お知らせ

2025年8月18日

2025年協力会イベント情報

現在、下記のイベントの申し込みを受け付けています。

1.近代名古屋の日本画界(常設企画展) 協力会向け解説会 名古屋市美術館 令和7年1026

参加希望の会員の方は、ファックスか電話でお申し込みください。ホームページからの申し込みも可能です。

なお、次回特別展の「藤田嗣治 絵画と写真」の解説会は、アンケートを実施しています。ファックスまたは、下記のアンケートサイトから希望時間帯をお知らせください。後日、開催日をお知らせします。

最新の情報につきましては随時ホームページにアップしますので、ご確認ください。また、くれぐれも体調にはご留意ください。

10月からギャラリートークの形式が変更になりますので、会員の皆様の参加希望をアンケートさせていただきます。アンケートはこちら(受付期間:8月10日~9月10日まで)

これまでに制作された協力会オリジナルカレンダーのまとめページを作りました。右側サイドメニューの「オリジナルカレンダー」からご覧ください。

事務局

「あいちトリエンナーレ2019」名古屋市美術館会場 ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

「あいちトリエンナーレ2019」名古屋市美術館会場の協力会員向けギャラリートークが開催され、名古屋市美術館2階講堂に集合後、1階エントランスホールに移動してギャラリートークが始まりました。参加者は44名(2016年は39名)。トーク担当は名古屋市美術館の竹葉丈(たけば・じょう)学芸員(以下「竹葉さん」)。今回は、あいちトリエンナーレ2019・アシスタントキュレーターの茂原奈保子(しげはら・なおこ)さん(以下「茂原さん」)と由良濯(ゆら・あろう)さん(以下「由良さん」)も解説してくださいました。なお、N〇〇というのは、あいちトリエンナーレの通し番号で、Nは名古屋市美術館会場を表しています。

美術館1階

◆N12 バルテレミ・トグォ(カメルーンの作家)  エントランスホールで竹葉さんが取り出したのは「ゴミ袋」。国旗が印刷された白いビニール袋でした。竹葉さんは「印刷されているのは19世紀から20世紀にかけてヨーロッパの植民地になっていた国の国旗です。カメルーンの作家が作ったもので美術館を取り巻くゴミ箱に設置し、毎日、午後4時半に回収されます。当時の宗主国と植民地の関係を象徴するインスタレーションです」との解説でした。

◆N01 碓井ゆい(うすい・ゆい) エントランスホールの屋根から透明な丸い皿と蓋が吊り下げられていました。蓋には、”TOKYO PETRI SCHALE”の文字。巨大なシャーレ(ペトリ皿とも呼びます)でした。茂原さんの解説は「皿にはオーガンジーに刺繍したモチーフ(乳母車を押しているウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、カエルや子供服、揺りかご、ポット、エッグスタンド等)を貼り付けています。作者は体外受精で子どもを授かり、現在、子育て中の女性です。貼り付けられたモチーフは見ていて「ほんわか」とした心地になるものばかりです。モチーフの多くは「ペア」ですが、よく見ると靴下は3つ。染色体異常ですね。「出生前診断」についての問題提起という重いテーマも含んでいる作品です」というものでした。

◆N02 今津景(いまづ・けい) 1階の吹き抜け部分の屋根から大型のパネルとバナーが吊り下げられ、バナーに向かって右側の壁の上部には回転するプロペラ「ファン・ライト」が取り付けられ、赤いオランウータンの動画が投影されています。赤いオランウータンの動画は壁の下にも投影。投影機の上ではミニチュアの「コモドドラゴン」が置かれていました。

茂原さんの解説は「作者はインドネシアに移住した女性。インターネットで集めた素材をもとにして、フォトショップで下絵を作成し、その下絵をもとに手描きで油彩の作品を制作。あえて筆跡を残しています。大型バナーは、油彩画をもとにして長さ10メートルのターポリン(ポリエステル100%の布地にポリ塩化ビニールコーティングした素材)2枚に印刷したもの。大型パネルはフォトショップだけでなくCADも使って奥行きのある空間を持つ下絵をもとにした作品。タイトルは「Survivor = 生き残る」。インドネシアではプランテーションの開発でオランウータンなどの野生動物が迫害を受けている。コモドドラゴンは絶滅危惧種。シューティング(狩猟)の被害もある。バナーには手りゅう弾も描かれるなど、重いテーマの作品です」というものでした。

