台湾には朱銘美術館もある 

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

 台湾で美術館と言えば「故宮博物院」だが、故宮だけが台湾で観るべき美術館ではない。台北市内にはそのほかに、近代美術の「臺北市美術館」と現代美術の「台北當代藝術館」があり、いずれもなかなかのものだ。「台北當代藝術館」は1919年日本統治時代に建成小学校として建てられた建物を利用している現代美術の美術館で、日本人の作品が演示されていることも多い。また、台北から少し離れているが、基隆北西の山の中に、「朱銘美術館」という1933年台湾生まれの彫刻家「朱銘」(ジュ・ウミン)の屋外彫刻作品を飾る素晴らしい美術館がある。この美術館は朱銘が自分の作品を展示するために自分で造って1999年に開館したもので、ニキ・ド・サンファルの「タロット・ガーデン」を連想させる。朱銘の作品では、一連の太極拳を主題にした黒い石の彫刻が有名で、ここにも数多くある。そのほかにも、寂しそうな台湾陸軍兵の列や楽しそうなアメリカ兵達や白い芸術家シリーズや石のジッパーなど様々な作品がある。屋外作品だけではない、入口の建物の地下や、一番奥のピラミッド型の本館などに、朱銘が集めたピカソなどの作品や、朱銘のタブローや木彫などもある。

 ここに個人的に行くのはこれまではちょっと難しかったが、淡水と基隆を結んで観光スポットに停まりながら走る、マイクロバス「台湾好行」バス「皇冠北海岸線」というのができて行き易くなった。地下鉄で淡水まで行き、駅前から平日1日8本・土日16~18本走っているこのバスに、1時間強乗れば朱銘美術館だ。帰りは淡水に戻っても良いが、基隆に向かえば温泉で有名な金山にも寄れ、金山から「國光客運」バスに乗るか、基隆から台鉄に乗れば台北に戻れる。金山から平日2本・土日3本、朱銘美術館行のシャトルバスも出ている。金山には「舊金山総督温泉」という日本領時代に建てられた温泉施設があって、今も昔の建物で営業している。また、金山の「老街」は清の時代に造られた賑やかな下町情緒豊かな繁華街だ。できれば協力会の旅行でこれらの美術館に行ってみたい、たぶん沖縄に行くのとあまり時間は変わらず、沖縄より安く行けると思う。ただし、二泊はしないと見て回れないだろう。
UN BAGABOND

アーモンドの花咲く頃

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

ゴッホ 「花咲くアーモンドの枝」

ゴッホ 「花咲くアーモンドの枝」

 アーモンドはバラ科サクラ属で、写真にあるように、サクラに良く似た美しい花を咲かせる。種類にもよるが一般にサクラよりも早く咲き、薄紅色をしている。先日NHK BSプレミアムで、シチリアのアーモンドの花盛りの番組(番組名「世界で一番美しい瞬間(とき)」)を放映していたので、観た方も多いだろう。ゴッホにはアーモンドの花を描いた作品が下記のように4点ある。この内4番目の「花咲くアーモンドの枝」が最も名高い。この絵は、フィンセントの弟テオが、兄の名前を貰って息子をフィンセントと名付けときに、お祝いに贈られたものだ。サン・レミで描かれたもので、画家フィンセントはその少し後に亡くなっている。このアーモンドの絵は、その後長くテオの家の居間に飾られていたそうだが、現在はゴッホ美術館の所蔵作品になっている。
東灘処理場のアーモンド並木

東灘処理場のアーモンド並木

 アーモンドは日本の気候でも屋外栽培が可能で、植物園に行くと観られることも多い。まとまって植えられている場所も、私が知っている限りでも二ヶ所ある。両方とも神戸市東灘区の埋め立て地で、ひとつは東洋ナッツ本社工場の庭、もうひとつは神戸市の下水処理場東灘処理場の北側だ。東洋ナッツでは、1980年頃から栽培されていて、毎年3月20日頃一週間ほど一般開放されている。東灘処理場の方は、淡路神戸地震の震災から復興した記念に、アーモンド並木が作られたものだ。こちらはいつでも観られるが、花が咲くのは3月末頃。先ごろ4月8日に訪れてみたら、まだ花を着けている木もあった。ソメイヨシノのようにクローンではないから、一斉に咲いて一斉に散ることはないし、遅咲きの種類ということもあって、運良く間に合った。灘の酒蔵が建ち並ぶ地域の南側、小磯良平美術館からもそれほど遠くない場所だ。ちなみに、シチリアでは1月末から2月頃に咲く。アーモンドナッツの生産が最も盛んなのはアメリカのカリフォルニア州だ。                                              
                                                      UN VAGABOND
アーモンドの花

