読書ノート「名画レントゲン」(20)秋田麻早子(週刊文春2021年9月2日号)

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

◆ 堅実な人生を土台にした古き良き思い出  グランマ・モーゼス「美しき世界」(1948)

名画レントゲン(20)は、名古屋市美術館で開催中の「グランマ・モーゼス展」(以下「本展」)に出品されている《美しき世界》を取り上げています。以下は、記事の抜粋です。

〈通称グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)で知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは、80歳代で売れっ子の画家になった物語がひとり歩きしがちですが、彼女の作品はそんな背景を知らなくても魅力あふれるもの。(略)モーゼスはドラッグストアで自作のジャムや漬物と一緒に絵も売り物として並べていました。でも売れるのはジャムや漬物だけの日々でしたが、モーゼスが78歳になる1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げたのが事の始まり。そこからカルドアが奔走し、画商O・カリア、IBM創業者T・J・ワトソンらモーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました。(略)モーゼスの人気が高まる時期は、アメリカが1929年からの世界恐慌から立ち直り、第二次世界大戦が勃発し参戦していくときで、古き良きアメリカが少しずつ変化していくときでもありました。モーゼスは自分が経験したことの記憶から絵を作り上げ、電柱などの現代的なものは意図的に省いています。細部を描きつつシンプルな画風だからこそ、人々は彼女の絵に思い出を重ねて見ることができます。それは描かれた思い出の美しさの土台に、モーゼスという人が一歩ずつ堅実に踏みしめてきたリアルな人生があるからこそです。(略)モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです。〉引用終り

◆ 協力会向け解説会(2021.07.25)の思い出など

 引用した記事の内容は、協力会向け解説会でも聞きました。《美しき世界》について、井口智子学芸課長は「『どんな絵がいちばん好きですか?』とインタヴューで聞かれた時、『きれいな絵』と答えています」と、紹介しています。展示室で作品と向かい合った時、記事のとおり〈思い出と希望がわき起こってくる〉感じがしました。解説会に参加した協力会員も、同じ感覚を覚えたようで「展覧会に来てよかった」と感想を漏らしていました。

 解説会では値段を聞き漏らしたのですが、<1938年、たまたまやってきた美術コレクターのL・カルドアが心惹かれて一枚あたり数ドル、現在の価格でも数十ドル相当の値ですべて買い上げた〉というのは、すごい話ですね。日本円に換算すると一枚数千円です。タダに近い値段で買い上げられても、〈モーゼスを応援する人々が集まり、現在へと続く名声が生まれました〉というのは、まさにシンデレラ。「アメリカン・ドリーム」の体現です。

 記事は〈モーゼスはドラッグストアで自作のジャム〉を売っていたと書いていますが、解説会では「アップル・バター」の紹介がありました。アップル・バターはリンゴだけを煮つめて作ったペーストです。ジャムの仲間ですが、雰囲気は日本の「あんこ」でした。ドラッグストアで売っていたのは、アップル・バターだったかもしれないですね。

 本展の会期は9月5日(日)まで、会期末が迫っています。再度引用しますが〈モーゼスの絵を見ていると、思い出と希望がわき起こってくるようです〉とのこと、お見逃しなく。

 Ron.

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