映画「TOVE /トーベ」

カテゴリ:mix,アート見てある記 投稿者:editor

現在、ミッドランドスクエアシネマ2で上映中の映画「TOVE/トーベ」(以下「映画」)を見てきました。ムーミントロールの原作者として有名なトーベ・ヤンソンの30歳代から40歳代を描いた伝記映画ですが、「ドキュメンタリー」ではなく「劇映画」です。家族との関係やラブロマンスを中心にして描き、その中にトーベの作品が出てきます。

◆ 映画のあらすじ

最初に出てくるのが父親との衝突と潤滑油のような母親。愛した男性は、政治家、哲学者のアトス・ヴィルタネン。スナフキンのモデルで、スウェーデン語系新聞に子ども向け漫画を連載してほしいと、トーベに依頼する場面もあります。一方、愛した女性は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラー。ブルジョアの既婚女性で、父親はヘルシンキ市長。「ムーミン谷の彗星」をトーベの脚本・舞台美術・衣装で上演し、トーベに自信を与えます。二人は、ムーミントロールの物語に、二人の間だけでしか通じない言葉を話すトフスラン・ビフスランの双子として登場。映画の中では、トーベたちも暗号で話し合っています。

トーベを取り巻く状況が大きく変わるのが、1952年。イギリスのイブニング・ニューズ紙と契約する場面で、男性がトーベに「心変わりのきっかけは」と聞くと、「芸術家として失敗したから。月給が入れば生活も安定する」と答えるトーベ。男性は「報酬は週給。7年間、週6回掲載すること」と、契約条件を伝えます。

連載でトーベは裕福になりますが、多忙のため弟に手伝ってもらうことに。久しぶりに会ったヴィヴィカに「漫画、演劇、小説、絵画、何が天職か分からない」とトーベが愚痴ると、「全部やればいいじゃない」というヴィヴィカ。トーベが吹っ切れた瞬間です。

1958年、父親が死去した後、母親がトーベに見せたのは、父のファイル。そこには、ムーミンの演劇や小説、ムーミンコミックスが綴られていたのです。10年前にはトーベを頭から否定していた父ですが、娘の仕事ぶりを克明に記録していました。

その後、ムーミンの主要キャラクター「おしゃまさん(トゥーティッキ)」にそっくりなアーティスト=トゥーリッキ・ピエティラがトーベのアトリエを訪ねて来る場面があります。トゥーリッキが「何を描いているの」と聞くと、トーベは「新たな旅立ち」答えます。トーベ・ヤンソン本人が踊る8ミリ映像に切り替わり「トーベは、その後もアトス、ヴィヴィカと交流を続けた。ヴィヴィカは『トーベの愛が眩しすぎた』と語った」という字幕が出て、映画は終わります。

◆ 映画の中に出てくる絵画、キャラクターなど

最初に出てくるのは、ムーミントロール。ただし、お馴染みの可愛らしいキャラクターではなく、長い鼻をした少し醜い姿です。アトスに出会った後、紙に描いたのはスナフキン。モデルはアトスだと暗示していますね。トーベのアトリエで描いていたのは《自画像、煙草を吸う娘》。2015年発行の「ムーミンとトーベ・ヤンソン(日本語版)」によると1940年制作ですから、映画の設定とは少しずれます。ヴィヴィカと出会った後、紙に描いたのはトフスランとビフスラン。トーベのToとヴィヴィカのViを使った名前です。ヴィヴィカがトーベのアトリエに来た時、ヴィヴィカがトーベに「これは?」と見せるキャラクターはモラン。トーベは「通った所を凍らせてしまう」と説明、二人の関係を脅かすものの象徴でもあります。市庁舎の地下に描いたフレスコ画は、前掲書によれば《祭典》(1947)。パーティーの様子を描いた作品です。映画では良く分かりませんが、画面中央はヴィヴィカ夫妻、その手前に座って煙草を吸っているのはトーベ。テーブル上のワイングラス横には、ムーミントロールの姿もあります。トーベがフレスコ画を制作する様子も映画の見どころです。

なお、映画の最後に出てくる8ミリ映像は、トゥーリッキ・ピエティラが撮影したものです。

◆ 映画と名古屋市博物館「ムーミンコミックス展」との関係

先日、博物館に行ったときは全く理解できなかったのですが、映画を見て「イブニング・ニューズ紙に連載マンガを載せる」ということの威力が分かりました。映画の最初に出てきたトーベのアトリエはボロボロで、「ちゃんと直すには、とても費用が掛かる」と言われていたのですが、映画の最後に登場したアトリエはピカピカ。お金持ちになったことが、はっきりと目に見えました。また、イブニング・ニューズ社との7年契約が切れた年に、トーベがムーミンコミックスから手を引き、執筆と絵画の生活に戻った気持ちも理解できるようになりました。映画ではトーベとラルスの共同作業も、ほんの一瞬ですが、描かれています。映画を見ると「ムーミンコミックス展」の理解も深まると思いますよ。

Ron.

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