アーモンドの花


フィンセント・ファン・ゴッホが描いたアーモンドの花の作品一覧
・「グラスに入れた花咲くアーモンドの枝」、アルル、1888年3月、ゴッホ美術館蔵
・「グラスに入れた花咲くアーモンドの枝と本」、アルル、1888年3月、個人蔵(日本)
・「花咲くアーモンドの木」、アルル、1888年4月、ゴッホ美術館蔵
・「花咲くアーモンドの枝」、サン・レミ、1890年2月、ゴッホ美術館蔵

「マインドフルネス!」展覧会ギャラリートーク

カテゴリ:Ron.,協力会ギャラリートーク 投稿者:editor

 4月11日(日)は、名古屋市美術館協力会の「マインドフルネス! 高橋コレクション 決定版2014」の展覧会ギャラリートークに参加しました。

美術館閉館後、集合した会員たち

美術館閉館後、集合した会員たち

展覧会ギャラリートークは、名古屋市美術館で特別展が開催される度に行われます。美術館が閉まった後、作品の前で名古屋市美術館の学芸員さんが協力会会員に向けて展覧会のテーマや展示内容等を貸切状態で解説してくれるというもので、美術好きにはたまりません。協力会会員の特典なので参加費は無料です。協力会会員になってよかった。
犬と一緒に、パチリ!

犬と一緒に、パチリ!

当日は、ひとまず美術館2階の講堂に集合。美術館閉館後の午後5時10分に企画展示室入口に移動して、草間彌生≪ハーイ!コンイチハ≫のヤヨイちゃんとポチの前で再び集合。なお、この作品はチラシやポスターにも使われており、この展覧会では「特別に撮影してもよい」ということなので、記念撮影する人が続出しました。
名古屋市美術館の笠木日南子学芸員によれば、今回の展覧会は精神科医で現代美術コレクターの高橋龍太郎氏のコレクションから40作家の119点を選りすぐったもの。展覧会タイトルの「マインドフルネス」という言葉の意味は、先入観にとらわれず「現実をあるがままに受け入れる、気づき」だそうです。高橋龍太郎氏は図録に「マインドフルネス」を「パーリ語のサティ(見出す)に由来する言葉」と書いており、うつ病の認知行動療法に関係し、禅の影響もあるようです。
さて、展示作品ですが、美術館の広い空間でないと十分に鑑賞できないような大型の作品が多かったのが印象的でした。また、「現実をあるがままに受け入れる」という言葉どおり、先入観を排除して作品に向き会えば胸がドキドキするものばかりです。コレクターが感じた衝撃を追体験している感じですね。個人コレクションの面白さを十分に楽しむことができる展覧会です。
チラシに印刷されていた草間彌生、加藤美佳、奈良美智、村上隆、鴻池朋子、会田誠、山口晃、名和聡子の作品はどれも、実物でなければ味わえない迫力に満ちていました。
なかでも会田誠は、チラシの作品以外に無数のゼロ戦が空爆でニューヨークを火の海にする「紐育空爆之図」と大勢の若い女性が粉々にされる「ジューサーミキサー」というショッキングな作品も展示されています。「えっ」と思わず息をのみますが「マインドフルネス」「あるがままに」と唱えていると、不思議なことに凄惨さ以外の面も見えてくるような気がしました。
名和聡子「幸福と絶望」は展示室の壁一面を覆う大きさで、美術館でなければ鑑賞できません。鴻池朋子はチラシのものだけでなく、立体の「惑星はしばらく雪に覆われる」と映像の「mini-Odyssey」も展示されています。特に、立体作品は表面が鏡に覆われた6本足のオオカミで、鏡に反射した光が展示室の四方八方に散らばり、キレイでした。
以上のほか、池田学「興亡史」は超細密でありながら巨大な絵で「どこまで描くんだ?」と、見飽きません。松井えり菜「食物連鎖」は宇宙空間を背景に作家自身がマンモスやクジラ、人間などを飲み込む絵で、左端にはウーパールーパーが泳いでおり、不思議な魅力があります。そういえば、開会式には作家本人がウーパールーパーの被り物をかぶって並んでいたそうです。
塩保朋子「cutting insights」は美術館の1階と2階をつなぐ吹き抜けに吊るされています。長さ650cm×幅356cmの紙に刃物で切り込みを入れて模様を描いた、巨大な伊勢型紙のようなもので、壁に映ったシルエットがキレイでした。ただ、光源の関係で影が二重になってボヤけていたのが残念です。小田ナオキ「undead Family」はユーモラスな中の少し悲しげな表情が気になり、染谷亜里可「Decolor-level5」はベルベットの色を抜いて制作したと聞いてびっくりしました。どの作品も理屈抜きで楽しめるものばかりです。お勧めですよ。開催は6月8日(日)まで。
                            Ron.
解説してくださった笠木学芸員を囲んで!

解説してくださった笠木学芸員を囲んで!

