展覧会見てある記「豊田市美術館コレクション展」

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 8月25日開催の協力会行事「あいちトリエンナーレ豊田市美術館会場ミニツアー」に参加した時、受付時刻まで時間があったので豊田市美術館2階で開催中のコレクション展を見てきました。

クリムト展開催中ということから、コレクション展ではクリムトと並んで近代オーストリアを代表する画家、エゴン・シーレとオスカー・ココシュカの作品を展示していました。エゴン・シーレはクリムトを師と仰いだ天才画家、クリムトと同じ年に死去しています。一方、オスカー・ココシュカは「ウィーン工房」に参加したものの「ウィーン分離派」には参加していません。彼は、クリムト展に肖像画が出品されているアルマ・マーラーと恋に落ち、破局したことでも知られています。

なお、豊田市美術館のホームページはコレクション展の目玉としてブランクーシの彫刻《雄鶏》と下村観山《美人と舎利》を紹介しています。

クリムト展の会場は満員でしたが、コレクション展の会場はゆったりとしていました。豊田市美術館の「クリムト展」や「あいちトリエンナーレ」を鑑賞する時は、併せてコレクション展も見ましょう。

◆オスカー・ココシュカ関連の記事がありました

2019.08.25付の日本経済新聞「The STYLE/Art」に掲載された河野孝の「ナチスの略奪(上)」という記事には「1939年6月30日、スイスの観光地ルツェルンのホテルで大規模な美術品の展覧会が開かれた。(略)売り出されたのは、ブラック、ゴッホ、ピカソ、クレー、マティス、ココシュカなど現代の巨匠による絵画と彫刻だった。主に「退廃芸術」としてナチスが没収した作品だった」と書いてありました。

今年の4月に公開されたドキュメンタリー映画「ヒトラーVS.ピカソ」も触れていましたが、ナチスによって「退廃芸術」とされたココシュカの作品は美術館などから没収・売却された、ということです。

今年の美術展ではグスタフ・クリムトとエゴン・シーレが脚光を浴びていますが、併せてオスカー・ココシュカにも目を向けたいですね。豊田市美術館だけでなく、愛知県美術館も作品を収蔵しています。

Ron.

あいちトリエンナーレ「豊田市美術館会場」ミニツアー

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今回参加した「あいちトリエンナーレ『豊田市美術館会場』ミニツアー」は、あいちトリエンナーレに関連する二つ目の協力会主催行事です。なお、一つ目は8月4日開催の「名古屋市美術館会場ギャラリートーク」でした。今回の参加者は21名。ミニツアーの案内は能勢陽子(のせ・ようこ)さん(以下「能勢さん」)。自己紹介によると能勢さんは豊田市美術館の学芸員ですが、今回は「あいちトリエンナーレのキュレーター」として案内してくださいました。なお、見出しに記した「T〇〇」のうち「T」は豊田会場を表わし、数字は作品の通し番号を表わします。

◆T06b アンナ・フラチョヴァー

あいちトリエンナーレの受付は2階。通常の展覧会と違って、3階・第4展示室が会場の入口です。最初の作品は二人の養蜂家を表現したレリーフ、2階と3階を結ぶ階段の踊り場・壁面に展示されていました。能勢さんによると「作者のアンナ・フラチョヴァーはチェコ共和国の人で、地下鉄にある飾られた二人の宇宙飛行士のレリーフをもとに制作した作品です。養蜂家のレリーフは、最近話題になった「ミツバチが消える」という問題を取り上げています。ミツバチが消えた原因は不明ですが「農薬の影響ではないか」と言われています。農業技術の開発が進む一方で、果樹の受粉を行うミツバチが消えれば、農業ができなくなるという悪夢のような事態が起きることを訴えた作品」とのことでした。この作品、ミニツアー参加者の一人が「壁に針で留められている」ことを発見しました。材質はアクリル樹脂、針で留めることが出来るくらいに軽い作品なのでしょうか。

