展覧会みてある記「画家一族150年の系譜 ブリューゲル展」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

豊田市美術館で開催中(7/16まで)の「画家一族150年の系譜 ブリューゲル展」(以下「本展」)を鑑賞。平日の午前中にもかかわらず、駐車場は7割ほど埋まっていました。土・日だと満車になることがあるかもしれません。会場内では男女の二人連れと女性のグループが目立ちます。「大人が見る展覧会」という雰囲気です。
◆本展に登場する「画家一族」とは
「出品作品リスト」の表紙に印刷の「ブリューゲル一族の系譜」によると、ブリューゲル一族のうち本展出展作家は、父(ピーテル・ブリューゲル1世:1525/30-1569、以下、「ピーテル1」)、息子2人、孫2人、孫娘の夫、曾孫3人の計9人。なお、孫から曾孫までは全てピーテル1の次男(ヤン・ブリューゲル1世:1568-1625、以下、「ヤン1」)の子孫。ブリューゲル一族の作品には「父・子・孫・曾孫」の区別が分かる説明板が付いていますが、9人もいるので「ブリューゲル一族の系譜」も併せて見ることをお勧めします。
ちなみに、「芸術新潮」2017年12月号が42ページ掲載のマンガでブリューゲル一族の物語を紹介しています。あらすじは、「ピーテル1が40代の若さでこの世から去った時、二人の息子はまだ幼くて、祖母に絵を教わりながら成長。長男のピーテル・ブリューゲル2世(1564-1637/38、以下、「ピーテル2」)は職人を雇い父のコピー作品の量産に励んだものの、薄利で火の車。家を売って借金を返しました。一方、ヤン1は独自路線を開発して「花のブリューゲル」と呼ばれ、親友は、かのルーベンス(1577-1640)。共同制作もしました。ヤン1の絵は高価でその上大人気、おかげさまで裕福です。」というものでした。
父が活躍したのは16世紀の中頃、子が活躍したのは16世紀から17世紀にかけて、孫と曾孫が活躍したのは17世紀。17世紀には、ネーデルラント北部でレンブラント(1606-1669)やフェルメール(1632-1675)が、スペインでベラスケス(1599-1660)が活躍しています。
◆展覧会の構成
展覧会はテーマ別。「1 宗教と道徳」「2 自然へのまなざし」「3 冬の風景と城砦」「4 旅の風景と物語」「5 寓意と神話」「6 静物画の隆盛」「7 農民たちの踊り」の7章で構成され、ブリューゲル一族だけでなく同時代の画家の作品も展示されています。
◆第1章 宗教と道徳
この章では、主にピーテル1と同時代作家の作品を展示。ピーテル1が下絵を描いた銅版画が5点ありますが、どれも線描が細かく、拡大鏡が欲しくなります。拡大鏡なしで銅版画を見ていたら、目がショボショボしてきました。ブリューゲルの作品を下敷きにした《バベルの塔》もあります。
◆第2章 自然へのまなざし
主に風景画を展示。ピーテル1の作品は《種をまく人のたとえがある風景》だけで、ヤン1とその息子(ヤン・ブリューゲル2世、以下、「ヤン2」)の作品が中心。ヤン2《風景の中の聖母子と天使》は、風景もさることながら、花がきれいでした。
小さな画面(12.7×15cmなど)に風景を細密に描いている作品が多いので、ここでも拡大鏡が欲しくなります。
◆第3章 冬の風景と城砦
ピーテル2《鳥罠》など、「いかにもブリューゲル」という冬景色を描いた作品が展示されています。
◆第4章 旅の風景と物語
 ピーテル1の下絵による銅版画が3点。ピーテル1の作品をコピーしたヤン1の素描やヤン1の女婿ダーフィット・テニールス2世の作品も展示されています。
◆第5章 寓話と神話
ヤン1、バルトロメオ・カヴァロッツィ《花輪に囲まれた聖家族》は、聖家族よりも花の方が目立つという作品。ヤン1《地上の楽園》は色彩が鮮やかで、400年前のものとは思えません。ルーベンス工房の作品《豊穣の角をもつ三人のニンフ》が展示されているのは、ルーベンスがヤン1の親友だったからでしょうね。
◆第6章 静物画の隆盛
大理石に描かれたヤン・ファン・ケッセル1世(曾孫)《蝶、カブトムシ、コウモリの習作》と《蝶、コウモリ、カマキリの習作》は、本物と見間違うくらいの細密描写で、びっくりしました。本物と図版とでは、その迫力が全然違いますね。花の絵も素晴らしく、インスタ映えすると思います。(第6章と第7章は5月31日までの間に限り、写真撮影が可能!)
◆第7章 農民たちの踊り
この章はピーテル2が主役。特に、チラシや観覧券のデザインに使用されているピーテル2《野外での婚礼の踊り》は特等席に展示されています。
◆コッドピース(codpiece)のこと
ピーテル2《野外での婚礼の踊り》を見ていたら、「まあ、何、これ!」という声。隣の女性グループが、踊っている3人の男性のズボンの前に張り付けられた布切れを見て、発したものでした。いまどき、こんな格好のズボンを穿いた男性はいないですからね。
帰宅後ネットで調べると、14世紀から16世紀にかけて両足を覆う衣服は、現在のズボンとは違い、左右のパーツは後ろを縫い合わせただけで前は開いたまま。左右のパーツとは別の布切れ(コッドピース(codpiece)=股袋)で前を覆うという構造だったそうです。
現代のズボンの前開き構造は、パーツの裁断・縫製に手間がかかりますが、機能的です。偉大なる発明だったということでしょうね。
◆常設展もお勧め
常設展には、藤田嗣治《美しいスペイン女》が展示されています。現在休館中の愛知県美術館のコレクションも展示されているので見逃せませんよ。
                            Ron.

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