ラインハード・ポーズ BILDER 1979-2024

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「ラインハード・ポーズ BILDER 1979-2024」展を見る機会があった。「BILDER」とは、絵画、写真を意味するドイツ語だ。本展は作家にとってアジア初の個展であり、1979年から2025年の間に制作された15点の絵画が展示されている。展示は2フロアに分かれ、それぞれで雰囲気の異なる作品が展示されている。

1階の展示室には、明るい色彩の抽象絵画が並ぶ。ジャン=ミシェル・バスキアの描くストリート風の作品に近い印象だ。画面に言葉(英字)が描かれたものも見受けられる。ほとんどの作品は2020年以降の制作だ。作家は1951年生まれなので、現在は70歳を超えているが、制作意欲は旺盛だ。

展示風景 左から≪Happy Hour Ⅱ≫ 2023、≪Happy Hour≫ 2023、≪Untitled≫ 2024

地下の展示は、作品の雰囲気が一変。≪Licht Jain≫は、画面全体が黒っぽく、激しい筆跡が残る。時代背景を考えると、1989年にはベルリンの壁が崩壊し、ヨーロッパに明るい希望と社会的な混乱が到来した。作品には、当時の独特な空気感が塗りこめられているのだろうか。見ていると、暗闇の中で光(Licht)を求め、苦悩する孤独を感じた。

展示風景 ≪Licht Jain≫ 1991

作家は1990年代半ば以降の数十年間、公のアートシーンから遠ざかっていたそうだ。時間的な隔たりがありながら、エネルギーにあふれる作品を見ることができた。

展覧会名 ラインハード・ポーズ BILDER 1979-2024
会期 2026年1月24日から3月7日
会場 ファーガス・マカフリー東京

杉山 博之

六本木クロッシング2025展 時間は過ぎ去る わたしたちは永遠

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「六本木クロッシング展」は、森美術館が3年ごとに開催している現代美術展だ。今回のテーマは、サブタイトルにもある「時間」。参加するのは、日本で活動している、もしくは日本にルーツを持つアーティスト、全21組。目に見えない「時間」を、どのように表現したのか、気になるものを数点、紹介しよう。

A.A.Murakami ≪水中の月≫

暗い展示室で白く光る作品が神秘的。作品の先端で膨らんだ光のボールは、水(?)を湛えた台の上に落ち、コロコロと転がり、弾ける。光のボールが出てくる様子は生命の誕生を連想させ、弾ける様子は生命の終焉を連想させる。個々の光のボールが存在する「時間」は短いが、間断なく生成される光のボールは、現在から未来へ続く長い「時間」を予感させる。

展示風景 A.A.Murakami ≪水中の月≫(部分) 2025

和田礼治郎 ≪MITTAG≫

斜めに置かれた四角形の作品は、上部が透明で下部は琥珀色。作品を見る目線の高さにより、琥珀色の水平線と窓の外の地平線との重なり方が変わる。ベンチに座ると、市街地のビル群が琥珀色に染まる。聞くところによると、琥珀色の部分は作品に注がれたブランデーの色らしい。作品を見ているだけで酔っ払いそうだ。

展示風景 和田礼治郎 ≪MITTAG≫ 2025

窓から差し込む陽光が、室内の床や壁を琥珀色に染める。よく見るとブランデーを入れた四角形の部分を支えている台は、ブドウの木をかたどっている。ブドウからブランデーができる時間、都市が発展していく時間、いろいろな時間のスピードを感じる。もし、窓の外から室内を眺めることができるなら、琥珀色に染まった観客がフワフワと揺らめいて見えるのだろうか。

展示風景 和田礼治郎 ≪MITTAG≫ 2025

その他に気になった作品として、北澤潤の≪フラジャイル・ギフト・ファクトリー≫と、ズガ・コーサクとクリ・エイトの≪地下鉄出口 1a≫、≪地下鉄出口 2≫を挙げておこう。北澤は、第二次世界大戦で日本軍が使っていた戦闘機「隼」(ハヤブサ)をモデルにして、原寸大の凧を制作した。ズガ・コーサクとクリ・エイトは、最寄りの地下鉄の駅の出口を段ボールで原寸大に再現した。北澤は、第二次世界大戦から現代までの時間を、ズガ・コーサクとクリ・エイトは、通勤通学などの日常の時間を表現したのだろう。

現代を基準にして、時間の物差しの距離感は様々だが、多様な質感の時間を意識させてくれる展示だった。

展示風景 北澤潤 ≪フラジャイル・ギフト・ファクトリー≫(部分) 2025
展示風景 ズガ・コーサクとクリ・エイト ≪地下鉄出口 1a≫(部分) 2025
展覧会名 六本木クロッシング2025展 時間は過ぎ去る わたしたちは永遠
会期 2025年12月3日から2026年3月29日
会場 森美術館

杉山 博之

アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち

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アルフレド・ジャーは、南米チリ出身で、ニューヨークを拠点に国際的に活躍しているアーティスト。彼の作品は、写真、映像、大型のインスタレーションが特徴的だ。

