立花光 ≪無人配達≫

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京都市立芸術大学作品展にて (その2)

立花光 ≪無人配達≫

白い台に乗せられた茶色の段ボール箱が、展示室にまばらに置かれている。箱の大きさは大小様々。中央あたりに直径3cmくらいの穴が開けられていて、その穴から箱の中をのぞく仕掛けになっている。

部屋の中ほどにある大きめの箱の中をのぞいてみると、既視感のある、不思議な世界が垣間見えた。順番に他の箱の中も見て回ると、見える景色はそれぞれ異なるが、どれもどこかで見たような光景だった。

展示風景

箱の中の入っているのは、エレベーターや倉庫、階段など、私たちが日常的に通り過ぎる場所をリアルに再現したミニチュア模型だ。模型のサイズが小さいので、とても遠くから眺めているような距離感がある。なかには、作家が通う大学内の施設の模型もあるそうだ。

箱の外側には、いわゆる宅配荷物に貼る荷札が残っている。また、段ボールの表面にも配達中の汚れや、つぶれた跡があるので、てっきり自分あてに届いた荷物の箱を再利用しているのかと思ったが、箱も立派な作品。真新しい段ボールから、ミニチュア模型の大きさにあわせて切り出し、新規に制作しているそうだ。汚れや、つぶれた跡も再現されたものと聞くと、そのリアルさに驚く。

左から ≪無人配達_エレベーター#01≫、≪無人配達_通路#01≫、≪無人配達_通路#03≫

≪無人配達≫というタイトルに込めた制作の意図を作家に聞いたところ、「違和感」という答えがあった。普段、何もないドアの前や、宅配ボックスの中に、突然、段ボール箱が届くことで景色が違って見える感覚を表現しているそうだ。

その答えを聞き、それまで感じていたモヤモヤがすっきりした。箱の中をのぞいた時の驚き、箱の外の汚れを手作りしていると知った時の驚き、どちらも「違和感」そのものだった。

杉山

大西珠江 ≪ワタシヲ流ルル君≫、≪時を集めて≫

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京都市立芸術大学作品展にて (その3)

大西珠江 ≪ワタシヲ流ルル君≫、≪時を集めて≫

展示室の床に、表面がデコボコで、白い楕円形の筒と、割れたお椀の欠片のようなものが置かれている。奥の壁面には、同じような素材の端切れのようなものが掛けられている。

手前の筒は、作品名を≪ワタシヲ流ルル君≫という。これを見て、不思議に思ったのは、陶の地肌から横に伸びた氷柱のような透明な部分。その形状から、持ち手ではないし、装飾としても一体感がない。いったい、作家の制作の興味、問題意識はどの辺にあるのだろうか。

手前 ≪ワタシヲ流ルル君≫

奥側の横に寝かせた筒の作品名は、≪時を集めて≫という。この筒にも、細くて透明な棘のような部分がある。開いた筒の口の前に立つと、長い棘が触手のように思われ、深海魚が大きく口を開け、触手で獲物をおびき寄せている場面を連想した。

≪時を集めて≫

作家によれば、作品は陶とガラスで作られていて、焼成は2度行う。陶の部分は釉薬をかけずに焼成し、2度目の焼成で陶の内側に置いたガラスが溶け、ひび割れから垂れてくると、氷柱や触手のようになる。この制作方法は、焼成を止めるタイミングが難しく、何度も実験を重ねたそうだ。

この作家は、陶芸作品で釉薬として使われるガラスを、まるで異なる扱い方で土と組み合わせる。そうすることで、土は土、ガラスはガラスとして存在を主張する作品ができる。

作家のテーマは、ガラスと土の素材としての関わり方を、どのように作品として見せるか、というあたりにあるらしい。伸びた氷柱や触手の先に、どのような新しい展開があり、次回はどのような作品を見せてくれるか、とても楽しみだ。

杉山

山本千愛 ≪線の上をあるく≫

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例年、この時期は各地の芸術大学、美術大学で「卒業制作展」、「修了制作展」が開催され、見た目もコンセプトも奇抜な作品を鑑賞する機会に恵まれる。
名古屋市美術館の話題からは離れるが、最近見た「卒業制作展」、「修了制作展」の作品の中から、特に目を引いた作品を、数回に分けて紹介したい。普段の美術展とは様相の違う世界を楽しんでいただければ幸いだ。

