あいちトリエンナーレ2019 合同鑑賞会 レポート

カテゴリ:会員向けギャラリートーク 投稿者:editor

2016年に引き続き、あいちトリエンナーレ2019(以下「トリエンナーレ」)でも名古屋市美術館協力会と愛知県美術館友の会の合同鑑賞会が開催されました。午前の部は名古屋市美術館会場、午後の部は愛知県美術館会場で開催され、午前の部の参加者総数は約60名、午後の部は午前の部より参加者が増えていたように思います。 名古屋市美術館会場(10:30~11:30)

名古屋市美術館での解説の様子

 名古屋市美術館会場の案内は竹葉丈学芸員(以下「竹葉さん」)でした。展示室に向かう途中、竹葉さんは美術館のロビーとエントランスホールを繋ぐ橋の上で立ち止まり、「皆さん、ここからサンクンガーデンを見てください。あそこに置かれているゴミ袋も作品です」と言われました。

◆N12 バルテレミ・トグォ(カメルーンの作家)  それは、国旗が印刷された白いビニール袋でした。竹葉さんの解説は「印刷されているのは19世紀から20世紀にかけてヨーロッパの植民地になっていた国の国旗です。毎日、美術館を取り巻くように設置し、午後4時半に回収されます。当時の宗主国と植民地の関係を象徴するインスタレーションです。今回、メインストリームの作家の出品はありませんが、現代美術が身近になっていると感じられます」というものでした。

◆N01 碓井ゆい(うすい・ゆい) エントランスホールの屋根から透明な丸い皿と蓋が吊り下げられています。蓋には ”TOKYO PETRI SHALE”の文字。皿にはオーガンジーに刺繍したモチーフ(乳母車を押しているウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、カエルや子供服、揺りかご等)が置かれています。竹葉さんの解説は「作者は今年、出産されました。モチーフはマタニティ・グッズです。ほとんどはペアで、染色体を表わしています。しかし、ペアになっていないモチーフもあります。それは染色体異常、重い内容を含んだ作品です。なお、毎週金曜日の夜間開館時はライトアップされます。きれいですから、一度ご覧ください」というものでした。

◆N02 今津景(いまづ・けい) 1階の吹き抜け部分に進むと、屋根から大型のパネルとバナーが吊り下げられ、バナーに向かって右側の壁の上部には赤いオランウータンの動画、壁の下に立てかけられたパネルにも動画が投影されています。竹葉さんの解説は「作者はインドネシアに移住した女性。壁の上部にあるのは中国製の回転するプロペラ、動画はプロペラの裏からが投影されています。下の動画は、メイキング映像。インドネシアでは絶滅危惧種のコモドドラゴンが密猟されるなど自然破壊が進んでおり、それに警鐘を鳴らす作品です。大型のパネルとバナーは、インターネットで集めた素材をもとに制作。名古屋市美術館の常設展に展示しているフランク・ステラの作品と同じように、平面だけど奥行きを感じさせる作品です」というものでした。

◆N03 藤井光(ふじい・ひかる) 次の展示室は真っ暗。戦前のモノクロ動画と最新のカラー動画が映写されていました。竹葉さんの解説は「モノクロ動画は、1942年から43年にかけて、台湾に開設された国民道場で行われた現地青年に対する日本人教育の様子を描いたものです。カラー動画は2019年制作。国民道場を再現した作品で、モノクロ動画とシンクロしています。出演者は日本で働いているベトナム人の若者です。戦前も現在も、外国人の助けを必要としているという点では同じ。また、日本でグローバル化が進んでいることも感じます」というものでした。

◆N04 モニカ・メイヤー(メキシコ人、フェミニスト・アートのパイオニア) 展示室の床にはカードが散らばり、カードがクリップで留められていた仕切り板には「表現の自由を守る」という声明。声明は8月25日に豊田市美術館で見たものと同じですが、署名者に「田中功起」が追加されていました。竹葉さんの解説は「この作品は “The Clothesline” という運動の一環。主催者が用意した「質問」を書いたカードに参加者が「答え」を書いて展示するものです。壁に貼ってあるのは、今年6月に名古屋大学で開催したシンポジウムの記録です。8月14日までは参加者が記入したカードが展示されていましたが、現在は全て回収・保管されています。散らばっているのは未記入のカードです。表現の不自由展が再開すれば、展示は元に戻ります」というものでした。