◆N03 藤井光(ふじい・ひかる) 戦前のモノクロ動画と新しいカラー動画の組み合わせでした。モノクロ動画では、若者が整列・行進だけでなく農耕や慰霊の儀式を教わる様子が映され、カラー動画はモノクロ動画とシンクロしています。

由良さんの解説は「モノクロ動画は『台南州 国民道場』という、日本が台湾を統治していた時代に台湾映画協会が製作した映画。中華民国(台湾)の国立博物館所蔵フィルムを借りたもの。台南忠魂塔(戦争に出兵して戦死した人々の霊を顕彰する塔)を中心に、台湾の青年を日本人化する教育をしていた『国民道場』の様子を描いた作品。新しいカラー動画は、今回のトリエンナーレのために作った作品。出演者は日本で働いているベトナム人の若者。二日間で撮影。現代日本の居酒屋で『日本式接客』の特訓を受けている外国人たちと戦前の『国民道場』をシンクロさせるのが『N03』の狙い。この作品のテーマも重いです」というものでした。

◆N04 モニカ・メイヤー(メキシコ人、フェミニスト・アートのパイオニア) 美術展らしからぬ、「文章」を読んでもらうことを主眼とした作品。「絵馬」を思わせるピンクやパープルのカードが「洗濯ばさみ」で紐に留められています。カードには「質問」と「回答」。カードに質問に対する回答を書いたり、絵馬のように貼られたカードの質問と回答を読み、提起された問題について考えることを促す「参加型」の作品でした。

茂原さんの解説は「この作品は『ザ・クロスライン』という運動の一環です。1970年代の米国では女性が不当な立場に置かれていたため、それを改善するために実施した運動で、主催者が用意した「質問」を書いたカードに参加者が「答え」を書いて、それを展示する、というものです。今回のトリエンナーレでは、名古屋大学で実施した「ジェンダー・リサーチ・ライブラリー」でワークショップを開催し、参加者と一緒になって質問を考え、4つにまとめました。日を追うごとにカードが増えていくことを期待しています」というものでした。

今回用意された質問は、下記の4つです。

・セクハラ・性暴力をなくすために何をしましたか?これから何をしますか?

・これまでに受けたセクハラ、性暴力に対して本当はどうしたかったですか?

・あなたもしくは、あなたの身近でセクハラ・性暴力がありましたか?それはどのようなものでしたか?

・女性として差別されていると感じたことはありますか?それはどのようなものですか?

 カードに書かれた上司からのセクハラ行為には、あきれるようなものもありました。

竹葉さんからは「6月にモニカ・メイヤーが名古屋市美術館に来た時、美術館の所蔵作品《メキシコ革命100周年記念版画集》に彼女の版画があったので見せたところ、大変、喜んでいた。また、白川公園の野外彫刻《パルマス》(美術館と科学館の間に設置された水色の彫刻)の作者E.C.セバスティアンは、モニカが若い頃に教えてもらった彫刻家だったことが分かり、これも喜んでくれた」という話がありました。

◆N05 桝本佳子(ますもと・けいこ) N04の隣は、陶磁器の展示。瓶や壺、皿などの器と鳥やクラシックカー、建物などの装飾が融合した不思議な作品が並んでいます。

由良さんの解説は「作者は信楽在住の陶芸家。江戸時代の茶釜で、鶴が茶釜の中から出てくる作品を一目見て『美しい』と感じたことがきっかけで、陶磁器の器と装飾が融合した作品を作るようになりました。作り方は二通りです。一つは「装飾でうつわを作った」作品です。ハニワを変形させて壺にした作品などを展示しています。もう一つは「うつわから装飾が出てくる」作品です。壺から五重塔が出てくる作品や壺からメロンが出てくる作品などを展示しています。今回の展示で一番大きいのは《雁行》です。いくつも並んだ壺に雁の群れが飛び込んでいる姿で、床に置かれた水面の皿は「水面に映る雁の姿」を描写しています。雁の姿がくり抜かれているのは雁の影を表わしています。《車/皿》は、いわゆる「花車」ですが、牛車ではなくクラシックカーが飛び出ています。型にとらわれない現代的な作品です」というものでした。

