展覧会見てある記 愛知県美術館「古代エジプト展」など

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協力会から送付された資料の中に愛知県美術館「古代エジプト展」(以下「本展」)のチラシと2020年度第3期コレクション展の案内・出品リストが入っていたので、行ってきました。本展のチラシに「土日祝日・日時指定券(事前予約)」と印刷されていたので、予約不要の平日にしたのですが、入場券売り場には午前10時の開館を待つ数十人の行列。「入場券所持」でも十数人の行列ができていました。マスク着用で行列に並び、開館時刻到来で入場。先ず、手指の消毒。サーモカメラ映像のモニターを見ている係員さんから「どうぞ、お進みください」と、声を掛けられて会場へ。展示室入口で「出品リストはありますか?」と聞いたところ「申し訳ございませんが、今回は置いておりません。本展HPから印刷してください」との回答。リサーチ不足でした、残念。

◎第1章 エジプトを探検する

A ヨーロッパによるエジプトの探検

 最初に展示されていたのはロゼッタ・ストーン。ナポレオンがエジプト遠征から持ち帰ったものです。本物は花崗緑閃岩ですが、出品されていたのはプラスチック製。ロゼッタ・ストーンは3段に分れ、上段はヒエログリフ(神聖文字)、中段はデモティック(民衆文字)、下段はギリシア文字、上段と下段には白い点線で囲った文字列があります。当時のファラオはギリシア人のプトレマイオス(アレクサンドロス大王の後継者のひとり)なので、点線で囲まれたギリシア文字は“ΠΤΟΛΕΜΑΙΟΣ”(ラテン文字表記=PTOLEMAIOS)だと思ったのですが、“ΠΤΟΛΕΜΑΙΟY”と読めました。《ツタンカーメン王の倚像(いぞう)》(新王国時代・第18王朝、前1330年頃)は、なぜか頭部が欠けています。10月1日付け中日新聞に写真が載っていましたね。

B ライデン国立古代博物館によるエジプトの発掘調査

 《円筒形壺》(初期王朝時代、第1王朝、前2900~2730年頃)は美しい乳白色のアラバスター(方解石)の壺。どうやって石を削ったのでしょうか?《椀》(後期メロエ時代、2~4世紀)は土器。《コプト十字架の断片》(古ヌビア時代、8~15世紀頃)は青銅製で、十字架の4本のうち1本が欠けています。当たり前ですが、キリスト教伝来以降の品物です。なお、コプトはアラビア語で「エジプト」を表すとのことです。

◎第2章 エジプトを発見する

A 古代エジプト史の概要

 《ワニの描かれた椀》(先王朝時代、ナカーダ期、前3750~3650年頃)は彩色土器、エジプトが統一される前の品物です。《クウと家族の供養碑》(中王国時代、第12王朝、アメネムハト2世の治世、前1878~1843年頃)は石灰岩製の四角い碑。人物と供物は浮彫で、ヒエログリフも彫られています。《タネトアメンのブタハ・ソカル・オシリス像》(第3中間期、第21王朝、前1076~944年頃)は木製の彩色像で、ヒエログリフは縦に書かれています。《イシスの像》(グレコ・ローマン時代、ローマ時代)は花崗閃緑岩の像で「姿勢はエジプト風、写実的な描写はギリシア・ローマ様式」という説明が付いていました。

(参考)古代エジプト史の歴史(2分間のビデオ+本展HPの内容)

 本展で上映されていたビデオの内容と本展HPの記事によれば、古代エジプトが存在したのは、紀元前3000年頃に始まった第1王朝から紀元前30年にプトレマイオス朝がローマに滅ぼされるまでの約3000年間。時代区分は、下記のとおりです。

○第1~第2王朝が「初期王朝時代」(前2900~2590年頃)

○第3~8王朝が「古王国時代」(前2592~2118年頃)で、ピラミッドが作られた時代

○第9~10王朝が「第1中間期」(前2118~1980年頃)で、混乱の時代

○第11~12王朝が「中王国時代」(前1980~1760年頃)で、流麗なスタイルが流行し後代にも影響を与えた時代

○第13~17王朝が「第2中間期」(前1759~1539年頃)で、再び混乱に突入し、第18~20王朝が「新王国時代」(前1539~1077年頃)で、ツタンカーメンは第18王朝のファラオでした

○第21~24王朝が「第3中間期」(前1076~723年頃)で、第25 ~30王朝と第2次ペルシア支配の時期が「後期王朝時代」(前722頃~332年)。「第3中間期」から「後期王朝時代」にかけては、リビア人や海の民、ヌビア人など、様々な外国勢力の侵入を受けた時代です

○アレクサンドロス大王の後継者のひとり=プトレマイオスがファラオとなったプトレマイオス朝から、プトレマイオス朝が滅ぼされ、ローマの属領となった時代までが「グレコ・ローマン時代」(前332年~後395年)で、ギリシアなどの影響を強く受けた美術様式が主流となった、とのことです

B 古代エジプト史の宗教

 古代エジプトは多神教で、上部が半円形の石灰岩に浮き彫りされた《イシスとオリシスが彫られた石碑》(新王国時代、第18王朝から第19王朝、前1300年頃)のような人間の形をした神だけでなく、《猫の像》《コブラ》《コウモリ》(いずれも青銅製、後期王朝、前722~332年頃)のような動物の神もいます。

