新聞を読む「女性に自信を サンローランの精神」(日本経済新聞2022.12.04)

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

「女性に自信を サンローランの精神」とは、日本経済新聞「The STYLE / Fashion」(2022.12.04付) に掲載された井上聡子記者の署名記事(以下「署名記事」)の見出しです。

◆展覧会の概要

署名記事は、東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALL / E HALLで12月11日まで開催中の「BETTY CATROUX – YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展」の展覧会評です。展覧会名の Yves Saint Laurent は、服飾デザイナーのイヴ・サンローラン(以下「イヴ」)。また、Betty Catroux(ベティ・カトルー、以下「ベティ」)は1967年以来の、サンローランの盟友。183㎝の長身、スレンダーでシャープな体形のモデル、「イヴが生み出すスタイルの体現者だった」77歳の女性です。展覧会は、ベティがピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団に寄贈した衣装とベティの写真・動画で構成。署名記事は、イヴが男性の略式礼服タキシードをイブニングドレスに代わる女性の正装に進化させた「スモーキング」の写真も掲載。更に「私が着るものは男ものの服ばかり。自分の感覚は、男でも女でもない」とベティが言い、イヴは「服装を通じて男性と対等になり、時代遅れの古典的な女性像を覆す」と話している、とも記載。

展覧会のURLは、Betty Catroux | Saint Laurent サンローラン | YSL.com。他に、サンローランの永遠のミューズ、ベティ・カトルーと水原希子 共鳴し合う精神 (fashionsnap.com) や、イヴ・サンローランが惚れ込んだふたりのミューズ。ベティ・カトルーとルル・ド・ラ・ファレーズ | Precious.jp(プレシャス) というネット記事もあります。画像も掲載されていますよ。

◆イヴは、クリスチャン・ディオールが希望した後継者だった

「芸術新潮」2022年12月号の記事によれば、まだモード学校の生徒だったイヴは、1955年6月20日にクリスチャン・ディオール(以下「ディオール」)に招かれ、ディオールはその場でイヴの採用を決めたとのこと。1957年にディオールは心臓発作で急逝。ディオールが生前希望していた通り、21歳のイヴがチーフ・デザイナーとして後を継ぎ、ディオールでの初コレクション「トラベラーズライン」は熱狂的に迎えられ、「それまでディオールはウエストを絞ったデザインを多く制作していたが、トラベラーズラインは身体を生地の中で遊ばせるようなデザインで、非常に新しく、斬新に受け取られた」との解説がありました。自分の名を冠したブランドの初コレクションで発表したピーコート(船乗りの服から着想を得たマリンルック)は「シャネル以来の最高の出来栄え」と称賛を受け、「スモーキング」の後もジャンプスーツ(落下傘部隊の「つなぎ」の制服にちなんだ名前)やサファリジャケット(アフリカで白人男性が着ていた衣服)など、女性のパンツスタイルを定着させた、との解説もあります。

◆ガブリエル・シャネルも、イヴを自分の後継者だと公言

署名記事には「ジャージーやツイードを用い、コルセットなど動きを制限する服から女性を解放したガブリエル・シャネル(以下「シャネル」) は68年、イヴこそ自分の後継者だと公言している」という記述もあります。それは「シャネルはイヴのデザインを支持していた」ということですね。

◆シャネルは、ディオールに我慢できなかった

山口昌子著「シャネルの真実」(新潮文庫 平成20年4月1日発行)によれば、シャネルは71歳になってモード界に復帰。その理由は「自分が一掃したコルセットに女性を閉じ込めたディオールに我慢できなかったのだと思う」とシャネルの友人・作家クロード・ドレイが分析しているとのこと。当時、ディオールはウエストを極端に絞った長いフレアスカートが基準の《ニュールック》を発表。ショーに登場したマヌカンは、全員10センチのハイヒールを履いていた、とも書いています。また、ディオールの目的は上流階級の限られた女性が着る服で、大衆を相手にするつもりがなかったこともシャネルが反発した理由だったとか。

「シャネルの真実」は、シャネルの復帰後、米国の週刊誌『ライフ』は、彼女が発表した「ヤング・ルック」を「着心地が良く、簡素でエレガントである」と強調して「大衆が影響を受けるのは明白だ」と評し、シャネルも《本当に仕立ての良い服とは、女性が歩いたりダンスをしたり、乗馬したりできる服》と述べ、ディオールら男性デザイナーを批判した、とも書いています。

◆最後に

2023年は「マリー・ローランサンとモード」だけでなく、東京都現代美術館「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」、東京・国立新美術館「イヴ・サンローラン展」が開催されます。シャネル、ディオール、イヴ、三人の間には「反発の対象」「後継者と希望・公言」といった関係があった、と知りました。

Ron.

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