読書ノート 「コスチュームジュエリー」小瀧千佐子 著

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

―美の変革者たち― シャネル、ディオール、スキャパレッリ 発行日2023.10.15 発行 世界文化社

今回、ご紹介するのは、近所の図書館で借りてきた本です。一般書籍という体裁でしたが、巻末の「おわりに」に「全国5カ所に巡回する展覧会の図録」(ただし、巡回先の記載なし)と書いてありました。著者については「ムラーノガラス(ヴェネチアンガラス)、ヴェネチアンビーズ、コスチュームジュエリー、三つのジャンルの研究者・コレクター。前勤務先のエールフランス航空在籍中からコレクションを開始。1983年には日本ではじめてのムラーノガラスの専門店をオープン、2014年にショップchisa(チサ)をスタート」との紹介があります。

◆「はじめに」 コスチュームジュエリーとは

コスチュームジュエリーという言葉について、著者は「貴金属を用いず合金、銀、ガラスや半貴石などで作られたネックレス、プローチ、イヤリング、ブレスレットをはじめとするファッションジュエリー」と定義。そして「金やダイヤのように素材そのものに市場価値がないことから、流行の終焉と共に消え去る運命にある」のですが「二つの大戦を経てなお生き残ったコスチュームジュエリー」には「デザインしたアーティストたちの先鋭的で独創的な、ゆるぎないスタイル(様式美)があった」「20世紀の誕生から100年を迎える今、アートとして認識されるべきものであろう」と書いています。

◆ポール・ポワレ《夜会用マスク・ブレスレット”深海“》(1919)

本書はp.5に、ポール・ポワレがデザインした夜会用マスク・ブレスレット“深海”の写真を掲載。とてもインパクトのある作品です。制作者は、1928年までポワレと共に働いていた帽子職人のマドレーヌ・パニゾンです。本書は「100年を超えて、悲惨な状態であったポワレのマスク」と書くだけですが、2023.11.26付の日本経済新聞「The STYLE」には、「ベルギーの収集家から届いた時はチュール(薄い網状布)がボロボロ。ビーズを通した糸も今にも切れて、ビーズが落ちそうな状態。似たチュールを探し染めるところから始め、ビーズ一粒一粒、一針一針、2年がかりで修復した」と書いてありました。一見の価値がある作品だと思います。“深海”の画像・動画は、下記の展覧会公式サイトで検索できますが、是非とも実物を見てみたいですね。

公式サイトのURL:コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより (ctv.co.jp)

◆Chapter 1 美の変革者たち オートクチュールのコスチュームジュエリー

Chapter 1では、「“本物の偽物”を公言してジュエリーの概念を覆したシャネルと、コスチュームジュエリーにアートの要素を取り入れたスキャパレッリ、そしてフェミニンなドレスに合わせて優美な作品を発表したディオールというモード界を代表する三人の初期作品群」をはじめとする作品を掲載しています。ただし、展覧会のタイトルとは違い、スキャパレッリ、シャネル、ディオールという順番に並んでいます。なお、上記・公式サイトでは、以下の作品を掲載しています。

スキャパレッリ:《ネックレス“葉”》(1937)本書p.14(デザイン/制作:ジャン・クレモン)、

《ブローチ》(1951頃)本書p.35(デザイン:サルバドール・ダリ、製作国アメリカ)

シャネル:《ネックレス“花”モチーフ》(1938頃)本書p.39(制作:メゾン・グリポワ)

ディオール:《ネックレス、イヤリング》(1954頃)本書p.64(デザイン:ロジェ・ジャン=ピエール、製作:ミッチェル・メイヤー)

作品の写真のほか、「『戦前』と『戦後』で異なるスキャパレッリの作風」「スキャパレッリとシャネル その作風の違い」などのコラムもあり、スキャパレッリはポール・ポワレに類まれなセンスを見出され、1927年にはパリで自身の小さな店を開くに至ったこと、スキャパレッリとシャネルはライバル関係にあったことなどを知ることができます。