美術館2階

◆N06 パスカレハンドロ(男女のユニット) 手紙の展示と映像作品の組み合わせでした。

茂原さんの解説は「パスカレハンドロというのは、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーと画家パスカル・モンタンドン=ホドロフスキーのユニット。作品の中心は『サイコ・マジックの儀式』。悩みを持つ人がアレハンドロ・ホドロフスキーに悩みを打ちあけると、アレハンドロは『ある儀式』を行うよう指導。その儀式によって悩みが解決した時は、アレハンドロに手紙を書く。展示されているのは、その手紙の数々。ただ、手紙はスペイン語又はフランス語で書かれているので、読めない人のために10通の手紙を選んで冊子を作って展示している。冊子は持ち帰り自由。映像作品は、アレハンドロが主催した集会を撮影したもの。参加者は『サイコ・マジックの儀式』に参加した人たちです」というものでした。

映像作品は「自己啓発セミナー」に参加した人の集会みたいな、近づきがたい雰囲気でした。

◆N07 青木美紅(あおき・みく) 手作り感たっぷりです。等身大のドールハウス(dollhouse)のような作品でした。壁には巨大な壁新聞と牧場の風景が貼られていました。

由良さんの解説は「作家は1996年生れの学生さん。18歳の時、母親から人工授精で生まれたことを知らされたそうです。テーマは『人の手で操作される命』。実家を刺繍で作っています。テーブル上のマトリョーシカなどは作家の私物。家の上方で回転しているゾートロープ(zoetrope:回転のぞき絵)は母親の顔。フリップ・ブック(flip book:ぱらぱら漫画)は、クローン羊のドリーと子ども。ドリーが死んだと知った時は『人工授精で生まれたから?』とショックを受けたそうですが、ただの流行病(はやりやまい)で死んだと知って安心したそうです。脳性麻痺の女性の写真もあります。こちらは不妊手術に連れていかれそうになったのですが、母親が思いとどまり、今では子どもがいる方です。壁は新作で、脳性麻痺の女性が利用している『札幌いちご会』を取材したものと、クローン羊のドリーが生まれたスコットランドの牧場。家の周りを巡って、青木さんの追体験をしてください。ドリーのゾートロープや、青木さんの旅行記のフリップ・ブックも展示されています。壁や家に使われているラメ糸は、油絵のような質感を出すために使われています。青木さんによれば『ラメ糸が、自分に向かって手を振っているように見える』そうです」というものでした。

◆N08 タニア・ペレス・コルドヴァ 彫刻のようなものが一列に並んでいます。

茂原さんの解説は「作家は、メキシコ・シティ在住の女性。彫刻といえば彫刻ですが、ひとつひとつの作品に『仕掛け』があります。例えば、壺のタイトルは《Portrait of a woman passing by》。これは、市販の花柄のワンピースと同じ柄の壺。『この壺のそばを同じ花柄のワンピースを着た女性が通る時には気づいてね』という期待が込められています。《Un parpadeo》というタイトルの大理石の円柱の上には、カラーコンタクトレンズ(右)が置かれています。《Mouth》というタイトルの作品は『くちびる』シリーズの彫刻で、素材は軽石。天井から吊り下げられた髪の毛の束をプラスチックのバケツが受け止めている作品には《Second figure standing next to a fountain》というタイトルがついています」というものでした。

◆N09 Sholim 壁にスマホやタブレットが貼ってあり、短い動画を繰り返し再生しています。

笠原さんか由良さんか記憶が定かではありませんが、解説は「セルビア在住の若い作家。2秒ぐらいの短いアニメーション=GIFという、30年ぐらい前に開発された技術を使った動画です。作家はGIFマガジンという日本の会社に所属、ミュージック・ビデオなどを制作しています。GIFアニメーションの作品は、あまりありませんでしたが、今は高く評価されています。一番左は、小津安二郎監督の映画『東京物語』からインスピレーションを得て制作した動画。左から2番目は、その動画のメイキングです」というものでした。

