読書ノート 「週刊文春」(2021年4月15日号)ほか

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◆「週刊文春」 名画レントゲン(14) 秋田麻早子 

抽象画の見どころとは? ピエト・モンドリアン「大きな赤の色面、黄、灰色、青色のコンポジション」(1921)

 SOMPO美術館で「モンドリアン展」を開催している(3/23~6/6)関係か、《大きな赤の色面、黄、灰色、青色のコンポジション》を新聞や雑誌で見かけます。中学校の美術の時間で見たことのある有名な作品ですが、「見た」と言うだけの薄っぺらな知識しか持ちあわせていない作品でもありました。

さて、「名画レントゲン」は〈このような抽象画を味わうポイント〉の一つについて〈線・色・サイズなどの要素同士のバランスの取り具合〉と書いています。〈モンドリアンは、画面中で一つの要素が優位にならず、色や大きさが違っても等価的に均衡し、全体として調和する絵画を目指して〉いた、と言うのです。もう一つのポイントについては〈実物を目にする機会があったら、右下角の赤い部分を手で隠してみてください。急に絵が止まったような印象を受けるから不思議です〉と書いています。一度、試してみたいですね。

 さらに〈このような制作態度の背景には、神智学という哲学と宗教を融合した思想への共鳴もあります〉と続きますが、この部分は、知識不足でよくわかりませんでした。

◆「日本経済新聞」(2021.04.03)  生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて

 上記のとおり「神智学」でつまずいたため、少し前の新聞を読み返してみました。紙面2ページを使った、SOMPO美術館「モンドリアン展」のPR記事です。主な内容は、以下の通りでした。

モンドリアン(1872-1944)は当初、ハーグ派の風景画を制作していたのですが、1908年、36歳のときに最初の転機があり、1909年制作の《砂丘Ⅲ》では〈スーラがたどり着いた点描の技法〉を取り入れています。そして、〈同じころには神智学協会の影響も受けた。1875年に米国でヘレナ・P・ブラヴァツキーらによって結成された神智学協会は、「ギリシャ哲学や仏教、バラモン教など幅広い宗教や思想を参照しながら、宇宙や生命の神秘にたどり着こうとした」(豊田市美術館の石田大祐学芸員)〉とのことでした。「神智学」が出てきましたね。〈神智学に沈潜しながら、1911年にピカソやブラックらのキュービスムと出会ったことが第二の転機〉となり、画家テオ・ファン・ドゥースブルグが〈モンドリアンに新しい芸術雑誌を創刊することを提案。こうして1917年に雑誌「デ・ステイル(様式)」が誕生した。モンドリアンは同誌に「絵画における新しい造形」という題名の連載を執筆し(略)相反する諸原理を均衡、調和、統一に導く「コンポジション(構成)」を確立することこそが新しい造形の目的だと説く〉との内容でした。ようやく「週刊文春」の名画レントゲン(14)の記事に繋がり、一安心しました。

 新聞には、モンドリアンの作品のほかに、ヘリット・トーマス・リートフェルトがデザインした豊田市美術館所蔵の「アームチェア」と「ジグザグ・チェア」の写真も載っています。記事には〈デ・ステイルには様々な作家らが参加した。その一人が建築家・ヘリット・トーマス・リートフェルトだ。(略)本展にはリートフェルトがデザインした椅子も展示される。幾何学的なデザインや、椅子の究極の形とも言われる「ジグザグ・チェア」などにモンドリアンの影響が見て取れる〉と書いてありました。「アームチェア」「ジグザグ・チェア」は、2019年に豊田市美術館で見たことがあるので、興味をそそられますね。

なお、展覧会情報の最後に〈※7月10日~9月20日、豊田市美術館へ巡回〉と表記されていました。

(参考)豊田市美術館 リニューアルオープン「世界を開くのは誰だ」(2019.6.1~6.30)に出品された椅子

豊田市美術館のリニューアルオープン記念展「世界を開くのは誰だ」にも、今回の「モンドリアン展」と同様、椅子が展示されていました。当時のメモを読み返すと、椅子のデザイナーは、ヘリット・トーマス・リートフェルト(以下「リートフェルト」)、マルセル・ブロイヤー、ルートヴィッヒ・ミース・ファン・デル・ローエの三人。いちばん点数が多かったのはリートフェルトの作品で、「アームチェア」2点、「ジグザグ・チェア」「ベルリン・チェア」のほか、監視員さんの許可を得れば座ることができた「635レッド アンド ブルー ラウンジチェア」「280ジグザグ アームレスチェア」の展示もありました。なかでも「635レッド アンド ブルー ラウンジチェア」は、赤(背面)、青(座面)、黄色(肘掛けなどの木口)、黒(その他の面)に塗り分けられた椅子で、モンドリアンの作品みたいな感じでした。モンドリアン展にはぴったりです。

なお、SOMPO美術館「モンドリアン展」の出品リストで確かめたら、アームチェアが3点(うち、「635レッド アンド ブルー ラウンジチェア」は参考出品)ジグザグ・チェア、ベルリン・チェアは各1点でした。

 Ron.

