藤田嗣治展

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

藤田嗣治展を見終わった兄妹が、カフェでおしゃべりをしている.美術が大好きな兄貴と、ファッションからワインまで好奇心のかたまりの元気な妹である.どうやら,藤田嗣治の乳白色の裸婦像と戦争画を話題にしているらしい.二人の会話に耳を傾けてみよう.

兄[♠]今回の展示は,フジタの若いころの作品から晩年までを,ほぼ年月順に整理されて,画風の変化が見やすいね.
妹[♥]ええ,そうね.フジタといえば,私の中では,透き通るような肌の裸婦像を描く画家というイメージが先行していたけど,迫力ある大画面の戦争画も,フジタという作家の代表作の一つと思うわ.
[♠]今回,戦争画が3点しか展示されていないけど,フジタ自身はかなりの戦争画を残しているよ(1).
[♥]《サイパン島同胞臣節を全うす》と《アッツ島玉砕》は群像の作品なのね.
[♠]そうだね.パリで“乳白色の肌”を描くジャポネとして有名になって,次の作風を模索するなか,西洋美術の本流である群像に挑戦したらしいね.戦争画を描く以前にも,いくつか群像の作品があるよ.
[♥]そうなの.群像というと,レンブラントの《夜警》やダヴィッドの《ナポレオンの戴冠》が有名ね.
[♠]うん.それにしても,《アッツ島玉砕》は圧巻だね.ドラマチックだ.
[♥]怖いくらいね.アッツ島も南洋の激戦地だったところ?
[♠]違う,違う.当時も現在もアメリカ・アラスカ州のアリューシャン列島の一つ.極寒の地.侵攻した日本陸軍の守備隊2千人強が全員戦死.当時,玉砕といわれ,英雄視されたらしい.その様子を想像で描いたフジタは,これらの戦争画制作を非難され,石もて追われるごとく,戦後日本を離れることになる.フジタには,口では言えない曰く因縁ある作品だろうね.
[♥]そう,それで,戦争画の展示されている壁面が青色で,鎮魂色なのね
[♠]そうか.この作品は,太平洋戦争末期1943年に完成し,戦意高揚のために全国に巡回したそうだ.ある東北の会場では,観客からお賽銭が上げられたとか.それだけ,当時の国民感情として感動的だったわけだ.
[♥]う~ん.ところで,裸婦の作品の壁面は赤よね.興奮色?
[♠]ハァ? 赤は白が合うのだろう.《五人の裸婦》や《タピストリーの裸婦》はきれいだね.いくつか裸婦像が展示されているけれど,なかでも《タピストリーの裸婦》の輪郭線はすばらしいね.面相筆(めんそうふで)の一本線が美しい.まさに一発勝負で,書き直しが無い!
[♥]ピタッとくっついている両脚は境界の一本線だけで描かれているわ.セクシーね.乳白色の頬にピンク色が差してるのは,かわいいわね.
[♠]ホ~.乳白色はフジタ独特の技法だね.最近の研究によると,キャンバスに炭酸カルシウムを溶き油で溶いて,下塗りして,この時点では化学変化を起こして濁色になるだろうと思うけど,そこはフジタマジックで,タルクと呼ばれるケイ酸マグネシウムと白油絵具を混ぜて塗りこみ,つや消しの白い肌を生み出したそうだ.
[♥]フジタさんて,研究熱心なのね.炭酸カルシウムとかケイ酸ナントカって何?
[♠]ははは,炭酸カルシウムは石灰だ.ケイ酸マグネシウムは,早い話がベビーパウダーだよ.パリで認めてもらうために,オリジナリティを追及したわけだ.制作数も半端じゃない.私生活では,奥さん,恋人を取っかえ引っかえ….羨まし~い….
[♥]フジタには人間的魅力があったのよ.スケールが大きいのよね.
[♠]はいはい.ところで,群像を描いた話だけど,秋田県立美術館に《秋田の行事》と題された横20mほどの超大作があるらしい.時間を作って,見学に行きたいね.
[♥]うわ~うれしい,連れて行って!きりたんぽ鍋と大吟醸!

(1) 東京国立近代美術館所蔵作品展 特集:藤田嗣治,全所蔵作品展示.2015.9.19-12.13.戦争画14点を含む同館が所蔵する藤田嗣治の作品26点がまとめて展示された.

入倉 則夫(会員)

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