読書ノート「ガウディの伝言」外尾悦郎 著(光文社新書264)

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

2023.07.17 投稿

7月8日付の日本経済新聞で外尾悦郎氏に興味を持ち、本書を手に入れました。著者は、1978年以来、サグラダ・ファミリア贖罪聖堂の彫刻を担当。東京国立近代美術館で開催中の「ガウディとサグラダ・ファミリア展」(以下「本展」)に出品の彫刻「歌う天使たち」も制作しています。

以下は、本書の中で私が興味を持った箇所の抜き書きです。

◆双曲線面は自然光を最大限に取り入れられる形

本書は、本展に模型が展示されている鼓のような形の双曲線面について、次のように書いています。

〈一見複雑に見えますが、ご覧の通り、すべて直線です。(略)サグラダ・ファミリアでは、この双曲線面が、聖堂の側壁にある大窓や天井窓など、主に採光部分に駆使されています。自然光というのは、太陽の動きに伴って、多方面から入射してくる。しかし、その進み方は常に直線です。ガウディはその自然光を最大限に取り入れられる形として、双曲線面の有効性を活用しました〉(本書 p.45~46)

自然光を取り入れるための合理的で美しい形状なので、ガウディが双曲線面を駆使したというのです。

◆双曲放物線面は自然光を取り入れる形

また、本展に模型が展示されている双曲放物線面についても、次のように書いています。

〈一見複雑に見えますが、曲線は一つもありません。(略)放物線面は、接合部分の角度をなめらかにし、荷重の流れをスムーズにすることから、ガウディはサグラダ・ファミリアの柱が枝分かれする部分や、天井と柱が接する部分など、構造体が大きく変化する部分にこの形を多用しています〉(本書 p.46~47)

建物の筋交いに当たる部材を合理的な形状にしている、ということだと理解しました。

◆サグラダ・ファミリア幼稚園屋根

私が「摩訶不思議な曲面」だと思った「サグラダ・ファミリア幼稚園屋根」について、本書は〈サグラダ・ファミリアの建設現場で働く職人たちの子弟のためにガウディが私財を投じて建設した聖堂付属小学校です〉(本書 p.48)と書き、次のような説明を加えています。よく分かりました。

〈ガウディはこの構造を、経済的な理由があって考えました。というのも、ガウディは大金持ちだった人ではありません。私財を投じてと言っても限度があります。そこで薄い煉瓦を使って、できるだけ安くつくり、しかも頑丈な建物にしたかったわけです。(略)薄いものというのは、そのままでは立ちません。しかし、アコーディオンのように折り曲げればしっかりと立ちます。屋根も波打たせれば、雨が降っても水が自然と流れ落ち、薄い煉瓦でも雨漏りする心配がありません〉(本書 p.48~49)

〈余談になりますが、後にこの建物を見て驚愕した人物がいます。現代建築の巨匠の一人、フランスのル・コルビュジェです。1928年にスペインを旅行した当時41歳のコルビュジェは、サグラダ・ファミリア付属小学校を目の当たりにして強い衝撃をうけ、克明なスケッチを残しました〉(本書 p.50)

◆逆さ吊り実験の成果により、建物を補強するための厚い壁が不要になった

 本書には、次の記述もあります。

〈逆さ吊り実験がもたらした大きな成果の一つは、建物を補強するための厚い壁が不要になったことにあります。過去につくられた大聖堂は(略)外側に倒れようとする壁を支えるために、つっかえ棒の役割を果たすフライング・バットレス(控え壁)を必要としていました。(略)厚い壁やフライング・バットレスをなくし、採光部分を大きく取ることができるようになった聖堂の内部には、双曲線面の窓から太陽の光が降り注ぎます〉(本書 p.85~86)

 カテナリーアーチによる合理的な構造を取り入れたことで、補強のための壁が不要になり、太陽の光が降り注ぐ、スッキリとした聖堂が実現した、というのです。「サグラダ・ファミリアは聖堂建築に進化をもたらした」と思いました。

◆最後に

 外尾悦郎氏については本書の外に、次のようなYouTube動画やテレビ番組もあるのでご紹介します。

Ron.

ガウディが見ていた理想の社会 | ETSURO SOTOO | TEDxNihonbashi

 3年前に行われた外尾悦郎氏の講演。写真の投影もあり、分かりやすい内容です。

URL https://www.youtube.com/watch?v=zHf0I0m6lqY

・NHK・Eテレ NHKアカデミア 外尾悦郎 

NHK・Eテレ 前編:7.26(水)PM10:00~10:30  後編:8.2(水)PM10:00~10:30

URL 「ガウディとサグラダ・ファミリア展」関連番組・イベントの紹介  |NHK_PR|NHKオンライン

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