展覧会見てある記 ボイス+パレルモ 豊田市美術館

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コロナ禍で延期されていた「ボイス+パレルモ」(以下「本展」)が、ようやく開催されました。年間パスポートも再開したので、3000円払い、年間パスポートを使って会場に入りました。入口は、1階・展示室8にあります。順番に展示を見ながら3階に行くと、展示室2~4では「コレクション:ドイツと日本の現代美術」(以下、「コレクション展」)を開催していました。コレクション展を見た後、階段を降りて展示室5に入ると本展の展示。本展とコレクション展は一体化していたのです。

1F:展示室8

プロローグ

ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys、以下「ボイス」)とブリンキー・パレルモ(Blinky Palermo、以下「パレルモ」)が写った写真《プリンキーのために》を展示しています。

1 ヨーゼフ・ボイス:拡張する彫刻

最初に映像作品が2点。《シベリア横断鉄道》(1970)と《ユーラシアの杖:82分のフルクソム・オルガヌム》(1968)でした。いずれも、ボイスが登場するパフォーマンスです。《シベリア横断鉄道》では毛皮のコートを着用し、裏返したキャンバスに向って何かしています。《ユーラシアの杖:82分のフルクソム・オルガヌム》ではベストを着用して、部屋の隅の床に脂肪(ワックス)を塗ったり、柱を立てたり、壁に立てかけたりしていました。また、映像の中で使用されたと思われる、フェルトで包まれた木材(断面はL字型)と鉄棒も展示しています。このほか、折りたたんだフェルト、懐中電灯、脂肪を載せたソリや、鉛筆の描きこみのある箱など、「彫刻」の概念には収まらない作品ばかりで面食らいました。豊田市美術館のコレクション《ジョッキー帽》は「帽子のつばを切り取ってジョッキー帽の形に仕立てた」ものだ、ということも知りました。

2 パレルモ:絵画と物体のあわい

パレルモの作品は、キャンバスを二色に塗り分けたものや単純な線画などです。こういった作品は、いわゆるミニマル・アートに分類されるのでしょうか?

3 フェルトと布

フェルト製のスーツ、丸めたフェルトなど、フェルトを使った作品が並んでいます。

4 循環と再生

 銅製の箱が幾つも並んで、銅のテープで繋がっている《小さな発電所》や旅行カバンの中にマギーソースのビンが収まっている《私はウィークエンドなんて知らない》、ガラス製のメスシリンダーに造花の赤いバラを挿した《直接民主主義の為のバラ》などの作品が並んでいます。

1F:展示室6  5 霊媒的:ボイスのアクション

マンモスの化石の前で立っているボイスの写真《芸術=資本》には迫力ありました。また、ショベルや鎌などをケースに納めた《ヴィトリーヌ:耕地の素描》については「物を並べるだけでも作品になるんだな」と、思わず納得してしましました。

1F:展示室7  6 再生するイメージ:ボイスのドローイング

ドローイングが並んでいますが、《あるヒロインのためのバスタブ》は錆びたブロンズ製のバスタブ(ミニチュア)の中に、ハンドルのついた携帯電熱器を入れた作品でした。他にも4冊の本が、作品《「西洋人プロジェクト」(1958)》の一部として展示されています。

2F:展示室1

8 流転するイメージ:パレルモの金属絵画 

 アルミニウムを単色で塗ったり、2色、3色に塗り分けたりする作品が並んでいました。

エピローグ

 「帽意子」「墓異州」「暮椅子」と、漢字を縦書きした黒板が展示されていました。さらに、「帽」にはBo、「意」にはi、「子」にはSuという文字が右に書かれ、「帽」と「子」を繋げてhetと書いています。漢字はどれも「ボイス」を日本風に表記したもの。「帽意子」にはトレード・マークの「帽子」が隠れているということなのでしょうね。ユーモアを感じます。

