桑山さん,和趣味に回帰ですか? ―桑山忠明展を見る―

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

  国立国際美術館で開催された「WHITE桑山忠明 大阪プロジェクト」展を見ました.桑山忠明さんが,名古屋市美術館で大規模な回顧展「静けさのなかから:桑山忠明」を開いたのは昨年2010年春でした。全館を使っての展示は,若い頃のモノクロ,その後のメタリックカラーの平面作品,同じ作品を並置する場所限定のインスタレーションへと,ミニマル(極小)が美しく純化・昇華しつつあると感じたものでした.

  今回は,「WHITE大阪プロジェクト」と題されたインスタレーションによる近作です.天井が高く,細長い部屋に,床上約30cmの高さの位置に,およそ120cm四方の白いパネルが18点,横に並んでいます.端正ながら,柔らかな印象があります.この背後の部屋には,同サイズの作品18点が,床上約80cmの高さの位置に並んでいます.展示の高さが異なっているものの,対になっているようで,視覚的にもおもしろいです.床に近く置かれた作品群は,70年代に散見した展示スタイルで,なぜか奇妙に懐かしく感じました.それにしても,高い天井の下で,横30mに及ぶ作品群は圧巻です.近寄ってパネルのテクスチュア(質感)を見ました.なんと白一色と思ったパネルは,和紙らしい幅4 cmのテープが一見規則的に交差しながら貼られているのです(名古屋市美術館の回顧展の際にも,単体で同技法の作品がありました).その上から,白いジェッソ(下塗り用のアクリル画材)が塗られており,この艶のない質感が,明るさを吸収して柔らかい印象を与えるのでしょう.メタリックカラーの味わいとは異なる,手仕事の静かな和の佇まいです.

  桑山さんの作品に,日本画や日本美術の伝統との関係性を推察した評論はいくつかあります(例えば,山田諭さんによるテキスト,名古屋市美術館,2010).作家に作風の変化があることは当然の成り行きですが,桑山さんの,場所性,空間性に拘りつつ,和風感覚を彷彿させる新たな作風の一端を見たようです.それが発展的なのか,回帰なのか良く分かりませんが,次作も期待したいものです.

  最後に,国立国際美術館への苦言です.端正に展示された作品群のすぐ横に,会場係員の女性が座っています.観客の視野に入り,なんとも興醒めなのです.白の世界にもかかわらず,彼女らの制服の色が黒なので,余計に目立つわけです.反対側に座るとか,なんとかならないものかと苦笑しました.

入倉 則夫(会員)

事務局注:「WHITE桑山忠明 大阪プロジェクト」展(国立国際美術館)は9月19日で終了.

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