「吉本作次 絵画の道行き」記念講演会と「吉本さんを囲む会」

カテゴリ:作家を囲む会 投稿者:editor

現在、名古屋市美術館で開催中の「吉本作次 絵画の道行き」(以下「本展」)関連催事として、4月21(日)午後2時から記念講演会「吉本作次―絵画論」が開催されました。また、同日午後5時からは、名古屋市美術館協力会の「吉本さんを囲む会」も開催されました。以下は、その概要です。

◆記念講演会「吉本作次―絵画論」 pm2:00~3:30

会場は名古屋市美術館2階の講堂。定員180人の会場は、「見た目では満席」という状態でした。

講演会を始めるにあたり、吉本作次さん(以下「吉本さん」)は「全部乗せで行く」と宣言。講演会は、宣言どおり「盛り沢山」で、あっという間に1時間半が過ぎてしまいました。吉本さんが「全部乗せ」と言うだけあって、とても情報量が多いので、項目を絞って内容をご紹介します。

★芸術って、必要ですか?

講演の冒頭、吉本さんは講演参加者に「芸術って、必要ですか?」という質問を投げかけました。

そして、吉本さんのお答えは、「飢えている子どもや災害のときに、アートは無力。先ず必要なものは、食べる物。日本の終戦後、ガード下に登場したのは食べ物の屋台」というものでした。

ただ、それだけでは終わらず「1949年には、読売美術展(後のアンデパンダン展)が開催された。“衣食足りて芸術を知る”」と話されました。「衣食足りた状態になって、ようやく人は芸術を求める」ということですね。

「“猫を飼うことって、必要ですか?”という質問は、“芸術って、必要ですか?”という質問に似ている。どちらも、個人の嗜好性に関するものだ」という吉本さんの言葉も、含蓄の深いものでした。

★芸術もAIに乗っ取られる?

生成AIが描いた絵画が話題になる時代になりましたが、吉本さんは「世界最速の男ウサイン・ボルトと言っても、競走すれば犬より遅い。将棋のAIソフトと対局すれば、人間が負ける時代。一定のルールの中で競うことで感動が生まれる。人と人の対決は無くならない」と話されました。生成AIが商業デザインの仕事に利用されるようになるとは思われますが、芸術家の役割は無くならないだろう、と少し安心しました。

★芸術は客観性だけでは測れない

吉本さんは、美の優劣は判断基準によって変わることを、セザンヌの名作を例に話されました。古典主義の絵画が全盛時代なら、セザンヌの良さは評価されない。芸術作品の鑑賞には「見るポイント」を持つことが必要、ということでした。

「千利休の茶器の“わび・さび”の価値は、主観の為せる技。美の価値は、客観性だけでは測れない」という言葉も、心に響きました。

★現代アートは“親殺し”、一代限りのもの

ダダイズムの作品で、既製品の便器に“泉”というタイトルをつけたものがありますが、吉本さんは「現代美術は“親殺し”、前の世代の否定。絶えず“アンチ”を出すことには限界が出てくる」と話します。この言葉には、衝撃を受けました。

★吉本さんが辿ってきた道

講演会の話題は、吉本さんの経歴に移っていき、吉本さんは以下のような話をされました。

高校生の時、月刊漫画誌『ガロ』に嵌(はま)り、受験勉強は真剣に取り組まなかったので、何校も受験したけれど合格したのは名古屋芸術大学だけ。若い頃は、キース・ヘリングやバスキアが流行しており、倉庫のようなギャラリーで作品が展示されている時代。巨大な作品用のキャンバスは、既製品では手に入らないので、麻布(あさぬの)を業者に縫ってもらい、それを板に貼りつけて作品を制作。作品が雑誌『BRUTUS』の目に留まり、特集号の表紙を飾った。当時は、桑名市の鋳物工場で作品を制作。油絵具ではなくアルキッド系のインクを使用。本展に出品している当時の作品は《中断された眠りⅠ》《中断された眠りⅡ》(いずれも1985)。《Bone》(1986)は油絵具で描いた。ニューヨークに渡り、メトロポリタン美術館のブリューゲルの作品に感動。透明色を塗り重ねる「グレージング」を知る。また、ジャスパー・ジョーンズやジョン・ケージのアトリエの近くのコテージで《Goodbye Tomato》(1986)を制作した。インスタレーションの制作を繰り返し、1989年にニューヨークで個展をやってもうれしくなかった。個展のお客は少なく、落ち込むばかりで「俺は何をやっているんだ?」と思った。

★「書の勉強」が転機となった

吉本さんは「NHK教育テレビで放送していた榊漠山“書の歴史講座”が転機となった」と語ります。

講座は甲骨文字から始まり、「削る」が書の原型だそうです。粘土に甲骨文字を削る時、最初に刃物を沈め、その後、浮かせるように使うとのこと。筆と墨を使って紙に文字を書くようになると、沈めたり浮かせたりを複数回行う「多節法」が生まれる。吉本さんは「これは、そのまま絵に使える」と思ったそうです。

