福沢一郎絵画研究所展

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:editor

福沢一郎研究所展図録

福沢一郎研究所展図録


20年ほど前に、名古屋市美術館で『日本のシュールレアリスム』展という企画展が開催されました。200頁を超える図録も記録性が高く、当時高い評価を得た好企画の展覧会でした。
その展示の中に、福沢一郎のコラージュ手法を用いた絵画作品が数点出品されていた記憶があります。福沢一郎(1898~1992)は戦前の日本画壇に、本場ヨーロッパのシュールレアリスム芸術を紹介した画家として有名です。その福沢一郎は、戦前、自宅のアトリエで絵画研究所を主宰していたそうです。画塾というより欧米の新しい芸術思潮に触れるというサロンの雰囲気もあったそうです。そこに集まった作家約30人の当時の作品に照射した企画展が開催されました。東京・板橋区立美術館主催『福沢一郎絵画研究所』展(2010.11.20~2011.1.10)です。

余談ですが、板橋区立美術館(写真)はハッキリ言って、交通が不便。大手町から地下鉄都営三田線の終着駅「西高島平」駅まで約1時間、さらに陸橋や坂道をテクテクと徒歩10数分。幸い、上京した日は陽気で好天気でしたが、悪天候なら途中で引き返したかもしれません。

板橋区立美術館

板橋区立美術館正面


 板橋区立美術館は小規模な2階建ての造りで、展示は2階の2室とロビーを使っていました。まず、福沢一郎の当時の代表作9点が展示されています。題名と作品を交互に見ながら進むと、福沢一郎は徹頭徹尾、シュールレアリストではなかったとわかります。また、後に社会派的作風に転じた山下菊ニ(1919~1986)、名古屋から上京した吉川三伸(1911~1985)や眞島建三(1916~1994)らの福沢一郎絵画研究所で学んだ当時の作品群が整理されて展示されています。吉川三伸は2点。「葉に因る絵画」(1940)は名古屋市美術館所蔵です。また、眞島建三は4点。ギリシャ神話の牛頭人身の怪物を描いた「ミノタウルス」(1940)、ダリ風の「パンの詩」(1951)などです。彼らがヨーロッパのシュールレアリスム芸術に感化を受け、同化・消化・異化そして独自の画風を確立していったことが想像できます。ヨーロッパからのシュールレアリスム直輸入のような作品から、治安維持法が闊歩する時代を背景に、何かを模索していそうな作品まで、重い作品展示です。

 今展は見終わると、エルンスト、ダリ、キリコ、ミロといった比較的見慣れた作品と違って、少々疲れる展覧会ですが、太平洋戦争前後の美術史断面を丁寧に検証した、学芸員の地道で真摯な姿勢がよくわかります。

(写真:板橋区立美術館、『福沢一郎絵画研究所』展と『日本のシュールレアリスム』展の図録)

入倉則夫(協力会会員)

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