彼の作品は、時々の社会情勢を取り込み、様々な悲劇を取り上げ、作品を見る人々に静かに、深く考えることを促す。そこには、単純な善悪で割り切れない、遠い世界の他人ごとでは済まない出来事が、とても詩的な表現で提示されている。

会場入口

≪あなたと私、そして世界のすべての人たち≫

展覧会のタイトルにもなっている≪あなたと私、そして世界のすべての人たち≫は、ガラスと鏡で構成された3個の立方体だ。作品の周りを歩くと、他の作品や観客が立方体に映りこみ、自分を取り巻く室内の様子や、それぞれの距離感が様々に変化する。奥側の壁面に展示された≪彼らにも考えがある≫と重ねて見ると、異なる価値観を持つ他者の存在を強く意識させられる。

展示風景 手前 ≪あなたと私、そして世界のすべての人たち≫ 2020、奥側 ≪彼らにも考えがある≫ 2012

≪エウロパ≫

その他にも、鏡を印象的に使った作品がある。≪エウロパ≫は、炎を写したライトボックスと、その背後に並んだ多数の鏡で構成される。炎の裏側にもイメージが展示されているが、そのイメージは隠され、直接見ることができない。よく見ること、見ようとすることの困難さと、隠されがちな真実の存在の暗喩だろうか。

展示風景 ≪エウロパ≫ (部分)1994

≪写真はとるのではない。つくるものだ。≫

展示室入口のすぐ横に大判のポスターが積み上げられている。白地に黒い文字で大きくメッセージが印刷されている。英語で「写真はとるのではない。つくるものだ。」と書かれたこのポスターは、一枚ずつ、持ち帰りできる。

展示風景 ≪写真はとるのではない。つくるものだ。≫ 2013

ここで、本展で見た作品のことを思い返してほしい。世界の出来事は、お互いに鏡写しになりながら、様々に影響しあっていることを。

展覧会名 アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち
会期 2026年1月21日から3月29日
会場 東京オペラシティ アートギャラリー

杉山 博之

This is SUEKI -古代のカタチ、無限大!

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はじめに

愛知県陶磁美術館(以下、愛陶)で、全国の須恵器の名品を集めた展覧会が始まった。本展で紹介される須恵器とは、1600年以上前の古墳時代に生まれた“やきもの”。それまでの土器に比べ、穴窯を使い、高温で焼くことで、丈夫で水漏れしにくいことが特徴。

会場入口

須恵器の分布や形状の変化をたどると、当時の東アジアとの交流や日本の文化や美意識の変化をうかがうことができる。「やきもの」の殿堂、愛陶が見せる史上最大規模の須恵器展、これは見逃せない。

第1章 海を渡った技術と文化

須恵器の製法は、古墳時代の4世紀末から5世紀初頭に、朝鮮半島から伝来した。本章では、朝鮮半島で作られた「陶質土器」と日本列島で作られた「陶質土器=須恵器」を比較しながら、その類似点と相違点をわかりやすく展示している。

取っ手の付いた須恵器のカップを見ると、現在のマグカップのデザインとほぼ同じ。当時の人々が集まり、飲み物を入れたカップを手にして、談笑している様子を空想した。

展示風景

第2章 造形のうつりかわり

須恵器の製法は、奈良・平安時代にかけ、日本列島に拡大した。その過程で、東アジアの国際情勢の変化や仏教文化の伝来・定着により、器としての形は様々に変化する。

本章では、5~9世紀の須恵器の変遷を九州、近畿、東海、関東で比較し、紹介している。展示された器だけでなく、愛知、岐阜をはじめ、各地に残る古窯とその規模にも驚かされる。

展示風景

第3章 ハレのうつわ~古墳時代の祭り~

生活の道具としての用途以外に、儀礼や祭礼のための道具として作られた須恵器のことを、装飾須恵器、特殊須恵器と呼ぶ。その造形は、とても奇妙で複雑だ。例えば、大きな壺の肩の部分に小型の壺をたくさん載せたもの、蓋の持ち手の部分に鳥の造形を施したものなど。どちらも、使い勝手の良さを求めない、ユーモラスな形状をしている。作り手の豊かな創造力が存分に発揮されており、見ていて楽しい展示だ。

展示風景

おわりに

多様な造形の変遷を見せる須恵器の数々を見ていて、ふと、ガラスや金属などで作られた同形状の器が、身の回りにあることに気がついた。これらの器の中には、須恵器がルーツになったものもあるだろうと思うと、須恵器に親近感がわいた。

多数の展示物と、わかりやすいキャプションで、須恵器の歴史を見ることができる展覧会だった。

杉山 博之

オディロン・ルドン 夢の交叉

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オディロン・ルドンは、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、フランスを中心に活躍した幻想的な作風で知られる近代絵画の巨匠。そのオディロン・ルドンの展覧会が、名古屋のヤマザキマザック美術館で開催中。会期は、前期が12月21日まで、後期は12月24日から2026年2月23日まで。

