「クマのプーさん」展 協力会向け解説会

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

名古屋市美術館で開幕したばかりの「クマのプーさん」展(以下「本展」)の協力会向け解説会に参加しました。参加者は29名。講師は、井口智子学芸課長(以下「井口さん」)。知っているようで、実はほとんど知らなかった「クマのプーさん」についての解説を2階講堂で聞いた後、自由観覧・自由解散となりました。

◆井口さんの解説の要点(16:00~16:45)

 以下、井口さんの話を、ざっくりと記します。

〇「クマのプーさん」(Winnie-the-Pooh)について

解説会の冒頭、井口さんから二つの質問がありました。一番目の「プーさんを知っている人」という質問には、ほとんどの参加者が挙手。しかし、二番目の「プーさんの本を読んだことがある人」という質問に挙手したのは、ほんの数人。じつは私も、プーさんは「ディズニー・アニメのキャラクター」という認識しかなく、「プーさんの本」どころか、アニメ映画も見たことはありません。プーさんについて知っているようで、実はほとんど知らなかったことを、改めて知りました。

井口さんによれば、プーさんは、物語「クマのプーさん」(原題:Winnie-the-Pooh、1926)のキャラクター。挿絵を描いたのはE.H.シェパード(Ernest Howard Shepard。以下「シェパード」)。最初の挿絵は「ペン画」ですが、本展では1950~1960年代にカラーで描き直したものを展示している、とのことでした。

〇「クマのプーさん」展について

井口さんによれば、本展は東京・立川市のプレイミュージアム(PLAY! MUSEUM)が企画した展覧会で、展示デザイン・コンセプトもPLAY! MUSEUMによるもの、とのこと。展覧会の構成等は下記のとおりです。

① プーさん A to Z

 挿絵原画を鑑賞する予習として、「プーさんの物語」に関するキーワードを整理、解説したもの

② アッシュダウンの森

 映像のインスタレーション。井口さんは「小さな巣箱の中も覗いてみてください」と、付け加えました。なお、吹き抜けでもアッシュダウンの森をドローンで撮影した動画を投影

③ 1950-60年代に描かれた挿絵の原画

 100点ほどの原画を展示。原画は、岩波書店の「プーさん」シリーズの表紙や口絵にも使われているものです

〇「クマのプーさん」の本について

井口さんによれば、原作者はA.A.ミルン(Alan Alexander Milne)。彼は第一次世界大戦に通信将校として参戦。1920年に、長男のクリストファー・ロビンが生まれ、子ども向け詩集を皮切りに4冊の本を発行。プーさんのモデルは、子どもが一歳の時に買い与えたテディ・ベアのぬいぐるみ。灰色のロバのぬいぐるみやコブタのぬいぐるみも子どものためのもの、とのことです。

シェパードは、第一詩集「クリストファー・ロビンのうた」(原題:When We Were Very Young、1924)にもプーさんの姿を描いています。ただし、プーさんという名前は、まだ付いていません。

プーさんの物語の舞台は、百町森(Hundred Acre Wood)。ロンドンの南にあるミルンの田園の家のそばのアッシュダウンの森をモデルにしている、とのことでした。

〇「プーさん A to Z」のみどころ

A America 本展の原画は、シェパードが1950-60年代にアメリカの出版社E.P.ダットンのために描いたもので、アメリカのエリック・カール絵本美術館の収蔵品

I Ishii Momoko 「プー横丁に建った家」(原題:The House at Pooh Corner、1928)の朗読(注:日本語版は、1942年初版)の声が流れています。カーペットが敷かれており、座ることができます

H Hundred Acre Wood 百町森のイラスト(チラシにも掲載)を展示。「スペルミス」を探してください

V Four Volume ミルンが書いた4冊の本を展示。英語版は横書きで右開きですが、日本語版は縦書きで左開きになります。そのため、進行方向が自然に見えるよう、左右を逆転したものもあります。

 本展とのコラボ企画として、名古屋市の図書館にも「クマのプーさん」コーナーがあるのでご覧ください。

◆自由観覧(16:45~18:00)

本展の会場入口は、2階でした。

〇プーさん A to Z (2階)