「大浮世絵展」ミニツアー

カテゴリ:Ron.,ミニツアー 投稿者:editor

 今年度の協力会ミニツアーは、名古屋市博物館で開催中の国際浮世絵学会創立50周年記念「大浮世絵展」で幕開け。4月6日(日)午前9時30分集合でしたが、9時過ぎから人が集まり始めました。ミニツアー参加者は40数名。開場と同時に1階の展示説明室に移動し、副館長の神谷浩さんからレクチャーを受けました。神谷副館長の話によれば、今回の展覧会は「浮世絵の教科書をめざして、みたことのある絵を世界中から集めた」夢のような企画です。しかし、浮世絵は展示期間が制限されるので、国内3会場で巡回するという展覧会を実現するのは、至難の連続であったようです。それだけに期待が増します。約40分のレクチャー後、展示会場に足を運びました。

レクチャしてくださった神谷浩氏

レクチャしてくださった神谷浩氏

「浮世絵の教科書をめざした」という言葉どおり、浮世絵の歴史をたどって作品が展示されています。「1章 浮世絵前夜」「2章 浮世絵のあけぼの」で素晴らしかったのは2つの重油文化財、菱川師宣「歌舞伎図屏風」と宮川長春「風俗絵図」。特に「歌舞伎図屏風」は芝居小屋の入口から、舞台、舞台裏、楽屋までのパノラマ。動画のような描写は圧巻です。
真剣に話に聞き入る会員たち

真剣に話に聞き入る会員たち

「3章 錦絵の誕生」の主役は鈴木晴信。「雪中相合傘」の二人はいずれも中性的で、男の黒い着物と女の白い着物のコントラストが美しく、黒い着物の人物は謎の美女「黒蜥蜴」ではないかと妄想していました。雪の「きめ出し」白い着物の「空ずり」が綺麗です。
磯田湖龍斎「江戸見立六玉川 調布」は鈴木春信とよく似ていて素人には区別ができません。また、あの山東京伝が北尾政演という名で浮世絵を描いていたとは知りませんでした。
「4章 浮世絵の黄金期」の最初は鳥居清長。「大川端夕涼」を始め、どの美人もスーパーモデル並みの小顔・長身で、当時の日本人には無かった体型。でも、ナイスです。「駿河町越後屋正月風景」は、注文主の期待に応えた綺麗な絵でした。
喜多川歌麿も見ごたえのある絵が出ています。「歌撰恋之部 深く忍恋」は、神谷副館長のレクチャーどおり背景のピンクが美しく、心理描写も見事です。重要文化財の「納涼美人図」も収穫でした。「虫籠」は籠の網を透けて虫が見え、「錦織歌麿形新模様 白打掛」は輪郭線がほとんどなく色の面だけで構成され、「「難波屋おきた」は表・裏の両面から鑑賞できるなど、歌麿が様々な工夫を試していたことがわかります。
 東洲斎写楽は大英博物館とギメ美術館から大首絵、計4枚が出ていました。重要文化財の「市川鰕蔵」と「大谷鬼次」は後期の展示なので見られません。神谷副館長が言っていた「展覧会の後半になるに従って良いものが出ます」とは、このことだったのですね。
 「5章 浮世絵のさらなる展開」では「みたことのある絵」には欠かせない、北斎の「凱風快晴」「山下白雨」「神奈川沖浪裏」がちゃんと出ていました。「神奈川沖浪裏」のもとになったといわれる「おしをくりはとうつうせんのず」も展示されており、二つを比べると面白いと思います。肉筆画の「弘法大師修法図」は大きくて迫力がありました。
 歌川広重の東海道五拾三次からは「日本橋 朝之図」「蒲原 夜之雪」「鞠子 名物茶屋」「庄野 白雨」と「みたことのある絵」を押さえています。鞠子の丁子屋は昨年春の協力会ツアーの際に昼食を食べましたが、今でも描かれた当時の面影が残っています。外には、名所江戸百景から「浅草田甫酉の町詣」「浅草金龍山」、切手になった「月に雁」などが展示されていました。
歌川国芳は「猫の当字 かつお」を始めダジャレとサービス精神が面白く、「其まゝ地口猫飼好五十三疋」では、宿場名とダジャレ、猫の絵の三つを一つひとつ見比べていたので、見終わるまでに随分時間がかかってしまいました。
最後「6章 新たなるステージへ」は幕末明治の作品。月岡芳年「奥州安達がはらひとつ家の図」は逆さ釣りの妊婦の姿が印象的。また、新版画に橋口五葉や伊東深水の作品があるとは知りませんでした。最後の展示は川瀬巴水「東京十二景 春のあたご山」満開の桜。楽しく花見ができました。
                                 Ron.
終了後、博物館の外で。抜けるような青空でした

終了後、博物館の外で。抜けるような青空でした