◆N10 カタリーナ・ズィディエーラー 音楽を聴きながら、その歌詞を筆記している動画です。

こちらも笠原さんか由良さんか記憶が定かではありませんが、解説は「この動画は、英語の歌『Shout』の歌詞を、英語が話せないセルビア人の男性二人が書き上げている様子を撮影したものです。Shoutという英語が、どうしてもShoumになってしまいます。知らない言葉を聞き取るのは難しいですね」というものでした。

竹葉さんは「『Shout』は1980年代の曲で懐かしい」と、興奮していました。

◆N11 ドゥラ・ガルシア 壁に「THE ROMEOS」と書いたポスターが貼ってありました。

竹葉さんの解説は「ポスターに写っているのは9名のイケメンの男性。スパイがドイツからロシアに渡って諜報活動をする『ロメオ=ROMEOS』という話をもとに、9名のイケメン男性があいちトリエンナーレに侵入してスパイ活動をするというパフォーマンス。愛知芸術文化センター会場には既に出現していますが、名古屋市美術館会場に出現するのは8月半ばからの予定。9人が同時に出現することはなく、2~3人が出現。ただし、スパイ活動なので目立たないようにしているし、『ロメオですか?』と聞かれても、本人は『違います』と答えるので、嘘か本当か、境目がよく分からないでしょう」というものでした。

◆最後に N01からN12まで全ての解説を一気に聴いた後、時計を見たら午後6時30分。90分間の解説でした。

重いテーマが多かったのですが、大きなストレスを感じることなく鑑賞できました。女性作家が多かったからでしょうか。あと、セルビアの作家が2人いたのも、偶然とはいえ何かの縁を感じました。竹葉さん、茂原さん、由良さん、ありがとうございました。

Ron.

映画『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

豊田市美術館で開催中の「クリムト展」に並行して、伏見ミリオン座でドキュメント映画「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」(原題:KLIMT & SCHIELE EROS AND PSYCHE)が上映されています。

19世紀末から20世紀初頭にかけての「ウィーン黄金時代」に活躍した、画家、写真家、音楽家、作家、医学者の足跡をたどる映画で、最初のエピソードは1918年10月31日のスペイン風邪感染によるエゴン・シーレの死。その3日前に妻エーディトがスペイン風邪で死亡。シーレは、死の直前に妻をスケッチ。死の床のシーレを写真家マルタ・ファインが撮影、彫刻家アントン・ザンディヒがデスマスクを制作した、というものです。

クリムトについては、クールな男、ハンサムな変わり者と社会から見られていたこと、貧しかったが野心と努力で当代一の画家になったこと、精神的に素朴だったことが洗練された社交界の女性にとっては魅力であり、時に絵を描く以上のことを彼に求め、特にソニア・クニップスとは親密な関係だったこと、クリムトと社交界を結びつけたのは、作家、ジャーナリスト、芸術評論家のベルタ・ツッカーカンドルが主宰するサロンで、そのサロンには精神分析の創始者・ジークムント・フロイトも出入りしていたことなどが紹介されます。

クリムトの作品では、ウィーン美術史美術館の壁画を始め《ユディトⅠ》《ベートーヴェン・フリーズ》《ヌーダ・ヴェリタス》《接吻》などが紹介されました。

エゴン・シーレについては、クリムトの《接吻》を下敷きにした作品で「枢機卿と尼僧が接吻する姿」を描いたために非難を受けたこと、モデルを精神的、肉体的に限界まで追い込んで数秒のうちに完璧なデッサンに仕上げたことなどが紹介され、美術史家のジェーン・カリアが「シーレは女性のセクシュアリティを解放した」と解説していました。

