2024.08.07 投稿
現在、碧南市藤井達吉現代美術館(以下「美術館」)で開催中の「松本竣介《街》と昭和モダン」(以下「本展」)を見てきました。以下は、本展のレポート・感想です。
◆本展の成り立ち
美術館の受付で受け取ったチラシには、本展は公益社団法人糖業協会(以下「糖業協会」)の日本近代洋画コレクションと、公益財団法人大川美術館(以下「大川美術館」)のコレクションから選りすぐった約140点による、「昭和モダン」をテーマに構成した展覧会、と書かれています。後で調べると、糖業協会は1936年設立。公益事業として、全国の国公立等の美術館へ所蔵美術品の貸し出しを行っています(注1)。また、大川美術館は桐生市出身の実業家・大川栄二氏が収集したコレクションを中心として1989年に開館した美術館。大川美術館のURLに掲載された大川栄二氏の経歴は、1946年に三井物産株式会社入社、1969年ダイエー株式会社入社・副社長就任後、サンコー(現・マルエツ)社長、ダイエーファイナンス会長を経て勇退、というもの。「会長で勇退」ですから、優秀な社員だったのですね(注2)。
注1 URL:協会概要|公益社団法人糖業協会 (sugar.or.jp)
注2 URL:概要・沿革 | 大川美術館 (okawamuseum.jp)
◆第1章 自然をながめる(展示室1・2階)
〇第1章-1 海と山
本展の入口は2階。第1章は「海と山」から始まります。小振りな作品が並ぶ中、大画面に波が岩にぶつかり、真っ白な波しぶきが高く上がる様子を描いた松田文雄の《海(波)》(1959)が目を引きました。有島生馬は「有島武郎の弟の画家」という知識だけで作品は未見だったので、《春雪》(1940)を見ることが出来て、うれしくなりました。梅原龍三郎の作品は、愛知県美術館の「第2期コレクション展」で《北京紫禁城》(1939)を見たばかりでしたが、本展では《紫禁城の黄昏》(1939)、《桜島遠景》(1956)の2点を見ることが出来ました。本展の図録には「糖業協会の所蔵品はオフィスビルの部屋を飾るために購入、寄贈された作品群とされます」と書いてありましたが、確かに穏やかな気持ちで鑑賞できる多くの作品を見ることが出来ました。
〇第1章-2 くつろぎの庭
「くつろぎの庭」というサブタイトルのとおり、庭を描いた作品が並んでいます。その中で、萬鐵五郎《風景》(1926)と川口軌外《息子・京村のいる風景》(1927頃)は、少し雰囲気が違います。よく見ると、2点とも大川美術館の所蔵でした。2つのコレクションの所蔵品が出品されているので、収集傾向の違いを楽しむことができます。
◆第2章 テーブルの上の物語(展示室1・2階)
〇第2章-1 花の彩り
糖業協会の所蔵品の中に、フォービスムの里見勝蔵《椿》(1935)やシュルレアリスムの福沢一郎《花とてんとう虫》(1974)が入っていました。愛知県美術館の「第2期コレクション展」で見た里見勝蔵《裸婦》(1928-29頃)は激しい色使いの作品でしたが、《椿》は優しい感じでした。この外、三岸節子《花》(1986)にも目を引かれました。
〇第2章-2 静物のささやき
糖業協会所蔵の熊谷守一《玩具》(1957)、笠井誠一《独楽と玩具》(1977)と、大川美術館所蔵の靉光《洋梨》(1942)、川口軌外《静物》(1920)に目を引かれました。静物画では、収集傾向に大きな違いは感じられませんね。
◆第3章 松本竣介(展示室2・2階)
〇第3章-1 街
本展の核となる章です。本展では、松本竣介《街》(1942)だけは撮影、SNS投稿OKでした。大川美術館から出品作は、ほとんどが松本竣介のもので、他の作家の作品は野田英夫《無題(カフェにて)》(1938頃)と清水登之《パリの床屋》(1924)でした。本展の図録によれば、野田英夫はディエゴ・リベラの助手として壁画運動に携り、松本竣介が影響を受けた作家とのこと。《無題(カフェにて)》には《街》との共通点が見えます。清水登之の作品は、名古屋市美術館の「北川民次展」でも見ました。「北川民次展」の図録には「ニューヨークで北川民次と同じ美術学校に通っていた」と書かれていましたね。