◆Chapter 2 躍進した様式美 ヨーロッパのコスチュームジュエリー

Chapter 2では、パルリエ(宝飾師。宝石やコスチュームジュエリーなどを制作する職人)別に、主な作品を紹介しています。なお、上記・公式サイトでは以下の作品を掲載しています。

リーン・ヴォートラン:《ブローチ“花の精”》(1945頃)本書p.100

コッポラ・エ・トッポ:《チョーカー“花火”》(1968)本書p.112

ロジェ・ジャン=ピエール:《ネックレス》(1960頃)本書p.135、《クリップ》(1960頃)本書p.139

シス:《ネックレス》(1950頃)本書p.144,《ネックレス》(1960頃)本書p.142

メゾン・グリポワ:《ブローチ》(1960年代)本書p.156、《ブローチ》(1989)本書p.159

◆Chapter 3 新世界のマスプロダクション アメリカのコスチュームジュエリー

Chapter 3は、アメリカのコスチュームジュエリーを取り上げています。本書p.164に「ヨーロッパとアメリカのコスチュームジュエリーの比較表」があり、ヨーロッパは「比較的上流階級の少人数に対して手作りによる小ロット」、アメリカは「広く一般大衆向けで機械による大量生産」など、両者は大きく異なっていることがわかります。なお、上記・公式サイトでは、以下の作品を掲載しています。

ミリアム・ハスケル:《ペンダント“エンジェルストランペット”モチーフ》(1930年代)本書p.166

《ネックレス、クリップ“フラワー”モチーフ》(1938)本書p.176

トリファリ:《ブローチ“枝に二羽の鳥”》(1942)本書p.186、

《ペアクリップ“テノールフィッシュとマーメイド”》(1940)本書p.189

ケネス・ジェイ・レーン:《ネックレス“ジャッキー・オナシス スタイル》(1970)本書p.197

トリファリについては「おわりに」本書p.206に、「約40年前にロンドンのフリーマーケットでオレンジ色のガラス製ペンダントに魅了され、裏を返すと「Trifari」という刻印があり、説明を聞いてすぐに購入した」というエピソードが書いてあります。トリファリがコレクションの原点だったのですね。

◆図、年表など

本文、コラム、作品写真の外、コスチュームジュエリー展事務局・編の「デザイナーたちの相関関係」(本書p.86)、「セレブリティとデザイナーの相関関係」(本書p.200)、「用語解説」(本書p.201~203)、「コスチュームジュエリークロニクル」(=年表、本書p.204~205)等もあり理解の助けになりました。

◆愛知会場限定の展示

上記・公式サイトによれば、愛知会場は愛知県美術館、会期は2024.4.26~6.30とのこと。会場が広いため、愛知会場限定で、コスチュームジュエリー展に関係するシャネル、ディオール、スキャパレッリなどのファッションの展示があるようです。

なお、上記「デザイナーたちの相関関係」は、デザイナーたちの師弟関係、ライバル関係を書いています。この相関関係を頭に入れて展示作品を見るのも、一興ではないでしょうか。面白いのは、シャネルとディオールはライバル関係ですが、ディオールの後を継いだイヴ・サンローランの「パンツ・スーツ」を見ると、「シャネルとの相性が良いのでは」と思えることです。

① 師弟関係(その1)ポール・ポワレ(才能を見抜く)→ スキャパレッリ ←(師事)ジバンシィ

② ライバル関係(その1)スキャパレッリ ←(対極の発想)→ シャネル

③ ライバル関係(その2)シャネル ←(対極の発想)→ ディオール

④ 師弟関係(その2) ディオール(私の後を継ぐのはイヴしかいない)→ イヴ・サンローラン

◆最後に

昨年度は名古屋市美術館「マリーローランサンとモード」でファッションの展示がありましたが、今回は展示される作品の点数が多いので、今から楽しみですね。

Ron.

 

展覧会見てある記「ブルターニュの光と風」豊橋市美術博物館

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2024.03.07 投稿

大規模改修工事のため2022年6月から休館していた豊橋市美術博物館(以下「美術館」)ですが、3月1日にリニューアルオープンしたので早速行ってきました。リニューアルオープン記念の展覧会は「ブルターニュの光と風」(以下「本展」)。以下は、本展の概要と感想などです。

◆リニューアルで変わったのは?

