「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」

カテゴリ:協力会事務局 投稿者:editor

「これはいったい何だろう。」と、2017.3.1付中日新聞で紹介された展覧会(以下「本展」)が始まりました。会場は名古屋市美術館。記事にあった「何を描いたものか理解しようとするより、子どものように理屈抜きで見る方が楽しめるかもしれません」という名古屋市美術館・笠木日奈子学芸員の言葉を参考にして、見てきました。
◆アール・ブリュット(Art Brut「生の芸術」、outside art)の先駆け
本展は日本で初めての、スイスの美術家アドルフ・ヴェルフリ(1864-1930)の本格的な回顧展です。ヴェルフリは、専門な美術教育を受けていない人による芸術「アール・ブリュット」を代表する作家で、31歳の時に統合失調症と診断されて精神病院に入院し、後半生を過ごしました。本展には、病院で描かれた膨大な作品の一部、74点が展示されています。
◆「これは何だ」:驚きの根気と集中力
 最初の展示は1904~1905年の作品。どれも、74.5×99.6cmの白紙の新聞用紙全面に顔や、装飾帯、文字を鉛筆で描き、これでもかというくらいまで埋め尽くしたものです。鉛筆の線は、ほぼ同じ太さで丁寧に描かれており、装飾帯や線で囲まれた所は、細かい格子模様や斜線、点、短い線などを描きこんだり、様々な濃さで塗りつぶしたりしています。きっと、1枚仕上げるのに相当な時間と労力を要したことでしょう。その根気と集中力には驚くばかりです。
また、大画面であるのに、画面構成が破綻していません。作品を描く前に、そのイメージが頭の中に完成しており、ヴェルフリは何の迷いもなく、そのイメージを黙々と紙に定着させたのではないでしょうか。たぶん、描かずにはいられなかったのでしょう。
中日新聞の記事のとおり、「これは何だ」と、作品に目が釘付けになります。ただ、長い時間見ていると頭がクラクラしてきますね。
◆色鉛筆がキレイ
 1910~1912年の『揺りかごから墓場まで』のシリーズ以降は、色鉛筆も使われたカラフルな作品になります。色鉛筆の発色がキレイなので、安物ではないと思います。また、五線譜ではなく「六線譜」に音符を描いた楽譜も登場します。
◆芸者の写真のコラージュも
 1917~1919年の『歌と舞曲の書』や1929年の『葬送行進曲』のシリーズは、雑誌などに載っている写真のコラージュの周囲に額装を模した装飾を施し、余白を文字や記号で埋め尽くした作品です。日本の芸者や長火鉢を前にして座る日本女性をコラージュした《芸者-お茶と小笛〔小煙管〕》やアンディ・ウォーホルでお馴染みのキャンベル・スープの缶詰をコラージュした《無題(キャンベル・トマト・スープ)》など、どれもセンスの良さを感じさせます。
◆ブロートクンスト(パンのための美術)
 最後の展示は、色鉛筆やタバコと交換したり、病院の職員や来訪者に売っていた絵です。売り物だっただけに、「これなら買ってもいいかな。」と感じました。
◆最後に
 絵描きを職業とした人の作品ではありませんが、アルタミラ洞窟の壁画のような芸術性を感じます。ヴェルフリの作品を保存管理する財団があることにもびっくりしました。
 3月19日(日)の協力会ギャラリートークでの笠木学芸員の解説が楽しみです。
Ron.

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.