お知らせ

2021年7月13日

2021年協力会イベント情報

会員の皆様へ

お知らせします。10月3日に予定しておりました、三重県立美術館へのミケル・バルセロ展ミニツアーですが、コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が延長されるなか、県外への団体での訪問は適切でないと判断し、中止することになりました。大変申し訳ありませんが、感染拡大の状況を考慮し、ご理解願います。

現在、下記の解説会の参加申し込みを受け付けています。

1.名古屋市美術館 フランソワ・ポンポン展解説会 令和3年9月25日

参加希望の会員の方は、ファックスか電話でお申し込みください。ホームページからの申し込みも可能です。参加の際は、必ずマスクを着用いただき、体調の優れない場合は、参加をご遠慮ください。最新の情報につきましては随時ホームページにアップさせていただきますので、そちらをご確認ください。

皆さま方にはご迷惑をおかけしますが、なにとぞご理解のほど、お願いいたします。また、くれぐれも体調にはご留意ください。

読書ノート 「週刊文春」(2021年9月23日号)ほか

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

◆「週刊文春」 名画レントゲン(21) 秋田麻早子  情念の色味・配色・筆致を味わう

フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のプロヴァンスの田舎道」(1890)

 名古屋市美術館に巡回予定の「ゴッホ展―響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(2022.2.23-4.10)(以下「ゴッホ展」)出品作品の解説です。秋田麻早子はこう書いています。

〈この短くうねる筆触で埋め尽くされた画面は、ゴッホらしさそのもの。(略)この特徴的なスタイルを確立したのは最後の数年のこと。(略)この絵が描かれたのは、療養のために1889年から1年ほど過ごしたサン=レミ時代も終わりに近い最晩年。(略)絵の解釈についても(略〉詩を読むようなイメージの広がりを見出すでしょう。この構図は現実の風景そのままではなく、ゴッホが再構成したものだけに一層そう感じられます。糸杉は単なる木ではなく、古来より生と死の両方を象徴してきたもので、この絵を見る人に約2か月後のゴッホの死をどうしても連想させます。(略))(引用終り)

 映画「ゴッホとヘレーネの森」でも、キュレーターが〈1890年4月20日の夜は、水星と金星が重なり合い、三日月に接近していた。彼は、このイメージを心に刻み、1カ月後、月と星を対照的に描いた。プロバンス滞在時の要素を詰め込んだ、一種の集大成だ〉と解説していました。

 傑作の呼び声が高い作品です。こんな記事を読むとゴッホ展が待ち遠しくなります。

◆AERA mook「ゴッホ展―響きあう魂 ヘレーネとフィンセント 完全ガイドブック」2021.9.30  INTERVIEW  ヘレーネ・クレラー=ミュラーって どんな女性ですか?

 上記のインタヴューの中で「ヘレーネはゴッホのどこに惹かれたのでしょうか」という質問に対し、名古屋市美術館学芸員・森本陽香さん(以下「森本さん」)は「ヘレーネは最初、アルルやサン=レミ時代の、力強い作品に惹かれたんですね」と答えていました。また、「イチオシ来日作品Best3」として、①《夜のプロヴァンスの田舎道》、②《悲しむ老人「永遠の門にて」》、③《レモンの籠と瓶》の3点を挙げています。《夜のプロヴァンスの田舎道》は、森本さんも「イチオシ」です。

森本さん「イチオシ」のNo.3=《レモンの籠と瓶》については、映画「ゴッホとヘレーネの森」の中でナビゲーターが、次のように話していました。「ヘレーネも、彼の絵で無限の世界に浸った。“レモンの静物画”(注:《レモンの籠と瓶》のことです)を何時間も眺め、手紙に書いた。『絵から万物の完全性を見て取った』『神聖な原則があるの』と」

なお、「名古屋市美術館の巡回展の見どころは」という質問もあり、森本さんは「ヘレーネの美術館に入っていくワクワク感を演出したいです。(略)ヘレーネの理想を再現したいと計画中です」と答えています。展覧会では、どんな風にワクワク感が演出されるのか?楽しみですね。

◆蛇足

ゴッホ展は「サンエイムック 時空旅人 別冊」2021.10.14発行 にも、特集記事があります。

なお、AERA mook の記事ですが、p.52の《麦束のある月の出の風景》と、p.53の《サン=レミの療養院の庭》の説明に「※本展には出品されません」と書かれていますが、ゴッホ展の出品リスト(https://www.tobikan.jp/media/pdf/2021/vangogh_worklist.pdf)には、出品作として掲載されています。ご注意ください。

 Ron.

