「ゴッホ展 ― 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」への期待

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 先日「ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(以下「ゴッホ展」)の特設サイト(https://gogh-2021.jp/comp.html)が更新され、ゴッホ展の構成や出品される作品の一部が公開されました。そして、DVDで見た映画「ヘレーネとゴッホの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝」(以下「映画」)の記憶が甦って来ました。

1 ヘレーネ・クレラー=ミュラーに光が当たる

映画は、ゴッホ作品の収集家でクレラー=ミュラー美術館の創立者ヘレーネ・クレラー=ミュラー(以下「ヘレーネ」)に光を当てていましたが、ゴッホ展でも独立した「章」があるとのことです。映画だと、資金不足で美術館の建築現場が閉鎖された後の話は「結局、公共の美術館にするという条件で規模を縮小して国が建設した」という簡単なもので、モヤモヤが残りました。ゴッホ展ではヘレーネについてどんな展示があるのか、楽しみです。ヘレーネについて、もっと知ることができるのではないかと期待しています。

2 モンドリアンの作品も出品される

映画では、ヘレーネのコレクションについて「ファン・ゴッホのほか、モンドリアン、ピカソ、レジェなど、多数ある」と言っていましたが、ゴッホ展ではモンドリアン《グリッドのあるコンポジション5:菱形、色彩のコンポジション》が出品されるとのことです。「菱形の作品」というのは珍しいですね。他にも、ルノワールやスーラなどの作品が出品されるようです。

3 オランダ時代の素描が多数出品される

映画では、「ファン・ゴッホの手紙」の編集者が、ゴッホについて「彼は2人分の芸術家なんだ。優れた画家で、天才的な素描家でもあった」と言っていたのが印象的でした。ゴッホ展では「素描家ファン・ゴッホ、オランダ時代」という独立した「章」があります。素描は20点ほど出品されるとのことなので、楽しみです。

4 映画で紹介された作品も多数出品される

特設サイトを見て甦った映画の記憶は、何といっても《レストランの内部》や《夜のプロヴァンスの田舎道》などについて熱く語っていたマルコ・ゴルディン(イタリアで開催された ”Van Gogh – Tra il grano e il Cielo”=「ファン・ゴッホ 小麦と空の間」展のキュレーター)の姿です。「本物が見たい」と、強く思いました。来年になれば、それらの作品が名古屋市美術館に来るのです。今からワクワクします。

最後に

ゴッホ展では《黄色い家(通り)》を始めとしたファン・ゴッホ美術館のコレクションも、4点出品されるとのことなので、こちらも楽しみです。

Ron.

読書ノート「名画レントゲン」(20)秋田麻早子(週刊文春2021年9月2日号)

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◆ 堅実な人生を土台にした古き良き思い出  グランマ・モーゼス「美しき世界」(1948)

名画レントゲン(20)は、名古屋市美術館で開催中の「グランマ・モーゼス展」(以下「本展」)に出品されている《美しき世界》を取り上げています。以下は、記事の抜粋です。

〈通称グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)で知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは、80歳代で売れっ子の画家になった物語がひとり歩きしがちですが、彼女の作品はそんな背景を知らなくても魅力あふれるもの。(略)モーゼスはドラッグストアで自作のジャムや漬物と一緒に絵も売り物として並べていました。でも売れるのはジャムや漬物だけの日々でしたが、モーゼスが78歳になる1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げたのが事の始まり。そこからカルドアが奔走し、画商O・カリア、IBM創業者T・J・ワトソンらモーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました。(略)モーゼスの人気が高まる時期は、アメリカが1929年からの世界恐慌から立ち直り、第二次世界大戦が勃発し参戦していくときで、古き良きアメリカが少しずつ変化していくときでもありました。モーゼスは自分が経験したことの記憶から絵を作り上げ、電柱などの現代的なものは意図的に省いています。細部を描きつつシンプルな画風だからこそ、人々は彼女の絵に思い出を重ねて見ることができます。それは描かれた思い出の美しさの土台に、モーゼスという人が一歩ずつ堅実に踏みしめてきたリアルな人生があるからこそです。(略)モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです。〉引用終り