◆N05 桝本佳子(ますもと・けいこ) N04の隣には、陶磁器の雁が壺を通り抜ける様子と漁船がカジキマグロを釣る様子を表現した二つのインスタレーションのほか、器と動物が融合した作品など多数の陶磁器が展示されています。竹葉さんの解説は「これらの作品は、幕末・明治期の超絶技巧をポップにしたものです。個人的には《イカ/壺》(2018)が面白い。磁器で光沢があります。また、《鷺/壺/鷺》(2010)は豊田市美術館の所蔵品です」というものでした。 美術館1階・2階の間にある階段室

◆N11 ドゥラ・ガルシア 壁の「THE ROMEOS」と書いたポスターに「表現の自由を守る」という声明が貼られていました。竹葉さんによると「声明は貼っていますが、ROMEOの人は活動しています」とのことでした。 美術館2階

◆N06 パスカレハンドロ(男女のユニット) 竹葉さんの解説は「パスカレハンドロというのは、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーと画家パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー夫婦のユニット。ホドロフスキーはパリのカフェで集団治療を行い、そのお礼はアレハンドロ宛てに手紙を出すことでした。壁に貼ってあるのは、その手紙です。今回は10通の手紙を選び日本語に翻訳して冊子を制作しました。冊子は持ち帰り自由です。奥の部屋で上映している映像作品は集団治療の様子です。話は変わりますが、今回のトリエンナーレは多様性が感じられて楽しかった」というものでした。

◆N07 青木美紅(あおき・みく) 展示室の真ん中に部屋が置かれ、壁には巨大な壁新聞と牧場の風景が貼られています。竹葉さんの解説は「作家は22歳で現役の美大生。18歳の時に母親から人工授精で生まれたことを知らされ、将来、妊娠して子どもが産めるか心配だったそうです。《1996》という表題は作家の生まれた年というだけでなく、クローン羊のドリーが生まれた年でもあり、旧優生保護法による不妊手術を拒否した女性が『札幌いちごの会』を立ち上げた年でもあります。中央に置かれた部屋は12角形。周囲の壁に貼ってあるのは、ドリーが生まれた牧場の写真と『札幌いちごの会』の記事で、全面にラメ糸の刺繍があります。女性らしい作品です」というものでした。

◆N08 タニア・ペレス・コルドヴァ 白い台の上に、大理石の円柱や陶器の壺などが一列に並んでいます。竹葉さんの解説は「メキシコの女性作家の作品で、大理石の円柱の上にはコンタクトレンズの片方が置かれています。花柄の花瓶やドル・ペソ硬貨の複製もあります。作者によれば『円柱状のコンタクトレンズと対のレンズをつけた女性や花瓶と同じ柄の服を着た女性が、作品の近くを通り過ぎるかもしれない』ということですが、今のところそのような女性はいません。この作品、私としては、自分の部屋に帰ってきた女性がコンタクトレンズを外し、服を脱いで化粧も落としシャンプーするという流れを表現しているように思えます」というものでした。

◆N09 Sholim 壁にスマホやタブレットが壁に貼られ、短い動画を繰り返し再生しています。竹葉さんの解説は「作者はセルビア人。どれも、シュールレアリズムのような動画です。一番左は小津安二郎監督の映画『東京物語』もとにした作品。その右にあるのはメイキング映像です」というものでした。

◆N10 カタリーナ・ズィディエーラー 音楽を聴いて、その歌詞を筆記している動画です。竹葉さんの解説は「この動画の作者もセルビア人です。18984年のヒット曲『Shout』の英語の歌詞をセルビア人男性が文字にしている様子を撮影したものです。歌はShoutと発音しているのに、文字はShoum(注:動画では「Sh」ではなく「S」の上に記号「-」を付けた文字を書いています)になってしまいます。セルビアを含む旧ユーゴスラビアは多言語国家でした。自分の知らない言葉は、聞き取るだけでも難しいことを表現しています」というものでした。 名古屋市美術館地下1階 常設展示室3の入口に、N04で見たようなカードをクリップで留めた仕切り板があります。竹葉さんの解説は「地下のカードは『子どもとして、嫌だな、と感じたことはありますか? それは何ですか?』という質問に対する答えを書いたものです。時間があれば読んでください」というものでした。 一旦解散 午前の部は、以上で終了。「午後の部は午後1時から開始します。開始の10分前までに愛知県美術館10階入口付近に集合してください」という案内があり、合同鑑賞会は一旦解散しました。 愛知県美術館会場(13:00~14:17) 午後の部の開始に当たり、愛知県美術館の学芸員さんから「新聞等で報道された通り『表現の不自由展・その後』(以下、「不自由展」)は作品の撤去要請があっただけでなくテロ予告や脅迫ともとれる抗議があり、安全な運営が危ぶまれるために中止しました。不自由展中止後は中止したことに抗議するための出品辞退や展示中止があり、現在、トリエンナーレ事務局は混乱しています。トリエンナーレには66組が参加していますが、展示中止以外の作品の影が薄くなりました。また、トリエンナーレに対する関心・話題では、肝心の作品の話はどこかに行ってしまいました。合同鑑賞会に参加された皆さんには『トリエンナーレを楽しんで欲しい』という気持ちで一杯です。午後の部では10階を中心に、ポイントを絞って解説させていただきます」と挨拶がありました。

