企画展は学芸員の研究成果の一つと言われています。長い時間をかけた考察と検証を経て、新しい切り口の展示への思いや使命感を具現化した、いわば学芸員の分身です。現在展観中の『コレクションを極める』展は、学芸課長の深谷さんが主担当です。
「‥‥今回の企画、作品の選定、レイアウトやキャプションの執筆は楽しくてしようがなかったですよ。キャプションは僕の個人的見解も多く、筆がどんどん進みました」と深谷さんは満面の笑みを浮かべて、2月7日(日)のギャラリートークで話されました。30名以上の会員の前で、深谷さんは「‥‥正直言って、予算が厳しいことを逆手にとって、収蔵品を改めてじっくり見ていただこうと思い立ったわけです。常設展にあまり出ていなかった作品も見ていただこうと。例えば、鶴田吾郎『中村彜』です。これは中村彜の死後直後の写生ですが、畏友の思い出といった肖像画でしょう」と丁寧な解説が続きました。
今回の会場は、三つのジャンルから構成されています。4千点を超える収蔵品から「人物」「風景」「静物」の3テーマに各30点ずつ展示されています。これは、2000年春に開館したテート・モダン(ロンドン)の常設展示スタイルに類似しています。年代順に展示することの多い大美術館の中では、たぶん初めての試みだったと思います。テート・モダンでは「風景」「裸婦」「静物」「歴史画」の4つの切り口で近現代の作品群が展示されています。モネ『睡蓮』がある部屋に、リチャード・ロングの石の作品があります。立ち止まって、20世紀の初期の作品と終わりの頃の作品の乖離や共通点の有無などを考えざるを得ないでしょう。
さて、今回の展示で1階は「人物」と「風景」、2階が風景画2点と「静物」のジャンルに大別されています。2階への階段を上って、最初に眼に入ってくるのはLee U-fan『風とともに』(1990年)と題する幅8m近い大作です。墨彩のような抽象画です。遥か望郷を思わせる、さわやかな風景でしょうか。一方、ユトリロ『ノルヴァン通り』(1910年)もあります。こんなにも空間意識が違うのですね、といった具合に、収蔵品を対比して見る楽しみがあります。
また、深谷さんはにこやかに「‥‥先入観を持たずに見ると意外な発見がありますよ。学芸員は凝り固まっていますから‥‥。ボランティアガイドの方から、情感を一切排除する桑山忠明さんのキャンバスに赤と青が半分ずつ塗られている作品は、水平線を境に空の太陽と海を連想しますと指摘されて驚きました‥‥」。なるほどと変に納得します。
さらに、「静物」ジャンルで、深谷さんは「‥‥大野俶嵩『緋』は和服を着た女性が腕を胸の前にもってきて、あたかも袖が三角形を示しているようにも見えますね」と。すかさず会場から「人物」のジャンルではとの突っ込みもありました。
恒例の会員対象のギャラリート-ク『コレクションを極める』は時間が経つのを忘れるほどの楽しい解説会でした。
入倉 則夫
コメントはまだありません
No comments yet.
RSS feed for comments on this post.
Sorry, the comment form is closed at this time.