◆ 協力会向け解説会(2021.07.25)の思い出など

 引用した記事の内容は、協力会向け解説会でも聞きました。《美しき世界》について、井口智子学芸課長は「『どんな絵がいちばん好きですか?』とインタヴューで聞かれた時、『きれいな絵』と答えています」と、紹介しています。展示室で作品と向かい合った時、記事のとおり〈思い出と希望がわき起こってくる〉感じがしました。解説会に参加した協力会員も、同じ感覚を覚えたようで「展覧会に来てよかった」と感想を漏らしていました。

 解説会では値段を聞き漏らしたのですが、<1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げた〉というのは、すごい話ですね。日本円に換算すると一枚数千円です。タダに近い値段で買い上げられても、〈モーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました〉というのは、まさにシンデレラ。「アメリカン・ドリーム」の体現です。

 記事は〈モーゼスはドラッグストアで自作のジャム〉を売っていたと書いていますが、解説会では「アップル・バター」の紹介がありました。アップル・バターはリンゴだけを煮つめて作ったペーストです。ジャムの仲間ですが、雰囲気は日本の「あんこ」でした。ドラッグストアで売っていたのは、アップル・バターだったかもしれないですね。

 本展の会期は9月5日(日)まで、会期末が迫っています。再度引用しますが〈モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです〉とのこと、お見逃しなく。

 Ron.

展覧会見てある記「ANIMALS 2021 IN TOYOHASHI三沢厚彦」豊橋市美術博物館

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豊橋市美術博物館で開催中の「ANIMALS 2021 in TOYOHASHI 三沢厚彦」(以下「本展」)を見てきました。皆さんお馴染みのクマ、ライオン等の大型動物の木彫作品だけでなく、ヤモリ等の小型動物や抽象彫刻、油彩も出品されています。夏休み中なので家族連れが多く、子どもたちが作品を楽しんでいる様子を見て頬が緩みました。子どもたちの良い思い出になると、いいですね。

Ⅰ BEARS(第1会場=第1企画展示室)← 撮影可能

 第1会場に出品されているのは、全てクマ。白、黒、茶色と色も様々で、寝転んでいるクマもいます。彫刻だけでなく、パネルに描かれたクマもいます。どのクマも「猛獣」という雰囲気はなく、「クマのプーさん」や「パディントン・ベア」のような愛嬌があります。動物園の生きているクマとは違い、人間みたいな雰囲気も持っているので安心して鑑賞できるのでしょう。

Ⅱ 動物大行進(第2会場=第2企画展示室)← 撮影不可

 第2会場では、入口から出口に向かってゾウ・キリンからネコ・ウサギに至るまで大小の動物が並んで行進していました。壁にはテナガザルがぶら下がっています。パネルも多数飾られて壮観ですが、残念ながら撮影不可。動物がひしめき合っているので、写真撮影を許可すると、接触事故があってもおかしくないと感じました。

北ラウンジ ← 撮影可能

ユニコーン、フェニックス、ミミズク
ミミズク

 普段は三沢厚彦のウサギを展示している北ラウンジには、ユニコーン、フェニックスとミミズクを展示。茶色のクマと追い出されたウサギは、ラウンジの外からこちらを見ていました。

Ⅲ 過去×現在(第3会場=特別展示室)← 撮影可能

 会場に入ると、サメが大きな口を開けています。その奥にはカラフルなヒトウマ。ここには初期の《彫刻家の棚(画家へのオマージュ)》から最近の抽象彫刻までが出品されており、作品点数が一番多い部屋です。ミミズクやネコなどの小動物の彫刻が多数展示され、カーペットの上には、豊橋公園で拾った石に着色した、見落としてしまうほど小さなウサギもいました。小さなウサギのことは、案内の女性が教えてくれた話。出品リストには掲載されていません。