井口さんのお話どおり、予習のための展示でした。印象的だったのは、G Gloomy Place 灰色のロバのぬいぐるみ「イーヨー Eeyore」の家と、J Jars ハチミツの入れ物、N North Pole プーがつかんだ棒でした。二次元の挿絵ではなく、三次元の「物体そのもの」を展示しているので印象が強かったのでしょう。

〇アッシュダウンの森(2階)

 鳥の鳴き声やせせらぎの音などが聞こえてきて、森の中にいるような感じがします。座るところもあります。都会の喧騒から解放される、とても居心地の良い空間でした。

〇1950-60年代に描かれた挿絵の原画(1階)

・展示空間

展示室に円形の壁を設置して、中央に緑、青、黄、赤色の大きな布が垂れています。円形の壁には挿絵の原画が展示され、中央の広場には、①コブタが、ぜんぜん、水にかこまれるお話、②プー横丁にイーヨーの家がたつお話、③プーがあたらしい遊戯を発明して、イーヨーが仲間に入るお話、の原画をケースに入れて展示。ケースには絵本の「おはなし」が書かれているので、絵本を読んでいるような気分です。ケースの周りには、カーブした長い箱。箱の上面には緩やか起伏があります。最初「大人も子どもも座れるように、座面の高さを変えたのかな?」と思ったのですが、「物語の舞台となる百町森(Hundred Acre Wood)の地面の緩やかな起伏を表現したのではないか?」と思い直しました。井口さんによれば、円形の壁、緩やかな起伏など、展覧会の展示デザインは、PLAY! MUSEUMのオリジナル、とのこと。今までに体験したことのない展示空間でした。

・展示作品

展示作品は、シェパードのオリジナル。印刷用の挿絵の原画ですから観賞用の絵画とは違い、「小さな作品」ばかりですが、細かい所まで克明な線で描いているだけでなく、色彩が鮮やかで見ごたえがあります。本展にはあまり期待していなかったのですが、そのような先入観を持って解説会に来たことを反省するばかりです。

◆東京・立川のプレイミュージアム(PLAY! MUSEUM)について

「円形の壁の展示室」が気になり、家に帰ってからPLAY! MUSEUMについて調べてみました。ネット上にある2020年の記事(https://mag.tecture.jp/culture/20200609-988/)によれば、PLAY! MUSEUMは、2020年6月10日、東京・立川駅北側の旧飛行場跡地に誕生した新街区「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」の施設の一つです。新街区のコンセプトは「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」。38,900.20平方メートルの敷地内に、多摩地区では最大規模となるホール、ホテル〈SORANO HOTEL〉、各種ショップ、保育園、複合文化施設〈PLAY!〉などがあります。PLAY! MUSEUMはPLAY!の2階で、その名物は「楕円形の展示室」とのことでした。模型写真を見ると、本展1階展示室を楕円形にしたものです。

そうすると、本展の1階展示室はPLAY! MUSEUMの壁を持ってきたのではなく「PLAY! MUSEUMの壁と同じようなものを名古屋市美術館で一から組み立てた」ということになりますね。本展の内装工事は、相当に大掛かりなものだったと思われます。

なお、PLAY! MUSEUMについては(MUSEUM|PLAY! MUSEUMとPARK (play2020.jp))もご覧ください。

内装設計をした「手塚建築研究所」についても調べると、500人の子どものために作られた外周183mの楕円形の「ふじようちえん」を設計していました(ふじようちえん|教育施設実績|手塚建築研究所 (tezuka-arch.com))。楕円が好きなのですね。「ふじようちえん」の屋上デッキでは、園児が遊ぶこともできます。

◆最後に

 井口さんによれば、「展覧会はスタートから好調」とのこと。挿絵の原画はもちろんですが、美術館1階の展示空間も見ものです。「プーさんA to Z」の展示や「アッシュダウンの森」のインスタレーションも、本展独自のもの。「スタートから好調」というのは、確かに頷けます。お勧めですよ。

ていねいに展示の工夫などにも言及してくださいました。
井口課長さん、ありがとうございました。

Ron

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