東京藝術大学卒業・修了作品展にて

山本千愛 ≪線の上をあるく≫ (2020年代/東アジアのアーティスト/往路)

展示されているものは、大判のモノクロ写真、長さ3mくらいの木材、ビデオモニターなどで構成されたインスタレーション。モノクロ写真の横には、地図が添えられ、地図の上に打たれたピンの間に糸が張られている。

展示風景

モニターに映された映像を見ると、作者と思われる人物が、長い木材を引きずり、ひたすら歩いている。長い木材の持ち手と反対側(地面に接する側)に、カメラを取り付け、歩く人物の後姿を記録するパフォーマンスだ。地図の地名を見ると、日本以外にドイツ、オーストリア、中国でパフォーマンスを実施したようだ。しばらく見ていて、左側の一番上のモノクロ写真に目が止まった。何かの壁に長い木材を立てかけた様子が映っている。

展示風景

実は、この壁は観光用に残された「ベルリンの壁」の一部で、その下の森の中のランニングコースの風景は撤去された「ベルリンの壁」の跡地らしい。この高さ3mくらいの壁は、壊された後も多様な社会問題の影を象徴する存在として、人々の記憶に残っている。

美術作家と言えば、アトリエでキャンバスに向き合うか、粘土や木材のかたまりと力比べをするイメージを思い浮かべがちだが、本作の作家は文字通り「我が道を往く」スタイルで軽妙に国境をまたぎ、世界の今を体験して見せている。展示会場に置かれた他の絵画や彫刻の間に混ざり、軽やかで、とても面白い作品だ。

それにしても、長い木材を引きずりながら街中を歩いていると、不思議がられたり、不審がられたりして、「何をしているのか」と止められたりしないのだろうか。作家によると、そのような時は「私は作家です」と、あいさつするそうだ。この儀式が、この作家の身分証らしい。

杉山

横野明日香さんのオリジナルカレンダーを飾りませんか

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皆さん、お気づきになりましたか。

名古屋市美術館1階の総合受付脇に飾っている協力会オリジナルカレンダーを2025年版に更新しました。先日、お知らせしたとおり、今年のカレンダーは横野明日香さんの≪立ち上がる風景≫です。

描かれているのは、大きな山々と川の流れを上空から見下ろした、とても抽象的な風景です。表面がつややかなので、ロビーの光に反応し、刻々と色の濃淡が変化します。

このオリジナルカレンダーは、毎年、地元にご縁のある作家にお願いし、部数限定で制作しています。そして、名古屋市美術館協力会の会員特典のひとつとして、会員の方に配布しています。(非売品)

もし、ご自分の部屋にも飾ってみたいと思った方は、カレンダーの下側に入会申込書がありますので、必要事項を記入し、受付でお申し込みください。ただし、配布部数に限りがありますので、詳細はお問い合わせください。その他にも、多数の会員特典があります。詳しくは、以下のリンクページをご覧ください。

https://art-museum.city.nagoya.jp/about/kyoryokukai/

皆さんの、早めのお申し込みをお待ちしています。

春のツアー2023 長野・軽井沢(後編)

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◆軽井沢千住博美術館『チキュウ・ウチュウノキセキ』

〇出発まで

 宿泊したコテージは中央に大きなテーブルがあったので、夜遅くまでカードゲームやおしゃべりを楽しむことができました。翌朝5:30にコテージから出て、スマホを見ると軽井沢の気温は15度。耳を澄ますと、薄い朝靄に包まれた青紅葉やメタセコイヤの間から、微かですが小鳥のさえずりが聞こえます。リゾート地に居ることを実感しました。ぶらぶら歩きをすると、テニスコートや結婚式場、ゴルフ場に囲まれていることがわかります。1時間ほど歩いて「これは道に迷ったかな?」と思った瞬間、同じコテージに泊まったツアー参加者から声をかけられ、一緒に朝食会場へと向かいました。ラッキーでしたね。朝食の開始は7:00。たっぷり1時間かけて朝食を済ませ、コテージに戻って荷物をまとめ、指定場所に再集合。バスは予定通り9:15に発車しました。

〇深谷さんの事前レク

深谷さんによれば、軽井沢千住博美術館の開館は2011年。建物を設計したのは金沢21世紀美術館を手掛けた西沢立衛(にしざわ りゅうえ)。樹々に囲まれるだけではなく、総ガラス張りの建物には4カ所のガラス張りの吹き抜けがあり、その中にも樹木があります。床は土地の起伏のままで、緩やかに傾斜しているとのことでした。