読書ノート 「星落ちて、なお」澤田瞳子 株式会社文芸春秋 2021.07.20 第2刷

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

◆ 河鍋暁斎ではなく、その娘「とよ」の人生を6つの短編で描く

本作は、直木三十五賞の受賞作品。作者は河鍋暁斎を「大好き」なのですが、主人公は暁斎ではなく、その娘「とよ(画号は暁翠)」。冒頭は、暁斎の葬儀の場面。強烈な個性を持つ異母兄・周三郎(画号は暁雲)に、とよが振り回される様が描かれます。

幕末から明治初期にかけて大活躍した暁斎。しかし、死後その作風は次第に時代遅れのものとみなされるようになっていきます。そんな風潮に反発し、絵師・暁翠として生活するとよですが、自分の画力が父はもとより兄にも遠く及ばないことに、絶えず思い悩みます。また、兄弟たちとの関係にも苦労します。

本作は、そんな暁翠=とよが、明治・大正という二つの時代を通して、自分の役割を見出すまでを、年代別の6つの短編で描いています。

◆ 明治・大正の日本史・日本美術史も描く

「とよの一代記」というだけなら平板なお話になってしまうところですが、本作では戦争や震災などの時代背景もしっかり描き、話に厚みを持たせています。特に、日本美術史については、寺崎広業、橋本雅邦、栗原あや子(玉葉)、北村直次郎(四海)などが次々に登場するので、飽きることがありません。竹久夢二の恋人として有名な笠井彦乃も、ほんの一瞬ですが登場します。作者が厖大な資料を読み込みながら、「この画家を、どうやってストーリーに絡ませようか」と構想を練っていた様子が目に浮かびますね。

◆ 陰の主人公は、「写真大尽」鹿島清兵衛?

数ある登場人物の中でも、特に目を引いたのが「写真大尽」として有名な、鹿島清兵衛です。冒頭の葬儀の場面では、多額の香典を出すだけでなく、葬儀を取り仕切り、残されたとよたちに住まいを提供する、という献身ぶりが描かれます。清兵衛の愛人・ぽん太がとよの家に乗り込んでくる場面にも引き込まれます。最後の短編で、とよが自分の役割を自覚する場面にも清兵衛が登場します。

清兵衛は、森鴎外が「百物語」という短編に登場(飾磨屋勝兵衛=鹿島清兵衛、太郎=ぽん太)させたほどの有名人。ネットで検索すると清兵衛は男前で、ぽん太は超美人。とよの陰に隠れてはいますが、本作は鹿島清兵衛のお話でもある、と思いました。

◆ 小説が終わった所から、河鍋暁斎の話が始まる

ネタバレになってしまいますが、本作は河鍋暁斎の伝記を書くために村松梢風という作家が取材に来て、とよが父の生涯について語り始めるという場面で終わります。

最初に読んだ時は「えっ、これで終わり?オチになってないじゃない」と思ったのですが、読み返してみて「ここから、河鍋暁斎の物語が始まる」と思い直しました。

実は、本作に影響を受けて、河鍋暁斎関係の本を買ってしまったのです。

 Ron.

「ゴッホ展 ― 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」への期待

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

 先日「ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(以下「ゴッホ展」)の特設サイト(https://gogh-2021.jp/comp.html)が更新され、ゴッホ展の構成や出品される作品の一部が公開されました。そして、DVDで見た映画「ヘレーネとゴッホの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝」(以下「映画」)の記憶が甦って来ました。

