愛知県立芸術大学卒業・修了制作展にて (その3)
金井花織 ≪無題≫、≪救命艇≫
画面いっぱいに、赤色、緑色、青色の多数の多角形が飛び散っている。青色の地色は、上側で薄く、下側で濃く塗られている。濃淡の境目に船のような形を見つけた。もしかすると、そのあたりが水平線なのだろう。画面は、左右にとても長く、左側の出入り口の半分ほどを隠している。おそらく、今年の愛知県芸の卒業・修了制作展に出品された油画の中で一番の大きさではないか。

本作は、どのような場面を描いたものだろうか。飛び散る多角形は、何をイメージしたものだろうか。

金井のステートメントによると、「私は絵画を通して光を表現しています」とある。もし、夕焼けの海で光の粒子が見えるとすると、押し寄せてくる太陽の赤色と海面の青色の光の粒子は、このように見えるのだろうか。描かれた光は、周囲を明るく照らす光というより、「寂しさ」、「不安」、「神秘さ」の混ざり合った、ほの暗い光のように思われた。

≪無題≫の横に掛けられた≪救命艇≫には、四角形の大きな帆を広げた船と、貝殻と小石の散らばる砂浜と海が描かれている。船は海の上空にプカリと飛行船のように浮かんでいる。この船は着水しようとしているのか、飛び去ろうとしているのか、このまま留まろうとしているのか。以前、心理テストで使うアートカードの中に、よく似た絵柄を見たような気がする。

金井の故郷は港町らしく、海と船はとても身近な存在だ。また、制作に使用するキャンバスの生地は、帆船の帆布として利用するものでもあり、海と船のモチーフは金井にとって相性が良い。子供の頃、水平線の方向にまっすぐ進むとオーストラリアに着くと考えていた金井にとって、≪救命艇≫で描いた船は、大空を目指し、出発したばかりの自分の姿を映したものではないか、そのように思われた。
杉山
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