「現代美術のポジション 2021-2022」 会員向け解説会

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

名古屋市美術館(以下「市美」)で開催中の「現代美術のポジション 2021-2022」(以下「本展」)の協力会・会員向け解説会に参加しました。2階講堂で森本陽香学芸員(以下「森本さん」)から、本展の概要を聴き、その後は2つのグループに分かれてギャラリートーク・自由観覧・自由解散となりました。森本さんが担当するグループは1階の展示から、もう一つのグループは2階の展示から見ることになりました。私が参加したのは後者で、担当は久保田舞美(くぼた・まみ)学芸員(以下「久保田さん」)です。ギャラリートークの冒頭で、「今年の4月に学校を卒業し、市美に採用されたばかりの新人です」と自己紹介がありました。

◆2階講堂・森本さんの解説(16:00~16:10)の概要

 「現代美術のポジション」は1994年に始まり、前回開催は2016年、本展は6回目の開催となります。本展では、名古屋市や愛知県を拠点として活動している作家、名古屋市や愛知県で学び巣立っていった9名の作家を紹介します。ジャンルは偏らないようにしました。男女比をみると、奇数なので同数は無理ですが、男性5名、女性4名。期せずして、ほぼ半分。女性のうち母親が2名というのも、時代を反映しています。これも、自然とそういう形になったものです。年齢は、全員が20代後半から30代後半の若い作家で、ステップアップに期待できる人たちです。美術系大学の講師も、複数いらっしゃいます。

◆久保田さんのギャラリートーク(16:10~17:15)の概要

(注)久保田さんが担当するグループのギャラリートークは2階から始まりましたが、以下の文章は、展示の順番に従って、1階の作品解説から書かせていただきました。なお、(mm)は久保田さんのギャラリートークの概要、(Ron)は私の「つぶやき」です。

1階

◆木村充伯(きむら みつのり)1983~

(mm)エントランスにいるのはミーアキャットの彫刻、木村充伯の《Wonderful Man》です。ミーアキャットの毛皮は、チェーンソーで木材の表面を毛羽立たせたものです。皆さん、ミーアキャットはたくさんいるのに、作品名は単数、おかしいと思いませんか。実は、Man はミーアキャットではなく、ミーアキャットたちが見ている「不思議な人物」。つまり、皆さん方のひとりひとりを指しています。展示室に展示されている彫刻は《大丈夫、あなたを見ている人がいる》です。ヒョウ、キリン、ペンギンとネコの4点が出品されています。

(Ron) 《Wonderful Man》も《大丈夫、あなたを見ている人がいる》も、参加者の中では「カワイイ!」という声が飛び交っていました。

◆多田圭佑(ただ けいすけ)1986~

(mm)木の板やタイル、チェーン、ビスを組み合わせた作品に見えますが、実は、木の板やタイル、チェーンなどは、型にアクリル絵具を流し込んで固めた作品です。型から取り出したアクリル絵具の塊に着色し、本物そっくりに仕上げました。なお、作家は、テーマパーク(ディズニーランド)でセットを制作しています。

(Ron) 「アクリル絵具で作った」と聞いて、参加者の中から「鎖はどうやって作ったの? 信じられない!」という声が出ていました。タイルと木の板、チェーンの組み合わせというだけでも、作品として十分成立しますが、更に手の込んだ仕掛けをしていると知って、びっくりです。

◆鈴木孝幸(すずき たかゆき)1982~

(mm)作家は愛知県新城市を拠点にしています。映像作品は地震を体験した人の話を編集したもので、机の上に並んでいるのは、河原から採取した石などです。コールタールで黒く塗ってある部分は、地中に埋もれていたところです。モルタル(セメント、水、砂を混ぜて固めた素材)にコールタールを塗った板と鉄板を組み合わせた作品は《heaping earth-627 中国の地図》です。モルタルの板は地盤、鉄板は断層を表しています。

(Ron) 《heaping earth-627 中国の地図》をみて、参加者の間から「どうやって並べたのだろう?作家の意図通りにモルタルの板や鉄板を並べるのは、とても難しい」というひそひそ話が聞こえてきました。

◆水野里奈(みずの りな)1989~

(mm)油彩画は、中東の細密画、水墨画などを組み合わせた装飾性豊かな作品です。このうち、《青い宮殿》は、高橋コレクションの所蔵です。一方、細密ドローイング6点は、油彩画とは直接関係しません。よく見ると、フレームにも図柄を描いていますね。でも、《細密ドローイング2021.5》のフレームだけは、何も描いてません。

(Ron) 油彩画は、絵の中に絵が描かれている、とても緻密できれいな作品でした。参加者からは「この作者の作品は“あいちトリエンナーレ2013”の長者町会場でも見た。とても、なつかしい!」という声が上がりました。

