「あいちトリエンナーレ2016」ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

「あいちトリエンナーレ2016」の名古屋市美術館協力会員向けギャラリートークに参加しました。先ず、2階講堂で山田学芸課長(以下「山田さん」といいます。)のレクチャー、その後に展示室に移動してのギャラリートークでした。参加者は38名。今回は、下記のように「徒然草」52段の教訓「少しのことにも先達はあらまほしき事なり」を実感いたしました。

Ⅰ 講堂でのレクチャー
◆あいちトリエンナーレ2016のテーマは?
レクチャーは「虹のキャラバンサライ 創造する人間の旅」というテーマの解説からスタート。チラシでテーマを見て「虹色の作品があるのか」と思ったのですが、実は深い意味がありました。山田さんによれば「キャラバンサライとは、砂漠を行く隊商の宿。宿と訳すが、巨大な城砦のようなもの。また、虹は多様性を表し、創造する人間は芸術家。テーマの前半と後半を合わせると、世界中から芸術家を集めて、あいちトリエンナーレで展示するという趣旨になる。作家はざっと30か国から参加。名古屋市美術館では7か国、11作家の作品を展示。」とのことでした。

Ⅱ 展示室にて
 ギャラリートークに参加する前に名古屋市美術館の展示作品は一通り見たのですが、下記の通り「仁和寺にある法師」と同様、「え、そうだったの」ということがいくつもありました。

入口を陣取る岡部さんの力強い作品

入口を陣取る岡部さんの力強い作品


◆岡部昌生《被弾痕のある公益質屋遺構 沖縄 伊江島1929/1945》など
ギャラリートークに参加する前、この作品を見て分かったのは「鉛筆を使った拓本だな」ということだけ。また、3つの作品のうち《公益質屋遺構 貫かれた内部壁面の被弾痕-1 沖縄 伊江島》だけがカラフルである理由が分からず、「なぜ?」と固まってしまいました。
山田さんによれば「太平洋戦争当時、伊江島には滑走路があった。そのため、沖縄戦では伊江島が真っ先に攻撃目標となって徹底的な艦砲射撃を受け、島で残ったのは公益質屋の建物だけ。今回の作品は、公益質屋の外壁と内壁に紙を当てて、上から鉛筆などでこするフロッタージュという技法で描いたもの。建物は二階建てで、展示作品は建物と同サイズ。よく見ると、建物の入口や艦砲射撃で出来た大きな穴がわかる。内壁の上半分がカラフルなのは、差し込んだ日光が壁を照らしていることを表現している。写真や絵ではなく、フロッタージュで描いたのは質感を表現したいから。想像力を働かせて、沖縄戦の遺構を思い描いてほしい。」とのことでした。
家に帰って、当日もらった「キャラバンガイドブック」25ページを見たら、この作品の制作風景が載っていました。無残な姿に変わり果てた建物の周りに足場を組んで描いたのですね。

◆ジョヴァンニ・アンセルモ《星々が1スパン近づくところ》
この作品、ギャラリートークの前に見たはずなのですが、山田さんの解説を聞いて初めて作品があることに気づきました。吹き抜けの上からこちらを見下ろしている人が何人もいた、ということは覚えているのですが、足元の作品はすっかり記憶から抜け落ちていました。
山田さんによれば「作家は、主に質素な素材に文字を刻んだ作品を制作。今回の作品は花崗岩で6つのブロックを制作し、文字を刻んだもの。作家の指示で、6つのブロックを吹き抜けの真下に、南北方向に並べて展示した。ブロックに刻まれた字はイタリア語で、訳すと《星々が1スパン近づくところ》になる。スパンとは古代ギリシアの長さの単位で、手の平を広げたときの親指の先から小指の先までの距離。この作品はブロックの厚さが25センチで、ブロックの上に立つとこの厚み分だけ星が近づく。「作品に触れないで下さい」という注意書きがあるので、作品の上に立つことはできないが、立ったと想像して宇宙の大きさを感じて欲しい。」とのことでした。
今回の展示では、企画展示室1は仕切りが全く無いというだけでなく、吹き抜けの周りの壁も撤去され、天窓からは自然光が降り注ぐようになっており、とても開放感のある空間となっているため、「原っぱの中に立っている」ような気持で作品を鑑賞することが出来ました。

