瀬戸内国際芸術祭2010(1)―小豆島から

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members



アートツアーは体力勝負である。7月25日(日)炎天下、瀬戸内国際芸術祭2010の小豆島会場を見て廻った。香川県高松港からフェリーで、青い瀬戸内海を滑るように渡り、1時間弱で土庄港に着く。年配の方には懐かしい「二十四の瞳」像が迎えてくれる。島内はローカルバスの一日フリー乗車券を700円で購入。坂道が多いので、間違っても「歩こう」と思うなかれ。時間のロスはあるが、こまめにバスを利用することが賢明である。
さて、最初は土庄港近くの海上に浮かぶ黄金のボートを見る。豊福亮さんの『宝船』である。船底には緋毛せん、壁と天井には植物や廃物すべてがバロック調にこれでもかと眩い黄金一色に装飾されている。船酔いしそう。
次は海岸へ。これも遠目には、金色に輝く巨大な漁網が干してあるようだ。海岸の砂に足を取られながら近づくと、なんと6cmくらいの両手両足を広げた小さな人体(あたかも大の字)を組み合わせたネットである。Suh Do-Ho(韓国)さんの作品『Net-Work』(写真下)。根気のいる作業に敬意、製作も体力勝負である。
合同庁舎前の喫茶店で小休止をして、バスを待つ。無理をせずに、涼しいところでリフレッシュ。バスに再乗車して、先に進む。バスの車掌は、地元観光ボランティアの元気なおばちゃんたちである。芸術祭期間中は交替で、アート・ガイドを兼ねて、運転手さんを助けるそうである。
過疎から廃校になった小学校(体育館は町民が使っているとか)の図書室の床面を使った栗田宏一さんの『土と生命の図書館』(写真中)がある。美しい。瀬戸内海に接する四国、中国、九州各地の土そのものを採取して、20cm四方の純白和紙の上に薄く盛り上げた作品。色の魔法陣である。土がこんなにも多彩な表情を持つものかとしばし冷房の効いた部屋で佇む。
ここからが正念場。坂道、あぜ道と難儀する。途中、農村歌舞伎の舞台小屋横を通る。ここでも、通りすがりの農具を持ったおばさんが、腰を伸ばし、この前、舞台があったばかりだよ、そこにチラシがあるよと話しかけてくれる。
安岐理加さんという小豆島出身の作家による『森』を見つける。うっかりすると見逃しそうな一本の小さなクスノキに梯子が架かっている。近くで農作業をしていたおじさんが、手を休めて鑑賞方法を親切に教えてくれる。ありがたい。小箱に鏡の細工をしているわけで、反転した観音像を見て、なるほどと感心する。見知らぬ人にも声をかけてくれるなんて、今どき稀有な親切さである。芸術祭は島民のおばさん、おじさんを快活にするらしい。
山道をしばし登ったところで、視界が開ける。竹による巨大なドームが眼に飛び込む。王文志(台湾)さんの『小豆島の家』である(写真上)。アプローチも竹で編んだトンネル。中央部に入ると、見た目よりかなり広い竹座敷である。竹による周回路もある。子供たちがはしゃぐ。陽射しは強いが、6000本以上も使っているという竹のドームは意外と涼しい。横になると、竹のしなやかさを背中に感じる。ちょうどお昼時。空腹に高松のコンビニで買ってきたおにぎりがおいしい。
再び、田んぼのあぜ道を歩くが、太陽はジリジリと照りつける。やっ、バス停横にお茶屋がある。生ビールというのぼりに嬉しくなる。中に入ると土壁がひんやり。昔の精米所を改装したという土間づくりである。冷たい生ビールに生き返る。お茶屋の若いお姉さんは和歌山出身で、島が気に入って、この芸術祭を機に思い切って移住したとか。今では、立派な島民。聞くともなく、手作りの改装時の苦労話を聞く。実は、このお茶屋が香港のセンス・アート・スタジオというグループの作品という。日常生活がアートに変容しているというか、背伸びをしない活動に感心する。
ともあれ、アートは体力勝負。見学にはガイドブックと共に、ツバの広い帽子あるいは日傘、虫さされ防止スプレーの持参、早めの水分補給、早めのトイレをお勧めする。

入倉 則夫(会員)

コメントはまだありません

No comments yet.

RSS feed for comments on this post.

Sorry, the comment form is closed at this time.