〇自由鑑賞

美術館には発車10分後には到着していましたが、開館時刻は9:30。開館時刻まで待機となりました。ツアー参加者以外で待機している人々の多くは外国人。うち半数はアジア系です。「ここは、観光スポットなのだ」と思いました。添乗員の石井さんから「20分おきに約7分間の映像作品が上映される」という情報が入り、ツアー参加者は「The Fall room」へ向かいました。そのため、定員20名の部屋はツアー参加者だけで満席(ただし、立ち見も可)となりました。「その後、10:00からの上映も見た」という参加者が多数いました。その他の展示は「waterfall」シリーズから始まり、初期のビルを描いたものから、Flatwaterシリーズや絵本「星降る夜に」の原画、浅間山を描いた2023年の作品まであります。

軽井沢千住博美術館前にて

入場券を見せれば「再入場可」なので、周辺の散策もできました。駐車場の横にはミュージアムショップとベーカリーカフェ浅野屋があるので、お土産を買い込んでいる参加者が多数いましたね。

◆軽井沢安東美術館『藤田嗣治 エコール・ド・パリの時代』

〇深谷さんの事前レク

深谷さんによれば、軽井沢安東美術館(以下「安東美術館」)は、投資ファンドの経営者である安東泰志氏(以下「安東氏」)の個人コレクションを展示する「藤田嗣治だけの美術館」として2022年10月に開館した美術館、とのこと。安藤氏は、安東美術館を開館する前は自宅の壁に多数の藤田作品を飾っており、安東美術館を開館するにあたっても「自宅のような美術館」をコンセプトにしており、作品は制作年代順にならべられ、展示室ごとに壁の色が違っているとのことでした。深谷さんは安東美術館の開館レセプションに招かれたそうで、来賓は小池百合子東京都知事を始め、長野県知事、文化庁長官など、錚々たる顔ぶれだったとのことです。

〇自由鑑賞

安東美術館は、前日に見学した軽井沢ニューミュージアムの少し東に建っていました。安東美術館に駐車場は無いので、バスは町営駐車場に駐車。北に向かって歩くと道路を隔てて西に軽井沢大賀ホール(注)がありました。

(注)ソニー名誉会長で声楽家でもある大賀典雄が寄贈した16億円の資金等によって建設され、2005年4月29日に開館。詳細は、軽井沢大賀ホール – Wikipediaを検索してください。

軽井沢安東美術館前にて

安東美術館に着くと、館長の水野昌美さん(以下「水野さん」)がツアー参加者を出迎えてくださっただけでなく、館内を案内してくださいました。これも、深谷さんが同行して下さったおかげです。展示は2階の展示室2(壁は濃緑)「渡仏―スタイルの模索から乳白色の下地へ」から始まります。《二人の少女》(1918)は、安東美術館の入口でもらったチラシの表(おもて)面に使われている作品。深谷さんによれば「向かって右の少女は、モディリアーニ《おさげ髪の少女》(1918)と共通点がある」とのことでした。《壺を持つ女性》(1920)を見て、「ピカソの作品の影響があるかも」と指摘する参加者もいました。1920年代初期の藤田嗣治はモディリアーニやピカソとの交流があったので、影響も受けたのでしょうね。《カーニュ、シェロンへの手紙》(1918)について、水野さんは「画面左で洗濯物を干しているのは妻のフェルナンド、部屋の中で絵を描いているのが藤田嗣治。画面右で脚を投げ出しているのはモディリアーニ」と解説してくださいました。当時の写真も多数展示されており、「藤田嗣治と写真をテーマにした展覧会を計画中」という話も聞こえてきました。

展示室3(壁は黄色)のテーマは「旅する画家―中南米、日本、ニューヨーク」。《メキシコの男》(1933)は、中南米を旅しているときの作品。また、水野さんは《犬と遊ぶ子どもたち》(1924)について「絹本に描いていますが、使っているのは油絵具」と解説。日本画のような雰囲気がありました。リトグラフの《夢》(1957)を見て、「この作品、どこかで見たことがある」とツアー参加者が思わず声を出すと、深谷さんが「名古屋市美術館の所蔵作品を版画にしたのですから、似ているのは当然です」とフォロー。

