名古屋ボストン美術館 「俺たちの国芳 わたしの国貞」 ミニツアー

カテゴリ:ミニツアー 投稿者:editor

名古屋ボストン美術館で開催中の「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」(以下「本展」といいます。)のミニツアーに参加しました。参加者は20名。午前10時に1階の壁画前で待ち合わせ。午前11時まで、5階のレクチャールームで展覧会の解説。その後、自由行動となりました。
◆レクチャールームで聴いたことのいくつか
学芸員さんの解説によれば本展は、ボストン美術館初の、歌川国貞(1786-1864)と歌川国芳(1796-1861)の大規模展とのことです。ちなみに、ボストン美術館収蔵作品45万点のうち、日本美術は10万点、なかでも浮世絵版画は4万5千点、肉筆画は6000点ですが、なんと浮世絵のうち国芳は4000枚、国貞は1万枚以上だそうです。とても多い!
現代人にとって国貞はなじみの薄い作家ですが、1853年発行の「江戸寿那古細撰記(えどすなこさいせんき)」では「豊国(国貞は1844年に豊国を襲名)にかほ(似顔)、国芳むしや(武者)、広重めいしよ(名所)」と、当時の人気一位は役者絵・美人画の国貞、二位が武者絵の国芳、三位が名所絵の歌川広重(1797-1858)だったそうです。また、国貞は制作作品数でも一位とのことでした。
その外、国貞の系譜は前田青邨らに、国芳の系譜は月岡芳年、鏑木清方、伊東深水、川瀬巴水らに続いているという解説もありました。
なお、ボストン美術館の浮世絵コレクションは、4系統あるそうです。なかでもスポルディングコレクションは抜群に保存状態が良いものの、残念ながら門外不出。しかし、パソコンによる閲覧は可能とのことで、名古屋ボストン美術館のHPの一番下にある「米国ボストン美術館サイト」をクリックしてボストン美術館のHPを呼び出し、「COLLECTION」をクリック、「COLLECTION」のページが出たら「MFA Images」をクリック、「MFA Images」に移動したら、ページ左上の空欄に「Spaulding UK」と入力すれば、O.K.です。(注:以上の手順でスポルディングコレクションにたどり着くことは出来たものの、知識不足のため、そこから先には進めませんでした。)
◆江戸情緒のタイトルとポップな副題
本展の特色のひとつは、役者絵にちなんで展覧会全体を二幕十三場の芝居に見立てたこと。十三場のそれぞれに歌舞伎の外題を模した漢字五文字又は七文字(ゲン担ぎのため、必ず奇数)を並べた名前と、ポップな感じの英訳が付いてます。例えば、一幕目の二は「物怪退治英雄譚(モンスターハンター&ヒーロー)」。十三の外題と英訳は、展覧会を開催する各美術館の学芸員が分担して、楽しみながら付けたとのことです。
◆中国版の「かぶき者」たち
 一幕目の一は国芳の出世作「水滸伝シリーズ」が中心の展示。国貞の作品もあります。水滸伝は「四大奇書」の一つとはいえ、西遊記や三国志演義に比べるとなじみが薄く、名前を見てもどんな人物なのかサッパリ。とはいえ、登場人物は誰もが超人的な力を持つ「かぶき者」。彫り物をした人物も多く、当時のやんちゃな江戸っ子に受けたことは、今でも十分理解できます。
なお、一幕目の一、外題は「水滸伝」ではなく、「髑髏彫物伊達男(スカル&タトゥー・クールガイ)」。「髑髏」が出てくるのは、チラシにも使われている《国芳もやう正札附現金男 野晒悟助》という作品。学芸員さんによれば、「国芳もやう正札附現金男」とは、「国芳オリジナルモードの掛け値なしの男」という意味で、着物の柄も、袈裟の柄も「国芳もやう」、つまり、猫が集まった髑髏です。悟助は葬具屋ですが、強気をくじき、弱気を助ける色男とのこと。また、「野晒」は、野に捨てられ、風雨に晒された髑髏のことです。
◆迫力の大画面、三枚続き絵
 一幕目では、三枚の絵を繋ぎ合わせた大画面の作品が数多く展示されています。大きな骸骨の出てくる《相馬の古内裏》や《讃岐院眷属をして為朝をすくふ図》など、絵に動きがあってスコープサイズの映画を見ているような気がします。「十枚続」という作品まであり、迫力の大画面が満載です。
◆華やかな役者絵・美人画
 二幕目は全八場。外題は「千両役者揃続絵(カブキスター・コレクション)」「当世艶姿考(アデモード・スタイル)」など。過剰なまでに絢爛豪華な役者絵・美人画が並んでいます。また、遊郭の花魁と禿二人を描いた五枚揃の「藍摺」などの鮮やかな青色も印象的です。
 役者絵・美人画を見て、こんなことを考えました。つまり、当時の人々は役者の定紋や女性の髷、持物などから、誰を描いたのか、どんなシチュエーションなのかを容易に読み解くことが出来たでしょうが、そのような知識を持ち合わせない自分の目だと、解説無しでは読み解けない。それが、名所絵にはない、役者絵・美人画のもどかしさだと。
個人的には、国芳の《山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸》に惹かれます。描が美人の肩に爪を立て這い上がろうとしている様を、絡みつく大蛸に見立てた絵で、猫を飼っているとよく体験する災難を描いたものです。猫は、まさにこの絵通りの格好ですが、猫好きは痛くても「よしよし」と猫に声を掛け嫌がらないのが、私には不思議です。国芳も、困ってはいても嫌がっているようには描いてないと見ました。
◆ユーモラスな戯画、国貞・広重のコラボも
 二枚目の四「痛快機知娯楽絵(ザッツ・エンターテイメント)」では、《荷宝蔵壁のむだ書》など遊び心たっぷりの絵が楽しいですね。「水滸伝」をもじった戯画もあります。
 二枚目の七「四季行楽案内図(フォーシーズン・レジャーガイド)」は名所図。国貞、広重のコラボ(国芳が美人を、広重が富士を分担)による《田子のうら風景》も展示されています。国貞《洲崎 汐干図》には、エイやカニまで描かれていました。
◆最後に
 午後に予定があったため、やむなく正午で美術館を後にしました。駆け足での鑑賞になってしまったのは、少し残念でした。会期は12月11日(日)まで。
Ron.

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