解説してくださった竹葉学芸員、ありがとうございました

◆A02 エキソニモ 《The Kiss》 愛知県美術館10階の入口広場の中央にある作品の解説は「スマホに見えるモニター2台に目をつむった人の顔が映っている作品の題名は “The Kiss” です。モニターが向かい合っているので、キッスしているように見えます。モニターを持っている手は3Ⅾプリンターで制作したものです。大型の作品を作るのは技術的に難しいため、継目が見えます。ひょっとしたら、将来、2019年代の技術水準を示す産業遺産になるかもしれません」というものでした。解説を聞いているとき、隣から「キッスの時は誰でも目をつむるの?」「あたりまえでしょう」という会話が聞こえました。家に帰ってからネットで調べると「ほとんどの女性は目をつむるが、男性の3割は目を開いている。理由は可愛いから見ていたい」という記事がありました。それから、昔、喜劇映画で見たような覚えがあるのですが、この作品、目をつむっている男性が突然目を開けて「お前、なに見てるんだよ」と怒鳴ったとしたら、作品を見ていた人はびっくりするでしょうね。ただ、美術作品としてはいただけませんが……

◆A03 アマンダ・マルティネス アクリル樹脂製で、同じパターンを繰り返す手法を使った立体作品です。《夜明けまでジャズ、なんて》など、意味深な題名がついていました。解説は「この作品は女性作家のものです。作家の選定について『トリエンナーレは女性作家に下駄をはかせるのか?』という意見もありました。現在は女性作家の人数が多いので、結果的に50対50になったのです」というものでした。

◆A04 レジーナ・ホセ・ガリンド 展示室の照明は消され、床には“Latinos in Japan” と書いた紙。解説は「豊田市・保見団地の映像が上映されていましたが、今は中止。作家は『多文化共生といっても日本人のルールの中で生きるというのは抑圧ではないか』という疑問を抱いて保見団地を取材しました。そこには複雑な問題があり、最終的にパーティーの映像を上映することになりました。不自由展の中止に対する中南米と韓国の作家の反応は大きいものでした。表現の自由が目に見える形で制限されている地域と欧米や日本とでは、表現の自由に対する考え方が違います。不自由展中止に対し『安全性という名目の検閲があるのではないか』という意見もあります」というものでした。

◆A05 アンナ・ヴィット 《60分の笑顔》という題名の、作り笑いを続ける動画です。解説は「60分間笑い続けるというのは大変です。緊張を強いられ笑顔が途切れる瞬間もあります。その様子を楽しむ作品です」というものでした。参加者からの「60分の始まりと終わりは分かりますか」という質問には「はい、分かりますよ」という回答がありました。

◆A06 ウーゴ・ロンディーネ 《孤独のボキャブラリー》 公式ガイドマップの表紙になっている作品です。解説は「45体のピエロが表現しているのは、一人でいる時の表情です。ピエロはそれぞれ「佇む」「呼吸する」「あくびする」等の表情を表現しています。ポーズしているモデルを3Ⅾスキャンして発泡スチロールで作った体の上から、衣装を着せています。大柄なピエロは男性の、小柄なピエロは女性のモデルをスキャンしたものです。リラックスした状況をつくるため、展示室のカーペットを明るいリノリウムに取り替えました。ピエロに存在感があるので、気味が悪い時があります」というものでした。確かに、照明を変えれば「お化け屋敷」になりますね。