ギャラリートークの様子

展示室4(壁は濃紺)のテーマは「ふたたびパリへ―信仰への道」。細長い部屋の突き当りに《金地の聖母》(1960)がありました。金地の背景に描かれた十字と円を組合せた装飾模様は、日本の紋所を想起させました。1952年制作のガラス絵《除悪魔 精進行》からは、藤田嗣治の叫びが聞こえてくるようです。

展示室5(壁は臙脂)のテーマは「少女と猫の世界」。水野さんによれば「他の展示室との違いはキャプションもスポットライトも無いこと。その理由は、安東家のリビングを再現した部屋というコンセプトに従ったため」とのことでした。安東美術館から撮影許可が出たので《猫の教室》(1949)の前でツアーの記念写真を撮影しました。

展示室にて

最後は、「特別展示室」と「屋根裏展示室」。特別展示室では、オッフェンバックの詩集のための挿絵『エロスの愉しみ』よりを展示。屋根裏展示室では藤田嗣治が1930年に制作したテーブルなどを展示しており、寄木細工のテーブルに描かれた封筒やペン、トランプなどは、絵具で描いたのではなく、木を薄く削って貼り付けたものでした。藤田嗣治は手先が器用で、職人としても一流だったのだな、と感心した次第です。

展示風景

〇安東美術館からのサービスとプレゼント

安東美術館の入場券に印刷されたQRコードを1階の「Salon Le Damier」の入口にある機械にかざすと、フリードリンクが飲めます。飲み物は、紅茶、コーヒー、チョコレートドリンクの3種でした。

安東美術館の見学が終わった時、ツアー参加者全員に「猫のシール」のサプライズ・プレゼントがありました。水野さん、お気遣い、ありがとうございました。

◆昼食

昼食の会場は、北佐久郡軽井沢町長倉のホテル「そよかぜ」に併設の「ビストロプロヴァンス軽井沢」。安東美術館からは西に向かってバスで30分ほどの距離。山道に入ると、ヘルメットをかぶって自転車で山道を登る人の姿を多く見かけました。「傾斜が急な山道を自転車で登るのは並みの筋肉では無理」と思いましたが、ツアー参加者のMさんは「筋肉は貯金できない。一度自転車で山登りをする快感を味わうと、走る習慣を止めることはできないの」と解説してくれました。料理は、フレンチ。たっぷり1時間かけて腹ごしらえが出来ました。

◆復路でも中央道リニューアル工事の影響を受け、予定を1時間ほど超過

中央道リニューアル工事に伴う渋滞はありましたが、ツアー参加者は全員無事に帰還できました。ツアーを企画したMさん、同行の深谷さん、道中適切に状況を判断して、最小限の遅れにとどめてくださった、添乗員さんと運転手さん始め、今回のツアーに参加された皆さま方全員に感謝します。ありがとうございました。

最後になりますが、ツアー終了の翌日から、台風の影響で雨が続いています。晴れ女・晴れ男が誰だったのか、私には分かりませんが「我こそは、晴れ女・晴れ男だ」と思っている皆様方、今後とも、よろしくお願い申し上げます。

Ron.

春のツアー2023 長野・軽井沢(前編)

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実に6年ぶりに一泊の美術館見学ツアーが開催されたので、その概要を報告します。前回の一泊ツアーの目的地は九州(太宰府・佐賀・福岡)でしたが、今回は長野・軽井沢です。

目的地が遠いので、集合は午前7時30分。集合場所の「JR名古屋駅西側 太閤通口広場(旧:ゆりの噴水前)」(噴水撤去により、2023年2月から名称変更)は、待ち合わせの団体客で大混雑。コロナ禍前よりも人出が多い感じです。

◆往路中央道のリニューアル工事の影響で目的地到着は35分遅れ

 名古屋駅を出発後、最初の休憩・恵那峡SA(岐阜県恵那市)までは極めて順調でしたが、次の梓川SA(長野県安曇野市)に到着するまでに2回の渋滞(中津川IC~飯田山本IC間と岡谷IC~岡谷JCT間)に遭遇し、食事会場の宿坊(長野市)に到着した時は、予定を35分超過の12時35分でした。

