立花光 ≪無人配達≫

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members

京都市立芸術大学作品展にて (その2)

立花光 ≪無人配達≫

白い台に乗せられた茶色の段ボール箱が、展示室にまばらに置かれている。箱の大きさは大小様々。中央あたりに直径3cmくらいの穴が開けられていて、その穴から箱の中をのぞく仕掛けになっている。

部屋の中ほどにある大きめの箱の中をのぞいてみると、既視感のある、不思議な世界が垣間見えた。順番に他の箱の中も見て回ると、見える景色はそれぞれ異なるが、どれもどこかで見たような光景だった。

展示風景

箱の中の入っているのは、エレベーターや倉庫、階段など、私たちが日常的に通り過ぎる場所をリアルに再現したミニチュア模型だ。模型のサイズが小さいので、とても遠くから眺めているような距離感がある。なかには、作家が通う大学内の施設の模型もあるそうだ。

箱の外側には、いわゆる宅配荷物に貼る荷札が残っている。また、段ボールの表面にも配達中の汚れや、つぶれた跡があるので、てっきり自分あてに届いた荷物の箱を再利用しているのかと思ったが、箱も立派な作品。真新しい段ボールから、ミニチュア模型の大きさにあわせて切り出し、新規に制作しているそうだ。汚れや、つぶれた跡も再現されたものと聞くと、そのリアルさに驚く。

左から ≪無人配達_エレベーター#01≫、≪無人配達_通路#01≫、≪無人配達_通路#03≫

≪無人配達≫というタイトルに込めた制作の意図を作家に聞いたところ、「違和感」という答えがあった。普段、何もないドアの前や、宅配ボックスの中に、突然、段ボール箱が届くことで景色が違って見える感覚を表現しているそうだ。

その答えを聞き、それまで感じていたモヤモヤがすっきりした。箱の中をのぞいた時の驚き、箱の外の汚れを手作りしていると知った時の驚き、どちらも「違和感」そのものだった。

杉山

大西珠江 ≪ワタシヲ流ルル君≫、≪時を集めて≫

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members

京都市立芸術大学作品展にて (その3)

大西珠江 ≪ワタシヲ流ルル君≫、≪時を集めて≫

展示室の床に、表面がデコボコで、白い楕円形の筒と、割れたお椀の欠片のようなものが置かれている。奥の壁面には、同じような素材の端切れのようなものが掛けられている。

手前の筒は、作品名を≪ワタシヲ流ルル君≫という。これを見て、不思議に思ったのは、陶の地肌から横に伸びた氷柱のような透明な部分。その形状から、持ち手ではないし、装飾としても一体感がない。いったい、作家の制作の興味、問題意識はどの辺にあるのだろうか。

手前 ≪ワタシヲ流ルル君≫

奥側の横に寝かせた筒の作品名は、≪時を集めて≫という。この筒にも、細くて透明な棘のような部分がある。開いた筒の口の前に立つと、長い棘が触手のように思われ、深海魚が大きく口を開け、触手で獲物をおびき寄せている場面を連想した。

≪時を集めて≫

作家によれば、作品は陶とガラスで作られていて、焼成は2度行う。陶の部分は釉薬をかけずに焼成し、2度目の焼成で陶の内側に置いたガラスが溶け、ひび割れから垂れてくると、氷柱や触手のようになる。この制作方法は、焼成を止めるタイミングが難しく、何度も実験を重ねたそうだ。

この作家は、陶芸作品で釉薬として使われるガラスを、まるで異なる扱い方で土と組み合わせる。そうすることで、土は土、ガラスはガラスとして存在を主張する作品ができる。

作家のテーマは、ガラスと土の素材としての関わり方を、どのように作品として見せるか、というあたりにあるらしい。伸びた氷柱や触手の先に、どのような新しい展開があり、次回はどのような作品を見せてくれるか、とても楽しみだ。

杉山

山本千愛 ≪線の上をあるく≫

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members
例年、この時期は各地の芸術大学、美術大学で「卒業制作展」、「修了制作展」が開催され、見た目もコンセプトも奇抜な作品を鑑賞する機会に恵まれる。
名古屋市美術館の話題からは離れるが、最近見た「卒業制作展」、「修了制作展」の作品の中から、特に目を引いた作品を、数回に分けて紹介したい。普段の美術展とは様相の違う世界を楽しんでいただければ幸いだ。

東京藝術大学卒業・修了作品展にて

山本千愛 ≪線の上をあるく≫ (2020年代/東アジアのアーティスト/往路)

展示されているものは、大判のモノクロ写真、長さ3mくらいの木材、ビデオモニターなどで構成されたインスタレーション。モノクロ写真の横には、地図が添えられ、地図の上に打たれたピンの間に糸が張られている。

展示風景

モニターに映された映像を見ると、作者と思われる人物が、長い木材を引きずり、ひたすら歩いている。長い木材の持ち手と反対側(地面に接する側)に、カメラを取り付け、歩く人物の後姿を記録するパフォーマンスだ。地図の地名を見ると、日本以外にドイツ、オーストリア、中国でパフォーマンスを実施したようだ。しばらく見ていて、左側の一番上のモノクロ写真に目が止まった。何かの壁に長い木材を立てかけた様子が映っている。

展示風景

実は、この壁は観光用に残された「ベルリンの壁」の一部で、その下の森の中のランニングコースの風景は撤去された「ベルリンの壁」の跡地らしい。この高さ3mくらいの壁は、壊された後も多様な社会問題の影を象徴する存在として、人々の記憶に残っている。

美術作家と言えば、アトリエでキャンバスに向き合うか、粘土や木材のかたまりと力比べをするイメージを思い浮かべがちだが、本作の作家は文字通り「我が道を往く」スタイルで軽妙に国境をまたぎ、世界の今を体験して見せている。展示会場に置かれた他の絵画や彫刻の間に混ざり、軽やかで、とても面白い作品だ。

それにしても、長い木材を引きずりながら街中を歩いていると、不思議がられたり、不審がられたりして、「何をしているのか」と止められたりしないのだろうか。作家によると、そのような時は「私は作家です」と、あいさつするそうだ。この儀式が、この作家の身分証らしい。

杉山

error: Content is protected !!