◆横野明日香(よこの あすか)1987~

(mm)最初は、《curve》など、山肌の曲線を美しく表現し、その場に立っているかのように感じられる風景画を描いていました。最近は《百合とかすみ草》など、花を描いた大きな作品を制作しています。

(Ron) 花を描いた作品は大きなものばかりで、《百合とかすみ草》は2枚のパネルを使った大作です。「大きすぎて、普通の家だと飾る場所がない」と思ったのですが、作家が2階の「アーティストの日常」に出品している「灯台」のシリーズは、小さなものばかり。これなら、小さな家にも飾れます。

◆川角岳大(かわすみ がくだい)1992~

(mm)愛知県出身の作家さんで、現在は埼玉県を拠点に活躍しています。犬が大好きで、ご本人は柴犬を飼っています。《rear dog》は、犬を後ろから見た作品。飼い主でないと気がつかない視線で描いたものです。なお、《front  dog》と《rear dog》は、高橋コレクションの所蔵です。《He has gone》は、自転車に乗っているところを描いた作品ですが、自転車と手・足だけが描かれています。乗っている人の目線で描いたのでしょう。

(Ron) 犬を飼っている参加者は《rear dog》を見て「変なアングルだけど、確かにこんな風に見える時がある」と、面白がっていました。《He has gone》も「自転車で段差を跳び越すときに体が受けている感覚は、このようなものかな」と、思わせる作品です。

2階

◆本山ゆかり(もとやま ゆかり)1992~

(mm)「画用紙」のシリーズは、デジタルペイントツールで描いたドローイングの中から、気に入った線を選んで、透明アクリル板の裏側から絵具で描いた作品です。裏から描くので表面がツルツルで、普通の絵とは違った感じになります。裏から描くとき、黒い線が先だったり、白い部分を先に描いたりと、臨機応変に描いています。「Ghost in the Cloth」は、複数の布を縫い合わせて、その裏に綿を置き、ミシンを使って透明な糸でナイフや薔薇を線描したものです。作家は「絵画とは何か」を問い直しながら、作品を制作しています。

(Ron) 「画用紙」シリーズの(二つの皿を持つ人)は、ぱっと見た感じでは「落書き」ですが、しばらくの間眺めていると、単純化された顔と二本の腕、二つの皿が見えて来ました。(草原と日の出)は、上から三番目の太い横線の真ん中から、小さな太陽が顔を出しているように見えます。

◆寺脇扶美(てらわき ふみ)1980~

(mm)「Crystalシリーズ」は、鉱物を写生して、その図像から線を抽出し、線をデジタル化して凸版を作り、凸版で麻紙にエンボス加工を施してから、岩絵の具で彩色する、という手法で描いた作品です。「autuniteシリーズ」はウラン鉱石をモチーフに、「diamondシリーズ」はダイヤモンドをモチーフに、「Crystalシリーズ」と同手法で描いたものです。「red + whiteシリーズ」は絵絹の裏から彩色した作品です。「抱っこの光景」などの作品は、絵絹に描いた絵を裏返したものです。

(Ron) 「red + whiteシリーズ」の表面はピンク色ですが、裏から見ると鮮やかな紅色です。絵絹は礬水(どうさ)引き(膠と明礬を溶かした水を紙や絹の表面に塗ってにじみ止めをすること)をしているので、絵の具を塗った面を裏から見るとピンクに見える、という説明がありました。《抱っこの光景》は、赤ちゃんを抱いた母親を、後ろから描いた作品です。しかし、裏返しているので母親の姿は、よく見えません。久保田さんの説明では「はっきり見えなくても、抱っこの光景は確かに存在していると、作家は思っている」とのことでした。

◆水野勝規(みずの かつのり)1982~

(mm) 作家は、三重県生まれ。2018年に市美で開催した「モネ それからの100年」にも映像作品を出品しています。《snow garden》は古い規格のビデオ作品ですが、《sync code》や《monotone》は4Kビデオなので、画像が鮮明です。

(Ron) 《monotone》は鮮明で綺麗な作品ですが、上映時間が24分と長いので、最初から最後までを通して鑑賞することはできませんでした。最後の方、満月を背景に花火が打ち上げられるシーンで、火の粉が弧を描き、月の前を落ちて行った後、暫くして、同じように弧を描きながら月の前を通り過ぎて行く煙の軌跡がクッキリと見え「4Kだと、こんな風に見えるのか」と、感動しました。

◆アーティストの日常

 本展の最後に、出品作家の身の回りの物を展示する「アーティストの日常」が企画されています。時間が限られていたため、説明があったのは水野里奈さんの「刺繍」だけでしたが、一見の価値はあります。

◆最後に

 その前に立つと心が引き込まれ、雑念が取り払われていくような気持ちになる作品が幾つもありました。脳の疲れが減っていく感覚です。まさに、mindfulnessの実践だと感じました。

Ron.

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