「抱きしめたい!近代日本の木彫展」ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

碧南市藤井達吉現代美術館にて

碧南市藤井達吉現代美術館にて

10月23日(日)協力会主催の「抱きしめたい!近代日本の木彫展」ミニツアー(碧南市藤井達吉現代美術館)に参加しましたので,印象を記します.

 鑑賞前に1時間強ほど,本展担当の土生和彦(はぶかずひこ)学芸員から,スライドを使った丁寧な解説がありました.「星取り法」とよばれる技法などの学術的な話題も紹介されました.

 会場に足を運びます.「抱きしめたい!」というビートルズのI wanna hold you ! をもじったポップなネーミングながら,最初に目に入る作品は,重厚な仏像です.竹内久一が,1892年(明治26年)シガゴ万博出品の美術作品として制作した仏像で,礼拝の対象ではない作品という意味で「近代」彫刻の出発となる作品だそうです.

 総作品数は約70点で,時代順に3つのセクションに分かれて展示されています.第1章が,「近代木彫の先駆者たち」と題され,主に明治時代の人物像です.高村光雲の作品に足が止まります.光雲は多くの名作を残すと共に,指導者としても秀逸で,多くの弟子を育成したそうです.土生学芸員によって,その系譜が紹介されました.平櫛田中の「落葉」老僧には荒涼感が漂います.

 第2章が,大正から昭和前半に活躍した作家の作品群で,「木彫作家の挑戦」とタイトルが付けられています.挑戦という言葉は,高村光太郎らの当時の作家によるロダンの造形思想を超えるという意味合いのようです.橋本平八や圓鍔勝三の作品に目が留まります.

 第3章「逸脱する木彫」は戦後の作品が中心です.素材が木であるというだけの抽象的な造形作品が多く,光雲が見たら腰を抜かすかも知れません.現代の作品は,近代から続く木彫の既成概念を超えて空間造形といっても過言ではない展開です.“刻む”という以外に,“構成する”という作品があります.最上壽之のユーモラスな題名の作品です.斉藤義重の作品があるともっとインパクトがあったでしょう.壁にかける“絵画”のような作品もあります.また,深井隆の意表をつく金翼のある美しい木目のソファ「逃れゆく思念―’89-A」はギリシャ神話を彷彿とさせます.

 懐かしいような印象がある舟越桂の「つばさを拡げる鳥が見えた」という男性上半身像のスポットライトによる影には,題名通りの羽根があります.なぜ?と訝しむと,なんと背後の保田井智之作「It’s far」の影が仕切りカーテンに透写しているのです.これは新発見と楽しくなります.

 碧南市藤井達吉現代美術館はホワイトキューブには程遠い小規模な建物ですが,狭いながらも上手く工夫したレイアウトのなかに,かえって濃密な木の“精”を感受する展観です.

 最後に,地方の中小美術館が智恵を出し合い,学術的にも特筆すべき展覧会を創出したことに諸手を挙げて拍手したいです.

 入倉 則夫(会員)

事務局 注

ミニツアーとは,春の日帰りツアーや秋の宿泊ツアーを補完する目的で,近隣の美術館・博物館の企画展を団体鑑賞する行事です.原則,現地集合・現地解散ですが,訪問先では,担当学芸員による解説会をもちます.

榎 忠 展:美術館を野生化する を見て

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

先日関西に所用があって、空き時間に、兵庫県立美術館にでかけました。

榎忠については、2007年に豊田市美術館で、ギュウとチュウという企画展があり、大砲のパフォーマンスをしたことが、強烈に記憶に残っています。また、1992年には名古屋市美術館でも、<セブンアーチスト>の中で紹介されていたとのこと。

今回は、安藤忠雄の建物に挑むような形で、銃や大砲、本物の薬莢を積み上げたものや、溶けた鉛、機械部品の集積など刺激的な作品が並べられいました。この美術館はもと製鉄所があった場所につくられており、榎自身も鉄工所に勤務していたこともあり、金属を使って、現代社会の問題を提示するような作品群を、美術館の空間に置くことで、野生化する、という試みをしたようです。

キャプションは全くなく、簡単な解説があるのみ。また撮影自由、というのもいつもの美術館の展示とは違っていました。

まず入り口には、砂型で作ったAK-17,AR-15という銃が一列に並べられており圧倒されました。つぎの部屋には、大砲と銃、そのあとには 夥しい数の薬莢の山。その他、ブルーム、サラマンダー、ギロチンシャーと名づけられた作品が展示されており、金属のもつ冷たさ、やわらかさ、などのさまざまな表情と質量に圧倒されました。

最も美しかったのは、機械部品を磨き上げたものを、都市のように並べた作品。豊田でも展示されていましたが、今回はその数倍もある量で、照明にも工夫がされていて、ちょうど都市のいちにちの変化のように感じとれ、いつまでも見とれてしまいました。

また、榎のこれまでの活動を紹介するビデオもあって、このユニークな作家のさまざまな側面がわかります。

いまちょうど神戸ビエンナーレもひらかれていますので、おでかけになってはいかがでしょうか。

林 葉子

観るカルパッチョ

カテゴリ:アート見てある記,旅ジロー 投稿者:editor

 カルパッチョと云えば先ず料理を思い浮かべてしまう。この料理名がヴェネツィアの画家ヴィットーレ・カルパッチョ(Vittore Carpaccio)から来ていることはこのブログの読者ならご存じだろう。料理の名前が画家カルパッチョと関係していることは確かなのだが、いくつかの説が伝えられている。イタリア人の多くが信じているのは、次のような話だそうだ。「1950年のある日ヴェネツィアのハリーズ・バーと云うレストランでの出来事。モチェニーゴ公爵夫人が「主治医から肉は生で食べるように言われている」と料理を注文した。そこでオーナーは薄切りの生の牛ヒレ肉にマスタードソースをかけて供した。

