二つの遺作展-荒川修作展と中里斉展

カテゴリ:アート見てある記 投稿者:members

 2人のニューヨーク在住の日本人作家がそれぞれの個展会期中に逝去した。荒川修作氏と中里斉氏である。
名古屋市美術館で「荒川修作を解読する」展が開催されたのは2005年春であった。開会式の後、会場内のギャラリーからの問いかけに、荒川氏は親切に、それが熱弁となって、多くの人が氏独特の哲学に酔ったものであった。今回、遺作展になったのは「死なないための葬送…荒川修作初期作品展」(2010.4.17-6.27、国立国際美術館、大阪)で、「棺桶」シリーズと呼ばれている1960年前後数年間の渡米前の作品群である。
会場ロビーは大賑わい。そう、人気のルノアール展併催中であった。逆に、荒川展会場は、場違いなところに来てしまったとでも、足早に会場を後にする人も多い。会場の照度が落とされ、「オレの過去の作品は死んだ!」と封印でもするような暗い死体のようなモンスター像であるためであろうか。仔細に観察するとハートマーク♥も描かれてあったり、茶目っけもあるようである。時代は60年安保である。全学連の国会突入死傷事件など、歴史が大きく動く時代に「棺桶」シリーズは制作されている。「何が前衛だ、ネオ・ダダなんて蹴飛ばしてやれ」と若い荒川氏は渡米を決意したのであろうか。若々しいケネディ米国大統領が誕生したのも1960年秋である。渡米後は、周知のようにダイアグラム絵画シリーズへと転換していく。渡米前後に作品思想の断絶があるのか、連続性を見つけ出すのか、識者によって意見の分かれるところであるが、各々がインパクトのある作品であることは間違いない。隣室の明るい照明下の常設展示会場に「Moral/Volumes/Verbing/The/Unmind/No.1」と名付けられた巨大作品が「これもオレだ!」と叫んでいるようである。

一方の中里斉氏は東京都町田市生まれ。故郷の町田市立国際版画美術館で「中里斉展 モダニズム・ニューヨーク⇔原風景・町田」と称した版画展が開催中(8.8 まで)である。作風は、版画と言っても、写真のように、明快で、伸びやか、いい意味で無邪気な大作が中心で、インスタレーションもある。通常、会場内は写真撮影禁止であるが、今回は氏の意向でOK。子供たちが作品の前で記念写真を撮ったりして、アートに関心を持つとうれしいとか。氏によるギャラリートークも2時間にも及ぶ盛り上がりがあったと聞く。
かなり以前に、東京画廊の個展でバーネット・ニューマン風の柔らかい色彩の油彩画(アクリル絵具だったかもしれない)大作を見た記憶がある。油彩と版画を行き来しながら、≪線外シリーズ≫という○△□の形が大きく描かれている作品が生まれる。語呂合わせもあるらしいが、線外=せんがい=仙厓(江戸時代後期の画僧。俳画的な墨絵を描く)に触発されたという。開放的で、気持ち良い作品群である。その時期は、2001年のあの9.11同時多発テロの頃という。制作は社会性も帯びる。会場の一角に、《黒い雨》が展示されている。題名を見なければ気付かないが、広島の原爆が底流にある、美しくも歴史を想うインスタレーションであった。

荒川修作氏は5月19日に、中里斉氏は一時帰国時の7月18日に、いずれもニューヨークにてご逝去。両者ともに1936年生まれ、享年74歳。合掌。

写真上:中里斉/2001プロジェクト黒い雨シリーズと折黒雨シリーズ。写真下:中里斉/線外シリーズ。いずれも町田市立国際版画美術館にて 2010.7.27 筆者撮影。

入倉 則夫(会員)

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