Ⅳ ホワイトアニマル他(第4会場=第3企画展示室)← 撮影可能

カモシカ、アイベックス

 第4展示室ではライオン、カモシカとアイベックスが目を引き、第5展示室では空想上の動物であるキメラ(有翼で、尻尾はヘビ)と麒麟の存在感が圧倒的です。

キメラ
後ろ姿

◆最後に

本年9月18日に名古屋市美術館で開会する「フランソワ・ポンポン展 動物を愛した彫刻家」も、本展と同じく動物彫刻の展覧会です。チラシには〈ポンポンは入念な観察にもとづいて、動物の体つきや動きの核心をつかみ、形を磨き上げることでその魅力を引き出しました〉と書いてあります。チラシに印刷されている《シロクマ》や《大黒豹》は、シンプルなのに今にも動き出しそうな感じです。これに対して、三沢厚彦の動物彫刻は、我々が持っている動物のイメージを形にした作品。ポンポンとは対照的な作風ですね。作風の違う二人の作家の展覧会を続けて鑑賞できるという機会は、滅多にありません。「フランソワ・ポンポン展」の開会が、今から楽しみです。

Ron.

展覧会見てある記 名古屋市美術館「名品コレクション展 1(前期)」

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名古屋市美術館で開催中の「グランマ・モーゼス展」を見た後、地下1階に降りて「名品コレクション展」を見てきました。その中で目を引いたのが「現代の美術」に出品されていた、三木富雄《耳》(1972)です。名古屋ボストン美術館・館長を務められた馬場駿吉氏所蔵の、アルミ合金で出来た手のひらサイズの「耳」の彫刻を展覧会で見た記憶はあるのですが、名古屋市美術館で大きなサイズの彫刻を見るのは初めてでした。美術館の人に聞くと「前にも展示したことがありますよ」との返事。ネットで調べると、2012年の「名品コレクション展Ⅰ(前期)」(4/7~5/20)に出品された記録があります。そうすると「田渕俊夫展」のときに見たはずなのですが、全く記憶にありません。当時は、三木富雄《耳》に対する関心が無かったということですね。

◆ 今回、《耳》に目が止まった理由は

2012年の展示を見たはずなのに記憶がなく、今回になって惹きつけられたのは何故か?それは、現代美術作家・杉本博司氏(NHK大河ドラマ「青天を衝け」の題字を書いています)の「私の履歴書」(2020年7月に日本経済新聞へ連載)を読んだからです。杉本博司氏は1970年代半ばにニューヨークに移り住み、篠原有司男、オノ・ヨーコ、荒川修作、河原温などの作家と交流しますが、一番親しくなったのが三木富雄でした。「私の履歴書」第12回は、次のように書いています。

〈三木富雄は「耳の三木」と呼ばれ、耳の彫刻をアルミで作っていた。「私が耳を選んだのではない、耳が私を選んだのだ」。これは当時語り草になった。(略)三木が帰国するまでの1年間、多くの時を共に過ごした。(略)三木は私に、「僕は粘土で耳を作りながら壊していく。その過程を写真に撮ってくれ」という。(略)私は意気投合して撮影したが、この作品が後に思わぬ展開を生むことになる。〉(引用終り)

「私の履歴書」第16回の概要は、以下のとおりです。

〈1977年1月、長男の慧が生まれた。(略)私は5年ぶりに、妻と初孫の顔を両親に見せるためもあって帰国した。(略)三木富雄は先に帰国していて、私との共同制作作品を、南画廊の志水楠男氏に見せて、展覧会の開催を迫っていた。(略)ところが志水さんは、記念写真だけで売り物のない展覧会はできないと突っぱねたのだ。失意の三木富雄は、それでも私の帰国に合わせて志水さんを訪ねるよう約束を取ってくれた。私は白熊のシリーズと映画館の新作を大きなポートフォリオケースに入れて、南画廊に持ち込んだ。中に入ると志水さんと美術家のリー・ウーファン氏が歓談していた。(略)1作品ずつゆっくりと、志水さんは魅入られるように見た。私の説明を聞きながら、志水さんの顔が上気してくるのがわかった。(略)19作品を見終わると、志水さんはおもむろに手帳を広げた。いつ展覧会を開こうかというのだ。ちょうど2週間後に2週間の空きがある。カタログも作ろう、というのだ。驚いたのはリーさんと私だった。(略)三木富雄が会場に顔を出すことはなかった。そして8カ月後、京都で急死した。その死はジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスのような、不摂生の極みによるものだった、享年41。私は大切な友人を失った。そしてその翌79年。今度は志水さんも他界してしまった。私は大切な画商を失った。〉(引用終り)