クリムト・シーレ以外に建築家のオットー・ワーグナーや音楽家のシェーンベルク、作家のシュニッツラーなどが次から次に出てくるため、情報量が多すぎて映画の流れについていくのが大変でした。そのなかで衝撃的だったのが、①作家シュニッツラーは1000人以上の女性と関係を持ち、それを8000ページに及ぶ日記に記していたこと、②エミーリエ・フレーゲとの親密な関係はクリムトの浮気が原因で長く続かなかったこと、③音楽家シェーンベルクと親しくしていた画家リヒャルト・ゲルストルはシェーンベルクの妻と不倫関係になり、それがもとで自殺したこと、④当時のウィーンの中産階級の若者は下層階級の女性や娼婦と関係した後、中産階級の女性と結婚するのが普通であり、シーレも例外では無かったことです。

シュニッツラーの芝居のように、表向きは礼儀正しいが裏では裏切り、浮気、賭け事というダブルスタンダードなウィーンの黄金時代も、第一次世界大戦後の1918年11月12日にオーストリア=ハンガリー二重帝国が崩壊しオーストリア共和国が成立したことで幕が降ろされ、この年にクリムト(1918.2.6死去)オットー・ワーグナー(1918.4.11死去)、コロマン・モーザー(1918.10.18死去)、エゴン・シーレ(1908.10.31死去)といったウィーン分離派の巨匠たちも他界したことを紹介して、映画はエンディングに入っていきました。

19世紀末から20世紀初頭にかけてのウィーンの雰囲気を味わうことが出来たのは収穫です。また、映画ではフロイト理論のエロス(性本能・自己保存本能を含む生の本能)とタナトス(攻撃、自己破壊に向かう死の本能)の両面から、取り上げた人物の行動を分析していました。だから、原題に「EROS AND PSYCHE」という言葉が入っていたのでしょうね。

Ron.

神谷さんと行く、本丸御殿ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor


 7月28日日曜日、梅雨明けのうだるような暑さのなか、名古屋城の本丸御殿を見学するミニツアーを開催しました。 講師は名古屋市美術館や名古屋市博物館で学芸員としてご活躍された神谷浩氏。 協力会でもよく解説会などでお世話になっていますので、神谷さんファンの会員が30名以上、集まりました。

 暑さを想定して、集合は9時15分。開門が9時なので、まっすぐに本丸御殿に向かうとこの時間になります。 当日は青い澄んだ空のもと、まずは屋外で神谷さんのお話を聞きます。

 名古屋のお城は、何故この位置に建てられたのか?そして誰によって、誰の住まいとして築城されたのか。 神谷さんのお話を聞いていると、歴史的な背景から名古屋城や本丸御殿の役割が見えてきます。

 だいたいの概要を聞いてから、いよいよ中に入ります。どんなに暑い日でも本丸御殿は冷房が入りません。みなさん覚えておきましょう。 

 本丸御殿に入るのは2度目ですが、何度入っても素晴らしい。節のない見事な木材は見た目にも滑らかですし、襖絵や欄間もため息が出るほどでした。今回は神谷さんがいらっしゃったので、襖絵の1つ1つの意味や、1部屋1部屋の用途、役割を解説してくださいました。

 暑いなか、2時間近くお話してくださった神谷さん、本当にありがとうございました。

読書ノート 角川新書「ミュシャから少女まんがへ」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

 「ミュシャ」と「少女まんが」が、どうやって結びつくのか不思議で、思わず買ってしまった本です。副題は「幻の画家・一条成美と明治のアール・ヌーヴォー」。明治30年代半ば=世紀末から20世紀初頭にミュシャのポスター等を借用して「明星」(与謝野鉄幹が発行した投稿雑誌)の表紙などを飾った一条成美(いちじょうせいび)の話が中心です。

少女まんがとミュシャの関係については、本書の「序」で「北米のロックミュージックシーンの中で『ミュシャの様式』と再会することがひとつの大きなきっかけとなる。そして少女まんがはその様式を再受容して現在の少女まんがの書式、OSが再構築されるのである」と書いています。そして終章では、本書の題名と同じ「ミュシャから少女まんがへ」と題して「少女まんがはミュシャの影響下にある」ことについて簡潔に述べています。

