、常設展示室3の壁の穴を埋め、礬砂(ミョウバンとニカワを混ぜたもの)を塗り、サンドペーパーをかけて滑らかにするという作業を、仲間でやった。疲れたけれど、楽しかった。」などの裏話を披露されました。
 会期が終わると、壁に書いたロイヤルブルーの文字は「水を含ませた布で拭って消す」とのことで、作品はこの世から消えて無くなります。見るなら、今のうちです。
   Ron.
作家、パートナーさんと角田学芸員

作家、パートナーさんと角田学芸員

ヤゲオ財団コレクション展 ギャラリートーク 

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

ギャラリートークに集まった会員たち

ギャラリートークに集まった会員たち

「現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより」という長い名前の展覧会(以下、「本展」と略します)の ギャラリートークに参加しました。参加者は、現代美術展にしては多い52名でした。当日は午後2時からの保坂健二朗氏(東京国立近代美術館主任研究員:本展の企画者)の記念講演会も聴いたので、こちらも併せて感想などを書きます。
◆ヤゲオ財団とは
 さて、保坂氏によれば、本展のきっかけは昨年開催された「フランシス・ベーコン展」の出品交渉だったとか。フランシス・ベーコンの作品を所有しているヤゲオ財団(台湾)CEOピエール・チェン氏(以下、「チェン氏」と省略します)の東京の邸宅を訪問したところピーター・ドイグの「カヌー・湖」が飾られていたのを見てびっくり。聞けばオフィスや台北、香港の自宅にも、とても高額な作品をいくつも飾っていることを知り、本展の企画を練り始めたとのことでした。
チェン氏は、台湾の大手電子部品メーカーであるヤゲオ・コーポレーションを経営する実業家で、ヤゲオ財団はヤゲオ・コーポレーションやチェン氏個人からの寄付金等をもとに設立された非営利組織です。財団が購入した作品はチェン氏の自宅やオフィスを飾っており、購入の基準はただ一つ「チャン氏の好み」です。
杉本氏の不思議な絵に見入る会員たち

杉本氏の不思議な絵に見入る会員たち

◆本展覧会の特色
保坂氏によれば、本展はチェン氏が自分の好みで集めたコレクションによるものであり、「脈絡がないのが特色」とのことです。要は「肩肘張らずに作品を見て楽しんでくださいよ」ということなのでしょう。「1階の展示は、杉本博司の海景シリーズとマーク・ロスコを向い合せにするなど面白い展示だと思ったけど、2階は何?!『ただ、並べました。』という感じで、意図がわからない。」と、知り合いから辛口の評を聞きましたが、「そういう声を承知で展示している」ということですね。
「2階は何?!」というのは、「中国の近現代美術」のコーナーのことのようで、保坂氏も「なぜ、ホワン・ミンチャンの水田の絵を展示しているのか」と、叩かれたようですが「異質かもしれないが、チェン氏はこの作品に対する思いを熱く語っていた」と、付け加えていました。
展示室で見ると、現代美術の展覧会というより「アジア・モンスーン地帯の風景」といったテーマにふさわしい作品ですが、懐かしさを覚える絵で、個人的には悪くないと思えました。
◆気軽に楽しむ
 自宅に展示しているだけあって、気軽に楽しめる作品が多いです。最初に展示されているマン・レイの「ジュリエット」は写真ではなく「油絵」で、珍品です。サンユウの「六頭の馬」はマティスの「ダンス」みたいで面白い。チラシ・入場券に使われているゲルハルト・リヒターの「リズ・ケルテルゲの肖像」は、ボケ・ブレが綺麗です。トーマス・シュトゥルートの写真は細部まではっきり写っていてリアルなのですが、じっと見ていると逆に非現実感が増してきます。マーク・タンジーの「サント・ヴィクトワール山」は、水辺は男ばかりですが、水面に映っているのは全て女性で、姿勢も少し違うという不思議な絵です。他にも、楽しめる作品がいくつもあります。
彫刻作品を囲んで

彫刻作品を囲んで


◆ゲーム「コレクターチャレンジ」
会場の最後には「今からあなたに50億円をお渡しします。」というキャッチコピーのゲームがあります。本展から選んだ17点の作品から5点以内を選んで家の模型に展示し、合計金額を50億円に限りなく近づけるようチャレンジするものです。知人がマーク・ロスコとフランシス・ベーコンなど5点を展示したところ、「予算オーバー」になりました。ゲームではマーク・ロスコとフランシス・ベーコンを一緒にしてはいけません。
                            Ron.

名古屋市美術館協力会 「挑戦する日本画展」ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

7月6日(日)は、名古屋市美術館協力会総会に引き続いて、現在開催中の「挑戦する日本画展」のギャラリートークに参加しました。今回のギャラリートーク参加者は64名。大勢でしたね。

山田学芸係長のお話、とてもわかりやすい!

山田学芸係長のお話、とてもわかりやすい!

展示室に行く前に、名古屋市美術館の山田学芸係長から「この展覧会で紹介するのは、戦後登場した「日本画滅亡論」という逆風のなかで「日本画の革新」に取り組んだ作家たちです。その挑戦ぶりを見てほしい。」という話があり、大いに期待して展示室に向かいました。
展示室に入って、最初に目に飛び込んできたのは金色の棺に安置されたミイラを描いた大きな絵。顔の上では蝶が舞っています。これは、川端龍子「夢」で、中尊寺でミイラが発見されたというニュースに触発されて描いたもの。その左隣には白っぽい抽象画のような作品。福田平八郎「新雪」で、写実画との解説でしたが、写実画でも切り取り方によっては抽象画に見えるのですね。左手の壁には、赤ちゃんを抱いた農婦の絵。秋田の農村風景ですが、何か変。解説によれば、福田豊四郎「秋田のマリア」で、聖母子像とのこと。確かに、どの絵も「挑戦する日本画」です。
今回展示されているのは「よく集めたなあ」と感心するほど粒ぞろいで、大型の作品ばかりでしたが、中でも印象に残ったのは2階の展示室で最初に目にした、中村正義「妓女」と横山操「高速四号」。どちらもチラシに出ていますが、やはり、実物は違いますね。加山又造「黒い薔薇の裸婦」には、目が釘付けになりました。
地下1階の企画展示室3には、桑山忠明「無題」と李禹煥「点より」が展示されています。「これが日本画?」と疑問を持ちましたが、どちらも日本画を学んだ作家で「日本画に挑戦した結果、この表現に至った」とのことでした。
名古屋市美術館所蔵の作品も、いくつか展示されています。なかでも、堀尾実「冬の構図」は日本画による抽象表現であり、興味を惹かれました。
山田学芸係長のトークにも熱がこもっており、とても時間が短く感じられましたが、ギャラリートークが終了したのは予定を15分超過の午後6時45分。しかし、参加した人たちからは「これなら、午後10時までも聞いていたかった。」という声が多数。みんな、満足して美術館を後にしました。
最後に、川端龍子「夢」、福田豊四郎「秋田のマリア」、加山又造「黒い薔薇の裸婦」は、いずれも前期(8月3日まで)のみの出品です。後期(8月5日~24日)のみ出品の作品もありますので、前期・後期どちらもご覧ください。それから、常設展は「挑戦する日本画展」に合わせた展示をしています。常設展もお忘れなく。
Ron.

当日は大盛況!美術愛好家たちが集まりました。

当日は大盛況!美術愛好家たちが集まりました。

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