1 ヘレーネ・クレラー=ミュラーに光が当たる

映画は、ゴッホ作品の収集家でクレラー=ミュラー美術館の創立者ヘレーネ・クレラー=ミュラー(以下「ヘレーネ」)に光を当てていましたが、ゴッホ展でも独立した「章」があるとのことです。映画だと、資金不足で美術館の建築現場が閉鎖された後の話は「結局、公共の美術館にするという条件で規模を縮小して国が建設した」という簡単なもので、モヤモヤが残りました。ゴッホ展ではヘレーネについてどんな展示があるのか、楽しみです。ヘレーネについて、もっと知ることができるのではないかと期待しています。

2 モンドリアンの作品も出品される

映画では、ヘレーネのコレクションについて「ファン・ゴッホのほか、モンドリアン、ピカソ、レジェなど、多数ある」と言っていましたが、ゴッホ展ではモンドリアン《グリッドのあるコンポジション5:菱形、色彩のコンポジション》が出品されるとのことです。「菱形の作品」というのは珍しいですね。他にも、ルノワールやスーラなどの作品が出品されるようです。

3 オランダ時代の素描が多数出品される

映画では、「ファン・ゴッホの手紙」の編集者が、ゴッホについて「彼は2人分の芸術家なんだ。優れた画家で、天才的な素描家でもあった」と言っていたのが印象的でした。ゴッホ展では「素描家ファン・ゴッホ、オランダ時代」という独立した「章」があります。素描は20点ほど出品されるとのことなので、楽しみです。

4 映画で紹介された作品も多数出品される

特設サイトを見て甦った映画の記憶は、何といっても《レストランの内部》や《夜のプロヴァンスの田舎道》などについて熱く語っていたマルコ・ゴルディン(イタリアで開催された ”Van Gogh – Tra il grano e il Cielo”=「ファン・ゴッホ 小麦と空の間」展のキュレーター)の姿です。「本物が見たい」と、強く思いました。来年になれば、それらの作品が名古屋市美術館に来るのです。今からワクワクします。

最後に

ゴッホ展では《黄色い家(通り)》を始めとしたファン・ゴッホ美術館のコレクションも、4点出品されるとのことなので、こちらも楽しみです。

Ron.

豊田市美術館 「モンドリアン展」 ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

豊田市美術館で開催中の「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画を求めて」(以下、「本展」)鑑賞の協力会ミニツアーに参加しました。熱中症警戒アラートが発令されていたことなどから参加者は申し込みを下回り、11名でした。講堂で石田大祐学芸員(以下「石田さん」)の解説を聴いた後、自由観覧・自由解散となりました。豊田市美術館の年間パスポートを持っている会員がいたので年間パスポートを持っていない参加者に「同伴者割引」が適用され、観覧券は団体料金(1400円→1200円)。このことは警備スタッフにも連絡が届いており、開館後速やかに対応できました。豊田市美術館の皆さま、ありがとうございます。

◆石田さんの解説(10:10~50)の要旨(注は、筆者の補足です)

・ハーグ派の風景画

 モンドリアンは、世界で初めて抽象画を描き始めた画家の一人。オランダ中部の地方都市アメスフォルト(アムステルダムの郊外)に生まれています。スライドはシモン・マリスの絵。自転車のハンドルに絵具箱を取り付け、どこでもスケッチできるように改造しています。モンドリアンは自転車で移動してスケッチを行い、アトリエに帰ってから風景画を描くというやり方で「標準的な絵」を描いていました。

 モンドリアンは、叔父のフリッツ・モンドリアンから絵を習いました。作風はバルビゾン派の影響を受けたハーグ派のもので、リアリズムの絵画です。ハーグ派は、小さなコミュニティーの中でよく似た作品を描いています。しかし、モンドリアンの絵は少し変わっていました。スライドは《田舎道と家並み》(1898-99年頃、No.3=注:作品名のNo.は作品リストの番号。以下同じ)。家が画面の上の方に描かれているので、手で画面の上半分を隠して下半分だけにすると、何が描いてあるかよく分かりません。(注:確かに、下半分だけだと抽象画のように見えます)

・点描の風景画

 スライドは《砂丘Ⅲ》(1908、No.34)。オランダの南の保養地(リゾート)ドンブルグで描いた作品です。次のスライドは《ウエストカペレの灯台》(1909、No.37)。ドンブルグにある灯台を描いたものです。その次は《オランダカイウ(カラー);青い花》(1908-09、No.37)。普通、カラーの花は白又はピンクですが、この作品の花は青色。照明を落とした状態で描いたものです。オレンジ色(注:中心の棒状の部分=小さな花が密集したものです)青色(注:花びらに見えるロート状の部分=苞、つまり小型の葉です)は補色関係なので、目がチカチカする描き方です。

