展覧会見てある記「民藝 MINGEI」名古屋市美術館

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2024.10.07 投稿

名古屋市市美術館(以下「市美」)で開催中の「民藝  MINGEI 美は暮らしのなかにある」(以下「本展」)を見てきました。以下は、その概要と感想などですが、本展監修者の森谷美保氏(以下「森谷さん」)の講演会「暮らしのなかの民藝」(10.05開催)の内容も加えています。

◆第Ⅰ章 1941生活展―柳宗悦によるライフスタイル提案

本展は通常と異なり、市美の2階が入口です。受付を済ませて展示室に入ると、柳宗悦邸の書斎・食堂を再現した空間が広がっています。テーブルや食器棚、ビューロー(蓋を開けると机になる戸棚)に皿やティーカップ、燭台、硯などを並べて、柳宗悦のライフスタイルを提案していました。

同じような展示方法は2023年春、2024年春にジェイアール名古屋タカシマヤで開催された北欧デザイン展で見て「新鮮な展示方法だな」と感心しましたが、森谷さんによれば、柳宗悦は1941(昭和16)年に日本民藝館で実施していたのです。本展はその時の再現とのこと。「1941年の時、入館者は椅子に座ることも出来た」そうです。

当時の写真は本展公式サイト(以下「公式サイト」 URL: みどころ|『民藝 MINGEI — 美は暮らしのなかにある』公式サイト (exhibit.jp))に掲載されているので、興味があれば検索してください。

本展はロープ越しに展示品を見ることになります。細部を観察したい方は単眼鏡をご持参ください。

上記写真は展示の一部です。黄色いガレナ釉鉢はバーナード・リーチの一番弟子・マイケル・カーデューの作品。六角鉢は沖縄の壺屋焼、陶製のレンゲは島根県・布志名焼、ティーセット(つる付のポットと砂糖入れ)とティーカップは濱田庄司の、青い角鉢は河井寛次郎の作品です。森谷さんによれば「民藝は、民衆的工藝品の略。無名の工人がつくり、一般民衆が日常で用いる器、衣類、品物」とのこと。この定義を徹底すると、マイケル・カーデュー、濱田庄司、河井寛次郎といった個人作家の作品は「民藝」か、否か、微妙なものがありますが、柳宗悦は個人作家の作品を排除せずに収集したということですね。

◆第Ⅱ章 暮らしのなかの民藝―新しいデザイン

第Ⅱ章は「衣」「食」「住」「沖縄」の4つのパートに分かれています。

〇Ⅱ-1 「衣」を装う

先ず目を惹くのが「刺子稽古着」(江戸時代)です。近寄らないと分かりませんが、細かい刺し子が施されています。近藤勇や土方歳三も、このような稽古着を着て剣術修業に励んでいたのでしょう。《剣酢漿草大紋山道模様被布(けん かたばみ だいもん やまみちもよう かつぎ)》について森谷さんは「草花を刺繍した古い着物を染め直したもの」と紹介。染め直した箇所をご確認ください。有松絞の浴衣もあります。

〇Ⅱ-2 「食」を彩る

先ず目を惹くのが、佐賀県・有田焼の湯呑2点と猪口。猪口は公式サイトに画像があります。滋賀・信楽焼の《焼締黒流茶壺》も見応えがあります。焼締は釉薬を掛けない陶器ですが、この壺は部分的に掛けられた釉薬が、見る者に強い印象を与えます。愛知県・瀬戸焼の《呉須鉄絵撫子文石皿》は、名古屋展サイト(URL: 特別展 「民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある」 | 展覧会 | 名古屋市美術館 (city.nagoya.jp))に画像があります。10月6日放送のNHK・Eテレ「美の壺」(絵皿)でも瀬戸焼の石皿(絵は柳の葉:本展のⅢ-topicでも同様の皿を展示)を紹介。石のように丈夫だから「石皿」と呼ばれ、台所や煮物屋の店先で使われていた日常使いの皿です。石皿を生産している様子も放映されました。皿の真ん中で緑と黒に色分けされた鳥取県・牛ノ戸焼《緑黒釉掛分皿》(公式サイトに画像あり)も印象的です。朝鮮半島で作られた《蠟石製薬煎》は、森谷さんが「見ておくべき」と推奨の展示品です。

なお、名古屋会場の「食」の展示について、森谷さんは「6つの巡回先で一番」と評価していました。

〇Ⅱ-topic 気候風土が育んだ暮らしー沖縄

Ⅱ章 topicから、会場は1階に移動。先ず出会うのは、《白掛燭台》《笠》《クバ団扇》など。目を惹いたのは紅型2点です。沖縄県・壺屋焼の《焼締按瓶》《白掛呉須唐草文蓋付碗》も見ものです。

〇Ⅱ-3 「食」を彩る

《灰ならし》《手箒》《芯切鋏》などの生活道具が並ぶ中で目を惹くのは、鉄製の《桐文行燈》。森谷さんは、浜松市で1931年に日本民藝美術館を開館した浜松市の収集家・高林兵衛宅の所蔵品と解説。

◆第Ⅲ章 ひろがる民藝―これまでとこれから

〇Ⅲ-1 『世界の民藝』―新たな民藝の世界

第Ⅲ章は「『世界の民藝』-新たな民藝の世界」「民藝の産地-作り手といま」及び「topic」の3つのパートに分かれています。パート1には、ペルーの人形やギリシアの踊り衣装などを展示しています。

〇Ⅲ-2 民藝の産地―作り手といま

パート2は、大分県・小鹿田(おんた)焼、兵庫県・丹波布、岩手県・鳥越竹細工、富山県・八尾和紙、岡山県・倉敷ガラスの5つの産地と製品を紹介。小鹿田焼で目を惹くのは《鉄釉黒黄流文字入せんべい壺》。壺には「せんべい入」の文字があります。焼きたてのせんべいを入れていたのでしょうか。

5つの産地、それぞれに現行品と映像を展示したコーナーがあります。公式サイトの「ホーム」をクリックすると動画があります。公式サイトの「スペシャル」(URL: MINGEI Guide_HP DL (exhibit.jp))をクリックすると、5つの産地の「民藝ガイド」をダウンロードできます。

この外、大津絵《大黒外法の相撲》も見逃せません。

〇Ⅲ-topic  Mixed MINGEI Style by MOGI

Topicは、現代の民藝を配置したインスタレーションです。写真はその一部で、瀬戸焼の石皿、牛ノ戸焼の皿、柳宗悦の長男・柳宗理(本名:やなぎ・むねみち、インダストリアル・デザイナーとしては、やなぎ・そうり、と読む)がデザインしたバタフライスツール(天童木工製)が写っています。柳宗理は、父親に反発してインダストリアル・デザイナーの道に進みましたが、後年は日本民藝館の館長を務めています。

◆最後に

受付に作品リストが見当たらなかったので、作品リストを持たずに本展を鑑賞しました。第Ⅰ章には写真付きの作品リストが掲示されていますが、紙の作品リストが欲しい方は、下記のURLからダウンロードできます。

※ 作品リストのURL: af8c8d21534b199770a809c2459bee99.pdf (city.nagoya.jp)

〇補足

地下1階・常設展示室3では、民藝運動に参加した棟方志功作の西枇杷島町小田井・渡河山西方寺襖絵を展示しています。前回の展示は1993年ですから31年ぶりのお目見えなので、必見です。

Ron.

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