三木富雄氏の斡旋で杉本博司氏は現代美術家としてデビューするチャンスをつかんだ一方、三木氏富雄は展覧会が開催できず、京都で急死。二人の人生は、明暗が分かれてしまいました。

「私の履歴書」第16回を読み「グランマ・モーゼス展」の協力会向け解説会で聴いた話を思い出しました。グランマ・モーゼスも作品を置いていたドラッグ・ストアでアマチュアのコレクターに見出され、彼の仲介により画廊を経営するオットー・カリアーと出会うことで、画家のスタートを切りました。ベストセラーになった彼女の自伝『私の人生』もオットー・カリアーの勧めで出版したものです。画家が世に出るには、画商の存在が欠かせないということですね。蛇足ながら、ネットで調べたところ、馬場駿吉氏が三木富雄氏の耳の彫刻を買ったのも南画廊だったそうです。

Ron.

展覧会見てある記 「モンドリアン展」 豊田市美術館

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

豊田市美術館で開催中の「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」(以下「本展」)に行ってきました。会場は1階・展示室8。平日でしたが「入場者が多いな」と感じました。

◆ モンドリアン展 1F:展示室8

・ 印象派を思わせる風景画が並ぶ

モンドリアンといえば、中学校の美術で「風景画」から「抽象画」に画風が変化していく過程を教わった覚えがありますが、本展も「風景画」から始まります。モンドリアンの風景画は「精密描写」よりも「色面の組み合わせ」に関心があるようで、《干し物のある風景》(1897)を見ると、中央に描かれた、ロープに吊るされた白いシーツと屋根の赤、家の壁の茶色の対比が印象的です。本展には「枝を切り落とされた柳」を描いた作品が3点並んでいますが、何故かゴッホの絵を思い浮かべてしましました。

・ ルオーを思わせる肖像画2点と点描の風景画の数々

次の区画に入ると肖像画が2点。《少女の肖像》(1908)と《二人の肖像》(1908-09)ですが、ルオーのような神秘性を感じました。風景画は《ドンブルグの協会》(1909)や「砂丘」を描いた3点など、大きな斑点で描いた作品が並んでいます。ただ、《ドンブルグの協会塔》(1911)だと、背景は葉っぱを思わせる三角形や四角形の斑点で埋っていますが、ピンクの建物は点描ではなく、作風の変化を感じました。

・ キュビスム風の作品からコンポジションへ(撮影可能エリア)

細い通路を抜けると撮影可能エリアです。最初に並んでいるのはキュビスム風の《風景》(1912)と《女性の肖像》(1912)。それに続く《コンポジション 木々2》(1912-13)から数点は、画面の中に数多くの線が描かれたキュビスムの延長のような作品が並びます。次の《色面のコンポジション No.3》(1917)は色紙を切って貼り付けたような作品で、《大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション》(1921)に至って「モンドリアンらしい作品」になりました。雑誌『デ・ステイル』に参加したテオ・ファン・ドゥースブルフなどの幾何学的な抽象絵画も並んでおり、展示室はとてもカラフルでした。

・ ヘリット・トーマス・リートフェルトの作品も(撮影可能エリア)

撮影可能エリアには『デ・ステイル』に参加した建築家ヘリット・トーマス・リートフェルト(以下「リートフェルト」)が設計した「シュレーダー邸」のパネルと映像資料に加え、彼が設計した椅子4脚も展示されています。椅子は全て豊田市美術館所蔵で《アームチェア》(1919年頃)と《ジグザグ・チェア》(デザイン:1932-33年、制作:1950年)は、木目を生かした透明な塗料で仕上げたものです。シュレーダー邸の映像資料は短いものですが、チラッと写った《レッドアンドブルー ラウンジチェア》(上記の《アームチェア》を、モンドリアンの《コンポジション》のように赤、黄、黒、青色で塗り分けた椅子)が印象に残ったほか、横長の窓の開閉がスイング式(窓の右寄りに支点があり、窓の左側を外に押して開く開閉方式)なので「こんなに外に飛び出して、強い風が吹いたら大丈夫か」と心配になりました。