 ボリュームは364ページ。図版が小さいのでルーペが必需品です。著者は、現在Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ ― 線の魔術」(以下「みんなのミュシャ」)のアドバイザー。Bunkamuraザ・ミュージアムの「みんなのミュシャ」ホームページを見たら、本書に掲載されている図版のいくつかが「出品作」として紹介されていました。本書と併せて、ホームページも閲覧されることをお勧めします。何といってもカラーですから。

なお、先日発売された「週刊新潮 2019年8月1日号」巻末グラビアの展覧会評も「みんなのミュシャ」について、ミュシャとアメリカの若者文化との融合や日本の「少女まんが」「ゲームキャラクター」への影響について書いていました。ミュシャについて、新しい切り口を知ることが出来そうです。

「みんなのミュシャ」は2020年4月25日(土)~6月28日(日)に名古屋市美術館へ巡回する予定。今から待ち遠しいですね。

<基本データ> 題名:「ミュシャから少女まんがへ 幻の画家一条成美と明治のアール・ヌーヴォー」 著者:大塚英志(国際日本文化研究センター教授)  発行所:株式会社KADOKAWA (角川新書)   2019年7月10日初版発行  

Ron.

クリムト展 ウィーンと日本1900

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

「クリムト展 ウィーンと日本1900」(以下「本展」)が開幕したので、JRと愛知環状鉄道(以下「愛環鉄道」)を乗り継いで豊田市美術館まで出かけました。今回、気持ち良かったのは愛環鉄道でも交通系ICカード(MANACA、TOICA等)が使えるようになったことです。切符を買う手間が不要なので、スムーズな乗り換えができました。

美術館に近づくと、平日の午前中というのに満車に近い状態の駐車場が見えてきました。そして、美術館のエントランス通路には巨大なテント。長い行列ができるのを見越して設置したのですね。当日、行列はありませんでしたが展示室の中には多くの人がいて、本展の人気の高さを実感しました。ただ「人が多い」といっても身動きが取れないほどではないため、作品に近づいてじっくり鑑賞することはできました。

◆展覧会の構成と見どころなど 本展は「Chapter1.クリムトとその家族」から「Chapter8.生命の円環」までの8章で構成されています。

◎Chapter1.クリムトとその家族 ボヘミア出身の金工氏師・エルンストの長男としてクリムトが生まれたということから、Chapter1には弟ゲオルクと合作による彫金のレリーフが出品されていました。また、弟エルンストの娘を描いた《ヘレーネ・クリムトの肖像》は、額縁に梅花の枝や様々な植物が描かれています。まさにジャポニスム。

◎Chapter2.修業時代と劇場装飾 男性のヌードが3点。クリムトは「女性を描く作家」として知られていますが、修業時代には男性ヌードも描いたのですね。アカデミックな画風を叩きこまれたことが分かります。《音楽の寓意のための下絵(オルガン奏者)》は、顔が描かれていないのが面白かったです。下絵なので、省略したのでしょう。《紫色のスカーフの婦人》には「古い写真を使って制作したのだろう」という解説が付いていました。

◎Chapter3.私生活 何といっても「14人の子どもがいた」ことにびっくり。また、弟エルンストの妻の姉エミーリエ・フレーゲとの関係について、解説には「プラトニックなものとされてきたが、近年発見された手紙から二人がある時期深い関係にあったことが推測されている」と書いてありました。

◎Chapter4.ウィーンと日本1900 東洋美術に関するクリムトの蔵書が出品されています。『日本の春画三十六選 菱川師宣、鈴木晴信、喜多川歌麿』の展示では、喜多川歌麿「歌まくら」のうち第8図、第10図のモノクローム図版も見ることができました。クリムトは、この絵から「肝心なところが見えそうで見えない」という描写を学んだのでしょうか。《赤子(ゆりかご)》には「遊女や武士が色鮮やかな着物姿で生き生きと描かれた歌川豊国の影響(略)」という解説が付いていました。

◎Chapter5.ウィーン分離派 この章の見どころは《ユディトⅠ》《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実》と《ベートーヴェン・フリーズ(原寸大複製)》。6月9日放送のNHK・Eテレ「日曜美術館」と6月22日放送のテレビ愛知「美の巨人たち」の両番組とも「《ユディトⅠ》のモデルはアデーレ・ブロッホ=バウアー」と解説していました。また、この章に出品されていたクリムトの赤いスケッチブックには《ヌーダ・ヴェリタス》のデッサンが描かれていました。