◆T07 シール・フロイヤー

暗い部屋の床に一つ、小さく星型に照らされた場所があります。プロジェクターが投影した星形の光が天井の鏡に反射して床を照らしており、《Fall Star》と名付けられています。床に小さな星形が投影されているだけで少しも変化しませんが、何か「カワイイ」感じのする作品でした。

◆T08 タリン・サイモン

写真・動画とテキストを組み合わせた作品で、二つの部屋に分かれています。入口側の部屋には映画「スター・ウォーズ」のデススターⅡの模型やJ.F.ケネディ空港で没収された食べ物などアメリカの秘部・恥部の写真・動画と説明文を組み合わせた作品が展示され、出口側の部屋には過去に行われた国際協定の調印式で飾られた花を再現した写真と説明文を組み合わせた作品が展示されています。能勢さんによると「写真に写っている花は、全てオランダの花き市場で調達したものです。オランダは18世紀には植民地の覇者だったので、市場で調達した花もケニア産、エクアドル産、メキシコ産など、植民地の跡が見える」とのことでした。

◆T09a 高嶺 格(たかみね・ただす)

展示室4と展示室3を結ぶ廊下の突き当りに、2019年2月25日付の琉球新報と覗き眼鏡が展示されていました。

◆T10 レニエール・レイバ・ノボ

展示室3の壁面に2019年8月12日付けの「表現の自由を守る」という声明が貼られています。声明の署名作家は、タニア・ブルゲラ/ハビエル・テジェス/レジーナ・ホセ・ガリンド/モニカ・メイヤー/ピア・カルミ/クラウディア・マルティネス・ガライ/イム・ミヌク/レニエール・レイバ・ノボ/パク・チャンキョン/ペドロ・レイエス/ドラ・ガルシア/ウーゴ・ロンディーヌの12名。 レニエール・レイバ・ノボの絵画は全て新聞記事で覆われ、一部の彫刻が黒いゴミ袋で覆われていました。黒いゴミ袋で覆われた彫刻は1937年のパリ万博で発表された巨大彫刻 ”Worker and Kolkhoz Woman” の一部=ハンマー(工場労働者を象徴)と鎌(農民を象徴)。一方、覆われていない彫刻もあります。1980年のモスクワ・オリンピックで発表された “Monument of Gagarin” (像の高さ42.5m)の指部分です。それにしても「デカい」作品でした。

◆T06b アンナ・フラチョヴァー

展示室2も、踊り場壁面と同じアンナ・フラチョヴァーの作品《アセッション・マークⅠ=Ascension MarkⅠ》。能勢さんによると「チェコ共和国の首都プラハには労働者の像が数多く立っています。この作品は労働者の像をもとにしたもので、女性の顔にはアイロンの底の写真が、男性の顔にはシェーバーの刃の写真が貼ってあります。日常生活の不気味さを可愛らしさとともに表現した作品です。アセンションは直訳すると『上昇』『昇天』で、一つ上の段階への上昇を意味する宗教的な言葉。男女の像は溶けて、変形を始めています」とのことでした。

◆T11 スタジオ・ドリフト

能勢さんによると「作者はオランダのグループ。作品名は《Shylight》。もとになったのはバレエのチュチュ(tutu:バレリーナがつけるスカート。薄いチュール・オーガンジーなどを何枚も重ねたもの)。テクノロジーで自然現象を再現できるか試した作品。花が開いたり閉じたりする様子をコンピュータでプログラミングしています」とのことでした。 床に寝そべって、下から見上げている人が何人もいます。能勢さんの言う通り「もとはバレリーナのスカートの動き」なのですが、先日、水族館で見た「クラゲの漂う姿」にも見えます。様々な動きをするので、見飽きません。