◆ コレクション ひとつの複数の世界 2F:展示室1

モンドリアン展を後にして、2階の展示室に入ると、抽象美術の後継者たちの作品が並んでいます。岡﨑乾二郎の「おかちまち」シリーズが5点、「かたがみのかたち」が2点。色紙を切って貼り付けたように見える杉戸洋《guadⅡ》(2009)は、モンドリアン展の延長のようです。展示室の中央には巨大な「メビウスの帯」とも言うべき、徳富満《2Ⅾ or not 2Ⅾ》。寺内曜子の立体作品も3点あります。高松次郎の《板の単体(青)》《板の単体(黒)》《板の単体(赤)》(いずれも1970)の色彩もモンドリアンを想起させます。田中敦子《Work1963》は、モンドリアンとは違い、円と曲線で構成された抽象画でした。

・ 寺内曜子 パンゲア 3F:展示室2

展示室2全部を使ったインスタレーションです。真っ白に塗られた展示室2の壁には水平に赤い線が引かれ、中央に四角柱が立っています。四角柱の上には小さな白い球体。近寄って見ると、球体の表面には細かなシワがあり、赤い線もみえます。この球体、どうやら紙を丸めたもののようです。

・ コレクション ひとつの複数の世界 3F:展示室3

展示室1の続きで、床にはカラフルなプラスチック容器の破片が敷き詰められています。トニー・クラッグ《スペクトラム》(1979)でした。その向こうには白い大理石で出来た長屋2棟の周りには白米が山並みのような形に盛られています。ヴォルフガング・ライブ《ライスハウス》(1996)でした。壁面には丸山直文《breeze of river2》(2009)、村瀬恭子《White Coat》(2009)、杉戸洋《Untitled》(2016)の3点を展示しています。

アームチェア

最初の展示は、高橋節郎が課題演習で描いた図面?ですが、抽象絵画のように見えました。展示室4の見ものだと思ったのは、椅子のコレクションです。マルセル・ブロイヤー《クラブチェア B3》の別名は「ワシリーチェア」。ワシリー・カンディンスキーが高く評価して注文リストの一番目に名前を描いてくれたことによるものとか(出典「もっと知りたいバウハウス」東京美術発行)。名古屋市美術館の地下1階ロビーには量産品が「休憩用」として置いてあり、入場者は誰でも座ることができます。オットー・ワーグナー《郵便貯金局証券取引所のアームチェア》(1918)は、クリムト関連の椅子。当然のことながら、クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》も展示されていました。フランク・ロイド・ライト設計の《アーヴェリー・クーンレイ邸の椅子》(制作・設計年不詳)やチャールズ・レニー《ヴィンディヒルのホールのハイバックチェア》(1901)などのほか、ブランクーシの抽象彫刻やジャン・アルプの抽象画(レリーフ?)、エゴン・シーレのポスターやココシュカの版画もありなど、密度の高い展示です。

・ コレクション 美術とデザイン 3F:展示室4

・ コレクション モンドリアンと同時代の日本美術 2F:展示室5

「モンドリアンと同時代」という切り口ですが、さすがに抽象画はありません。入口近くに展示されているのは豊田市出身で、主にロンドンで活動した画家・牧野義雄の《サーペンタイン橋から望むハイドパーク》(制作年不詳)と《倫敦空襲の図》(1940)。展示室の奥には岸田劉生の作品が並んでいます。《自画像》(1913)《横臥裸婦》(1913)《代々木風景》(1915)の3点でした。横井礼以《新緑の道》(1927)、熊谷守一《花飾りをつけた女》(1935頃)のほか、日本画では下村観山《美人と舎利》(1909)菱田春草《鹿》速水御舟《菊に猫》(1922)などが出品されています。抽象画ばかり見て来たので、ホッとしました。

・ コレクション 小堀四郎 宮脇晴・綾子 1F:展示室6・7

モンドリアン展の会場の隣では、定番のコレクションが展示されていました。「いつもの作家の作品が、いつもの所にある」というのは、心が癒されます。

◆ 特設フォトスポット 1F:ライブラリーの隣(無料エリア)

ジグザグ・チェア

1階ライブラリーの隣には「特設フォトスポット」が開設されていました。リートフェルトがデザインしたシュレーダー邸の写真をバックに《ジグザグ・チェア》と《レッドアンドブルー ラウンジチェア》が置かれ、椅子に座った姿を写真撮影することができます。「椅子に座るだけでなく、写真撮影もできる」というのは、楽しい企画ですね。しかも、無料エリアです。