3F:第2展示室  コレクション:ボイス+パレルモ以前:1950‐60年代のデュッセルドルフ

ボイスがデュッセルドルフ芸術アカデミーの教授に就任したのは1961年。展示室2では、戦後ドイツの前衛的な表現の一大拠点となっていた1950-60年代のデュッセルドルフで活動していた作家の作品を展示しています。ギュンター・ユッカー《変動する白の場》は板に無数の釘を打ち付けて白く塗った作品。昨年公開された映画「ある画家の数奇な運命」のデュッセルドルフ芸術アカデミーには、木の板に釘を打ち付けて作品を制作している学生・ハリーが登場していました。

3F:通路~展示室3  コレクション:ドイツの現代美術

通路に展示されているのは合板を3枚重ねた作品、イミ・クネーベル《蓄光サンドイッチ》No.1~No.3でした。実際に光を放つのではなく「光を放つことを想像しながら鑑賞する作品」とのことです。

展示室3のイミ・クネーベル《DIN規格1 B1-B4》を見て、展示室1にあったパレルモの金属絵画を思い出しました。展示室3の床には、平べったくて白く四角い物体が置かれています。ヴォルフガング・ライプ《ミルクストーン》という作品で、表面は牛乳で覆われています。この牛乳については「毎日取り換えている」という説明がありました。

3F:展示室4 

コレクション:ドイツと日本の現代美術

日本の現代美術では、ボイスが生まれた1921年、パレルモが生まれた1943年、それぞれ同世代の作家を取り上げていました。ボイスと同年代の作家のうち、水谷勇夫(1922-2005)と三上誠(1919-1972)は豊橋市美術博物館のコレクション展「从会の作家たち」でも見ました。パレルモと同年代の作家としては、小清水之漸(1944- )などの作品が展示されています。

コレクション:師弟関係-まなぶ? まねる?

エゴンシーレとクリムト、大澤鉦一郎と宮脇晴といったコレクション展の常連は、このコーナーで展示されています。さて、小堀四郎、宮脇綾子も登場しますが、「師」は誰でしょう?

2F:展示室5  7 蝶番的:パレルモの壁画 

 壁画そのものを展示することは無理なので、壁画のデザイン画と壁画の写真を展示していました。

感想など 

巡回展「ボイス+パレルモ」だけでなく「コレクション:ドイツと日本の現代美術」も連続して鑑賞することができるので、得した気分になりました。7/10~9/20に「モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」が開催されますから、年間パスポートが復活したのも朗報です。

Ron.

読書ノート  山口  桂(やまぐち かつら)著  「若冲のひみつ」

カテゴリ:Ron.,アート見てある記 投稿者:editor

今回ご紹介するのは「若冲のひみつ」(以下「本書」)。副題は「奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」です。著者の山口桂氏はクリスティーズジャパンの代表。出光美術館が2019年にプライス・コレクション190点を収蔵した際、仲介された方です。なお「奇想の絵師」は、辻惟雄著『奇想の系譜』が取り上げた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長澤蘆雪、歌川国芳の六人を指します。

第一章 若冲の魅力

若冲の魅力は皆さまご存知の通りですが、本書では著者の職業に深く関係する、若冲作品の市場価格や作品の真贋判定にも触れており、それが類似書にはない特色となっています。

市場価格については〈2005年に出品された絹本著色の掛軸《双鶴図》の落札価格は4万2000ドル(略)現在の相場は絹本著色の掛軸なら200万ドル、墨絵は8万~10万ドルというところでしょうか〉(本書p.21)と書いています。2005年には500万円ほどだったものが、現在の相場は2億円ほどになっているのですね。

また、作品の真贋については〈確実に本人の筆と言い切れるものはいいとして、誰々の作と伝えられている「伝誰々」、あるいは「誰々の工房の作品」、さらには明らかな偽物が含まれている場合もあり、見極めが難しいことも多い〉(本書p.23)と、見極めの難しさを率直に書いています。

第二章 海外マーケットでの日本美術

商品としての日本美術については、はっきりと〈世界のアートマーケットにおいて、日本美術の占める割合はごく小さなものです〉(本書p.32)と書き、〈海外の著名な日本美術コレクターの多くが日本に来て収集を始めたのは、1970年代の高度成長期でした。(略)同じ流れで、韓国美術も1990年代前半まではパワーがありました。李朝の龍壺が7億円で売れる時代もありましたが、景気後退とともに中国に追い越されていきました。(略)現在は中国のほうがはるかにビジネスの芽がありますから、ビジネスパーソンは日本と韓国を素通りして中国に行ってしまいます〉(本書.33~34)と、日本から韓国、中国へとマーケットの中心が移動したことを書いています。

