名古屋市美術館で開催中の「布の庭にあそぶ 庄司達」(以下「本展」)関連催事の「アーティスト・トーク」を聞いてきました。開場前には美術館の地下1階まで行列が続き、アーティスト・トークの会場(2階講堂)は満席。会場は熱気で満たされ、集まった人達は最後まで話に聞き入っていました。アーティスト・トーク終了後も名残惜しいのか、立ち話をしているグループをいくつもありました。
◆《白い布による空間》シリーズ制作のきっかけは
アーティスト・トークは、本展担当学芸員の森本陽香さんの質問に答える形式で庄司さんが進行。2階に展示の《白い布による空間》シリーズについては、以下のような話がありました。
- 《白い布による空間》シリーズ制作のきっかけは、高校教師の時、高校の生徒が学校の購買で買ったハンカチが、風でふわっと飛んだのを見てドキッとしたこと。
- 早速、ハンカチを沢山買い占め、準備室でハンカチ遊びを開始。直方体の枠の中にハンカチを様々なやり方で吊り下げるという「実験」を繰り返した。
- 「実験」を見ていた同僚が「おもしろい、画廊で発表したらどうか」と言うので、人間ぐらいのサイズのフレームで制作することになった。
- 《白い布による空間》シリーズは、1968年3月から8月までに68-1から68-7までの7点を制作。54年前、29歳の頃だった。予想を超えて反響があり、第一線の作家の仲間入りをすることができた。
- 《白い布による空間》は、2年目にはやめた。制作期間は、たった1年だった。
以上の話のなかでは、③の「同僚が庄司さんの背中を押した」というところが大事で、それが無かったら今、《白い布による空間》シリーズを見ることは出来なかったかもしれないですね。
◆《白い布による空間68-1》《白い布による空間68-7》について
《白い布による空間》シリーズのなかで、人が作品の中に入れるのは68-1だけです。その理由は「画廊に展示した時、出入口を確保する必要があった。作品の真ん中を通れるようにしないと、人が出入りできなかったから」というもの。庄司さんは臨機応変に作品を制作できる柔軟な発想の持ち主だと思いました。
森本さんが庄司さんに、《白い布による空間68-7》を気に入っている理由を聞いたときの「ストイックなところが良い。下に行くにしたがって重さがかかって来る。上に行くにしたがって軽くなる。地球と太陽の関係のようでもある。19枚の布が張ってあるだけだが、空気の重さと軽さの変化が作品に潜んでいる」という答えは、芸術家というよりも科学者の言葉のように聞こえて、印象的でした。
◆《Navigation》シリーズについて
1階に展示の《Navigation Arch No.11》について、庄司さんは「《Navigation Arch》を展示すると日本人は作品の中を通り抜けるだけだが、外国人は上を見上げている。この作品では、布の幻想的な形や陰影を伝えたい。上を見上げることもして欲しい」と、作品の鑑賞ポイントを教えてくれました。
《Navigation Flight No.6》については「建築のトラスのように、三角形の構造をつくって、ロープに刺した木材で布を支えている。使っているのは、甘撚りのロープ。普通のロープでは木材が刺さらないので、作品を制作できない。ロープは直接に壁の金具へ固定せず、金具を通して下に垂らしてから固定している。ロープに木材を刺すとロープの撚りが強くなるので、垂れ下がった部分で撚りを戻す。この作業は正に神業で、苦労した」と、作品の構造や作品設置の苦労話を聞かせてくださいました。苦労話と言えば《Navigation Level》では「あらかじめ設計図を作り、その通りに木材を設置しようとしたのだが、うまく行かない。布の状態を見て、試行錯誤で最適な位置を探りながら、木材を突き立てて設置した」という建築家のような話も聞けました。
◆最後に
《Navigation Flight》シリーズについては、『アートペーパー第116号』(名古屋市美術館ホームページに掲載)に、森本さんが寄稿した特集記事があります。ご一読をお勧めします。
Ron
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