◎第3章 エジプトを解読する

A 死後の世界

 古代エジプト人は「永遠の生」を信じており、パピルスに書かれた《ネスナクトの『死者の書』》(グレコ・ローマン時代、プトレマイオス朝、前304~30年)の解説には「来世への死者の旅路を案内する呪文の集成、通称『死者の書』と呼ばれる。この案内は(略)死者を守り、彼/彼女が来世における多くの障害を乗り越えるための手助けであった」と、書かれていました。《心臓スカベラ》(年代不詳)は、緑色の石で出来たフンコロガシで「古代エジプト人は、人間の思考をつかさどるのは心臓と考え、ミイラ制作時に体内に残した」という解説がついていました。《醸造所の模型》(中王国時代、前1980~1760年頃)は木製の副葬品で、11月3日付け中日新聞に「ビール醸造 詳細な工程」という表題の写真付き解説が載っていました。《護符とビーズの首飾り》(新王国時代、前1539~1077年頃)は9月30日付け中日新聞に写真が載っていました。

B 埋葬習慣の変化

 ミイラを納める棺、ミイラの制作方法、来世のための護符が出品されています。展示を見て知ったのですが、ミイラを埋葬する時は、ミイラの上に「ミイラ覆い」を載せて「内棺」に納め、「内棺」を更に「外棺」に納めたのですね。ミイラの棺はどれも大きくて、本展のハイライトのひとつです。詳細は本展HPをご覧ください。

《男のミイラの肖像》(グレコ・ローマン時代、ローマ時代、1~2世紀)は、ポンペイの壁画を思わせる肖像です。エジプトがローマの属領となった後もミイラの習慣はあったのですね。《ハビ神の護符》(年代不詳)は、11月4日付け中日新聞に「青色に『再生復活』願い」という表題の写真付き解説が載っていました。きれいな青緑色なのでトルコ石製かと思ったのですが、実は「ファイアンス」という、青色が特徴の焼き物でした。

◎第4章 エジプトをスキャンする

A 永遠の命:ミイラのベールを取る

展示の最後は、ミイラと、それをCTスキャンで透視したビデオで、本展の「もうひとつのハイライト」です。「科学の進歩はここまで来たのか」と、思いました。詳細は本展HPをご覧ください。

◎感想

本展チラシの「土日祝日・日時指定券」の説明に「館内での滞在時間は1時間半を目安にご鑑賞・ご利用いただくようお願いいたします」と印刷されていましたが、今回の鑑賞時間も1時間半。本展の鑑賞には「1時間半というのがちょうど良い頃合い」ということなのですね。

◎2020年度第3期コレクション展

協力会から案内・作品リストが送られてきたので、コレクション展も鑑賞しました。

・展示室8 《黒漆厨子 千体観音図貼付》愛知県文化財指定記念 木村三コレクションの仏教美術

今回は、仏教美術の工芸品が出品されていました。愛知県文化財に指定された《黒漆厨子》は厨子の内側に千体の観音像を描いた絵が貼り付けられたもの。外にも2点の黒漆厨子が出品されています。銅三鈷杵や銅独鈷杵、銅経筒、携帯できる仏像の《愛染明王香合仏》など、多数の仏具が並んでいました。

・展示室7 新収蔵記念かたかげり ―秋岡美帆とともに―

秋岡美帆(1952-2018)は「風景を撮影した写真を大きく引き伸ばした作品で知られる作家」との解説があり、仲田好江、島田鮎子、辰野登恵子の作品も出品されています。

・展示室6 クリンガーと「ブリュッケ」 ―令和元年度新収蔵作品を中心に―

クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》のほか、マックス・クリンガーやエルンスト・ルートヴィッヒ・キルヒナー、エーリッヒ・ヘッケルの版画などが出品されていました。

・展示室5 私は生まれなおしている ―令和2年度新収蔵作品を中心に―

愛知県美術館のHPに「新型コロナウィルス感染拡大の影響により、作品発表の場が減っている作家・アーティストを支援するため、愛知県では、今年度から3年間、美術品等取得基金に1億円の特別枠を設け、愛知県美術館で若手作家の現代美術作品を重点的に購入します」と、書いてあります。展示室5は、令和2年度に購入した作品のお披露目ですね。展示室に入って正面奥にネオンサインで制作したような作品があったので近寄ってみると、横山奈美《Sexy Man and Sexy Woman》(2018)でした。今年の6月に豊田市美術館のコレクション展でみた《LOVE》(2018)と同じ作者の作品です。遠目にはネオンサインの作品に見えますが、実は油絵でした。水戸部七絵《I am a yellow》(2019)は、大量の油絵具を盛り上げた塑像のような油絵。山田七菜子《海みずから泳ぐ海》(2012)は、青く塗られた大画面の中に赤が点在する作品。本山ゆかり《画用紙(柔道_左)》と《画用紙(柔道_右)》は、ハリガネ細工の人形を描いたような作品。山下拓也《TALIONの子(TALION GALLERRYの壁を使って欄陵王の彫刻を制作する》(2014-15)は、題名のとおりギャラリーの壁面で制作した立体作品でした。

美術館が若手作家の現代美術作品を重点的に購入するのは、好い試みだと思いますね。必見です。なお、会期は「古代エジプト展」「2020年第3期コレクション展」のいずれも、12月6日まで。

Ron.

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