「物語 ベルギーの歴史 ヨーロッパの十字路」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

5月21日(日)の協力会春のツアーでは、兵庫県立美術館「ベルギー奇想の系譜」展の鑑賞を予定。ベルギーに関する参考書を探していたところ、この本に出会いました。読んでみると、知らなかったことばかりでびっくり。その一部を、ご紹介します。

■ 「はしがき」を読むだけでも、ベルギーのイメージがつかめます
「はしがき」は、わずか7ページですが、この本のエッセンスが詰まっています。
《抜粋》
(現在のベルギーについて)
EUやNATOの本部を抱える「ヨーロッパの首都」ブリュッセルを首都とする国
面積が約3万平方キロメートル。関東地方とほぼ同じ広さで、人口は1100万人強。つまり東京都の人口と同じくらいの小国。都市部の人口密度は東京並みに高いが、農村部はそれほどでもない。
 独立以来もっとも悩まされてきたのは「言語問題」。北方は、オランダ語を話す人々が暮らすフランデレン地方。南方はフランス語を話す人々が暮らすワロン地方。さらに、人口の0.5%はドイツ語を話す多言語国家である。言語の観点から見たフランデレン民族とワロン民族の人口比は6対4と言われている。独立時にはフランス語だけが公用語であったが、その後オランダ語の公用語化をめざすフランデレン運動が起こり、今はそれぞれの地域ごとに公用語が定められている。近年、フランデレンとワロンの対立は激しさを増し、この国に影を落としている。

(ベルギーの歴史について)
 西欧の中心に位置しているため、独立以前は大国が奪い合いを続けていた。
 独立は1830年で、まだ西欧では若い国である。
 ローマ帝国の支配下にあったとき、「ベルガエ人」が暮らしていた。この「ベルガエ」がベルギーの語源とされる。しかし、その後「ベルガエ」の名は西欧において、独立するまでほとんど目にすることはない。ネーデルラントやフランデレン地方と呼ばれていた。
 1830年にベルギーがオランダから独立したとき、かつてその地を統治していた隣国フランスの新聞は、このニュースを「国内事情」の欄で紹介した。
 かつての支配国オランダでは、ベルギーのオランダ語を「訛り」と馬鹿にするジョークがある。オランダからすれば「田舎者」というわけだ。
 ベルギーの国章の中央にはライオンの絵が描かれている。これは、1302年にフランスの侵略を退けた戦いに由来し、その後も侵略者ナポレオンを退けた1815年のワーテルローの戦いを記念する獅子像に引き継がれてきた。ローマ帝国のカエサルに一時は侵略を断念させた「勇敢なベルガエの人々」、第二次世界大戦のときにアドルフ・ヒトラーに徹底抗戦した「ベルギーの戦い」などを誇って、ベルギーの人々は自らの歴史を振り返るとき、しばしば「勇敢な」という表現を用いる。西欧の中心であるからこそ、そして大国に振り回されてきたからこそ、都市や地方の自治を誇り、自由を愛して、獅子のように戦った歴史がある。

■ 序章「ベルギー前史」は、まさに大国による奪い合いの歴史でした
 序章では、ローマ帝国の支配から、ゲルマン民族の侵入、フランク王国の設立・分裂、フランドル自治都市の成立、英仏百年戦争、宗教改革とオランダ独立戦争、オランダとの南部ネーデルラント(後のベルギー)の訣別、スペイン継承戦争、ハプスブルク時代のベルギー、フランス革命、ウィーン体制と、ベルギー建国までの道のりが書かれています。ただ、ベルギー史は複雑すぎて一回読んだだけではとても頭に入りません。

■ 序章の【コラム】美術 ― 画家にして外交官ルーベンス
 オランダ独立戦争後にオランダと決別した南部ネーデルラントからフランデレンを割譲しようとするオランダや、そのオランダと手を組もうとするフランデレンの諸侯に対し、南部フランデレンの統一を守るために努力したのがルーベンスだったと、序章の本文にありますが、ルーベンスについては【コラム】を設けて、詳しく書いています。

《抜粋》
ベルギーで、もっとも知られている画家はピーテル・パウル・ルーベンス(1577-1640)だろう。ルーベンスはベルギー独立以前のドイツで生まれたが、父ヤン・ルーベンスと母マリアはアントワープ生まれ。だから「ルーベンス」はドイツ語の発音で、オランダ語では「リュベンス」となる。
 ルーベンスはオランダ独立戦争の激戦地であるアントワープでカトリック信徒になり、聖像を禁ずるプロテスタントに抵抗して宗教画を多く描いた。また人文主義教育のもとで多言語を習得した。
 彼は1600年以降、スペイン王への贈答品を渡す公使の役割を担うこともあった。イザベラの宮廷画家として迎えられ、多言語を自由に扱う能力も認められて、絵を携えて政治的な外交交渉を担うことがあった。イザベラの庇護の下で個人の工房を持つことも許され、多くの弟子が育った。もっとも著名な弟子はアンソニー・ファン・ダイク(1599-1641)である。この時期に描かれたのが、『フランダースの犬』で少年ネロが憧れた『キリスト昇架』(1610)と『キリスト降架』(1614)である。
 その後彼はパリ、さらにはスペインとネーデルラント、そしてイギリスに渡り絵を携えて和平交渉に寄与した。それが讃えられ、後にスペイン、イギリスでナイトの称号を与えられている。ベルギー(フランデレン)、アントワープの宗教的背景や地理的特徴が彼を多言語話者とし、特異な外交画家に育て上げたといえるだろう。

