ランス美術館のコレクションが再び名古屋市美術館にやってきました。約3年半前、2017.10/7~12/3に名古屋市とランス市の姉妹都市提携を記念して開催された「ランス美術館展」(以下「前回展」)は藤田嗣治の作品をメインに、17世紀から20世紀までの作品が出品されていましたが、今回の「ランス美術館コレクション」のテーマは「風景画のはじまり コローから印象派まで」。年代でいえば前回展の第2章「革命の中から近代の幕開けを告げる」と第3章「モデルニテ(注:近代性)をめぐって」に該当しますが、前回展とダブるのはブーダン《ベルク、船の帰還》(姉妹都市提携記念特別作品)とシスレー《カーディフの停泊地》(第3章)の2点だけ。爽やかな気分になる作品が並び、文字どおり「コローから印象派まで」の流れがわかる展覧会です。
◆1 コローと19世紀風景画の先駆者たち
受付を済ませ、記念撮影ができるエントランスを抜けると5点の風景画が並ぶ小部屋です。解説によれば、風景は歴史画の背景として描かれていましたが、19世紀になると戸外に出て目の前の風景を描くようになり「風景画」が独立したとのこと。この部屋には「風景画の先駆者たち」の作品が出品されていました。
◆1の続き カミーユ・コローの作品が16点
小部屋を出て左に進むと、カミーユ・コローの作品が16点も並ぶ本展のメイン展示室。最初の作品は噴水と立木が作るトンネルの向こうに大聖堂のドームが見える《ヴィラ・メディチの噴水盤》。噴水と立木が真っ暗なので、自然と大聖堂のドームに目が引き付けられます。順路に沿って進むと4点目の《川を渡る》から、右上に空を描いた作品が続きます。青い壁の特等席に飾られているのは《イタリアのダンス》、中日新聞で紹介されていましたね。この作品の空は、真ん中のやや上でした。さらに進むと《突風》から空が左上に移り、最後の《地中海沿岸の思い出》まで、同じ構図の作品が続きます。展示の仕方が工夫されていて、面白いです。
◆2 バルビゾン派
コローに続くのは、バルビゾン派の作品。最初はジュール・デュプレ《風車》。地平線が真ん中よりも下なので、空が広く、雲の淡い感じが爽快です。地面に描かれた2台の風車、牛、アヒルなど、どれもバランスよく配置されているので、絵に安定感と動きがあります。アンリ=ジョセフ・アルビニー《ヨンヌの思い出、サン=プリヴェからブレノーへの道》は、青い空と白い雲が印象的で、点景の女性がアクセントになっていました。穏やかな風景に心が和みます。印象主義を思わせる画面の明るさが、心地よい良いです。
◆3 画家=版画家の誕生
ドービニーの版画は三重県立美術館のドービニー展(2019.9/10-11/4)でも見ましたが、ほかの画家の作品もエッチングによる細密描写なので、写真みたいです。サイズが小さくてモノクロで地味なのですが、油絵のような雰囲気は出ているので、コレクターは作品を手に持ち、眺めて楽しんだのでしょうか。
展示室の最後に油絵の絵の具の進化が展示されていました。①中世からルネサンスまでは、絵を描く都度、顔料と油を練り合わせ、②17世紀には練り合わせた絵の具を豚の膀胱に入れ、③1828年には注射器の形をした絵の具の容器が発明され、④1841年に錫製のチューブが発明され、1860年代にはかなり普及したとのことです。
◆4 ウジェーヌ・ブーダン
2階の展示はブーダンの作品7点から始まります。最初に《ベルク、出航》と《ベルク、船の帰還》が並んでいますが、《船の帰還》が朝なのか夕方なのか判然としません。出航した船に照明設備が見当たらないので、昼間に漁をして夕方に帰還したのではないか、と考えたのですが、それで良かったでしょうか?
赤い壁の特等席に飾られた作品は中日新聞で紹介された《水飲み場の牛の群れ》。この作品以外は全て海の風景で、順路に沿って進むと少しずつ明るい絵になり、最後の《上げ潮》は印象主義の絵のような明るさです。
◆5 印象主義の展開
最初の作品フェリックス・ジェム《コンスタンティノープル(イスタンブール)》は、ブーダンの作品と同じ雰囲気。順路に沿って進むうちに「いかにも印象主義の作品」と分かる、カミーユ・ピサロ《ルーヴル美術館》にたどり着きます。この部屋の展示も、工夫していますね。
◆地階では
地階では、特別展「アートとめぐる はるの旅」を開催していました。ここでも風景画を展示していますが、「ランス美術館コレクション」の出品作とは、感じが違います。「どこが違うのか」と問われてもうまく表現できないのが、もどかしいです。エッチングの作品もあります。面白いのは、同じ版を使い、陽画と陰画の両方を刷っている浅野弥衛の作品。エッチングの版を凸版として印刷すると、真っ黒な画面の中から彫った線が白く浮き出て「写真のネガ」のようになるのですね。
Ron.
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