あいちトリエンナーレ2019の新聞記事について

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

先日の合同鑑賞会で学芸員さんから「トリエンナーレについて、肝心の作品の話はどこかに行ってしまいました」という嘆き節を聞きましたが、ようやく「作品の話」を書いた新聞記事を二つ見ることが出来ました。

一つ目の新聞記事は、8月29日(木)から31日(土)まで中日新聞朝刊「Culture」欄に連載された「見る歩く あいちトリエンナーレ」の上(以下「C上」)、中(以下「C中」)、下(以下「C下」)です。C上は作家・高山羽根子さんが登場する谷口大河記者の署名記事、C中は元名古屋ボストン美術館館長・馬場駿吉さんが登場する栗山真寛記者の署名記事、C下は評論家・藤田直哉さんが登場する中村陽子記者の署名記事。二つ目は、8月31日(土)日本経済新聞「文化」欄の窪田直子・編集委員による署名記事(以下「日経」)です。 項目別に、二つの記事をまとめてみました。

◆ジェンダーバランス(トリエンナーレ参加アーティストの男女比率)について

 ジェンダーバランスについては合同鑑賞会でも話がありましたが、日経では「今回、芸術祭の芸術監督を務めたジャーナリストの津田大介氏の強い意向で、参加アーティストの男女比率が同数になった。美術館長などの主要職、大型芸術祭の出品作家の多くをいまだ男性が占める状況に一石を投じたといえる」と、好評価でした。C上でも「『一つの試みとして興味深い』と高山さん。美大で日本画を学んでいたころを振り返り『結婚や出産、育児で創作を離れる人、キャリアが中断される人はいるが、芸術分野に限らず、それを経験したからこそできる仕事もあるはず。(男性偏重を解消する)ジェンダーバランスは、そういった人も能力を評価されるチャンス』と話す」と、今回の対応に賛同しています。  確かに、合同鑑賞会で見たN01 碓井ゆう(注:アルファベットと数字は公式ガイドマップの通し番号。以下同じ)やN07 青木美紅の作品は女性ならではのものです。また、女性作家が多いことで「多様性が増している」と感じました。合同鑑賞会に参加した人は誰でも、同じような感想を持ったのではないかと思います。

◆「表現の不自由展・その後」の中止について

 日経では「芸術祭のテーマは『情の時代』。『情報によってあおられた“感情”に翻弄された人々が世界中で分断を起こしている』との危機感から津田氏が選んだ。『表現の不自由展・その後』の中止は、図らずもその分断の深さを露呈してしまった。テロ予告や脅迫ともとれるファクスや電話が殺到し『不自由展』が打ち切られたことに対して、芸術祭の出品作家72人(注:正しくは、声明発表時12人。その後、田中功起氏が加わり13人)が声明を発表した。一部の作家は自作の展示を中止、あるいは内容を変更して抗議の意思を表明。自主運営スペースを開設して公開ディスカッションなどを企画する動きもある。他者への共感をもって排外主義にあらがう作品のメッセージは、この一件を契機にかえって強固になったように感じる」と、多くのスペースを割き、「共生・分断 世相映す芸術祭」という大見出しに加え「『不自由展』中止の余波続く」という小見出しをつけています。

 C上では「(注:高山さんは)小説家として『表現の不自由展・その後』の中止の問題も考えずにはいられない。『賛否のどちらが正解で、もう一方が不正解とは簡単に言えない。間で困惑する人の目線も絶えず考えていきたい』(略)人の心のグラデーションを表現した書き手として『どちらか一方ではなく、間で踏みとどまって、その上で考えるのが大切だと思う』と語った」と書いています。また、C下ではトリエンナーレに対する評価について「藤田さんは『とりわけジャーナリスティックな方向で特色を出し、成功してきた印象がありますね』と語る。現代社会で起きている問題を映し出す作品が、一番の見どころだったとの指摘だ」とした上で、不自由展の中止について「藤田さんは『世界の芸術祭を見れば、政治色の強い、議論を巻き起こすアートも、珍しくありません』と解説する。(略)『不自由展の企画は、その後の経緯を含めて、社会の分断を可視化する作品と見ることもできます。ただ個人的には、その一歩先、対立を超える知恵も、表現してもらいたかったなぁ』」と書いていました。

 いずれの記事も「間で踏みとどまって」(C上)、「対立を超える知恵」(C下)など、その言葉からは「共生」(日経の見出し)を望んでいる姿勢が感じられました。ただ、9月1日(日)中日新聞の記事は「とはいえ再開には、困難もつきまとう。このままの状態では、政治家や匿名の抗議の再燃は避けられない。電話対応や警備体制の変更など、新たな工夫が必要になる」と、厳しい見方をしています。

◆ジェンダー(社会的、文化的に形成される男女の差異)をテーマにした作品について

◎N04 モニカ・メイヤー「The Clothesline」

 日経では、「現在は、内容を変更して展示中」という説明文の写真を付け、「『痴漢被害を父に相談したらジョークで返されショックを受けた』『小2の時、女はサッカーをやるなと男子に蹴られた』メキシコのモニカ・メイヤーによる観客参加型のプロジェクトを展示する一室では、こんな体験が書かれたメモ用紙に鑑賞者たちが見入っていた」と紹介していました。