 ドンブルグには点描の画家=ヤン・トーロップのコミュニティーがあり、ジョルジュ・スーラもいました。ヤン・トーロップの描いた農夫の絵を見ると、農夫は正面向きで窓の外には教会の高い塔が克明に描かれています。なお、モンドリアンの灯台や教会の絵も、下絵を見ると建物の外壁や窓を克明に描いています。

 この頃、モンドリアンは神智学に熱中しています。神智学はロシア出身のヘレナ・ブラヴァツキーがギリシャ哲学や仏教、バラモン教などの幅広い宗教や思想を参照しながら、宇宙や生命の神秘にたどり着こうとしたもので、オカルトブームの元祖です。ヤン・トーロップやモンドリアンは、神智学の説く崇高な力の象徴として、灯台や教会などの高い塔を描きました。

・キュビスムの風景画

1911年、モンドリアンはピカソやブラックとともにオランダでキュビスム風の展覧会を開催しました。スライドは《色面の楕円コンポジション2》(1914、No.43)。下絵には「KUB」と書かれた看板のある建物が描かれています。そして、この作品の画面右下にも「KUB」という文字が読み取れます。といっても「K」は一部が欠けていますが……。次のスライド《コンポジション 木々2》(1912-13、No.42)は、何を描いたのかよく分からないと思いますが、下絵を見ると二本の樹木を描いたものです。

キュビスムの作品は、人物画や静物画が多いのですが、モンドリアンは街の風景をキュビスムで描いています。「もともと、風景画家だったから」でしょうか。

このスライド《コンポジション(プラスとマイナスのための習作)》(1916頃、No.45)になると、斜めの線が無くなります。建物の正面を描いたものと思われます。

・補色の対比で画面を構成

《色面のコンポジションNo.3》(1917、No.46)は、白地に青・赤・黄の四角形を描いたものです。モンドリアンは、白地と四角形、補色関係の四角形といった対立関係にあるものは混ぜないで描いています。モンドリアンは「それぞれの色は対等であることが必要」と考えて、作品を制作しています。

《格子のコンポジション8-暗色のチェッカー盤コンポジション》は、格子で囲まれた中を青・赤・オレンジで塗り分けたもので、モンドリアンは「特定の何かを描く」ことを避けて制作しています。

 《大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション》(1921、No.51)の黒い線は十字形がつながっているもので、画面を縦横に区切る線ではありません。それぞれの色面は隣の色面とのバランスを考えて色を塗っています。この作品では灰色が重要で、灰色の色面を見つめた後、隣の色面に目を移すと、その色が鮮やかに見えるような仕掛けを施しています。

・デ・ステイル

モンドリアンは、絵画だけでなく音楽や建築など、生活・芸術全般に関心があり、デ・ステイル(様式)というグループを立ち上げます。展示の最後にはデ・ステイルに参加した画家の作品や建築家ヘリット・トーマス・リートフェルトの作品も展示しています。写真撮影可能なエリアもありますので、お楽しみください。(以上で、解説の要約は終了)

◆自由観覧

石田さんの解説を聴いた後、展示室に入ると、日曜日ということで人出が多く、若い人が目立ちました。とはいえ、展示空間が広いので「密」という感じはありません。石田さんから「本展では展示空間を広く取りました」という説明がありました。どの入館者もマスクをして、お互いの距離を空け、静かに鑑賞しているので、安心して作品を楽しむことができます。ただ、「参加者で小さなグループを作り、小声の会話の楽しみながら鑑賞する」という「以前の鑑賞スタイル」ができないことは、少し寂しいですね。