◆頼 志盛(ライ・ヅーシャン)《境界 愛知》
 これは、地下の企画展示室3の空間すべてを使った作品で、ベニヤ板、軽量鉄骨の切れ端やペンキの空き缶などが散乱した床を白い壁が取り囲み、その壁に地上1メートルくらいの高さの狭い通路が取り付けられているというものです。ギャラリートークの前に見たときは、親子連れがその狭い通路を蟹の横這いのように歩いていたのが楽しそうで、その後に着いて歩きました。小学校の遊具みたいだな、という印象でした。
 山田さんによれば「英語の題名は《Border_Aichi》。Borderは境界というよりもフチ(縁)と訳したほうが英語の題名に近いと思う。床に散らばっているのは、この作品の壁や縁を作るのに使った建築資材。作品完成後、廃材となった中から、作家が一つひとつ選んで来て、床に並べたもの。リヨンでは120センチメートルの高さに縁を付けたが、名古屋市美術館では1メートルの高さ。何故か?それは、建築基準法の規定では、高さ1メートルを超える通路には手すりを設置しなければならないから。この作品で手すりを付けたら、全く意味ないよね。」とのこと。
 「参加型の作品」というので、ギャラリートーク参加者は自己責任で縁に上って行きました。上る人数が増えるに従い「40人近く上っても大丈夫か。縁が壊れることはないか。」と、皆が不安になりましたが、「縁は軽量鉄骨で出来ています。作品の壁と展示室の壁面との間には50センチメートルくらいの隙間があって、壁の向こうでしっかり支えているので、縁が落ちることはないです。」と、山田さんが言ってくれて、参加者一同、ほっとした次第です。この時、事務局の中村さんが縁に上がっている参加者の写真を撮影してくれました。

縁に立つ参加者たちーなかなか良い眺め

縁に立つ参加者たちーなかなか良い眺め


 ギャラリートークの前に縁を歩いたときは落ちないようにするだけで精一杯。作品を鑑賞する余裕は全くありませんでしたが、今回は、1メートルの高さから見たときの景色を楽しむことが出来ました。山田さんが「床に降りて、見上げてみても面白い。」というので、床に降りて縁の上にいる人たちを見上げると確かに全く違う景色で、作品を二度楽しめました。
「あいちトリエンナーレ2016では、この作家が一番大きいと感じる。」とは、山田さんの弁ですが、その通りだと思いましたね。
床は宝物でいっぱい(!?)

床は宝物でいっぱい(!?)


◆最後に
 今回のギャラリートークでは「現代美術の鑑賞には、見る側が想像力を働かせることが大事だ」ということを改めて感じました。名古屋市美術館に出品している11作家のうち3作家しか書けませんでしたが、他の作品も面白いですよ。会期は10月23日(日)まで
             Ron.

ポジション展ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

不思議な作品、見上げる会員たち

不思議な作品、見上げる会員たち


  今回のギャラリートークではこの展覧会自体が個性ある作家たちの作品展示ということでいろいろな種類のアートに触れることができた。従来のポジション展は絵画というか平面的な作品が多いのだが今回は針金、陶器、米粒、糸、紙などを使った立体的な作品が多く地元の作家たちの力作が並ぶものとなったと思う。自分たちでも購入できそうな作品も多く協力会のメンバーで購入した人もいるという話も聞く。日常生活にアート作品を持ち込むなんて素敵な選択だと思う。つい先日シャネル銀座のギャラリーでフランスの作家の作品を見てきたがあまり興味を抱かなかった。作家の意図はあるのだが日本人にはピンとこない。しかしこの展覧会では地元作家のセンスのよさがひかる。学芸員の中村さんによる話でさらに作品に対しての深い理解ができたと思う。
美しい雨の中にいるような作品

美しい雨の中にいるような作品



  水谷さんのかわいい猫たち、水野さんの蚊帳のある部屋の展示、中谷さんの提灯をつかった哲学的な作品、稲葉さんの糸を使用した鳥の巣、徳田さんの未来的なカップ、KIMさんの遊び心満載の作品、そして米山さんの自分の名にちなんで米粒にこだわるのかどうかわからないが米粒を使った大変な作業時間を要する作品、白居易の詩を使った作品など細かく丁寧に見れば見るほどいろいろな発見ができる展覧会である。まだ見ていない人たちにぜひ見てほしいと思う展覧会である。参加者は30人ほどであった。
                              谷口 信一
丸テーブルを囲んで

丸テーブルを囲んで

ポジション2016 作家を囲む会

カテゴリ:作家を囲む会 投稿者:editor

 新年おめでとうございます。本年も名古屋市美術館協力会をよろしくお願いいたします。

乾杯の音頭をとる佐々木会長

乾杯の音頭をとる佐々木会長


正月気分もまだ抜けきらない1月10日に、恒例の作家を囲む会が催されました。
今回の展覧会は、若手の作家を集めたポジション展。囲む会にもたくさんの作家さんが参加してくださいました。
普段、作家さんと話をする機会はなかなか持てません。しかしこの会では、作家さんと個人レベルの話をすることができるので、毎回楽しみです。