◆ 最後に

モンドリアン展では、初期の風景画からコンポジションまでの作風の変遷を眺めることができたので、楽しく鑑賞することができました。雑誌『デ・ステイル』に参加した画家だけでなく、リートフェルトのシュレーダー邸や椅子の展示も面白いですよ。コレクション展もモンドリアン展と連動しており、特設フォトスポットもあるので、長時間楽しめます。特設フォトスポットは無料で、モンドリアン展の観覧券でコレクション展も鑑賞できますから、じっくりと時間をかけて美術館全部の展示を見ないと損、だと思います。いかがですか。

特設フォトスポット

Ron.

展覧会見てある記 豊橋市美術博物館「2021コレクション展 第2期」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

豊橋市美術博物館のコレクション展(2階 常設展示室 第2期)を見てきました。考古、歴史、陶磁、美術、民俗の5分野にまたがる展示でしたが、考古(考古資料から探るトヨハシの歴史)を除く4分野について、簡単にレポートします。

◆歴史 床の間動物園Ⅱ(2階 テーマ展示コーナー、第2展示室)

竹に虎図

 2階・通路沿いの「テーマ展示コーナー」には、4枚組の杉戸絵が2点。原田圭岳《鹿図》(1877)と《猿図》(1875)、大迫力です。第2展示室には同じ作者の杉戸絵《竹に虎図》(3枚組)もあります。いずれも豊橋市・石巻地区の宮司・佐藤為継が自宅を飾るために1875年から1881年にかけて描かせたもの、とのことです。

床の間動物園Ⅱでは、虎を描いた掛け軸や龍を描いた屏風、渡辺崋山が25歳のときに描いた写生帖などが展は示されています。いずれも江戸時代から大正時代に描かれたもので、武士や僧侶が描いた作品もあります。

◆陶磁 動物の模様と形(2階 第3展示室)

 《染付梅花文盃/染付梅花吹墨盃台》京焼の陶工永楽保全(1795-1854)の作品で、梅の花に梅の小枝を付けた小さな盃と小鳥が止まっている盃台のセット。デミタスカップとソーサーのように見えました。明治初期の薩摩焼《金襴手風俗草花文鶏頭付沈香壺》は、とても大きな香炉。豪華な伊万里焼の金襴手龍魚文盤もありました。

◆美術 動物集合!!(2階 第4展示室)

 最初に展示されていたのは筧忠治の描いた《猫(No.101)》(1982)と《ポニー4》(1990)。いずれも猫の絵です。北川民次《うさぎ》(1974)や中村正義が二羽の鶏を描いた《鳥》(1961)、中村岳陵《雙鶴》(大正後期)、牛が角で押し合う日本の闘牛を描いた大森運夫《闘牛祭》(1975)など、動物を描いた作品が並んでいます。

以上のほか《特別展示》「鈴木一正~動物と共に」と題して4点の作品も展示されていました。なかでも《共に》(2011)はカエル、ニホンザル、トラ、ウサギ、ゾウ、シロクマ、シマウマ、ウマ、サル(ハヌマンラグーン?)を描いた大きな作品です。

◆民俗 郷土玩具にみる動物たち(2階 第5展示室)

土人形 織田信長

 土人形では、愛知県・大浜(現:碧南市)の《織田信長(桶狭間)》や豊橋の《鯛抱き童子》など、張り子では福岡県・柳川の《虎》や豊橋の鍾馗や鬼、烏天狗、お多福などのお面が展示されていました。なかでも《虎》は、アニメ映画「リメンバー・ミー」に出てきたメキシコの民芸品アルゲブラを思わせるものでした。

土人形 鯛抱き童子

◆展覧会情報

 コレクション展Ⅱ(5.29~8.29)で動物を特集しているのは、企画展で「三沢厚彦 ANNIMALS 2021 in TOYOHASHI」(7.17~8.29)が開催されるためだと思われます。チラシによれば、初期の作品や平面作品、アトリエの再現コーナーもあるようです。楽しみですね。

Ron.

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