◎Chapter6.風景画 東京で本展を見た協力会会員のMさんが「クリムトの風景画が素晴らしかった」と絶賛していたのでワクワクしながら見ましたが、その通りでした。壁一面にクリムトの風景画を2点だけという、特別待遇の展示です。 《アッター湖畔のカンマー城Ⅲ》の解説には「おそらく望遠鏡を用いて描かれた(略)」と書いてありました。写真で言うところの「望遠レンズの圧縮効果」を利用して、奥行きを縮めた作品ですね。この作品、「奪われたクリムト」(エリザベート・ザントマン著、永井潤子・浜田和子訳、梨の木舎発行)によれば、1910年にアデーレ・ブロッホ=バウアーが夫フェルディナントと共同で購入。アデーレの死後、1936年に夫がオーストリア国立絵画館に寄贈。その後、ナチスが強奪した《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ》をオーストリア国立絵画館が引き取る見返りとして、クリムトとマリア・ウチッカーとの間の子どもで映画監督のグスタフ・ウチッカーに「グスタフの死後はオーストリア国立絵画館に寄贈する」という条件で渡った、とのことです。

◎Chapter7.肖像画 《オイゲニア・プリマフェージ》と、その習作が並んでいます。習作の段階では、少し右を向いていたのですね。《白い服の女》は未完成ですが、「このままでもすばらしい」と思える作品でした。

◎Chapter8.生命の円環 生後わずか81日で急死した息子を描いた《亡き息子オットー・ツィンマーマンの肖像》には胸が痛みました。見どころは《女の三世代》ですが、デッサンも見逃せません。ただ、《横たわる恋人たち》《右を向く恋人たち》は上の方に展示されているため、何が描いてあるか、よくわかりませんでした。(図録を買って納得しましたが……)

◆クリムトが生きた時代(「ハプスブルク帝国」岩﨑周一著 講談社現代新書2442 から抜粋) P.314~316

(略)1873年に来墺した岩倉使節団の記録書『米欧回覧実記』には、「人民ノ品位ニヨリテ、接遇ノ異ナルコト、我明治以来ノ光景ニ異ナラズ」と記されている。また、世紀転換期にオーストリア=ハンガリー駐在大使を務めた牧野伸顕(大久保利通の次男。内相、宮相、外相などを歴任)の叙述によれば、「すべてが宮廷中心に出来ているウィーンの社会は、フランス革命後に取り残された欧州の貴族階級によって維持され、従ってウィーンという都会には、或る特殊な雰囲気があった」。

 こうした大貴族に加え、中小の貴族と有産市民が工業化の進展によって台頭したことは、消費文化の進展を促した(「ミナ貴族豪家ノ奢侈ヲ競フヲ以テ、製作ミナ精微ヲ極メタル」〈『米欧回覧実記』〉。成功した有産市民―クリムトによる夫人アデーレの肖像画が有名な製糖業者フェルディナント・ブロッホ=バウアー、哲学者ルートヴィヒとピアニストのパウルを息子にもった鉄鋼業者カール・ヴィトゲンシュタインなどの実業家たち―は、貴族の行動・生活様式(召使の雇用、芸術活動の後援、フランス語の習得など)を模倣して、「顕示的消費」(ソーステイン・ヴェブレン)に走った(カフカや詩人トラークルはこのような事情から、少年期にフランス語を学ばされている。)また彼らは、ホーフマンスタールとリヒャルト・シュトラウスが(時代設定こそマリア・テレジア期だが)楽劇『ばらの騎士』で活写したように、差異化を意識し打算を絡めながらも貴族と交流し、結びつきを強めた。

 富裕層の要求に応えるべく、主要都市には貴族の邸宅を模して、ネオ・ルネサンスもしくはネオ・バロック様式の瀟洒な高級アパートメントが多数建てられた。ウィーンのリングシュトラーセ沿いに林立するアパートメント群はその好例で、ここに居住した富裕層は「リングシュトラーセ男爵」と呼ばれた。まさしくこの呼び名が示す通り、このアパート群は、「ブルジョワと貴族の和解」(カール・ショースキー)の象徴であった。(抜粋、終わり)  クリムトの活躍は、ブルジョワの台頭を背景にしていたのですね。