展示室入口

黒と白の世界

オディロン・ルドンの初めての石版画集『夢の中で』から最後の『ヨハネ黙示録』まで、彼の代名詞ともいえるモノトーンの幻想的な世界が広がる。とはいえ、近くで見ると不気味な作品が多い。アニメ映画に登場する魔物のように描かれていない分、その不気味さには深みと強さがある。

展示風景

色彩の世界

花瓶に生けられた色とりどりの花々の作品が観客を出迎える。作品のサイズも大きすぎることなく、大作を前にしたときの圧迫感がない。水色系の壁面の色合いと調和し、とても落ち着いた印象を受ける。

展示風景

美術批評

オディロン・ルドンは同時代の作家について、多くの批評を残した。好意的なもの、批判的なものを取り混ぜ、現代でも有名な作家もいれば、時代に埋もれた作家も含まれる。また、批評したジャンルも絵画だけでなく彫刻も含むなど、とても幅が広い。オディロン・ルドンの批評の目を通し、当時の美術界の動向を垣間見る趣向だ。

展示風景

おわりに

ヤマザキマザック美術館が所蔵するフランス美術のコレクション展と一緒に、19世紀末の幻想的で少しグロテスクなオディロン・ルドンの世界を楽しんではいかが。なお、展覧会の会期中に講演会やナイトミュージアム(演奏会)も開催される。

杉山博之

アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦

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豊田市美術館で、「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」を見た。

展示されているのは、以下の女性作家14名による約120点の現代美術の作品群。赤穴桂子、芥川(間所)紗織、榎本和子、江見絹子、草間彌生、白髪富士子、多田美波、田中敦子、田中田鶴子、田部光子、福島秀子、宮脇愛子、毛利眞美、山崎つる子。

美術館入口

展示室にて

最初の展示室は、「始まりと終わりの部屋」と名付けられ、作家ごとに1点ずつ、全部で14点の作品が展示されている。作品リストを見ると、この部屋の作品を見た後に大きな展示室を見るように促されている。最初に、それぞれの作家の作品を一覧し、展示全体の雰囲気をつかむという配慮なのだろう。

展示風景 始まりと終わりの部屋

芥川(間所)紗織

芥川(間所)紗織の「女シリーズ」、「神話・民話シリーズ」が展示されている。彼女の作品は、染色技法で制作され、絵画とは違う色の滲み具合や平坦さ、モチーフとなる人物のとらえ方に特徴がある。

展示風景 芥川(間所)紗織

白髪富士子

不規則な曲線で左右に分割された、長くて白い木製の板が、斜めに置かれている。見ていると、のこぎりを使うときの彼女の息遣いが目に浮かぶ。また、木製の作品の後ろ側の絵画を見ると、画面の所々に割られたガラスが接着され、レリーフのように盛り上がっている。はたして、これらの作品は彫刻なのか、絵画なのか、不思議な印象だ。

展示風景 白髪富士子

田部光子

半球状の突起が円形にならび、その周囲を尖った花弁の模様が取り巻いている。よく見ると、小さな半球は半分に割ったピンポン玉で、花弁はアイロンの焦げ跡のようだ。彼女は、前衛美術集団〈九州派〉の主要なメンバーのひとりであり、フェミニズム的な問題意識を表現してきた作家。大量のアイロンの焦げ跡や、卵の殻のようなピンポン玉は、日々繰り返される女性の家事を暗示しているかのようだ。

展示風景 田部光子

山崎つる子

メタリックな銀色に光る立体作品は、作品の前を横切る観客の姿を映し込み、また、床に置かれた照明に照らされ、様々に表面の模様が変化する。その隣には、赤、青、黄のカラフルさで目を引く絵画作品が置かれている。どちらも彼女の作品だが、作品の示す方向性には、明確な差異が見て取れる。

展示風景 山崎つる子

本展では時代ごとや作家ごとの章立てをしていない。また、展示壁にも視線を遮らない工夫が見て取れ、大きな展示空間を見通し良く使っている。おかげで、展示室がすっきりと鑑賞しやすい空間になっていた。

展示風景 

本展は、中嶋泉著『アンチ・アクション─日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019 年、第42 回サントリー学芸賞受賞)で提示された問題意識から出発している。

コレクション展

開館30周年記念コレクション展「VISION 星と星図 第2期 星図Ⅱ:独りと、集団と」が開催されている。展覧会を見ると、たびたび思うことがある。それは、「サイズの大きな作品を適切な状態で鑑賞するには、それに見合う大きな展示室が必要」ということだ。本コレクション展に出品されている村岡三郎の作品のように大きな作品を展示できる美術館は貴重。ぜひ実物を見てほしい。

展示風景 

迎英里子の新作インスタレーションも展示されている。今回は、パソコンやスマホなどに使われるメモリーにちなむ作品だ。スマホの内部構造の写真に比べ、ずいぶんとアナログな印象だが、きちんと機能するとのこと。

展示風景 迎英里子

杉山博之

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