展覧会見てある記 豊田市美術館「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」他

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor
交歓するモダン機能と装飾のポリフォニー東玄関の看板

豊田市美術館で開催中の「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」に出かけました。同時開催のコレクション展「色、いろいろ」と常設展も見てきましたので、簡単にレポートします。

◆「交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー」(1階 展示室8+展示室6・7)

 展示されているのは、1900年代から1930年代にかけて制作されたイヴニング・ドレスやコート、帽子などのファッションと机や椅子、食器、家具などのインテリア、テキスタイル(服飾、インテリアに用いる布地・織物)です。展示室に入ると「クリムト展」に出品されたコロマン・モーザー《アームチェア》(1903頃)を始めとする、ウィーン工房の資料・製品が並んでいました。以下は、印象に残った展示内容です。

○ モダンな柄の浴衣と朱色の机・椅子(日本における生活改善運動)

斎藤佳三 手前左:表現浴衣 制作年不詳、手前右:表現浴衣「青い鳥(ブルーバード)の塒(ねぐら)」1930年頃、奥:表現浴衣染見本 左「一路の旅」 右「氷の層」制作年不詳

 展覧会の主な出品作は西欧のもの。その中に、日本の浴衣や朱色の机・椅子の展示があったのでびっくり。浴衣と浴衣の染見本は、ドイツ留学の経験があるデザイナー・斎藤佳三(さいとう・かぞう 1877-1956)《表現浴衣》と《表現浴衣染見本》です。展示されている浴衣は、現在市販されているものよりも小さく見えました。朱色の家具は、ロンドン王立美術学校等で学んだ経験のある家具デザイナー・森谷延雄(もりや・のぶお 1893-1927)「朱の食堂」の3点=《茶卓子》《食卓》《肘掛椅子》でした。「朱」といってもピンクに近い色で、家具や長椅子の写ったパネルも展示されていました。いずれも「昭和モダン」を感じさせる展示品です。

森谷延雄  左:「朱の食堂」の茶卓子 1925年(再製作)、中:「朱の食堂」の食卓 1925年(再製作)、右:「朱の食堂」の肘掛椅子 1925年(再製作)

○ ドレスの展示コーナーが二か所(戦後フランスファッションの展開、ファッションのモダニズム)

戦後フランスファッションの展開  手前:ポール・ポワレ デイ・ドレス「ブルトンヌ」1921年、奥(左から):マドレーヌ・パニゾン クロシェ 1925年頃、ポール・ポワレ コート 1920年代、ジャンヌ・ランヴァン ドレス「ローブ・ド・スティル」1926~27年、同 イヴニング・ドレス 1924年頃

 「戦後フランスファッションの展開」は第一次世界大戦後のドレスなどを展示。ポール・ポワレ(1879-1944)《デイ・ドレス「ブルトンヌ」》(1921年)は「脱コルセット」のスタイルで、中国風のゆったりした襞のあるドレス。隣の区画の「ファッションのモダニズム」では、ガブリエル・シャネル(1883-1971)《イヴニング・ドレス》(1927年頃)を展示。シンプルで直線的なスタイルです。流行の中心が、ポール・ポワレに代表されるアール・デコから、シャネルに代表されるモダニズムのファッションへ移っていったことが分かります。

ファッションのモダニズム    手前:マドレーヌ・ヴィオネ ディ・ドレス 1934年頃、
奥左:ガブリエル・シャネル イヴニング・ドレス 1927年頃、奥中:同 イヴニングドレス 1920年頃、奥右:マドレーヌ・ヴィオネ イヴニング・ドレス 1922年代

○ 抽象画とテキスタイルの相性は抜群(初期バウハウス)

 パウルクレー(1879-1940)《花開く木をめぐる抽象》(1925年:豊田市美術館のホームページに図版)の周りには、BH(バウハウスの)グンテ・シュテルツル《テキスタイルのデザイン》(1927年)を始め、幾何学模様などの抽象的な作品が並んでいました。抽象画だと少し腰が引けますが、抽象画のような幾何学模様のテキスタイルは、モダンで受け入れやすい作品でした。「抽象画とテキスタイルの相性は抜群」だと思います。

○ 机と椅子の名品(デッサウ以降のバウハウス)

デッサウ以降のバウ・ハウス奥:
BH マルセル・ブロイヤー クラブチェア B3(ワシリー) 1925年
中央:BH ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ  アームチェア MR534  1927/1932年
手前:同テーブル 1933年

 豊田市美術館の家具コレクションから出品された、世界的なモダニズム建築家BHルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)設計の《アームチェア MR534》(1927/1932年)と《テーブル》(1933年)を見ることが出来ました。《アームチェア》は、クロームメッキのスティール管を曲げたカンチレバー(コの字型の片持ち梁)の脚を持つ斬新なデザインの椅子。ガラスの丸い天板を持つ《テーブル》もおしゃれです。

◆コレクション展「色、いろいろ」

○ モノクローム(単色) 2階 展示室1

 山口啓介《原子力発電所6》(1995年)=茶色、ジョゼッペ・ペレーノ《黒鉛の皮膚-方鉛鉱の影》(2007年)=黒、を始め大型の作品が並んでいます。天井が高くて広い空間なので、迫力がありました。

○ ポリクローム(多彩) 3階 展示室2

クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》(1913/14年)は、いつもとは違い展示室2に展示。トニー・クラーグ《無題(棚に置いた5本のボトル)》(1982年)なども展示しています。

○ 素材の色 3階 展示室3

展示室に入ると目に飛び込んで来るのは、真っ黒な鉄で出来た青木野枝《Untitled》(1995年)です。この外に、木の色そのままの李禹煥《刻みより》(1973年)など、素材の色を生かした作品が並んでいます。

○ B/W(白黒)+ 色で/を表現する 3階 展示室4

「B/W(白黒)」では、山本糾の大型写真《落下する水-那智滝》(1991年)と《暗い水-立山Ⅰ》(1991年)に目を奪われます。「色で/を表現する」には、高松次郎《板の単体(赤)》(1970年)や真っ青なイヴ・クライン《モノクロームIKB65》(1960年)など、色彩を前面に出した作品が並んでいます。

◆常設展(2階・展示室5)

 奈良美智の作品が7点、圧巻です。岸田劉生《自画像》(1913年)、藤田嗣治《美しいスペイン女》(1949年)、ジャコメッティ《ディエゴの肖像》(1954年)なども並んでいて、ほっとしました。

◆最後に

 ファッションやインテリア、テキスタイルに興味のある方にお勧めの展覧会です。           Ron.

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.