吉本さんは「藤原佐理(注:ふじわら・すけまさ=小野道風・藤原行成と並ぶ三蹟(三跡とも言う)の一人。藤原行成は大河ドラマ「光る君へ」に登場しましたね)が好き」とのことで、褚遂良(注:ちょ・すいりょう=唐初期の書家。虞世南・欧陽詢と並ぶ初唐の三大家・楷書の完成者の一人)、黄庭堅(注:こう・ていけん=北宋の書家・詩人)、傅山(注:ふ・ざん=明末・清初の書家・画家。唐の顔真卿、晋の王羲之の書に取り組む)、倪元璐(注:げい・げんろ=明末の書家・官僚、書を王羲之、北宋の蘇軾に学ぶ)についても紹介されました。

★テンペラから油絵へ

「書」の続きは、油絵の起源についての話です。

吉本さんによれば「油絵はフランドルが起源」とのこと。それまでの絵は、絵の具を卵の黄身を混ぜ合わせて板に絵を描くテンペラが主流。イタリアのヴェネツィア派になると、カンヴァス(帆布)を使った大きな絵を油絵具で描くようになる。ティツィアーノは白(鉛白)でハイライトを描き、その上にグレージングで透明色を塗る。北方ルネサンスもヴェネツィア派と同じとのことです。

ダ・ヴィンチ、ラファエロからアングルまで、筆跡を消すスフマートが主流ですが、ルーベンスの作品には筆跡が残されています。ルーベンスの魅力は、筆跡のS字カープ。なお、日本人の描く線はS字ですが、西洋人はS字ではなく、“C”と“裏返しのC”の組み合わせ、という違いがある。

★線について

吉本さんは、レンブラント《解体された牛》(1655)の線について「激しいストローク(注:大きく腕を振るって筆を動かすような運動間のある行為)は、長谷川等伯《松林図屏風》(1568-1600)と共通する、と話します。また、ストロークの白眉は、マネ《フォリー・ベルジェ―ㇽのバー》(1882)のチョーカーの中のストローク。「線が似ている」と感じるのは、ヴェロッキオの作品の髪と《平治物語絵巻(三条殿焼討)》(13世紀後半)の炎、ダ・ヴィンチの髪と尾形光琳《紅白梅図屏風》(18世紀)。

また「線の良し悪しは漫画を読めばいい」と話し、上村一夫の作品を投影しました。

★遠近法について

講演会の最後は、各種の遠近法=「平行遠近法」「ジグザグ遠近法」「逆行き遠近法」と絵画の構図についてのお話と、「画家は60過ぎてから!」「打ち上げでは、宴会を開く」という話をされて、講演会は終了しました。

◆「吉本作次 絵画の道行き Ⅱ」KENJI TAKI GALLARY

記念講演会の終了後、協力会の「吉本さんを囲む会」の開始までは時間があったので他の会員と連れ立って、美術館の近所(中区栄三丁目20-25、本町通の東側)のケンジタキギャラリー(URL: ケンジタキギャラリー (kenjitaki.com))で開催中の「吉本作次 絵画の道行き Ⅱ」を見てきました。

◆吉本さんを囲む会

会場は名古屋市美術館1階のスギヤマコーヒー。最初にビールやシャンパン、日本酒、ソフトドリンクで乾杯。軽食を食べながら歓談を楽しみました。吉本さんから「講演会では顔真卿の話も予定していたが、時間の関係で割愛。残念だった」という話を聞きました。「顔真卿の書は建築的」と話され、好奇心が湧きましたね。最後に吉本さんとのQ&Aタイムもあり、「宴会好き」の吉本さんだけでなく、参加した皆さん方も満足されていました。

◆「吉本作次 絵画の道行き」のレビュー(Web記事のご紹介)

本展の概要については、「美術展ナビ2024.04.21」に記事(URL:【レビュー】特別展「吉本作次 絵画の道行き」 ~重厚長大な画面を経て、線がもたらす視覚的愉しみへ~ 名古屋市美術館 – 美術展ナビ (artexhibition.jp))が載っています。分かりやすい解説で、図版も入っているご紹介します。

◆補足(岡本太郎と北大路魯山人、顔真卿の書が親子三代にわたる関係をつなぐ)

吉本さんから「顔真卿」という名前を聞いて、数年前に読んだWeb記事(URLは下記のとおり)を思い出しました。岡本太郎の祖父・岡本竹次郎は、顔真卿の書を基本とする書道家で、「岡本可亭」と名乗っていました。北大路魯山人(本名:福田房次郎)は22歳の時、可亭に弟子入り。顔真卿に憧れ30代で「魯卿」40代で「魯山人」と名乗ります。魯山人は可亭の内弟子を2年で終えて独立。「福田鴨亭」と名乗り、書・篆刻(看板彫り)で生計を立てますが、岡本家との関係は、内弟子を終えた後も親子三代にわたって続いたとのことです。

出展:■北大路魯山人と岡本家の人びと | 政治・文化情報2017 (kousin242.sakura.ne.jp)

Ron.

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