◆おまけ

豊田市美術館の解説は以上でしたが、能勢さんからは「隣の旧豊田東高等学校プールにはT09b 高嶺格さんの作品があります。また、愛知環状鉄道新豊田駅の西の「喜楽亭」にもT04 ホー・ツーニェンの作品があります。喜楽亭は高級料理旅館で戦前は養蚕業者、戦後は自動車関係者が利用。その後、現在地(豊田産業文化センター西)に復元移築されたもので、作品名は《旅館アポリア》。4つの部屋を使って12分×7本=84分の動画を上映しています」という案内がありました。

◎T09b 高嶺 格 旧豊田東高等学校プールには、コンクリート製のプールの底を切り取って、その場に立てた作品が展示されています。切り取られたプールの底は頑丈そうな鉄骨で支えられており、迫力満点でした。

◎T04 ホー・ツーニェン  豊田産業文化センター(愛知環状鉄道新豊田駅の西)を目印にして探したら、豊田産業文化センター駐車場の奥にトリエンナーレの看板が見つかり、会場の喜楽亭にたどり着くことが出来ました。  動画の素材は「父ありき」(1942)「東京物語」(1953)「彼岸花」(1958)「秋刀魚の味」(1962)などの小津安二郎監督の映画と横山隆一のアニメ映画「フクチャンの潜水艦」(1944)(海軍のプロパガンダ映画)、絵本「ジャカルタ記」(1944)などです。動画の内容は太平洋戦争当時に名古屋で編成された特攻隊=草薙隊の話(二ノ間「風」:上映場所と作品名、以下同じ)など、太平洋戦争関係の話が中心でした。案内を読むと、シンガポールを拠点に活動している作家のようです。 映画は、出演者の顔にスモークがかけられているので表情は分かりませんが「彼岸花」では、一瞬ですが、佐分利信や愛知県蒲郡市の三河大島、蒲郡ホテル(現:蒲郡クラシックホテル)が映り(一ノ間「波」)、「秋刀魚の味」では笠智衆の「元艦長」と岸田今日子の「バーのマダム」の前で加藤大介が軍艦マーチを歌うシーンが映ります(三ノ間「虚無」)。また、「父ありき」には「戦後、日露戦争の広瀬武夫中佐を歌った詩吟と軍歌『海ゆかば』を歌うシーンが削除されました」という解説がついていました(三ノ間「虚無」)。調べてみると、GHQの命令だったようです。なお、四ノ間「子どもたち」は、時間に余裕がなく、残念ながら鑑賞できませんでした。

Ron.

展覧会見てある記 「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」

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碧南市藤井達吉現代美術館で開催中の「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」(以下「本展」) に行ってきました。戦前の彫刻家・橋本平八と19人の戦後作家の彫刻・デッサンを出品する展覧会で、会場入口は2階です。

◆プロローグ 橋本平八から現代へ 会場に入ると橋本平八の彫刻《片山増吉翁寿像》と彼のデッサンが展示され、その奥に戸谷成雄の彫刻《襞の塊Ⅴ》《襞の塊Ⅵ》とデッサンが展示されています。《襞の塊》は「ひだのかたまり」と読むようで、丸くて大きなレタスを思わせる作品でした。次の部屋のケース内にも橋本平八の彫刻《成女身》とデッサンが展示されており、プロローグは表題どおり「橋本平八の具象彫刻から現代の抽象彫刻へ」という展示内容です。

◆第1章 具象Part1 プロローグの次のブロックには入口近くに柳原義達のブロンズ像とデッサン、ケース内に舟越保武の石像とデッサン、出口近くに佐藤忠良のブロンズ像とデッサンがあります。三人の作品を比べることが出来るので、それぞれの肌触りの違い(もちろん、直接触れることは出来ませんが)がよく分かります。また、舟越保武の作品は、次男・舟越桂、三男・舟越直木の作品が本展に出品されていることもあり、特に印象的でした。