〇沈みがちな気持ちを吹き飛ばした車窓の「残雪」

ようやく渋滞を脱した時には予定時間の大幅超過は確定的で、車内の空気は沈んでいました。ところが、車窓から山の頂に白いものが見えると、車内に活気が出ました。「あれは残雪だ」という声が上がる一方「5月末まで雪が残っているの?」という声もあります。「あれは、北アルプスの乗鞍。山岳部の時によく登ったよ」という声で、「白いものが残雪」と分かった瞬間に沈む空気は吹き飛んでしまいました。安曇野を走っているとういうだけで、ウキウキしましたね。まだ、山をひとつ越えなければなりませんが、「姥捨」「川中島」という文字を見ると、「もうすぐ善光寺だ」という気持ちになり、渋滞を抜けるまでの嫌な思い出は消えていました。

◆昼食:信州善光寺 兄部坊(このこんぼう)の精進料理

昼食は、善光寺の宿坊・兄部坊(このこんぼう)の精進料理でした。二階の広間に案内されると二つ重ねの御膳の上に、料理が並んでいます。広間は畳敷きですが椅子が置かれているので、楽に座れます。御膳の料理は「生姜ご飯と信州みその味噌汁、手打ちそば、丸茄子の西京焼き、うなぎ湯葉、ゴマ豆腐、ジャガイモの酢の物、牛蒡と昆布の佃煮、香の物、デザート」と紹介されました。法要以外で精進料理を食べる機会はあまりないので、ツアー参加者は、料理をひとつひとつ眺め、味を楽しみながら完食。うなぎ湯葉は湯葉と海苔でうなぎの蒲焼のように見せたもので、生姜ご飯には生姜と油揚げが入っています。生姜ご飯がおいしかったので、お代わりをしてしまいました。

◆長野県立美術館

〇深谷さんの事前レク

今回は、名古屋市美術館の深谷克典参与(以下「深谷さん」)が休日を利用して「個人の立場」でツアーに同行してくださいました。バスが出発し、高速道路を走行するようになったところで、深谷さんによる長野県立美術館の事前レクが始まりました。深谷さんによれば、長野県立美術館の前身は「長野県信濃美術館」。1966年に開館し、1990年には谷口吉生の設計による「東山魁夷館」を併設。その後、施設の老朽化などのため2017年に休館。本館改築、東山魁夷館改修後の2021年4月に「長野県立美術館」としてリニューアルオープン。改築後の本館を設計したのは宮崎浩だが、谷口吉生が設計した東山魁夷館と調和するものになっている。長野県立美術館に行ったら、建物の美しさを見て欲しい、とのことでした。

深谷さんは谷口吉生設計の「豊田市美術館」が一番好きな美術館だったが、同じく谷口吉生の設計による「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」(1991年開館)を見た後は、「こっちの方が一番」に変わったそうです。また、1時間の鑑賞時間では「生誕150年 池上秀畝」まで見るのは難しいかもしれないけれど、東山魁夷館はぜひ見ておく価値がある」とのアドバイスもありました。

〇自由鑑賞

昼食会場・兄部坊からの移動は徒歩。兄部坊を出て右折、参道を進んで山門をくぐり、右折して前進すると、目の前に長野県立美術館の建物が見えてきました。本館と東山魁夷館は、通路で繋がっています。「間もなく霧の彫刻が始まる」というので、参加者一同、本館と東山魁夷館を繋ぐ通路の下にある池の周りや、連絡通路の中で「霧の彫刻」の開始を待っていると、池の周囲から細かな霧(ミスト)が噴出します。風に吹かれ様々に形を変えるミストと周りの風景や観客の姿が融け合う「その時限りの情景」を、暫しの間楽しむことができました。

中谷芙二子 《霧の彫刻 #47610》

東山魁夷館は二階建て。連作「白い馬の見える風景」の起点となった代表作《緑響く》(1982)等のヨーロッパの風景や、唐招提寺御影堂障壁画の準備作や京都・奈良の風景などが展示されていました。

本館で信州出身の作家の作品を見ていたら、深谷さんの「屋上広場『風テラス』を見逃さないように」というアドバイスが伝わり、急いで3階に移動しました。3階のカフェから屋上広場に出ると、西に善光寺の屋根が見え、実に良い眺めです。屋上広場に集まったツアー参加者は、北西の方角を指して「戸隠山は、天の岩戸を隠したという伝説があるけれど、隠すような場所はあるの? どうやって運んだの?」と、話していました。話し合ったところで埒が開かないので、スマホで調べることとなり、「戸隠神社の歴史」に「弟のあまりの乱行に天照大神は、岩戸にお隠れになり、世の中は真っ暗になり、大混乱になりました。(略)歌や踊りの賑わいを不思議に思い天照大神が少し戸をお開きしたところで、手力雄命(たぢからおのみこと)が岩戸を押し開き、大神をお迎えしました。その岩戸が下界に落ちて戸隠山になったという伝説もあります」という記述を見つけました。つまり、高天原から岩戸が落ちて戸隠山になった、と言うことのようです。