■ 第3章「二つの大戦と国王問題」の【コラム】 文芸
 「フランダースの犬」がベルギーであまり知られていないことは、驚きでした。
《抜粋》
 現代におけるベルギーと日本の関係は児童文学『フランダースの犬』で強くなったといってもいいだろう。イギリスの作家ウィーダ(ペンネーム)によるこの物語は、原作が1872年に刊行され、日本では1908年に最初の翻訳が出版された。
 第二次世界大戦で一時断絶した両国の関係が復活した理由として、文化的に見ると、1950年以降に童話文学として出版された同書が果たした役割も大きい。『赤毛のアン』の翻訳で知られる村岡花子(1832-1968)も戦後の翻訳に携わっている。1975年には日本でテレビアニメが放映され、舞台となったアントワープは日本人の一大観光スポットとなった。
 ただし、ベルギーでこの物語はあまり知られていない。物語で少年が死んでしまう結末は19世紀のフランデレンではさほど珍しいことではない。また「負け犬の物語」として批判されることもあった。
 文学の世界でより評価され、また日本で知られているのは、1911年にノーベル文学賞を受賞したモーリス・メーテルリンク(1862-1949)の『青い鳥』である。
 現代の文芸作品でもっとも知られているのは、エルジュによる漫画『タンタンの冒険』だろう。

■ 第4章「戦後復興期」の【コラム】 食文化
食文化は、ベルギーの豊かさ・多様性の象徴なので紹介します。
《抜粋》
 ベルギー料理に添えられるのは「フリッツ」フライドポテトである。ベルギー人の家庭にはポテトを揚げる専用の機器がある。二度揚げするのがコツらしい。このポテトフライ、マヨネーズで食べるのもベルギー風。
 もう一つ有名なものは地ビールである。数多くの種類があることで知られている。修道院で作られていたアルコール度の高い濃いビールは「トラピスト」タイプ。ベルギー人は濃いビールをムール貝とフリッツをつまみに、じっくりと楽しむ。
 スウィーツに目を転じると、チョコレートが有名だろう。ただ、その代表ともいうべきゴディバはトルコの食品会社ウルケルに買収され、子会社となっている。もちろん、工場はベルギーにあるが、グローバル化の影響といえるだろう。

■ 補足
◆ 「ベルギーのビール文化」は、世界無形文化遺産に登録されました
 この本の発行後の2016年11月30日に、エチオピアで開かれていたユネスコの会合において「ベルギーのビール文化」が世界無形文化遺産に登録されることとなりました。
 ベルギーでは、ビールの原料や製法に制限というものがほとんどないそうです。そのため、ホップ以外にコリアンダーなどのスパイス・ハーブが使われたり、大麦以外に小麦やサワーチェリーなども使われるとのことです。
 また、ベルギーでは、それぞれの種類のビールのために考えられた固有のグラスがあり、それも無形文化遺産に含まれています。

◆ 高級品の代名詞、ベルギー・チョコレート
 ベルギー発祥のチョコレートはバレンタインデーでお馴染みの「プラリネ」と呼ばれる高級な一口チョコ。ガナッシュ(チョコレートに生クリームやバター、リキュール、ピューレ等を混ぜて柔らかくしたもの)を丸めて製菓用の高級チョコレートでコーティングしたものです。
なお、GODIVA(ゴディバ)のマークになっているLady Godiva(レディー ゴダイヴァ)は、11世紀の英国コベントリーを舞台にしたお話です。詳しくはGODIVAのホームページをご覧ください。

◆ ベルギーのスイーツには、ベルギー・ワッフルもあります
 日本では、ベルギー・チョコレートだけでなく、ベルギー・ワッフルにも人気がありますね。ネットを検索していたら、「ベルギー奇想の系譜」展の開催期間中、兵庫県立美術館の「ラ ピエール ミュゼ」では、焼き立てのワッフルとコーヒーのセットを1,000円で提供しているそうです。なお、ベルギー・ワッフルには四角形のブリュッセル風のものと丸型のリエージュ風のものがあります。日本でよく見かけるのはリエージュ風のものですが、セットで出て来るのは、どちらのタイプでしょうか?
Ron.

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