◆第2章 抽象Part1 抽象彫刻になると、会場の雰囲気が一変します。形だけでなく素材も鉄、石膏、ワックスなど様々な物が使われ「なんでももあり」の賑やかな展示でした。なかでも、原裕治の彫刻《マンデリオンの舟Ⅱ》は「どんな道具で削ったのか」不思議な作品で、図録によると、グラインダーで削ったようです。彼のデッサン《けもの道Ⅰ》《けもの道Ⅱ》には、平面の作品なのに周りから木々が襲ってくる感覚を覚えました。また、若林奮の彫刻では犬が顔を出している作品が数点出品されています。彼のデッサンには設計図のような雰囲気を漂わせるものが数点ありました。

◆第3章 抽象Part2 舟越直木の彫刻《Serampore》ではクモを、《The Ace of Heart》ではホウズキを連想しました。彼のデッサン《マグダラのマリア》には、平面なのに彫刻のような雰囲気があります。また、大森博之《昼休み》は、二つのイチジクが寄り添っているような作品。彼のデッサンは色・形ともに「異様な過激さ」を発散していました。2階会場の最後は青木野枝のデッサンと彫刻の展示。展示室で《野外作品のためのプランドローイング》を見て踊り場に出ると、このプランをもとにした彫刻《雲谷(もや)2018-2》がありました。なお、この作品は写真撮影OKです。1階に降りると、ロビーに長谷川さちの彫刻《mirror》と、そのデッサンが展示されています。入口側の展示室に入ると床に椅子が4脚あったので思わず座ろうとしたら、「作品です」と係員さんの制止を受けました。説明のプレートを見たら多和圭三の彫刻《無題》。皆さん、くれぐれもご注意ください。

青木野枝 雲谷2018-2

◆第4章 具象Part2 1階・入口側展示室には、舟越桂と高垣勝康の彫刻・デッサンが展示されています。舟越桂の作品は年代順に展示されているので、作風が変化していった経過がよく分かります。高垣勝康の彫刻は「具象」ですが「モデルに似せよう」という訳ではない「抽象的な具象彫刻」とでもいうべき作品でした。 1階・奥の展示室には、三沢厚彦と棚田康司の彫刻・デッサンが展示されています。どちらも写真撮影OKで、なかでも三沢厚彦の彫刻《Cat2014-06》は子どもたちの人気を集めていました。

三沢厚彦 Cat2014-06
棚田康司 少女

◆最後に  「彫刻とデッサン展」という展覧会名のとおり多数のデッサンが展示されているのですが、彫刻に目を奪われてデッサンを素通りしがちだったのが悔やまれます。展示は前期(8/10~9/1)と後期(9/3~9/23)に分かれているので、後期ではデッサンをじっくり鑑賞しようと思います。 なお、協力会では9月15日(日)午後2時から「空間に線を引く 彫刻とデッサン展」のミニツアーを予定しています。詳細は協力会ホームページをご覧ください。  

Ron.

「キスリング エコール・ド・パリの煌き」

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岡崎市美術博物館で開催中の「キスリング エコール・ド・パリの煌き=フランス語の展覧会名は ”Grande figure de l’Ecole de Paris” 」(以下「本展」) に行ってきました。名鉄・東岡崎からバスで約25分。終点の一つ前のバス停で降車、美術館の玄関を入り、エスカレーターで可成り下ったところに展示室がありました。

◆キスリングの位置づけは 本展は「キスリング、エコール・ド・パリの主役」「アメリカ亡命時代」「フランスへの帰還と南仏時代」の三部構成。といっても、出品作の大半は「キスリング、エコール・ド・パリの主役」です。なお「主役」は “figure majeure” 、展覧会名は ”Grande figure” ですから、キスリングはエコール・ド・パリの「主役」「大人物」という位置づけなのです。

◆キスリングはオーストリア=ハンガリー二重帝国生まれ 展示室のパネルによると、キスリングは1891年、ポーランドのクラクフ生まれ。当時のクラクフはオーストリア=ハンガリー二重帝国の領土でしたから「キスリングはグスタフ・クリムトと同じ国の生まれ」ということになります。

