皆さん、2年ほど前に、ピアノがヒマワリの種子に埋まった作品に記憶がありますか? そうです、河口龍夫さん(1940年生まれ)の『関係-無関係・落下、集積、命の形態』という作品です。2007年秋に名古屋市美術館で開催された大規模な個展の時の作品の一つです。河口さんは1960年代から、見えるもの(展示物)と見えないもの(作品の背後にある意図)の関係を追及した作品を多数発表しています。
その名古屋展から余韻が醒めない翌年(2008年)、北陸電力の発電所跡をアート空間に改装し、天井が非常に高い「発電所美術館」(富山県)で新作を発表しました。それは、実際に使われていた小型の漁船を原型とした作品『関係-天空の船』です。その8mほどの漁船は、あたかも観客が水中から見上げるように、館の天井に吊り下げられていました。日本海の荒波によって年輪を刻んだ船体は、時の流れを感じさせ、さらに、船体からは細いワイヤーが無数に突き出ており、その先端には鉛で包まれたハスの種子が付けられていて、悠久の生命感もありました。その展覧会タイトルは「時の航海」でした。
前置きが長くなりましたが、その漁船を再生した作品を今秋(2009年10月)東京国立近代美術館で見ました。老船は蜜蝋(みつろう)で鮮やかに黄色く彩色され、見違えるほどの勇壮な姿となって現れました。蘇生した漁船は床に置かれているため、海岸から漕ぎ出るような様相にも見え、力強い印象をも与えるものでした。過去を曳行し、未来へどう進路をとるのでしょうか? 船の中央には、小さな木馬が取り付けられていました。これも蜜蝋で黄色く彩色され、さらにハスの種子がワイヤーの先端に付けられて、羽のように軽やかになびいていました。飛翔しようとする有翼の天馬ペガサスを想像させます。この新しい息吹を感じさせる船は、美術館最終室に展示されており、これからも新作を次々と生み出すKawaguchi号の船出のようでした。
今回の展示は、もちろん船だけではありません。河口さんの多くの代表作と新作を三つのカテゴリー「ものと言葉」「時間」「生命」に分けて、氏の作品からのメッセージを読み解こうとするものです。氏の制作姿勢は、見えるものと見えないものの関係を観客に提示して、想像力を喚起させることと思います。代表作に、鉄板が雨水で、銅版が酸性液で錆びた状態を綿布に転写させた作品シリーズがあります。「時間」による腐食という化学的現象を切り取って、何気ない時間的経過を観客に意識させそうです。もしかして、これからも錆び続けるかも知れません。
「言葉」によって河口さんの作品を紹介するのは難しいので、名古屋市美術館常設展示の作品をご鑑賞ください。きっとKawaguchi ワールドが開かれるでしょう。
入倉 則夫
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