◆最後に

 本展は、この夏お勧めの展覧会です。 ただし、当日、2時間ほど展示室の中にいたら体が冷えて困りました。外気温が高いので、どうしても薄着になります。その上に汗をかいて美術館に入ると、冷気に襲われること確実です。羽織るものを用意するなど、冷房対策をお忘れなく。また、土日に来場する方は、長い行列ができる可能性もあるので熱中症対策も必要です。  Ron.

気になる展覧会

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

 2019年も半ばを過ぎてしまいましたね。今後、名古屋周辺で開催予定の美術展の中から「気になる展覧会」を会期の近いものから順番に書いてみました。

◆キスリング展 エコール・ド・パリの夢  岡崎市美術博物館 2019.7.27~9.16  2019年6月23日放送のNHK・Eテレ「日曜美術館」アートシーンで、東京都庭園美術館で開催中の展覧会(7月7日まで)を紹介していました。2007年以来、12年ぶりに開催される個展とのことです。キスリングといえば、名古屋市美術館所蔵の《マルセル・シャンタルの肖像》が頭に浮かびますが、東京都庭園美術館のホームページ(注1)のイチ押しはフランスの女性小説家コレットの娘を描いた《ベル=ガズー(コレット・ド・ジュヴネル)》で、静物画も出品されるようです。滞米時代の作品を含む約60点の作品が出品されるので、見逃せませんよ。

注1 キスリング展のURL=https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/

◆空間に線を引く 彫刻とデッサン展  碧南市藤井達吉現代美術館 2019.8.10~9.23 2019年6月30日放送のNHK・Eテレ「日曜美術館」アートシーンで、足利市立美術館で開催中の展覧会(7月28日まで)を紹介していました。足利市立美術館のホームページ(注2)には、「彫刻家は(略)描くことがすなわち触れることであり(略)画家のデッサンにはない様々な要素が見出せる」と書いてあります。アートシーンでは柳原義達、青木野枝、大森博之のデッサンと彫刻を紹介していましたが、読売新聞のベテランアート記者・高野清見氏のコラム【きよみのつぶやき】第16回(注3)では舟越直木(1953-2017:舟越保武の三男)の作品紹介にページを割いています。【きよみのつぶやき】第16回によれば、本展を企画したのは「リアル(写実)のゆくえ展」(2017年)等を手がけてきたベテラン学芸員のコンビとのことです。「リアルのゆくえ展」はとても面白かったので、本展も大いに期待できると思います。

注2 足利市立美術館・彫刻とデッサン展のURL=http://www.watv.ne.jp/~ashi-bi/

注3 【きよみのつぶやき】第16回のURL =https://artexhibition.jp/topics/features/20190604-AEJ83154/

◆シャルル=フランソワ・ドービニー展  三重県立美術館 2019.9.10~11.4  

これは、協力会・2018秋のツアーのトークで名古屋市美術館の保崎学芸係長(以下「保崎さん」)が「お勧めの展覧会」として紹介していたものです。保崎さんが紹介したのは山梨県立美術館で開催中の展覧会でしたが、本年9月に三重県立美術館へ巡回してきます。  

巡回先のひとつ・東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館(本展は6月30日終了)のホームページ(注4)によればドービニーの作品約60点の外、コロー、クールベなどドービニー周辺の画家たちの作品約20点も出品されるとのことです。ホームページには作品リストの外、約6分の動画もアップされていますので、一見の価値があります。  

なお、【きよみのつぶやき】第6回(注5)は「ゴッホが敬愛した画家」と副題をつけて本展を紹介しています。山梨県立美術館での展示風景画像もありますよ。

注4 ホームページのURL=https://www.sjnk-museum.org/program/current/5750.html

注5 【きよみのつぶやき】第6回のURL https://artexhibition.jp/topics/features/20181203-AEJ51978/

Ron.

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