◆A07 クラウディア・アルティネス・ガライ 照明を消された部屋に展示物があります。動画を上映していた部屋に入ることは出来ません。解説は「作者はペルーのアーティストで、モチーフはペルーの歴史です。ペルーは複雑な歴史を持ち、様々な国から侵略を受けました。動画は1200年前のペルーの男性をモチーフにして制作したものです」というものでした。

◆A08 永田孝祐(ながた・こうすけ) 写真と料理作り動画の組み合わせです。解説は「写真を見ると、ボウルに100%、水差しには64.28%などの表示があります。これは、ボウルの画像に対しコンピュータは100%の確かさでボウルだと認識したが、水差しの画像に対する認識は64.28%の確かさだったということです。左隣の写真は、もう少し広い範囲を撮影したものです。この写真だとコンピュータは机を認識しますが、ボウルや水差しを撮影した写真だと机の存在を認識できません。反対側の壁に展示された写真では実物と印刷物が混じっています。一目では、実物と印刷物を区別できません。動画は料理の手順を外国語に翻訳した作品です。『おでん』を翻訳すると『ポトフ』になるように、翻訳によって失われていくものがあることが分かります」というものでした。

◆A09 石場文子(いしば・あやこ) 撮った写真に輪郭線を書き加えた写真と何の変哲もない写真が展示されていました。解説は「輪郭線を書き加えたように見える写真ですが、実は写真には何の加工も加えていません。被写体の一部を黒く塗り、輪郭線を書き加えたように見える位置から撮影した作品です。別の三点は、タオルや洗濯物を撮影したように見えますが、吊るしているのは全て印刷物です」というものでした。「だまし絵」みたいな作品ですね。

◆A10 村山悟郎(むらやま・ごろう) 変顔の写真とドローイングが展示されていました。解説は「変顔の写真とドローイングのそれぞれに、+と-の記号が付いています。+はコンピュータが『人の顔』と認識したもの、-は認識しなかったものです。マティスの作品は逆さにしても『人の顔』と認識しています。次の部屋は歩くロボットと、コンピュータによる『人の歩行パターン』の認識を試した作品です」というものでした。「人の歩行パターン認識」は、テレビ番組「科捜研の女」で犯人を特定するために使っていますね。

◆A11 田中功起(たなか・こうき) 絵具を塗りたくった布のほか、動画も上映しています。解説は「4人の人物が家族を演じるという作品で、展示されている布は、演じた家族が描いた絵です。日本人は様々なルーツを持った人々で構成されていますが、家族を演じた4人は全員が混血です。なお、9月3日から作品が変更されて入れなくなります。そして、毎週土曜日だけ、この部屋で集会が開かれます。知事は『テロに対する安全の確保のために不自由展を中止する』と説明しましたが、作家は『外国人に対する差別が覆い隠されているのではないか』と考えて、抗議しています」というものでした。このことは、2019.08.24付の中日新聞朝刊に掲載されていましたね。

◆A13 ヘザー・デューイ=ハグボーク 愛知県美術館10階出口に通じる廊下の壁に人の顔などが展示され、モニターでは動画を上映しています。解説は「人の顔は、タバコの吸い殻などのDNAサンプルに基づいて、3Dプリンタされた肖像です。別のケースにはDNAデータを消す薬品も展示しています。動画で、そのプロセスを説明しています。ただ、制作した肖像が、DNAの持ち主にどこまで似ているかは、分かりません」というものでした。この時点で終了予定時刻の午後2時を15分以上超過していたため、A12 伊藤ガビン A14 dividual Inc. A15 シール・フロイヤー A16 文谷有佳里については、残念ながら紹介だけとなり、合同鑑賞会は終了しました。

愛知県美術館での鑑賞会の様子

◆合同鑑賞会・その後 合同鑑賞会の終わり頃、ROMEOSの人に遭遇しました。「手ぶらだし、観客らしくないので、見ればわかる」と言われていましたが、その通りでした。ラッキー! また、N06で竹葉さんが「多様性が感じられて楽しかった」と言われましたが、A03で解説のあった「女性作家が50%」ということが多様性を生んだように思います。ジェンダーの問題は、2019.08.29付中日新聞朝刊「Culture」欄でも取り上げていましたね。 最後になりましたが、名古屋市美術館と愛知県美術館の皆さん、ありがとうございました。                

Ron.

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