◎S08 キュンチョメ

 四間道・円頓寺会場の幸円ビルに展示している作品で、C下は「藤田さんは『ぜひ見ておきたい』と、男女二組ユニット『キュンチョメ』が出品するビルに足を向けた。性同一性障害の当事者へのインタビューを中心にした映像作品。『性別の境界を超えることの難しさを分かりやすく伝える快作ですね』と満足そうだ」と紹介していました。日経でも、多くのスペースを割いて紹介しています。

◆国籍や文化の差異をテーマにした作品について

◎N03 藤井 光

 日経では写真付きで「展示室内では、ふんどし・鉢巻き姿で水につかって身を清め、整列行進する男たちが映るモノクロ映像と、彼らの動作をまねる外国人の集団のカラー映像が流れる。戦前の日本が統治下の台湾に設置した『国民道場』に着想した新作だ。(略)外国人労働者の受け入れが今後拡大する日本では、文化の異なる他者との共生は大きな課題だ。日本社会への同調を強いるのではなく、多様な存在を包容できるか。同じ動作を繰り返す無表情の外国人男女の映像は、そんな問いを突きつける」と、多くのスペースを割いて紹介していました。C下でも「この人が出しているなら行ってみよう」という作家として紹介しています。

◎A11 田中 功起

 日経では「(略)映像に登場するのはボリビア、朝鮮半島、バングラディシュ、ブラジル出身の親を持つ4人の男女。(略)わずかな外見上の違いなどから好奇の目にさらされたりした生い立ちを淡々と語り合う。『日本には、日本人は単一民族であるという幻想がある』と田中は作品の解説に記す。日本人像が多様化している現実に。社会は追いついていないのである」と紹介していました。C下でも「この人が出しているなら行ってみよう」という作家として紹介しています。

◎A04 レジーナ・ホセ・ガリンド

 日経の記事は「県内のラテン系の労働者たちと映像を撮った」と短めですが、文化の異なる他者を扱った作品の最初に紹介されています。「共生・分断」という切り口に合致した作品、という評価でしょうか。

◎S03 梁志和・黄志恆

 C下では「展示作品の手前に、祖国(注:香港)のデモ弾圧に対する声明を張り出している」と説明し、「中部地域は、製造業に従事する外国人も多く、世界の都市と、移民や差別の問題で通じ合える可能性がある。そこに芸術で迫るという方向性は、間違っていないように思いますよ」という藤田さんの意見を掲載していました。

◆豊田市駅周辺の作品について

◎T02 小田原のどか「→(1923-1951)」

 C上では新豊田駅近くの作品を、「空白の台座 気づき促す」と、大見出しを付け「造形物は、屋外彫刻の台座を模している。戦前、同じ形の台座が、東京・三宅坂にあり、馬に乗った軍人の像が飾られていた。だが、この作品には、本来なら彫刻が置かれているはずの部分に何もない。(略)戦後、日本では、あちこちにあった軍人の像に代わって、『平和』と冠した裸婦像の彫刻が増えた。三宅坂の台座には『平和の群像』と題し、三人の裸婦像が飾られた。これが全国の裸婦像の先駆けとされる。彫刻とはいえ、女性の裸が街頭に乱立していった歴史を鋭く見つめているのだ。高山さんは『背景を知るといろんなことを考える。例えば少年漫画雑誌の表紙を飾る水着の女性、女性の体をほめる「曲線美」という言葉。否定的な違和感ではないが、なぜだろうという気づきがある』と話す。台座は空白だからこそ『多くの人に気づきを促すはず』」と、台座の写真も付けて紹介しています。  私がこの作品を見て分かったことは「戦後、裸婦像が軍人の像と入れ替わった」という事実だけでした。高山さんの言葉によって「背景を知って、いろんなことを考える必要があるのだ」と気づかされました。

◎T03 和田 唯奈(しんかぞく)「レンタルあかちゃん」

 これもC上です。「赤ちゃんが描かれた絵を手に、物語性の高い絵が飾られた『レンタルあかちゃん』の会場を巡る」という説明文の写真を付け、「会場内の手紙などから、子に込めた願いを知る仕掛けになっており、女性の体と切り離せない出産、役割とされてきた育児について考えさせられる。体験した高山さんは『ポップさとの対比が面白いですね。物語を自分の手で完成させた感じがした。赤ちゃんの絵も複数の種類があり、誰かと一緒に回ると楽しい作品』と笑った」と紹介しています。  この作品、私が豊田市に行ったときは時間切れでパス。記事を読み、その時パスしたことが悔やまれました。

◆パフォーミングアーツについて

◎A01ab、N11 ドラ・ガルシア 「THE ROMEOS」

 C中では「ガルシアさんは壇上に並んだ九人のロミオたちに質問を投げかけていく(略)馬場さんは『自己と他者の境界をあいまいにするような作品。かつて寺山修司が劇場から街へ出ていったよう』と思い起こす」と紹介していました。また、不自由展の中止については「ガルシアさんは抗議の意思として、展示を一時中止したが、ロミオたちは継続して活動している」と書いています。

◎A63 劇団うりんこ+三浦 基+クワクボリョウタ「幸福はだれにくる」

 C中では「トリエンナーレは国際的であると同時に、愛知で開催する意味合いを考える上で、地元の劇団がこのような作品を上演したことを(注:馬場さんは)喜ぶ」と書いていました。

Ron.

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