今回は2013年のトリエンナーレ出品作家でもある、米山より子さんとお話しさせていただきました。
彼女の作品は、絹糸にごはん粒を貼り付けて、まるでクリスタルのような輝きを生みだした糸を、何百本も吊るして幻想的な空間を作り出したインスタレーション。私も及ばずながら制作に加わらせていただいたので、ひと際思い入れのある作品でした。ご本人はとても気さくな方で、嬉しいことに私のことも覚えていてくださいました。また機会があればお手伝いさせていただきたいと思っています。

いつもながら、会員の皆さんが差し入れてくれる高級酒と、おはなカフェのお料理に大満足したひと時でした。
Izumin

今回も、おはなの伊藤さん手作りのお料理

今回も、おはなの伊藤さん手作りのお料理


おいしい料理に場も盛り上がります

おいしい料理に場も盛り上がります


作家のみなさんにもお話してもらいました

作家のみなさんにもお話してもらいました

「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」ギャラリートーク

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名古屋市美術館で開催中の「ラファエル前派展」(以下「本展」といいます。)のギャラリートークに参加しました。参加者は46名、解説は笠木日南子学芸員でした。
Ⅰ ヴィクトリア朝のロマン主義者たち
最初に出合うのはミレイ《いにしえの夢―浅瀬を渡るイサンプラス卿》。この絵は、緻密に描く所と荒い描写を使い分けることで主題を際立たせているとの解説でした。確かに遠景はout of focus いわゆる「ボケ」が効いており、前景の人物が鮮やかに浮かび上がっています。葡萄の彫刻で装飾された金色の額縁が豪華で、リバプールの産業資本家の財力を見せつけています。
同じくミレイ《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》は、精一杯のおしゃれをしていることを示すため、わざわざ「おろしたて」のしるしである折り皺をドレスに描いているとの解説で、戦場に出発する前の、短い時を惜しむように寄り添う男女の姿は映画の1シーンのようです。
ロッセティ《シビラ・パルミフェラ》は、理想的な女性を象徴的に描いたとのこと。華奢ではなく、骨太な感じのする女性なので、中村獅童の女形を連想してしまいます。
Ⅳ 19世紀後半の象徴主義者たち
Ⅰ章の次にⅣ章が続くという不思議な順序ですが、理由はバー=ジョーンズの《スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)》が大きすぎて、2階に運べなかったから。展示室の天井まで届く絵で、かなり後ろに下がらないと全体が見えません。花嫁の背景には擬人化した北風と南風が描かれていますが、ボッティチェリの名画《ヴィーナスの誕生》に着想を得たものとか。
ウォーターハウス《エコーとナルキッソス》は図録の解説に誤りがあり、画面右の水仙がナルキッソスの死の象徴であり、エコーが握るツタと黄色いアイリスが彼女の象徴との解説でした。
解説は無かったのですが、フォーテスク=ブリックデール《小さな召使(少女エレン)》の男装した少女の姿に惹かれました。
Ⅱ 古代世界を描いた画家たち
この章には女性のヌードがいくつもあります。解説では、ヴィクトリア朝の英国では古代ギリシア、古代ローマ帝国の女性ヌードを描くことが流行したとのこと。現代の女性のヌードは卑猥ですが、古代世界のヌードは「芸術である」と言い訳できたようです。なかでも、古代ローマの微温浴室に入浴する女性を描いた、タマデ《テピダリウム》は、男性の視線を十分に意識した作品です。タマデはこのような作品を描くことで成功した画家、との解説がありました。解説はありませんでしたが、アパリー《プロクリスの死》も横たわった女性が官能的です。
一方、ムーア《夏の夜》に描かれたのは古代ギリシア彫刻のような女性で、タマデと違い官能性は無く、絵には日本的なモチーフも描かれているとのこと。淡い色彩で、黄色が印象的です。海の夜景に懐かしさを感じてしまうのは、何故でしょうか。
Ⅲ  戸外の情景
最後の作品がハント《イタリアの子ども(藁を編むトスカーナの少女》で、「もう帰ってしまうのですか。もう少し見て行って。」と話しかけているようです。ハントには良心の目覚めなど宗教的主題のものが多く、この絵は「ハントらしくない主題」とのこと。
最後に
「自然に忠実に」をモットーにしたと言われるとおり人物も風景も写実的な描写で、素直に絵の世界に入っていけます。チラシのとおり「豊かな物語性を孕み、想像力を喚起」される作品ばかり。笠木さんによれば、ほとんどが日本初公開ではないかとのこと。会期は12月13日まで。
Ron.