美術館の玄関を入ると、正面にガラス張りのエレベーターが新設されていました。本棚が無くなり、ミュージアムショップも模様替え。エントランスホールが明るくなりましたね。各展示室の出入り口には自動扉が設置されています。なお、詳細は次のURL〔r60103.pdf (toyohashi.lg.jp) 〕をご覧ください。

◆本展について

カンベール美術館

本展のチラシ〔URL: 1215ブルターニュの光と風A4 (toyohashi-bihaku.jp)〕によれば、本展はフランス北西部・ブルターニュ地方の西端にあるカンベール美術館のコレクションを中心に、ブルターニュの風土や人々を描いた近現代の絵画を紹介しているとのこと。全3章で構成されていました。

ブルターニュ地方の位置

◆第1章 ブルターニュの風景-豊饒な海と大地(展示室1,2)

〇展示室1

目を引いたのは、131.5cm×202.5cmの大画面に描かれたテオドール・ギュダン《ベル=イル沿岸の暴風雨》(1851)です。画面中央の海にヨット、左下の大岩の上に人物、右下の岩陰には海鳥が飛んでいます。何れも点のようで、描かれた風景の雄大さが強調されています。図版は美術館のホームページ(URL: https://toyohashi-bihaku.jp/bihaku03/brittany/)に掲載されていますので、ご覧ください。

外にも、荒々しい海を描いた作品が目を引きました。荒波に揺られる小舟)の上で網を引き揚げる様子を描いた、テオフィル・ディオール《鯖漁》(1881)、嵐に遭遇して難破した親子を描いたアルフレッド・ギュ《さらば!》(1892)は、息子の亡骸に口づけする父の厳粛な姿に引き付けられました。同作家の《コンカルノーの鰯加工場で働く娘たち》(1896頃)は荒海ではないものの、漁港の生き生きとした様子とブルターニュの女性の民族衣装が印象的でした (2作品ともチラシに図版)。

〇展示室2

 展示室1からの連絡通路を歩いて展示室2に入ると、アレクサンドル・セジェ《プルケルムール渓谷、アレー山地》(1883年頃、ホームページに図版)を始め、穏やかな風景を描いた作品が並んでいました。

展示室2の最後の壁に掲げられたリュシアン・レヴィ=デュルメール《パンマールの聖母》は、ブルゴーニュの海岸を背景にした母子像。額縁が立派なので、思わず撮影してしまいました。

第1章は、名前を聞くのも初めての作家ばかりでしたが、いずれもサイズが大きく、描写力もあって見ごたえのある作品が並んでいます。

◆第2章 ブルターニュに集う画家たち-印象派からナビ派へ(展示室4)

第2章にはブルターニュに来て絵を描いた、ポール・ゴーギャン、モーリス・ドニ、ピエール・ボナールなどの作品が並んでいます。なかでも目を引いたのが、タヒチに旅立つゴーギャンとの別れを描いたポール・セルジエ《さようなら、ゴーギャン》(1906、ホームページに図版)とピエール・ボナール《アンドレ・ボナール嬢の肖像 画家の娘》(1890、チラシに図版)です。

◆第3章 新たな眼差し-多様な表現の探求(展示室3)

第3章には、新しい時代の作品が並んでいます。アンドレ・ドーシェ《ラニュロンの松の木》(1917)は、浮世絵のような作品。リュシアン・シモン《じゃがいもの収穫》(1907)は、強い光を浴びた女性の赤いリボンが目に焼き付きました。

◆最後に

冒頭にも書きましたが、リニューアル後の美術館は、内装にはガラスが多用され、近代的な雰囲気が増しています。

ロッカーが「コイン式」から「4つの数字を組み合わせる方式」に替わりました。100円玉が不要になったのは良いのですが、鍵がありません。どのロッカーに荷物を入れたのか忘れ、一瞬、あせりました。ロッカーを使った時は、「ロッカーの番号」と「セットした4つの数字」をメモすることをお忘れなく。

なお、本展は4月7日(日)まで。開催期間が短いので、ご注意ください。

Ron.

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