はじめに
愛知県陶磁美術館(以下、愛陶)で、全国の須恵器の名品を集めた展覧会が始まった。本展で紹介される須恵器とは、1600年以上前の古墳時代に生まれた“やきもの”。それまでの土器に比べ、穴窯を使い、高温で焼くことで、丈夫で水漏れしにくいことが特徴。

須恵器の分布や形状の変化をたどると、当時の東アジアとの交流や日本の文化や美意識の変化をうかがうことができる。「やきもの」の殿堂、愛陶が見せる史上最大規模の須恵器展、これは見逃せない。
第1章 海を渡った技術と文化
須恵器の製法は、古墳時代の4世紀末から5世紀初頭に、朝鮮半島から伝来した。本章では、朝鮮半島で作られた「陶質土器」と日本列島で作られた「陶質土器=須恵器」を比較しながら、その類似点と相違点をわかりやすく展示している。
取っ手の付いた須恵器のカップを見ると、現在のマグカップのデザインとほぼ同じ。当時の人々が集まり、飲み物を入れたカップを手にして、談笑している様子を空想した。

第2章 造形のうつりかわり
須恵器の製法は、奈良・平安時代にかけ、日本列島に拡大した。その過程で、東アジアの国際情勢の変化や仏教文化の伝来・定着により、器としての形は様々に変化する。
本章では、5~9世紀の須恵器の変遷を九州、近畿、東海、関東で比較し、紹介している。展示された器だけでなく、愛知、岐阜をはじめ、各地に残る古窯とその規模にも驚かされる。

第3章 ハレのうつわ~古墳時代の祭り~
生活の道具としての用途以外に、儀礼や祭礼のための道具として作られた須恵器のことを、装飾須恵器、特殊須恵器と呼ぶ。その造形は、とても奇妙で複雑だ。例えば、大きな壺の肩の部分に小型の壺をたくさん載せたもの、蓋の持ち手の部分に鳥の造形を施したものなど。どちらも、使い勝手の良さを求めない、ユーモラスな形状をしている。作り手の豊かな創造力が存分に発揮されており、見ていて楽しい展示だ。

おわりに
多様な造形の変遷を見せる須恵器の数々を見ていて、ふと、ガラスや金属などで作られた同形状の器が、身の回りにあることに気がついた。これらの器の中には、須恵器がルーツになったものもあるだろうと思うと、須恵器に親近感がわいた。
多数の展示物と、わかりやすいキャプションで、須恵器の歴史を見ることができる展覧会だった。
杉山 博之