第三章 海外コレクターと奇想の作品

経営学者のピーター・ドラッカー博士など9人のコレクターを紹介し、主要作品や日本での展覧会開催状況にも触れています。なお、ピーター・ドラッカー博士のコレクションについては〈クリスティーズの仲介により日本の有名企業が購入しました。現在、全作品が千葉市美術館に寄託されています〉(本書p.56)と書いています。第四章で紹介されるプライス・コレクションの里帰り以前にも、里帰りがあったことを知りました。

第四章 プライス・コレクションが日本に里帰りするまで

本書で一番興味深い内容です。中でも読み応えがあったのが、若冲《鳥獣花木図屏風》の評価でした。〈この屏風には落款がなく、若冲の作品だという確たる証拠がありません〉(本書p.86)というのです。この点については、辻惟雄著・ちくまプリマ―新書「伊藤若冲」(p.217)でも触れています。ただ、第四章の内容はとても書き切れません。山口氏がどのようにしてプライス夫妻と知り合い、作品を評価し、美術館と交渉して作品の日本到着まで見届けたのかは、本書を手に取ってお読みください。第五章 私的「東西若冲番付」も同様です。

◎対談――若冲とは何者だったのか 

著者とロバート・キャンベル氏(日本文学研究者 国文学研究資料館長)との対談です。「奇想の絵師はなぜアメリカで人気があるのか」という点については、以下の発言が面白いと思いました。

p.130 キャンベル 二十世紀のアメリカの財産家の人たちが奇想の作品に目を向ける背景とか、理由はどういうふうに見ておられますか?

山口 一つは、ボストン美術館に蕭白のような奇想の作品が古くからあることです。それと、奇想の絵師たちの絵が、あるときマーケットで非常に安くなって、日本の美術史からも外れてしまったことです。(略)個性的で、しかもリーズナブル。最初の一歩としては非常に入りやすかったのではないか、ということが一つあります。(略)ボストン美術館の蕭白などの作品は、ご存知の通り、アーネスト・フェノロサやウィリアム・ビゲローが持ち帰った19世紀の終わりからありますが、個人の日本美術コレクターが現れるのは、だいたい1960年代の終わり頃からです。(略)有名なアメリカのコレクターは必ず若冲や蕭白、蘆雪を持っている。これはやはり、どこかアメリカ人の目に適ったということだと思うんです。(略)

最後に

 著者も対談相手のキャンベル氏も美術史家や学芸員ではありませんが、それぞれの立場で日本美術に深くかかわっています。美術史家や学芸員とは別の視点から書かれた本なので、新鮮な気持ちで読むことができました。ページ数が少ない割に値段が張りますが(税別920円)、「セカンド・オピニオン」としては役に立つと思います。そういえば今年、愛知県美術館で曾我蕭白の展覧会が開催(10.8~11.21)されますね。楽しみです。

   Ron.

アートとめぐる はるの旅

カテゴリ:協力会ギャラリートーク 投稿者:editor

 2020年は、美術館の建物の改修やコロナウイルス拡大の影響などで閉館していた名古屋市美術館ですが、2021年に入って展覧会を再開しています。

 この3月25日から始まった「アートとめぐるはるの旅」展は、当初昨年の夏休みに予定されていた展覧会ですが、今年になって、春の展覧会として開催されています。4月4日はあいにくの雨になってしましましたが、22名の会員が参加して協力会向けの解説会が行われました。

 午後4時に講堂に集合した参加者に、展覧会を企画してくださった森本陽香学芸員が、旅先案内人となって解説してくださいました。

 1つ目の作品は山田光春さんの「星の誕生」。この作品をはじめ、エヴァ・サロやカプーアの不思議な作品は旅の始まりが宇宙からだとイメージしているそうです。

 続いて旅は海の底へ、坂本夏子さんの「Octopus Restaurant」は不気味なレストランの様子を描いていますし、山田秋衛さんの作品は竜宮城を美しく描いています。

 その後も「死」をテーマにした作品を旅したり、風や時間、記憶を旅してまわったりして、最後の作品、庄司達さんの「Navigation Flight」へ。長い旅の後に飛行機に乗り、我が家へ帰る……つもりで作品の向こう側から振り返ってみると、楽しい仕掛けがされています。見にいらっしゃるみなさんは、ぜひ、これを楽しみにいらっしゃってください。