中村正義といえば、以前、名古屋美術倶楽部で彼の作品がオークションに出ており購入しようかどうしようか迷ったことがあった。結局買わずじまいにおわった。今思うにかえすがえすも残念。妙に存在感のある自画像だったことを記憶している。今回の展覧会で彼の作品を通してその技量の高さ、才能、そして進化し続けた手法に驚かされた。11月6日の美術館学芸員の山田先生の2時間に及ぶ興味深い解説。その後の会員向けのギャラリートークに参加してなお一層作品を理解することができた。単刀直入に言わせてもらうならば 「おそるべき中村正義」 である。
初期の伝統的な日本画、人物画、風景画。彼独自の感覚で描いた「舞妓」。名物切れの文様である花兎文金襴を一文字に使用した二幅の「瀟湘八景」。ウオーホールを彷彿とさせるポップアート風の「三島由紀夫像」。東山魁夷とは一線を画す湿潤のないシャープな線で描かれたひえきった冬景色の日本画。味わい深い仏画など日本画の伝統に挑戦し続けた姿勢が窺える。1940年代後半から1070年代までの時代を反映しつつもライバルたちとの競合をも含んだ彼の壮大なる葛藤の軌跡である。絵画に対して真摯に取り組み続けた偉大なる一人の画家の叫びがある。
この展覧会は必見である。ぜひとも鑑賞することを皆さんにおすすめしたい。
谷口 信一
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