帰り際、1階と2階をつなぐ大階段で、にぎやかに撮影会?をしている若者のグループがいました。

◆愛知県美術館「点描の画家たち」ミニツアー(2014.03.21)の思い出

石田さんの「補色関係」という言葉を聴いて、2014年3月21日開催の愛知県美術館「点描の画家たち」鑑賞の協力会ミニツアーを思い出しました。「点描の画家たち」はクレラー=ミュラー美術館のコレクションによる展覧会で、愛知県美術館・中西学芸員の解説では、オリジナルコンセプトは「点描」「新印象派」ではなく「分割主義」。分割主義は「色を純粋色に分割して並置する」ということであり、明るく鮮やかな色彩とするため「絵の具を混ぜるのではなく、カンバスの上に並べて、網膜上で一つの色と認識させる」というもので「補色の組み合わせで色彩の鮮やかさを強める手法」とのことでした。

展覧会名は英文表示で ”DIVISIONISM FROM VON GOGH AND SEURAT TO MONDRIAN” =「分割主義 ゴッホ スーラからモンドリアンまで」。「分割主義」の原理で制作されたゴッホやフォーヴィズム、モンドリアンの作品までを5部構成で展示していました。そのうち、第4部はベルギーとオランダの画家の作品。初めて目にするものばかりでした。メモによればヤン・トーロップの作品も見たはずなのですが、記憶にございません。第5部がモンドリアンの作品。ハーグ派の風景画、キュビスムの風景画、白地に四角形を配置した作品、グリッドで囲まれたコンポジションの4点が出品され、後半の2作品は「色を純粋色に分割して並置する」という分割主義の方法に従った作品でした。当時のメモには「モンドリアンの作品は額まで一体となっているので、大きな額の中に額に入った絵があって面白い」と書いてあります。本展でも、《大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション》について、ミニツアーの参加者から「大きな額の中に、額に入った絵がある」と指摘され、「なるほど」とその着眼点に感心しました。それは良いのですが、当時のメモに記した発見が、記憶からすっぽりと抜け落ちていたことにガックリした次第です。

     Ron.

読書ノート「名画レントゲン」(20)秋田麻早子(週刊文春2021年9月2日号)

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

◆ 堅実な人生を土台にした古き良き思い出  グランマ・モーゼス「美しき世界」(1948)

名画レントゲン(20)は、名古屋市美術館で開催中の「グランマ・モーゼス展」(以下「本展」)に出品されている《美しき世界》を取り上げています。以下は、記事の抜粋です。

〈通称グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)で知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは、80歳代で売れっ子の画家になった物語がひとり歩きしがちですが、彼女の作品はそんな背景を知らなくても魅力あふれるもの。(略)モーゼスはドラッグストアで自作のジャムや漬物と一緒に絵も売り物として並べていました。でも売れるのはジャムや漬物だけの日々でしたが、モーゼスが78歳になる1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げたのが事の始まり。そこからカルドアが奔走し、画商O・カリア、IBM創業者T・J・ワトソンらモーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました。(略)モーゼスの人気が高まる時期は、アメリカが1929年からの世界恐慌から立ち直り、第二次世界大戦が勃発し参戦していくときで、古き良きアメリカが少しずつ変化していくときでもありました。モーゼスは自分が経験したことの記憶から絵を作り上げ、電柱などの現代的なものは意図的に省いています。細部を描きつつシンプルな画風だからこそ、人々は彼女の絵に思い出を重ねて見ることができます。それは描かれた思い出の美しさの土台に、モーゼスという人が一歩ずつ堅実に踏みしめてきたリアルな人生があるからこそです。(略)モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです。〉引用終り

◆ 協力会向け解説会(2021.07.25)の思い出など

 引用した記事の内容は、協力会向け解説会でも聞きました。《美しき世界》について、井口智子学芸課長は「『どんな絵がいちばん好きですか?』とインタヴューで聞かれた時、『きれいな絵』と答えています」と、紹介しています。展示室で作品と向かい合った時、記事のとおり〈思い出と希望がわき起こってくる〉感じがしました。解説会に参加した協力会員も、同じ感覚を覚えたようで「展覧会に来てよかった」と感想を漏らしていました。

 解説会では値段を聞き漏らしたのですが、<1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げた〉というのは、すごい話ですね。日本円に換算すると一枚数千円です。タダに近い値段で買い上げられても、〈モーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました〉というのは、まさにシンデレラ。「アメリカン・ドリーム」の体現です。

 記事は〈モーゼスはドラッグストアで自作のジャム〉を売っていたと書いていますが、解説会では「アップル・バター」の紹介がありました。アップル・バターはリンゴだけを煮つめて作ったペーストです。ジャムの仲間ですが、雰囲気は日本の「あんこ」でした。ドラッグストアで売っていたのは、アップル・バターだったかもしれないですね。

 本展の会期は9月5日(日)まで、会期末が迫っています。再度引用しますが〈モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです〉とのこと、お見逃しなく。

 Ron.