江戸東京博物館外観

江戸東京博物館外観

 折からカルパッチョの500年回顧展が開かれていて、彼の色使いに似ているところから料理を「カルパッチョ」とオーナーのジュゼッペ・チプリアーニが名付けた」。ほかには、「画家のカルパッチョが生の薄切りの牛の赤身肉にパルミジャーノ・レッジャーノを振りかけた料理が好きだったから」とか、単に「生肉の色が画家カルパッチョの描く「赤」に似ているから」と云う説などがあるそうだ。ヴィットーレ・カルパッチョは15-16世紀にヴェネツィアで活躍した画家だ。正確な生没年は伝えられず、1455年頃-1525年頃とされている。「世界遺産 ヴェネツィア展」がこの秋から日本全国を巡って開かれている。
カルパッチョの「サン・マルコのライオン」が案内看板に

カルパッチョの「サン・マルコのライオン」が案内看板に


その最初の会場が江戸東京博物館、年末には名古屋にも来る(名古屋市博物館:12/22-3/4)。数多くの展示物の中にカルパッチョの絵が4点あった。料理に関係する赤と白を使った作品は2点、「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」と「二人の貴婦人」だ。
赤が基調の展覧会会場入口

赤が基調の展覧会会場入口


 後者の「二人の貴婦人」は、元々家具の2枚組の扉の板絵で、その右側下半分を切り取ったものと云うことが、比較的最近発見されて話題になっている。上半分は「潟(ラグーナ)での狩猟」としてロサンジェルスのJポール・ゲッティ美術館にあり、左側の扉は未発見だ。カルパッチョの作品の多くはヴェネツィアにあって、日本では観る機会がとても少ない。しかも、本邦初公開の「二人の貴婦人」は東京会場だけの展示だ。この展覧会はTBSが絡んでいるので、テレビでご覧になった方も多いだろう。この絵を「世界でいちばん美しい板絵」と言っている評論家もいる。牛肉のカルパッチョは、ユッケ食中毒事件のため、日本で食べるのは難しくなるだろう。12月11日までに東京に行く機会があれば、両国までカルパッチョを観に行ってはどうか。
展覧会のチラシには「二人の貴婦人」

展覧会のチラシには「二人の貴婦人」


旅ジロー

写真説明
(1) 江戸東京博物館外観
(2) カルパッチョの「サン・マルコのライオン」が案内看板に
(3) 赤が基調の展覧会会場入口
(4) 展覧会のチラシには「二人の貴婦人」

美術館のイタリア的光景

カテゴリ:アート見てある記,旅ジロー 投稿者:editor

アカデミア橋

このアカデミア橋袂で連絡船(ヴァポレット)を降りて左手前に進む


 2011年9月4日日曜日昼過ぎ、ヴェネツィアの「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」を初めて訪れる機会に恵まれた。この日は伝統のレガータ(Regata Storica:英語風ではレガッタ)の日で連絡船(バポレット)は午後は運休。行きはまだ運行していたバポレットをアカデミア橋袂のサルーテで降りて、分かりにくい道を歩いて行った。
ペギー・グッゲンハイム美術館

大運河から見たグッゲンハイム美術館(公式ホームページより)


 大運河(カナール・グランデ)をバポレットに乗っていると、サンマルコの少し手前の右側に良く目立つ建物なのだが、歩いて行くと狭い運河沿いのひっそりとした細い道沿いの塀に、小さな入り口が開いているだけだった。ヴェネツィアでは館の入口は運河側と路地側の両方にあり、運河側の方が立派なのだ。この館パラッツォ・ヴェニエール・ディ・レオーニは1748年に着工された未完の館で一階部分しかない。

アカデミア橋の左手

1の写真の橋の左手に回り込んだあたり、美術館は右奥。

美術館の小さな入り口

狭い道を進むとこの小さな入り口がある

美術館の入場券

美術館の入場券


入ってびっくりしたのは、夕方からのレガータ見物のためと思われる着飾った客が多数招待されていて、一般客が入っている美術館の中で軽食とワインのパーティーが催されていたことだった。伝統のレガータはすぐ目の前を通り、この美術館は見物には特等席なのだ。私立とは云え、まともな美術館を私的なパーティーに使い、しかも一般客も入れているとは、日本ではまず考えられないことだ。
美術館の中

美術館の中に入るとなんだか雰囲気が美術館らしくない


招待客はほとんどイタリア人、多くが運河を船で直接美術館にやって来ていた。招待客はバッジを着けて一般客とは見分けられるようになっていたが、入り口近くの作品は人をかき分けて見るような状態だった。これはペギー・グッゲンハイム・コレクションだからなのかイタリアの美術館だからなのか、真相は分からなかったが、イタリア的光景におおいに驚かされた。

レガータ用貴賓席

このレガータ用貴賓席の前がゴール、美術館は左手かなり前方


そういえば遙か昔、初めてヴェネツィアを訪れたとき、アカデミア美術館(記憶が定かではないが)に「人手不足のために休館」とあった。

豪華な洋上行進

レガータ本番前の豪華な洋上行進

写真説明
1. このアカデミア橋袂で連絡船(ヴァポレット)を降りて左手前に進む。
2. 大運河から見たグッゲンハイム美術館(公式ホームページより)。
3. 1の写真の橋の左手に回り込んだあたり、美術館は右奥。
4. 狭い道を進むとこの小さな入り口がある。
5. 美術館の入場券。
6. 美術館の中に入るとなんだか雰囲気が美術館らしくない。
7. このレガータ用貴賓席の前がゴール、美術館は左手かなり前方。
8. レガータ本番前の豪華な洋上行進。

旅ジロー