「神谷浩(監修)」という文字に引かれ、近所の図書館で借りてきました。神谷浩さんは2019年3月24日に開催した協力会主催の名古屋市博物館「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」ミニツアーで、展覧会の解説をしてくださいました。当時は名古屋市博物館副館長でしたが、現在は徳川美術館副館長です。
◆本書の成り立ち
「はじめに」と「凡例」によると、本書は〈名古屋テレビ株式会社所蔵の浮世絵コレクションから作品を選定〉したもので〈2021年から開催される「月岡芳年展」の図録を兼ねている〉とのことです。
また、芳年の作品については〈もとの蒐集家の好みを反映してか「英名二十八衆句」などの「血みどろ絵」こそ含まれないものの、重要作品がほぼ網羅されており、芳年コレクションとして質、量ともに手応えのあるものとなっています〉と書かれています。
◆本書の構成など
本書は、「第1章 芳年の壮」武者絵、「第2章 芳年の想」歴史画、「第3章 芳年の壮」横三枚続と竪二枚継の大作、「第4章 芳年の妖と艶」美人画、「第5章 報道」新聞の錦絵、「第6章 月百姿」という構成になっています。「英名二十八衆句」などの「血みどろ絵」はありませんが、妊婦が逆さに吊るされた竪二枚継の「奥州安達がはらひとつ家の図」や、里見八犬伝の一場面を描いた「芳流閣両雄動」などの重要作品が網羅されています。重要作品かどうかは不明ですが、面白いと思ったのは「鎌倉殿の13人」に登場する北条時政が江ノ島に参籠した時に弁才天が姿を現した場面を描いた武者絵「芳年武者无類 遠江守北條時政 明治十六年(1883)」と名古屋の娘を描いた美人画「風俗三十二相 にくらしそう 安政年間名古屋嬢の風俗 明治二十一年(1888)」です。「名古屋嬢の風俗」の説明には「どこが名古屋風なのかは不明だが、着物や髪型は京阪風である」と書かれています。
◆「商業美術家の逆襲」との接点
山下裕二著「商業美術家の逆襲 もうひとつの日本美術史」は、月岡芳年について〈維新後は歴史画を多く手がけていますが、その作品には渡辺省亭の師・菊池容斎が著した『前賢故実』の影響が色濃く見てとれます〉と書いています。第6章「月百姿」の中の「垣間見の月 かほよ 明治十九年(1886)」は、菊池容斎『前賢故実』巻第10「塩谷高貞妻」明治一年(1868)を元にしたことが分かる作品で「かほよ」の容姿がよく似ていますね。作品解説には〈優雅な美女が着替えをしているのを、生垣の隙間から男が好色な目でのぞいている。「かほよ」とは塩谷判官高貞の妻、顔世で、のぞき込むのは顔世に横恋慕した高師直である〉と書かれています。渡辺省亭も塩谷判官の妻を描いた作品を何点も描いていますが、容斎と省亭が描く顔世は右向きで他の登場人物は侍女のみ。一方、芳年が描く顔世は左向きで、草むらに潜む高師直も描いている点が違います。(「渡辺省亭 ―欧米を魅了した花鳥画―」株式会社小学館 2021.3.30発行 参照)
◆名古屋テレビ株式会社所蔵の浮世絵コレクションとは?
「名古屋テレビ 浮世絵美術館 URL=https://www.nagoyatv.com/ukiyoe/museum 」というサイトには〈もとは朝日新聞社の常務矢島八洲夫氏が長い年月を費やして収集されたものですが、矢島氏がそのコレクションを「こどもの国」協会の基金づくりのために手放すことになり、関係団体に声をかけた結果、当時の名古屋放送代表取締役故川手泰二の判断で名古屋テレビのみが名乗りをあげ、一括購入をして現在に至るものです〉と書かれています。「名古屋テレビ 浮世絵美術館」には作家別の「バーチャルミュージアム」もあり、葛飾北斎、歌川国貞・国芳、歌川広重(その一)、歌川広重(その二)、月岡芳年という5つのコーナーを見ることができます。なお、月岡芳年のコーナーは、美人画ばかり20点を掲載しています。
◆2021年から開催される「月岡芳年展」とは?
ネットで調べると、2021.4.24~5.23の会期で、金沢21世紀美術館市民ギャラリーAを会場に「最後の浮世絵師 月岡芳年」展が開催されていました。途中の巡回先は不明ですが2022.4.8~6.5の会期で、八王子市美術館に巡回する予定です。
なお、協力会ミニツアーで鑑賞した「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」は2022.2.26~4.10の会期で、京都文化博物館に巡回中。豊橋市美術博物館(会期は2021.10.9~11.23)を最後に巡回が終了した「芳年 激動の時代を生きた鬼才浮世絵師」は、島根県立石見美術館(会期は2016.12.23~2017.2.13)から巡回が始まっています。TV愛知「新美の巨人たち」でも月岡芳年「大日本名将鑑」を取り上げていました(2022.02.12 22:00~22:30放送)。「今、月岡芳年が注目されている」ということですね。
Ron.
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