名古屋ボストン美術館 パリジェンヌ展

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

名古屋ボストン美術館で開催中の「パリジェンヌ展」(以下「本展」といいます。)ミニツアーに参加しました。参加者は27名。1階の壁画前で待ち合わせ、美術館5階のレクチャールームで名古屋ボストン美術館の柳沢学芸員から解説を聴いた後は自由行動でした。
◆本展の特色、構成
 柳沢学芸員によれば、本展のキャッチコピーは「憧れるのはなぜ」。英語表記では“La Parisienne : Portraying Women in the Capitalof Culture,1715 – 1965”と、年代が入っている。1715年は太陽王ルイ14世が死去し、文化の中心地がベルサイユからパリに移った年で、ロココの時代から20世紀までを年代別にたどった展覧会。
 本展の構成は、第1章がフランス革命まで、第2章は概ね王政復古の時代、第3章と第4章は時代が重なり、ナポレオン3世による第二帝政の時代、第5章は19世紀後半から狂騒の1920年代を経て、第2次世界大戦後の時代まで、とのことでした。
◆第1章 パリという舞台―邸宅と劇場にみる18世紀のエレガンス
 この章の見どころは、《ドレス(3つのパーツからなる》(1770年頃)ですね。左右に広がった「かご型パニエ」をスカートの下に着用するフランス宮廷の正装、ローブ・ア・ラ・フランセーズ。刺繍や花びら状のレースが豪華です。背にはプリーツが畳まれ、ゆったりと広がっています。「ファッション誌のルーツ」と柳沢学芸員から説明のあった《ギャルリー・デ・モード・エ・コスチューム・フランセ》に描かれた流行の衣服も同じスタイルです。また、《ギャルリー・デ・モード……》の他の号に描かれた巨大なヘアスタイルには、びっくり。フリゲート艦をあしらったものや羽飾りのついたものなど、今から見ると滑稽ですね。
次に目を惹くのは、《ティーセット(箱付)》(1728-29年)です。内容は、日本製磁器の砂糖壺とカップ・ソーサーに銀のティーポットとキャニスター(防湿用の蓋付き容器)などですが、なんと金襴手のカップは取って手のない「湯呑」でした。説明書きによれば「フランスではコーヒーよりもお茶の方が早く普及」とのこと。
◆第2章 日々の生活―家庭と仕事、女性の役割
 この章は、「女性の生き方」が主題。柳沢学芸員の解説によれば、ルソーが提唱した「母親が子どもの世話をするのは良いこと」という思想が広まり、良妻賢母を主題にした絵画が描かれたとのことでした。その一方で、子育てや家事をないがしろにする女性を揶揄した、ドーミエ《青踏派》(1844年)やブルジョア相手の娼婦を描いた、ポール・ガヴァルニ《ロレットたち》(1841年、1842年)なども展示されています。
ファッションとしてはボワイー《アイロンをかける若い女性》(1800年頃)が着ている、ギリシア・ローマ風のハイウエストで自然な感じのドレスが印象的です。柳沢学芸員も「この絵が好き。」とのこと。また、この絵により当時のアイロンは鉄製の鏝(こて)のようなもので、アイロン台の横に置いた炭火の炉でアイロンを加熱しながら使っていたと知りました。
◆第3章 「パリジェンヌ」の確立―憧れのスタイル
 この章の見どころは、《ドレス(5つのパーツからなる)》(1870年頃)。正面のシルエットが細身で、スカートの後ろを膨らませたバッスル・スタイルのドレスです。柳沢学芸員によれば、制作者のシャルル・フレデリック・ウォルトはイギリスから来た「オートクチュール」(あらかじめデザインを示す高級注文服)の創始者で、紫色は化学染料で可能となった色とのこと。プリーツを寄せたパーツをスカートの後ろに垂らしているのが印象的。ちょうど、女雛の裳(も:袴の上につけ、後方のみに垂れた襞飾りのある衣服)のようなものです。絨毯のように大きなジャガード織のショールや、靴、手袋などの展示もありました。
 絵画ではヴィンターハルター《ヴィンチェスラヴァ・バーチェスカ、ユニヤヴィッチ夫人》(1860年)の衣装が豪華で、目を惹きました。なお、この衣装はスカートが半球状に広がったクリノリン・スタイル(19世紀中頃)と思われます。女性のファッションを皮肉ったドーミエの風刺新聞『シャリヴァリ』に描かれているのもクリノリン・スタイルのドレスです。
 小品ですが、着物のような衣装の女性などを描いた、フェリシアン・ロップス《優雅な生活》(1892年)には、春のツアーで行った兵庫県立美術館「ベルギー 奇想の系譜」で見た彼の作品と同じような、妖しげな雰囲気が漂っていました。
◆第4章 芸術をとりまく環境―制作者、モデル、ミューズ
 この章の見どころはマネ《街の歌い手》(1862年頃)でしょう。柳沢学芸員によれば、この絵は、古いニスを除去する修復によりグレーの衣装が美しくなった。モデルはヴィクトリーヌ・ムーラン。彼女は、マネの《草上の昼食》や《オランピア》でもモデルを務め、後年はサロンにも出品する画家として活躍。制作者、モデル、ミューズを一人で体現した人、とのことでした。
 「製作者」としては、モリゾやカサットの作品のほか、女優のサラ・ベルナールが恋人をモデルに制作したブロンズのレリーフ《ルイズ・アベマの肖像》(1875年)が展示されています。「ミューズ」としては、ピカソが自分だけのモデルにした《フェルナンド・オリヴィエ》(1905-1906年)や《女性の頭部》(1909年)の展示があります。
◆第5章 モダン・シーン―舞台、街角、スタジオ
 この章の見どころは、ドレスの実物。女性をコルセットから解放したという、ローウエストで直線的なスタイルのアール・デコのジャン・パトゥ《ドレス》(1925-28年)、ウエストを細く絞ったクリストバル・バレンシアガ《ツーピースのカクテルドレス》(1949年)とミニスカートのワンピース、ピエール・カルダンの《ドレス》(1965年頃)の3種で、デザイン画も多数あります。
この章では、ポストカードが多数紹介されています。柳沢学芸員によれば、1900年前後はポストカードのブームだったとか。外には、ジュール・シェレ《モンターニュ・リュス》(1889-90年頃:スペインの踊り子を描いたミュージックホールのポスター)、ブラッサイの《モンパルナスのキャバレーで歌うキキ》(1933年)、アフリカ系アメリカ人ダンサー、ジョセフィン・ベーカーの動画や写真、「ギャルソンヌ」と呼ばれるボブカットでボーイッシュなスタイルの女性を描いた、パヴェル・チャリチェフ《ボンジャン夫人》(1930年)、エッフェル塔を背景にしたジュール・アーロンの写真《モデルと写真家、パリ》(1950年)など。
◆最後に
 3階ロビーには、大人用と子ども用のクリノリンスタイルのドレスとバッスルスタイルの大人用ドレス2種にアール・デコのドレスが展示されています。着用手順を説明する写真があるので、コスプレも楽しめます。ミラボールが回っており、撮影にもピッタリです。
なお、展示室の冷房は強めですから冷房が苦手な方は上着を用意するか、展示室入口でストールを借りることをお勧めします。また、Youtubeで視聴できる「パリ:狂騒の1920年代」というNHK・海外メディア合作のドキュメントは、本展鑑賞の参考になります。
会期は10月15日(日)まで。
                      Ron.

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