なお、本展図録によれば、本展出品の松本竣介《ニコライ堂の横の道》(1941)との出会いが「大川栄二氏が美術収集を始めるきっかけだった」とのことです。
〇第3章-2 モダンガール
糖業協会の所蔵品を中心に女性像が並んでいます。安井曽太郎《女と犬》(1940)と東郷青児《羊飼》(1935)は、いかにも「昭和モダン」という感じの作品で、本展チラシに図版が掲載されています。また、猪熊弦一郎《婦人の像》(1941)はピカソ風の作品でした。以上3点はいずれも糖業協会の所蔵品ですが、長谷川利行《婦人像》(1937)と藤田嗣治《婦人》(1950-55)は大川美術館の所蔵品です。「モダンガール」には松本竣介の作品が数多く出品されており、《婦人像A》(1942)は油彩画、他にデッサンが9点あります。
〇ヨーロッパ留学の画家たち
荻須高徳《ヴェネツィア、リオ・テ・レ・ベカリエ》(1935)始め5点の大川美術館所蔵品を展示しています。
◆第4章 人の形-肖像画から人間像へ(多目的室A・2階)
多目的室Aでは、戦中から戦後の作品を展示。最初の作品は、松本竣介《自画像》(1943頃)です。7月27日(土)22:00に放送された【新美の巨人たち】「松本竣介・立てる像×緒方直人」を思い出しました。番組では松本竣介について、俳優の緒形拳が息子・緒方直人に「名前だけでも覚えておけ」と言った話や緒形拳が松本竣介の遺族宅を2度訪れて、遺されたデッサンを熱心に見ていた話が紹介され、《立てる像》を所蔵している神奈川県近代美術館の長門佐季・館長も出演していました。
この外、印象に残ったのは、戦死した息子を描いた清水登之《育夫像》(1945)、福沢一郎《作品》(1957)、秀島由己男の油彩画《コマと太郎》(1978)と版画5点(1972~1989)、浜田知明の《初年兵哀歌(歩哨)》(1952)を始めとする版画10点などです。浜田知明の作品は、三重県立美術館で開催された「シュルレアリスムと日本」でも《初年兵哀歌-風景(一隅)》(1957)他1点を見ました。
◆第5章 まだ見てない「かたち」 ― 幻想と抽象(展示室3・1階)
第5章は、全て戦後の作品。猪熊弦一郎《Hill》(1956)や桂ゆき《作品》(1965)などの抽象画や瑛九の幻想的な版画などが並んでいます。
◆令和6年度コレクション展2期「墨色百景」(展示室4・1階)
展示室4は、藤井達吉の作品を展示しています。出品作は10点ですが、うち2点は着物。松葉を描いた《白地松葉散し着物》と梅を描いた《白地梅絵着物》です。どちらの着物も袖から背中まで柄が繋がり、見事な仕上がりでした。作品の解説については、スマホアプリ「ポケット学芸員」のお世話になりました。
◆鑑賞を終わって
本展では、最近見た三重県立美術館「シュルレアリスムと日本」、名古屋市美術館「北川民次展」、愛知県美術館「第2期コレクション展」、テレビ愛知【新美の巨人たち】で見た作家の作品との出合いがありました。不思議な縁を感じますね。
◆美術鑑賞の後は
当日は、あまりに暑くて冷たいものが欲しくなり、道を横断して西に進んだ「K庵」で、かき氷を味わいました。「季節のおすすめ」3種(柚子みりんシロップのかき氷、いちごとみりん粕ミルクのかき氷、みりん粕クリームとほうじ茶のかき氷)の中から、好きなものが選べます。温かいほうじ茶もセットなので、有難いです(注3)。入口に予約機があるので、大人・子どもの人数を入力し、予約ボタンを押すと予約番号を印刷した紙が出て来ます。順番待ちの行列に並ばなくても良いので、番号を呼ばれるまで、お土産を物色することが出来ました。
注3 URL:K庵|九重味淋株式会社 (kokonoe.co.jp)
Ron.
コメントはまだありません
No comments yet.
RSS feed for comments on this post.
Sorry, the comment form is closed at this time.