以上の時点で「残り10分」。「生誕150年 池上秀畝」は駆け足で見てまわることになりました。わずかな時間でしたが、長野県出身で、鋭い観察眼と描写力で、とても細かい所まで精緻に描いた画家だったということは理解できました。詳細は、生誕150年池上秀畝 高精細画人 | 展覧会 | 長野県立美術館 (art.museum) を検索してください。

◆長野から軽井沢まで

昔、鉄道で長野から清里まで行ったことはありますが、軽井沢は初めて。高速道路を使っても2時間近くかかる行程でした。車窓からは山に挟まれた盆地(上田盆地、佐久盆地)が続きます。軽井沢に近付くと、上部が吹き飛んで平らになった、とても大きな山が見えます。調べると「浅間山」でした。Wikipediaには「十万年前から周辺では火山活動が活発であり、浅間山は烏帽子岳などの3つの火山体とあわせて、浅間連峰もしくは浅間烏帽子火山群と総称される」と書いてありました。同じくWikipediaによれば、有名なのは「1783年8月5日(天明3年7月8日) 天明大噴火 」とのことです。バスからは「鬼押出し」という文字も見えます。「鬼押出し」は、浅間山の北に広がる溶岩流のことを指すようです。

◆軽井沢ニューアートミュージアム

〇深谷さんの事前レク

深谷さんが長野から軽井沢に向かうバスの中で話された内容によれば、2012年4月に開館。1階は無料エリア、2階は有料エリア。オーナーの白石さんは画廊を経営。アジアに5つのギャラリーを持ち、作家の紹介に力を入れているとのことでした。

ミュージアム外観

〇自由鑑賞

美術館は軽井沢駅から北に延びる通りの東側に建つ、真っ白な柱と全面ガラスの壁で構成された2階建てのおしゃれな建物でした。エントランス正面の階段を上って左側の部屋が第1展示室、テーマは「地球」。入口から見て右側と左側の壁に映像作品(上映時間は、いずれも10分)が投影されています。どちらも夕方の空で、右が東の空、作品名は《地球影:earth shadow》(2024)。左が西の空で《トワイライト:Twilight》(2024)。作家はどちらも萩原睦です。いずれの作品も方角は美術館が建っている所の方角と一致。美術館学芸員の石川さんの解説によれば、《地球影》の地平線付近の空の紫色は沈みゆく太陽の光を地球が遮った影、とのこと。山や建物に遮られることなく、地平線が見通せる場所でないと観察できないようですが、初めて知りました。NASAの衛星写真を利用した地球儀や段ボール製のドーム模型なども展示していました。

ギャラリートークの様子

第2展示室のテーマは「風景」。自然を描いた風景画を展示生態ました。第1展示室に戻ってから廊下を挟んだ向こう側が第3展示室で、テーマは「山水(もう一つの風景)。日本画や盆石などを展示しています。第4展示室のテーマは「環境(ランドアート)」。1976年から78年にかけてクリスト&ジャンヌ=クロードが、地元の反対派と交渉しながら陸地から海までの広い土地に数多くの柱を立てて、布を張るというインスタレーションを完成するまでを記録した57分の映像《THE RUNNING FENCE》(1976-78)を始め、自然や環境を表現する作品を展示。次の第5展示室で目を引くのは中西夏之《G/Z to May Ⅳ》(1992)。「新美の巨人たち」で紹介された、座面がプラスチック製の「イームズチェア」なども展示。最後の第6展示室では、AIを使って動くシーラカンスを再現したデイジーの《ancient aquarium》(2019)を上映。美術館のスタッフからは「AIが自動的に新しい動画を作るため、同じ動画が繰り返されることは無い」との解説がありました。

入口に佇む《ボブロ》ロナルド・ヴェンチューラ、2018年、317.5×165.1×137.2cm
1Fサロン「田中一平展」の展示風景

Ron.

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