◆キスリング夫人の写真・絵画 出品作の大半は女性の肖像画ですが、花などの静物画や風景画もあります。面白かったのは《女の肖像》です。名古屋市美術館所蔵の《ルネ・キスリング夫人の肖像》と、ほぼ同じポーズでした。ただ、残念ながら《ルネ・キスリング夫人の肖像》は本展に出品されていません……。ルネといえば入り口近くに《サン=トロぺでの昼寝(キスリングとルネ)》が展示され、隣にはキスリングとルネが一緒に写っている写真もありました。

◆アンリ・ルソーの影響も NHK日曜美術館のアートシーン(2019.6.23放送)で紹介された《ベル=ガズー(コレット・ド・ジュヴネル》は大型の作品で、隣にはキスリングがモデルを抱きしめている写真もありました。「背景の植物はアンリ・ルソーを思わせる」という趣旨の解説があり、キスリングはルソーの影響を受けていることを知りました。

◆「キキのコーナー」も モンパルナスのキキといえば、藤田嗣治《寝室の裸婦キキ(ジュイ布のある裸婦)》のモデルですが、キスリングもキキを好んだようです。本展には「キキのコーナー」が設けられ、《モンパルナスのキキ》《長椅子の女》に加え「特別出品」としてマン・レイが撮影した写真《ヴェールをかぶったキキ》(岡崎市美術博物館所蔵)が展示されていました。3点の中では《長椅子の女》が、目力が強くて印象的でした。

◆藤田嗣治との交流 「モンパルナスのプリンス」と呼ばれ、エコール・ド・パリの画家たちの中心にいたキスリングは「パリの寵児」と呼ばれた藤田嗣治とも交流があり、本展では二人が写った写真や二人のエピソードが紹介されています。

◆最後に  バスの本数が少ないのが難点ですが、エコール・ド・パリの愛好家にはお勧めの展覧会です。(駐車場は広いです)フォーヴィスム風の作品やキュビスム風の作品もあるほか、ティツィアーノ《ウルビーノのヴィーナス》を思わせる作品もあります。  Ron.

「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(名古屋市美術館)を見て

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 名古屋市美術館で「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(以下、あいトリ2019)が開催されています。あいトリ2019の会場は、名古屋市美術 館の他、愛知芸術文化センター、豊田市美術館、四間道・円頓寺、豊田市駅周辺となっています。

 「あいとり2019」は、国内の国際芸術展として初めて参加作家の男女平等を実現したことで、春先から話題になっていました。名古屋市美術館会場で は、碓井ゆい、今津景、藤井光、モニカ・メイヤー、桝本佳子、パスカレハンドロ、青木美紅、タニア・ペレス・コルドヴァ、Sholim、カタリー ナ・ズィディエーラー、ドラ・ガルシア、バルテレミ・トグォの作品を見ることができます。 作家の名前からも、女性が多いことがうかがえると思います。作品点数は多くありませんが、全体的に落ち着いた雰囲気の展示になっています。

会場で気になった作品を2点、紹介します。

モニカ・メイヤー 《The Clothesline》  

これは、観客参加型の作品です。人の背丈よりやや小ぶりなピンクの枠に張られた白いロープに、葉書よりやや小さく、色合いの異なるピンクの カードが多数ぶら下がっています。傍らの机の上には、ハラスメントに関する質問が印刷されたカードが置かれています。このカードに回答を記入 した観客は、自分でロープにクリップでぶら下げるか、机の上のポストに投函します。投函されたカードは、後日、スタッフがロープにぶら下げる そうです。  

ちなみに、質問の種類は4つ。ロープは、まだ半分くらいしか埋まっていませんが、日増しにカードが増え、ついにはロープからあふれることで しょう。ぜひ、あなたも参加してください。