展覧会見てある記「ANIMALS 2021 IN TOYOHASHI三沢厚彦」豊橋市美術博物館

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

豊橋市美術博物館で開催中の「ANIMALS 2021 in TOYOHASHI 三沢厚彦」(以下「本展」)を見てきました。皆さんお馴染みのクマ、ライオン等の大型動物の木彫作品だけでなく、ヤモリ等の小型動物や抽象彫刻、油彩も出品されています。夏休み中なので家族連れが多く、子どもたちが作品を楽しんでいる様子を見て頬が緩みました。子どもたちの良い思い出になると、いいですね。

Ⅰ BEARS(第1会場=第1企画展示室)← 撮影可能

 第1会場に出品されているのは、全てクマ。白、黒、茶色と色も様々で、寝転んでいるクマもいます。彫刻だけでなく、パネルに描かれたクマもいます。どのクマも「猛獣」という雰囲気はなく、「クマのプーさん」や「パディントン・ベア」のような愛嬌があります。動物園の生きているクマとは違い、人間みたいな雰囲気も持っているので安心して鑑賞できるのでしょう。

Ⅱ 動物大行進(第2会場=第2企画展示室)← 撮影不可

 第2会場では、入口から出口に向かってゾウ・キリンからネコ・ウサギに至るまで大小の動物が並んで行進していました。壁にはテナガザルがぶら下がっています。パネルも多数飾られて壮観ですが、残念ながら撮影不可。動物がひしめき合っているので、写真撮影を許可すると、接触事故があってもおかしくないと感じました。

北ラウンジ ← 撮影可能

ユニコーン、フェニックス、ミミズク
ミミズク

 普段は三沢厚彦のウサギを展示している北ラウンジには、ユニコーン、フェニックスとミミズクを展示。茶色のクマと追い出されたウサギは、ラウンジの外からこちらを見ていました。

Ⅲ 過去×現在(第3会場=特別展示室)← 撮影可能

 会場に入ると、サメが大きな口を開けています。その奥にはカラフルなヒトウマ。ここには初期の《彫刻家の棚(画家へのオマージュ)》から最近の抽象彫刻までが出品されており、作品点数が一番多い部屋です。ミミズクやネコなどの小動物の彫刻が多数展示され、カーペットの上には、豊橋公園で拾った石に着色した、見落としてしまうほど小さなウサギもいました。小さなウサギのことは、案内の女性が教えてくれた話。出品リストには掲載されていません。

Ⅳ ホワイトアニマル他(第4会場=第3企画展示室)← 撮影可能

カモシカ、アイベックス

 第4展示室ではライオン、カモシカとアイベックスが目を引き、第5展示室では空想上の動物であるキメラ(有翼で、尻尾はヘビ)と麒麟の存在感が圧倒的です。

キメラ
後ろ姿

◆最後に

本年9月18日に名古屋市美術館で開会する「フランソワ・ポンポン展 動物を愛した彫刻家」も、本展と同じく動物彫刻の展覧会です。チラシには〈ポンポンは入念な観察にもとづいて、動物の体つきや動きの核心をつかみ、形を磨き上げることでその魅力を引き出しました〉と書いてあります。チラシに印刷されている《シロクマ》や《大黒豹》は、シンプルなのに今にも動き出しそうな感じです。これに対して、三沢厚彦の動物彫刻は、我々が持っている動物のイメージを形にした作品。ポンポンとは対照的な作風ですね。作風の違う二人の作家の展覧会を続けて鑑賞できるという機会は、滅多にありません。「フランソワ・ポンポン展」の開会が、今から楽しみです。

Ron.