解説してくださった笠木日南子学芸員

解説してくださった笠木日南子学芸員

「画家たちと戦争:展」ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor


名古屋市美術館で開催中の「画家たちと戦争:展」(以下「本展」といいます。)のギャラリートークに参加しました。本展は、14人の画家たちの戦前、戦中、戦後の作品の変遷を見ることで、彼らが戦争を「いかにして生きぬいたのか」を検証しようとするものです。当日の参加者は43名。山田学芸課長(以下「山田さん」といいます。)のトークは、通常の時間大きく超え2時間半に及びました。
◆当日は12人の画家の作品を鑑賞しました
日本画と版画は展示できる期間が短いため、14人の画家のうち横山大観、恩地孝四郎は前期(7/18~8/23)のみ、福田豊四郎、吉岡堅二は後期(8/25~9/23)のみの展示です。全部見ようと思ったら、後期も来ないといけませんね。
◆山田さんいわく「今回の主役は松本俊介」
 本展では一人の作家につき9点の作品を取り上げていますが、松本俊介だけは11点。なかでも、本展のポスターなどに使われている《立てる像》からは画家の覚悟が感じられ、これだけでも見に来た価値があります。《街》の青色も良かった。
◆藤田嗣治は「猫」に注目
 山田さんによれば「藤田嗣治は質・量ともに最大の戦争画家で、その作品は前期と後期に分かれる。前期は従軍時の見聞をもとに描いたもの。後期は負け戦で現地に行ける状況ではないため、新聞記事や資料をもとに想像で描いたもの。」とのことです。本展では前期最後の作品《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》が展示されており、その大きさと描写力に圧倒されます。後期の代表作は《アッツ島玉砕》(展示なし)で、その原点が《猫「争闘」》(参考図版を展示)とのこと。牙をむいて争う猫に残忍な本性が見えます。藤田の猫の絵は、他にも多数展示。
◆答えに窮する、北脇昇の《クォ・ヴァディス》
 この絵の前で、山田さんは「左は行進する民衆たち、右は嵐の中の荒廃した街。どちらに進むのか聞かれているのは、絵を見ているあなたですよ。どう答えますか。」と聞いたのです。私は「うっ。」というばかりで、答えに窮しましたね。
◆穏やかな作風の岡鹿之助にも戦争の影響があった
 地下の常設展示室3は、岡鹿之助と宮本三郎の展示です。なかでも岡鹿之助は風景画と静物画ばかりで戦争とは無関係に見えます。しかし、山田さんによれば「戦中の作品は色がくすみ、もとの色彩が戻るのは戦後しばらくしてから。」とのこと。良く見ると、その通りです。戦争の影響の大きさを感じました。
◆見逃せない展覧会
残念ながら余白が僅かなのでこれで最後にしますが、本展は見逃せません。理由は二つ。一つは、各作家の代表作がこれだけ集まっている展覧会は滅多にないから。もう一つは、戦後70年に当たり、過去を振り返り、未来を展望するヒントを与えてくれる作品が展示されているからです。            Ron.

画家たちと戦争展ギャラリートーク

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor


 7月20日月曜日、昼間は茹だるような暑さのなか会員44名が集まり、戦後70年に合わせて企画された特別展覧会「画家たちと戦争展」のギャラリートークが行われました。
 画家たちが、どのように悲惨な先の大戦前後を生き抜いたのか、14人の作家にスポットを当てて展覧会を構成しています(入れ替えがあるため、現在は12人の作品) ひとりずつ個々に、戦前、戦中、戦後の作品を並べて、どのような変化が見られたか、または変化が無かったか、どうしてそのようになったのか、を担当の山田学芸課長から解説を受けました。
 考えてみると、14名の作家はみな著名な作家であり、展示作品のなかには以前にみたことのある作品も多数含まれていましたが、戦争を境に区切ってその作風などを分析してみたことは無く、こうして比較すると戦争が画家たちに及ぼした影響は大きいことに気づきました。
 出品作家は日本を代表する素晴らしい作家たちですし、作品も傑作力作が集まっており、一時にこれだけの作品を見られるのは本当に贅沢です。是非、作品のパワーを感じながら、戦争の恐ろしさ、平和の大切さをこの機会に考えてみて欲しいです。

展覧会を企画した山田学芸課長さん

展覧会を企画した山田学芸課長さん

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