カタリーナ・ズィディエーラー 《Shoum》

 モニター画面には、ペンを持った大きな手がアルファベットを書いている様子が映し出されています。BGMは、かなり昔に流行ったイギリスの曲 のようです。どうやら、曲の歌詞を書き起しているようですが、単語のつづりが怪しそうです。  

もし、日本人の自分が同じ状況になれば、カタカナで書き留めるでしょうが、そのメモを見て、原曲がわかる人がどれだけいるか、はなはだ怪し いものです。 歌う方は言葉を伝えようとするけれど、聞き取る方はそれを理解できないというディスコミュニケーションを表現する作品ですが、身の回りの出来 事を思い返すと、とても印象的な作品でした。

おまけ(その1)

愛知県内で予定されている「あいトリ2019」参加作家の個展、グループ展についてお知らせします。トリエンナーレとは、違った雰囲気の作品を見ることができると思います。(タイトル、日程等は取材時のものです。展示の中止を含め、予定が変更される場合があります。お出かけの際は、各ギャラリーのHPなどもご参照ください。)

青木美紅「アサイラムの燈台」山下ビル 8/2-8/18

澤田華「車窓のそとはすでに過去」波止場 8/4-9/15

碓井ゆい「パノラマ庭園」MAT,Nagoya 9/7-11/10

藤原葵 「ちからこそパワー!」ギャラリーN 10/8-10/22

おまけ(その2)

あいちトリエンナーレのオリジナルグッズがミュージアムショップを賑やかにしています。 手ごろな文房具など、お土産にいかがですか。

杉山 博之

「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(豊田市美術館)を見て

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 豊田市美術館で「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」(以下、あいトリ2019)が開催されています。あいトリ2019の会場は、豊田市美術館の 他、愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、四間道・円頓寺、豊田市駅周辺となっています。

 週末に各会場を見て回りましたが、個人的には豊田会場の仕上がりが1番良いように感じました。もちろん、作品点数では愛知芸術文化セン ターが1番ですが、展示されている各作品のまとまり感で、豊田会場が良いと思いました。(もちろん、多々異論があるのは承知)

 豊田会場で気になった作品を、数点紹介します。

小田原のどか 《↓(1946-1948)》  

赤くて大きな矢羽根の形のネオンサインが、地面に突き刺さっているかのようです。毒々しい赤が部屋の中を照らし出し、何やら異様な雰囲気です。隣の部屋に、矢羽根の正体についての説明があり、読んでとても驚きました。(ネタバレ回避のため、説明は省略)  

8月9日に、作家の講演会があるそうです。講演を聞くと、作品の印象が大きく変わりそうな予感がします。

高嶺格 《反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで》  

プールの底を切り出し、そのまま立てたような作品です。あまりの大きさと、その力技に驚かされます。手前側から持ち上げたのか、向こう側か ら引き上げたのか、見ていると、不思議と笑いがこみあげてきます。

プールの底の水色の塗装と空の水色が重なり、雨雲を呼び込むような雰囲気で す。これまでのトリエンナーレで見た作品の中で、ここまで愉快な作品はちょっと記憶にありません。

スタジオ・ ドリフト 《Shylight》

 上下する白い布が柔らかく開いたり閉じたりする動きと、点滅するライトの同調したリズムがとても心地良い展示空間です。作品の動きは、植物 の就眠運動を詳しく分析することで設計されているそうです。

展示室の端から見上げる人や、上の階の通路から見下ろす人もいましたが、お奨めは、ひんやりとした床に寝ころび、天井を見上げるように鑑賞す ることです。普段の展覧会なら、係の人に注意されそうですが、今回は大丈夫でした。(実験済み)  

 豊田市駅周辺の作品は入場無料です。 また、豊田市美術館ではクリムト展も併催しています。 夏休み中は混雑しそうなので、車の場合は要注意です。

杉山 博之

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